宇宙彷徨記   作:山南修

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第八話

 A.D.3501/8/11/0028(UTC)

 Pele星系小惑星帯

 

「デコイ11及びデコイ12から閃光弾発射用意」

 

 ホログラムに映るデコイを眺める。二桁ナンバーのデコイ、現在四個しかないデコイは閃光弾を二発携行している。四散した小惑星の破片に見せかけて二本をゆっくりと二隻の巡航艦に接近させた。起動していないデコイは魚雷と何ら変わらないサイズでステルス性がかなり高い。小惑星への移動中の巡航艦に慣性航行で追いつくぐらい何ら造作もない。

 

「デコイ11、12。閃光弾を敵艦の観測装置にぶつけ、その後体当たりを実施せよ」

 

 私の指示でアマリアがデコイを操る。ECMを行いつつ閃光弾を発射し見事上部構造物と一体化している観測装置群の目の前で炸裂し輝かしい光を放つ。

 

「デコイへの迎撃が止まりました。敵艦と接触後、自爆命令を送信します」

 

 基本的に無害な閃光弾でもこの距離なら観測装置に障害を引き起こせる。これで猪は怒り心頭ムカ着火ファイアー担っているだろう。ここにトッピングをつける。

 

「デコイ自爆、妨害物質の付着を確認」

 

 これで敵の目はほとんど潰れた。マントを下げて前に行こうじゃないか。

 

「アマリア、機関始動。前進して猪の前に出る」

「了解。機関始動。戦闘用シールド及び陽電子砲、機銃のエネルギー充填完了」

 

 スロットルを押し前進する。ECMを行って通信を遮断しつつ高速巡航艦に肉薄した。

 

「敵艦から射撃を確認」

「構うな、魚雷発射」

 

 ロールしながら魚雷を発射し砲撃をよける。まともに照準できない敵の砲撃はうまいこと宇宙を照らしている。船が速い速度で敵艦に接近したため通常以上の速度を持った魚雷は高速巡航艦のシールド突き抜け船体を破損させた。シールドの穴が開いた場所におまけでビームを打ち込み損傷を拡大させ、〈エタニティートレッカー〉は敵艦の上を通り抜けた。

 

「高速巡航艦、回頭し追ってきます。推進機が安全域を超えて稼働しています」

 

 猪は私のノックを気に入らなかったようだ、これで満足できないならもっとやらないとな。

 

「追いつかれないよう注意しろ、まだ死にたくないからな」 

 

 私は進路を微妙に変えつつ、ホログラム上の高速巡航艦に目を向けた。艦長が猪じゃなければここで散ることはなかったろうに可哀そうな巡航艦だ。駆逐艦は離れた位置にいるため遠くから追ってきているためしばらく無視で構わない。さて、問題は巡航艦だが……予想通り動かない。ただ慣性で動いているだけだ。

 

「猪を撒かないよう、気づかれないように巡航艦に接近するのはどのコースが一番だ?」

「若干危険ですが、カーブを描きつつ巡航艦に接近し巡航艦の真横を抜けるのが一番いいかと」

 

 なかなか危ない進路だな、でも悪くない。経験上そろそろ敵が閃光弾の影響から抜け出すはずだから、適度に閃光弾をばらまけば難しくないはずだ。 

 

「よしそれで行こう」

 

 アマリアに閃光弾の増産指示を出し、進路を微調整する。通常航行でたった3分の距離だ、何時間も何日も忍耐強く待たなくていい。それだけで素晴らしいことだ。

 

「閃光弾の残弾数は?」

「艦首下部発射管に装填中が二発、弾薬庫に六発、船内工場に二発です。が、船内工場のものは運搬が間に合わないので実質十発です」

 

 二発は巡航艦にぶち込まないと厳しいから高速巡航艦に使えるのは八発、相手は徐々に追ってきているから相対速度は遅い、火力を発揮しやすい艦首をこちらに向けていることを考えれば八発はそう多くはない。あまり挑発しすぎるとエンジンが燃えるほどの速度で追ってくるかもしれないから面倒だ。

 

「魚雷も一緒に発射しよう、こうでもしないと閃光弾が当たる可能性が低い」

「ならば魚雷を一度抜き、閃光弾を一斉である四発発射後、閃光弾と魚雷を二本づつ発射、残りの閃光弾二発でどうでしょうか。目標達成には相応しいと考えます」

「いい考えだ。〈プレゼント〉と魚雷に描きたいが残念だな、艦首砲もないし特殊削岩弾でもない」

 

 アマリアは肩を竦め、敵の行動を見ている。

 

「反転、閃光弾発射用意」

 

 横のスラスターを吹かせ艦首を後方に向ける。外から見れば後退しているように見えた。惑星上で生活していた連中はよく理解しなくて困るが宇宙ではほぼ等速直線運動をするためモーメントを加えるだけなら等速直線運動をそのまま続ける。よって前進したのち横方向の力を加えれば艦尾を運動する方向に向けたまま前進できる。

 

「諸元入力、全弾完了。装填システムの最適化完了」

「閃光弾発射」

 

 トリガーを引き、四発の閃光弾が下部発射管から放たれる。

 

「第二射、魚雷及び閃光弾混合、発射」

 

 五秒後に第一射より早い速度で第二射を。

 

「第三射、閃光弾発射」

 

 最後に二発をより早い速度で発射した。このまま行けば敵ミサイルの射程に入る頃には第一射めが敵に弾着する頃には第三射めが先頭にいるはずだ。

 

「敵高速巡航艦、迎撃ミサイル発射。数十二」

 

 発射したのはいいものの、これでは到達と同時に推進剤が切れるはずだ。節約すれば話は別だがそれをすると迎撃ミサイルの速度が遅いため当てにくい。軽率だな。

 

「迎撃ミサイルとの交差まで、3、2、1……。閃光弾‪α‬3及び魚雷β1が迎撃されました」

 

 閃光弾が炸裂したことで迎撃ミサイルはほとんど命中しなかったようだ。しかし、まだビームが残っている。高速巡航艦の高くないミサイル迎撃能力とはいえ正面から突っ込めば……。

 

「敵艦、弾幕を展開、正面に展開可能な全ての火器を使用する模様」

 

 やはりな。陽電子砲の射程に入った途端、まともに狙いを付けずに乱射してきた。腐っても旧式でも巡航艦、その火力の前に次々と閃光弾と魚雷迎撃されていく。

 

「……アマリア、妨害波を最大出力で」

 

 これは自艦のレーダーも使えなくなる危険な方法だ、光学観測の隙を付かれた場合気づけない。アマリアは反論しかけたが私と目を合わせた途端素直に従った。

 レーダー等のアクティブな観測装置の情報が途絶える。これで戦闘においては片目を失ったに等しい。光学観測の映像には敵艦の射撃命中数がほとんどないのか一発の閃光弾の炸裂しか見えなかった。遂に近接防御火器が火を吹くがもう遅い。

 閃光弾が二発命中する。一発は船体下部にあたり大して意味を持たなかったがもう一発は上部構造物に直撃した。これで猪は激昴し、後ろを付いてくるだろう。

 

「妨害波、平常値へ……巡航艦からミサイル接近中」

 

 これだからと言わんばかりの目をアマリアが向けてくる。もうちょっと保護者を敬ってくれてもいいが、残念なことに彼女の素晴らしい性格は既に完成している。

 

「迎撃しつつ増速、相対速度を上げろ」

 

 幸い、向かってくるのは四発。なんとかなると祈りたい。前部の主砲四基四門か反応し高速巡航艦より圧倒的に薄い弾幕を張る。即座に二発を撃破、しかし二発は抜けてきた。

 

「パルスレーザー!」

 

 パルスレーザー砲(近接防御火器)に迎撃を指示し、船体を大きく傾ける。一発が弾頭に直撃し爆ぜもう一発が推進器に当たり振らつく。残念ながら推進器に命中したミサイルは進路を保ち真横を通り抜けた瞬間、光となった。

 

「ぐぅ」

 

 墜落した時ほどではないが、それなりの衝撃に顔を歪ませズレた進路を修正する。

 

「アマリア、被害報告」

「第三甲板、左舷燃料タンク及び第二甲板の格納庫に被害発生。燃料タンクから水素が流出中、格納庫は気密が失われました」

 

 それで済んだならまだいい方だ。気づけば巡航艦は自らの目でもぽつんと光が見えるほど接近していた。……水素? ああ、それだ。

 

「アマリア、破損した第三甲板左舷燃料タンクを接近直前にパージしロール、下部機銃で撃ち抜け」

「下部で受けてもそれなりの被害が出ます……シールドを下部に全力で展開すればそれなりに抑えれるかと」

「ならやってくれ、奴らは死後の世界が好きだが私は好きじゃないからな」

 

 そう言い、操船に集中した。もう最接近まで十秒と無い。倍率をかけた光学映像には衝突予想箇所が巡航艦の土手っ腹に赤く光っている。猪は進路を変える様子もない。最後まで付いて来いよ。巡航艦の陽電子砲が煌めきこちらに飛んでくるが気にする余裕はない、当たるのは悪魔に殺されたぐらい低い確立を引いた時だけだ。ホログラムでは無く窓から一気に大きくなる巡航艦が見える。私は心の中で一秒数えてから右にロールした。

 まずシートに押さえつけられ、更に強く押さえつけられた。肺の空気が押し出され息が詰まる。高速で飛来するであろう破片を避けるため日推進器の安全域を超えた加速をし、脇目も振らずその場を離れた。少しして、加速を緩め状況を確認する。巡航艦と高速巡航艦は熱いキスをして果てたようだ。二隻だったものが巡航艦のいた位置にガスと破片となって漂っている。勝った。だが、〈エタニティートレッカー〉の損傷を思い出し顔を顰めた。

 

「アマリア、損傷状況」

「下部後方主砲、同機銃群及び下部中央主砲、機銃群、下部前方機銃群が損傷し発射不可。下部スラスターの半数に異常あり、メイン推進器は稼働率80%、レーダーに異常あり。第一甲板及び第二甲板装甲板に幅広い損傷があります」

「巡航艦二隻相手でこれならまだいいが……駆逐艦はどうだ?」

「右舷前方よりかなり接近しています。あと10分もしないうちにこちらが敵ミサイルの射程に入ります」

 

 一隻ならともかく、三隻となるとかなりきつい上、火力は七割まで落ちている。魚雷の残弾がまだあることが不幸中の幸いか。

 

「残念ながら追加で損傷を発見しました下部発射管が損傷し魚雷の発射が出来ません。下部スラスターと共に最優先で修理中ですが、下部スラスターは8分、発射管は12分かかります」

 

 不幸中の幸いは不幸中の悲劇になったと言うべきか。

 

「……一芝居打つぞ、敵は自動システムの操縦に頼っていたよな?」

 

 アマリアは、頷きデータベース出す。

 

「五年前のSC社製の自動システムです。これのデータは以前会社の方で入手したためほぼ100%の予想が可能です」

 

 それなら、行けなくもないか。データと自動システムの動きさえ読めればこの若干動きの鈍った〈エタニティートレッカー〉でも行けるだろう。

 

「LTT 3007星系でやった対ミサイル戦術を取る。魚雷の発射タイミングはこっちで指示するが、誘導は任せた」

「了解しました。メイン推進器1、停止。続いてメイン推進器2を故障に偽装した上で停止します」

 

 若干船体が震えたあと、加速が止まった。こうなってはもうすることがない。紅茶でも飲んでゆっくりしよう。

 

 ステラ・ソリチュードは偶にはジンでも飲もうかと考えつつ時間を潰すのであった。

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