宇宙彷徨記   作:山南修

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都市っていうものは、朝に少年が出かけて行って、夜帰ってくる頃には
自分が一生かけて取り組む仕事が見つかってくるような
そういうところのことを都市というんだ
ルイス・カーン


第四話 調査

私は調査車に乗り込み道路を走らせた。錆び付いた車が至る所に転がっていて時折崩れ落ちた高架橋やビルが行く手を邪魔する。ビルは迂回したが高架橋は数kmに渡って倒れていて迂回しようにも骨が折れる。

 

「アマリア、どこが一番弱そうだ?」

 

 なので一番簡単な方法をとることにする。

 

「構造的には……この部分が酷く損傷していて脆いです。ここに擲弾を数発撃ち込めば安全に破壊できるでしょう」

 

 ホログラムで撃ち込む場所が強調表示される。若干離れているため車を移動させる。車体上部に取り付けた擲弾発射器を起動させ照準をつける。トリガーを引くとポンという気持ちいい音が三回聞こえる。三ヶ所に命中した擲弾が炸裂し倒壊した高架橋の一部を粉々に粉砕した。私はそれを上部のペリスコープから見ていた。こんな近くで建物を爆破したのは初めてだった。衝撃と破片が凄まじく、脆くなっていた近くの建物も倒壊している。煙と破片の雨が晴れたあと、調査車がちょうど通れる瓦礫の道が見えた。さすがアマリア、完璧だ。調査車を前進させ、瓦礫の道を通る。なんとなく気になる気になる大きな建物を見つけたため調査車をその建物の前まで持っていく。

 

「ここを調査するぞ。汚染はどうなんだ?」

「この区域は汚染があまりされていません。防護服無しでも問題ありません」

 

 ならさっさと脱ごう。ゴワゴワした防護服を脱ぎ操縦席シートにかける。代わりにヘルメットを被り、少量の爆薬とサンプル回収用の肩掛けバックを肩にかけて車を降りた。その建物は中~上流階級向けのマンションのようだ。隣にはデパートらしき店もある。扉には鍵が掛かっていたので持ってきたショットガンマスターキーでこじ開ける。セキュリティを意識してか頑丈な扉だったが軍用ショットガンの威力にはさすがに勝てないようだ。ドアをこじ開け、中に入る。埃が舞い見にくいが荒れ果てたエントランスが目に入る。ソファは埃に塗れ、掛けてあったであろうシャンデリアは鎖が切れたのか落下して粉々に砕けている。木製の家具があったであろうところには残骸だけがある。私は昔は美しかったであろう汚れた壁画にそっと触れる。ああ、虚しいものだ。人間が発展を続ければ残ったかもしれないというのに。埃や汚れ越しにスキャナで壁画が残っているか調べたが案の定、色はほとんど落ちていた。アマリアに全体をスキャンするよういい、私はエレベータを調べる。階段は崩れていてジェットパックは装備しているが窓が全て補強されているためだ。籠はロープが切れ最下層まで落下しているが内部の梯子は滑落さえ気をつければ問題なさそうだ。

 

「ここから上がるぞ」

 

 そう声をかけ梯子に掴まる。埃や塵で滑りやすかったが摩擦抵抗が大きい手袋をつけて対処する。カツカツと数フロア上がりエレベーターの扉が若干空いているところがあったのでそこに体を滑り込ます。床が弱っていたのか一瞬悲鳴を聞いたが、ギャクマンガよろしく下の階に落ちるなんてことにはならなかった。アマリアも同じ隙間を通って降りてくる。ライトを着け見渡してみると絨毯らしい残骸と昔は高級そうな壁が見えた。大昔に放置された鞄が近くに転がっており腐敗しないで残った中身を参考にすれば上流階級の居住区だろう。いかにも高そうなペンと密閉されていて残っていた写真が出てくる。どこかのレストランか何かで撮った夕食の姿のようだ。きらびやかなドレスを身にまとった少女と女性、男性が写っている。サンプルとしてバックにそれをしまい込み先に進む。十歩ほど進んだところのドアを開けてみる。もちろん、ショットガンで。できるだけ中のものを傷つけないよう注意して鍵に撃ち込む。立て付けが悪くなったのか鍵を開けても開かず蹴り開ける。なんとか空いたが蝶番が外れ扉が外れてしまった。ショットガンで慎重にこじ開けたのはなんだったのか。ライトとスキャナを構えつつ部屋を見てまわる。リビングか? ここは残骸と部屋の住人が置いていったものが少しある。紙はボロボロでもう読めない。本も同様だ。写真は……ダメだ。先程のは密閉されていたから大丈夫なだけで何が印刷されていたかすら判断つかない。コップや皿もあるが、めぼしいものは無い。次に寝室らしき部屋を見る。ベッドが崩れ落ちているがタンスのようなものがある。金属製らしくまだ形を保っている。私がしていることが泥棒じみていると感じたが

 

「これはれっきとした学術的調査です。知識を蓄えるための致し方ない行為です」

 

 とアマリアが言ってきた。そうだ。これは調査だ。誰がなんと言おうとこれは調査だ。

 タンスの中はボロボロの服と本だったものなどよく分からないものしかなかった。タンスの裏に金庫がありそこもこじ開けたが案の定空だった。寝室の次は子供部屋だ。壁にポスターが掛けてたったあとが伺える。机には写真や、紙があったらしいが、全部ダメになっている。ふと、床を見ると人形が落ちていた。私はそれを取ろうと手を伸ばし握るが持ち上げた瞬間崩れ落ちる。……。

 

「ソリチュード、この部屋には何かあります」

 

 アマリアが声を掛けてくる。彼女が壁の一角を照らしている。クローゼットの影だ。不審に思いつつもクローゼットを動かす。ボロボロとクローゼットが崩れたがそんなことはどうでもいい。クローゼットの影には金庫のようなものがあった。横にパスワードを入力する場所がある。

 

「これ、まだ生きているか?」

「電力供給がないので死んでいるでしょう。最も例えあったとしてもこれほど時間が経てば基盤が死んでいる可能性があります」

 

 そういい彼女の腕からケーブルが伸びていく。ハッキングでもするのだろうか。ケーブルが触れた、その瞬間に火花が飛び散りショートする。

 

「ダメです。やはり死んでいます」

 

 ふーむ、弱った。このようなものを想定していなかったからショットガン以外の破錠器具や金庫破り用のものは持ってきていない。あるものを使うしかない。

 

「調査車に何か使えるものがあったか?」

「プラズマカッターでよければ操縦席横の収納にあります」

 

 それでいこう。アマリアに他の部屋の調査を任せ私はプラズマカッターを取りに行く。いちいちエレベーターから行くのも面倒なので廊下に出て適当な窓を開ける。そこから飛び降りジェットパックをふかして上手く調査車そばに着地する。後部のエアロックから入りいくつかのサンプルを収納しつつ操縦席横の収納からプラズマカッターを取り出す。ちょっとした拳銃サイズのそれを付属のスリングで肩にかけ、後部エアロックから調査車を出る。またジェットパックを噴かせ開けた窓から建物に戻る。アマリアが調査していたのか窓の向かいのドアから出てくる。

 

「何かあったか?」

「めぼしいものは一応回収しましたが、これと言っていいものはありません。後で渡します」

 

 彼女が回収したものを見たがたいしたものは無い。だいたいの住民はかなり私物を持って去ったようだ。アマリアを引き連れ、壁に埋まった金庫がある部屋に向かった。スキャナで金庫の扉の厚さと材質を確認し、丁度その厚さまで切れ中身が傷つかないようにプラズマカッターの威力を調整する。筒先を金庫の扉に押し付けトリガーを引いた。金属が焼ききれる音と煙がでるがヘルメットをしているのでさして問題にはならない。蝶番とロックを壊し解錠した。扉の取っ手を掴み引き摺り落とすと、その中には――瓶詰めされた美しい人形が入っていた。

 

 

 

A.D.3501/8/3/2208(UTC)/1648(現地時刻)

New Frontierニューフロンティア星系第四惑星Inspireインスパイア中央都市のあるタワーの頂上

 

 私は今、都市で一番高い塔の頂上にいる。ここでティータイムを迎えたかったからだ。折り畳みテーブルとイスを広げ夕日を眺めつつ優雅に楽しんでいる。ここ数日この一帯を調査し、それなりの収穫を得た。様々なものを見つけたが私の心は初日に見つけた瓶詰めの人形に奪われたままだ。この人形は木製で丸い関節球を持っている。ブロンドのロングストレートで後頭部にリボンをつけていて、青と白のメイド服のようなものを来ている。端正とした顔つきの美しい人形だ。瓶内部には不活性ガスが詰まっているがどうして木製の人形がこんなに長い期間この状態を保てていたかよくわからない。入っていた金庫も調べてみたが謎だ。だが、人形を見るとどうでも良くなるぐらいこの人形は美しい。元の持ち主の子孫がいるかどうか知らんがこれは私が保護し持っていこう。ティーカップを置き、人形が入った瓶を手に取る。瓶詰めの人形越しに夕日を見ると一層人形の髪は輝いて見えた。

 

A.D.3501/8/4/0324(UTC)

New Frontierニューフロンティア星系第四惑星Inspireインスパイア軌道上

 

 私は執務室でここに落とすビーコンの文面を練っていた。今回の調査は有意義なものだった。それ故に纏めるのが少々面倒だが……こうしよう。

 

「ごきげんよう、知的生命体の諸君。私は約8日間に渡って

この惑星Inspireを調査した。人類が宇宙に進出した素晴らしさと無能さ、愚かさ、美しさを存分に味わう事が出来た。この中枢都市はあと数百年はそれなりに形を保って残るだろう。それまでに観光することをおすすめする。添付ファイルのA.D.3501/8/4時点での中枢都市の様子は有効活用して欲しい。ステラ・ソリチュードより喜びと嘲りをこめて」

 

 よし、これで行こう。データをアマリアへと送信し私はここ数日〈エタニティートレッカー〉ではできなかったティータイムを満喫する。邪魔はないだろうが邪魔するものは許さない。私の神聖な時間だ。

 

 数日後にここでビーコンを落としたことを後悔するとはいざ知らず、ステラ・ソリチュードは紅茶を満喫するのであった。

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