プロデューサーが美嘉に耳かきをされてからしばらく経ったある日。
「おはよー★」
「お、おう、美嘉……おはよう」
事務所にやってきた美嘉とプロデューサーが挨拶を交わす。
「どうしたの?」
「べ、別に何でもないぞ?」
だが美嘉は、いつもと少し様子が違うプロデューサーを不思議そうに見た。それもそのはずである。
少し前に担当アイドルの一人である彼女、城ヶ崎美嘉に耳かきをされたのは先程も述べた通り。
プロデューサーはその気持ち良さに寝てしまった事もあり、アシスタントである千川ちひろに起こされた時は思わず「あれは夢だったのか?」と考えもしたのだが、ゴミ箱に捨ててあった綿棒とティッシュを見た事でそれが現実であると分かった。
その代償として、寝ていた事に関してちひろからプロデューサーに
あの時は半ば強引に押されて耳かきをされたのだが、最終的にはプロデューサーも耳かきされることを受け入れた。さらには美嘉の膝枕で寝てしまったのだ。その後、彼女とは二人だけの状況で会う事がなかったため、未だにお礼の一言も言えていなかったのである。
そして今日、ようやくプロデューサーと美嘉の二人だけのタイミングが出来た。しかし問題もあった。
前回と違って今は早朝ではない。事務所内でも既に何人か他のアイドルとも顔を合わせている。
――この前の耳かきの話をしたいが、流石にそんな話をしてる途中で他の人が来て聞かれるのはマズい……。
そのように考えながらプロデューサーは平静を装っているフリをする。現状、この部屋には二人しかいないが、こうしている間にいつ誰が来るか分かったものではない。
横目で美嘉を見ると、彼女は最新のファッション雑誌に目を通していた。
――いや、ここはさっさと話をして終われば大丈夫なんじゃないか? 別に今からしてもらおうって訳じゃないんだし、この前の礼を言うだけなら……。
意を決して彼は美嘉の元へと向かう。
「な、なぁ美嘉……」
「ん? どうしたのプロデューサー」
彼女はファッション雑誌から目を離して声をかけたプロデューサーを見る。
「いや、その、この前の礼を言ってなかったな……と」
「この前――あ、耳かきのこと? あれはアタシからのお礼だって言ったでしょ? だから気にしなくてもいいのに」
「それはそうなんだが……」
少し赤くなった頬をポリポリと指でかくプロデューサー。それを見た美嘉は優しく微笑んだ。
「それで、また耳かきして欲しくなった?」
「確かにして欲しいが――って、今はダメだろ!?」
「それって今じゃなかったらいいって事だよね?」
「み、美嘉がいいなら……」
「言ってくれたらアタシがしてあげるって前に言ったじゃん? だから、いつでもいーよ★」
彼女の言葉にプロデューサーは嬉しくなるが、今はダメだと自分で言った事もあってなんとか気持ちを抑える。
その時、部屋の扉が開かれた。
「おはよーございまーす」
挨拶をしながら入ってきたのは、これまた担当アイドルの一人である北条加蓮だ。
「お、おはよう加蓮」
「やっほー、加蓮」
二人もそれに挨拶を返す。プロデューサーは内心ドキリとしていたが。
「プロデューサーさんと美嘉だけ?」
「あ、ああ」
「ふーん……」
プロデューサーの返事を聞いた加蓮はニヤニヤとしながら二人の顔を見る。
その表情を向けられているプロデューサーは嫌な予感がした。そしてその予感はすぐに的中する。
「そういえば聞いたよー? プロデューサーさん、美嘉に耳かきしてもらったんだってー?」
「なっ、なんでそれを……!?」
まさかと思い美嘉に目を向けると、彼女は「しまった」と言うような顔をしていた。
「ごめん、プロデューサー……実はあの後、終わってすぐに莉嘉が来ちゃったんだよね。その時は、あの子もアタシに耳かきされたら寝ちゃうのは仕方ないって言ってたんだけど……」
「加蓮に喋ったのか……」
「あー、莉嘉ちゃんも悪気があった訳じゃないよ」
二人に加蓮がフォローを入れる。
「最近、久しぶりに
彼女はそう言うと、二人に「だから、怒らないであげてね」と続けた。
「怒りはしないから大丈夫だけどさ……」
「まぁプロデューサーも、恥ずかしいから秘密にしてってカンジだしね~★」
「お、おい美嘉……!」
美嘉の言った事が図星だったプロデューサーは顔を赤くする。
「あははっ、プロデューサーさんってば耳まで真っ赤じゃん!」
「ええい、この話は終わりだ! 加蓮はレッスン! 美嘉は撮影!」
加蓮にも笑われたプロデューサーは強引に話を打ち切って、二人にそれぞれ今日の予定を伝える。それに対して彼女たちは笑いながら返事をした。
「あ、そうだ」
レッスンに向かう加蓮が振り返りながら口にする。
「プロデューサーさんと美嘉ってこの後時間ある?」
「アタシは大丈夫だよ」
「俺も問題ないけど、何かあるのか?」
二人の返答を聞いた彼女はニッと笑う。
「ふふん、プロデューサーさんには後でのお楽しみって事で。それじゃあレッスン行ってきまーす」
加蓮はそう言って今度こそ部屋を後にした。
「なんなんだ……?」
「――なるほどね」
何かを納得する美嘉の声にプロデューサーが目を向けると、彼女は自身の携帯を見ていた。
「もしかして加蓮からか?」
「そ、プロデューサーには何するか言わないでって」
「……変な事じゃないよな?」
彼の言葉に美嘉は笑う。
「心配しなくてもいいよ。プロデューサーからすればイイコトだし♪」
「いい事?」
「うん。だからアタシと加蓮のこと、ちゃんと待っててよね★」
そう言って彼女も撮影の仕事へと向かった。
部屋に一人残されたプロデューサーは疑問を持ったままだったが、そのまま考えていても仕方ないと仕事を再開するのだった。
× × ×
「こんなもんか……んぁー……」
仕事に集中していたプロデューサーは伸びをして一息つく。それによって背中からはポキポキと音が鳴った。
「って、もうこんな時間か」
彼が外に目をやると、既に日が落ち始めている。
――そろそろ来るだろうし、一旦ここまでにするか。
プロデューサーは休憩の為にコーヒーを淹れようと席を立つ。
それと時を同じくして、事務所のドアが開く。姿を見せたのは撮影の仕事を終えた美嘉だった。
「おう、お疲れさん。その様子だと問題なく終わったみたいだな」
「ふふっ、誰に向かって言ってんの? モデルがアタシなんだから当然だよね★」
決めポーズをする彼女にプロデューサーはふっと笑う。
「それもそうだな。美嘉も何か飲むか?」
「帰ってくる途中で飲んできたから、気を使わなくていいよ?」
「ん、そうか」
プロデューサーはそう言って淹れたコーヒーを一口飲む。
「そういえば、加蓮がまだ戻ってこないな……もうレッスンの時間も終わってるはずだが……」
「今日はダンスレッスンでしょ?」
「ああ」
美嘉の様子から、どうやら彼女は加蓮が遅い理由に見当が付いているようだ。
「だったら――っと……もうすぐ来るって」
タイミングよく加蓮から美嘉の携帯に連絡が入った。
「おう、分かった――って、なんで俺にじゃなくて美嘉になんだ? 行く前といい今といい、二人で何企んでんだよ……」
「心配しなくても変なコトじゃないってば」
イマイチ釈然としないプロデューサーだが、二人が悪さをするような子ではないというのは当然分かっている。それに加え、美嘉の「プロデューサーからすればいい事」という言葉。
――まぁ大丈夫だとは思うが……。
彼が考えながらまた一口コーヒーを飲んでいると、またしても事務所のドアを開ける音が聞こえた。それに目をやると、待っていた加蓮の姿があった。
「いやー、ごめんごめん。遅くなっちゃった」
「別にいいけど……それで? これから何するんだ?」
プロデューサーの問いかけに、加蓮と美嘉の二人は互いに顔を見合わせて笑みを見せる。
「それは――」
「もちろん――」
「「――耳かき!」」
プロデューサーは二人に連れられ、事務所に併設されている仮眠室のベッドに座っていた。
――なんだこの状況……。
困惑している彼をよそに、美嘉がベッドの上で正座する。加蓮は近くの椅子に腰を下ろして、笑顔で二人の様子を眺めていた。
「それじゃあプロデューサー、始めよっか」
美嘉がそう言いながら自身の脚をポンポンと軽く叩く。
「お、おう……」
少々ぎこちない動きで、プロデューサーは彼女の太ももに頭を乗せた。それを見た加蓮がクスリと笑う。
「動かないでね」
美嘉は手にした綿棒を彼の耳に当てる。
「前みたいに最初は外側から……」
すりすり、すり、すり。すり。
まだ始めたばかりだが、既にその気持ち良さを知っているプロデューサーは、安心して美嘉の耳かきを受け入れている。しかし――
「加蓮、そう見られてると落ち着かないんだが……?」
耳かきされているところを他の人――それも加蓮にまじまじと見られている事に、プロデューサーはソワソワとしていた。
「ちょっとプロデューサー、動かないでって」
「あはは、怒られてる」
「くっ……」
プロデューサーは反論したかったが、耳かきをしている美嘉に悪いため大人しくする。
すり、すり、すっ。
「私と目が合うの恥ずかしいんだったら、目を閉じてれば?」
笑いながら加蓮がそう提案するのだが、
「俺も出来るなら目を閉じたいが、それで寝ようもんならまたちひろさんと
プロデューサーは真面目な顔で言う。それに反応したのは美嘉だった。
「また……って、もしかして前の時も?」
「まぁ、ちょっとな……でもおかげで、その日はなんだか普段より仕事を頑張れたよ」
「プロデューサー……」
彼はいつもの調子でそう口にした。
「くく……そんなこと言ってるけど、今のプロデューサーさんの格好だとあんまりカッコよくないよ~?」
「うるさいぞ加蓮。ニヤニヤしながら見るな」
「ごめん、アタシもちょっと思った」
「美嘉まで……」
美嘉からもそう言われてプロデューサーは多少ショックだったが、自身でも彼女に膝枕と耳かきをされている現状では仕方ないと引き下がるしかなかった。
すり、すりすり。すっ、すっ。
外側の耳垢を取り終え、次は穴の浅い部分に綿棒を入れていく。
「ん、前にやった時に比べてそんなに汚れてないね。もしかして、耳かきやった?」
「いや、美嘉にやってもらってからは全然」
前回の事もありプロデューサーは素直に答えた。
「そっか……じゃあ、今日はあんまりやらないようにするね? 耳に良くないし。加蓮もお願いね」
「まぁしょうがないかぁ……」
加蓮も耳かきのやり過ぎはダメだというのは分かっている。
――長く楽しめるのはまた今度、かな。
「それじゃ、奥に綿棒入れてくからね」
すり、すり……すっ。ずり。
「痛くない?」
「ああ、大丈夫だ」
彼の返答を聞いて、美嘉は安心して耳かきの手を進めていく。
すり、ずりすり。ずり、すっ。
そんな彼女の様子を見ていた加蓮は、ふと思った事を口にする。
「……それにしても、そんな風に美嘉が膝枕で耳かきしてるのとかイメージなかったけど、実際に見るとなんか似合ってるというか、サマになってるよね」
「そ、そう? アタシは特に意識してないんだけど……」
「うん、流石お姉ちゃんって感じ」
「まぁずっと莉嘉にしてたからね……ママには負けるけど」
美嘉は微笑みを浮かべながらそう口にし、一度綿棒を抜いて耳の中を覗き込む。
「……もうちょっとだね」
中を確認して彼女は再び綿棒を耳に入れる。
すりすり、ずり。さっ、さっ。すり、ずりずり。すっ。
何度か綿棒で耳を擦っては引き抜き、中を覗いて耳垢がないかを確認する。
「んー、いいカンジに取れたかな。仕上げに――」
彼女は梵天付きの耳かき棒を手にすると、そのまま指で数回弾く。
「梵天するよー?」
す、ふわふわ。ふわ、ふわ、ふわ。
「あぁ……」
梵天の心地よい感覚にプロデューサーは声を漏らす。そんな彼の様子に、加蓮と美嘉はまたも顔を見て笑い合う。
「プロデューサーさんの
「梵天きもちーもんね。莉嘉もいつもこんな風になるよ」
「し、仕方ないだろ……」
なんとか表情を戻すプロデューサー。なのだが――
ふわ、ふわ。さっ、さっ、さっ。ふわふわふわ。
「く……」
やはり梵天の気持ち良さには抗えず、彼の表情は緩みきっていた。
「こんなもんかな」
美嘉は耳かき棒を抜いてティッシュの上に置く。
「最後に……」
ふっ、ふっ、ふーっ……。
耳に息を吹きかけられたプロデューサーは少しだけ身体を震わせる。美嘉は上体を離すと、ポンポンと彼の肩を軽く叩いた。
「こっちの耳かきは終わりっ★ 加蓮に交代するから、一回起きて」
彼女のその言葉にプロデューサーは言われた通りに起きると、美嘉は加蓮が座っていた椅子に腰を下ろし、逆に加蓮は先程までの美嘉と同じようにベッドの上に正座をする。
「はーい、ここからは私の番だねー♪ さぁプロデューサーさん、私の膝枕にどうぞ?」
――なんか楽しそうだな……。
そんな事を思いながら、プロデューサーはさっきとは反対の耳を上にして加蓮の太ももへ頭を置いた。
「美嘉のとどっちが柔らかい?」
「ちょっ、加蓮!? そんなの聞かなくてもいいじゃん! プロデューサーも答えなくていいからね!?」
悪戯をした子供のようにニヤリとしている加蓮に、美嘉が顔を赤くして抗議する。
「……美嘉もああ言ってるし、ノーコメントで」
「なぁんだ、つまんないのー」
表情を変えずに言う加蓮。そんな彼女に美嘉は「もぅ……」と不満気であった。
「いいから始めてくれ」
「えー、仕方ないなー」
そうは言いながらも、加蓮は新しい綿棒を手にしてプロデューサーの耳に宛がう。
「初めは外側から……」
すり、すり……すりすり。すり。
耳かきを始めた途端、それまでの様子とは違い加蓮の表情は真剣そのものだ。その様子はプロデューサーからしっかりとは見えていないが、自身の耳を綿棒で擦る雰囲気からなんとなく感じ取っていた。
――それに意外と上手いな……。
まだ加蓮の耳かきが始まってばかりだが、美嘉と変わらない気持ち良さに彼は驚く。
すりすり、さっ。すり。すり。
「ふふっ、どう?」
「ああ、気持ちいい」
加蓮の問いかけにプロデューサーは正直に答える。その返答に、彼女も上機嫌で綿棒を持つ手を動かしていく。
「私の番はまだ始まったばっかりなんだから、寝ちゃダメだよ?」
「寝ないって」
次に加蓮は耳の穴の浅いところに綿棒を当てる。
すり、すりすり……すっ、さっ。
「んー……でも、美嘉も言ってたけどあんま汚れてないなぁ」
「あ、やっぱりそっちもそんなカンジ?」
「うん、まだ奥までは行ってないけど、耳垢が溜まってるって気がしないんだよね」
――それはそれでいい事じゃないか……?
プロデューサーは複雑な心境で二人の会話を聞いていた。
すりずり、ずりずり。すり、さっ。
「この前はそれなりにあったんでしょ? 私もその時に耳かきやりたかったなぁー」
加蓮は手を止める事なく、美嘉を羨むようにそう口にする。
「前の時はアタシしかいなかったんだし、それは仕方ないって」
「それはそうなんだけどさぁ……」
それから少し考えるように間を置いた彼女は「そうだ」と何かを閃いた様子だ。
「次に耳かきする時は私にやらせてよ」
「お、おい加蓮……!?」
加蓮の一言にプロデューサーは驚く。それによって頭が動いてしまうが、耳かきをしていた彼女はすぐに押さえた。
「危ないんだから動かないでよ」
「わ、悪い……」
「とりあえず、この話は耳かき終わってからね。美嘉も言いたい事あると思うけど、またプロデューサーさんに動かれたら困るし」
次は自分にやらせてと加蓮が言った瞬間、彼女は美嘉が先に待ったをかけると思っていた。しかしプロデューサーが動いた事で、そのタイミングを逃す形になったのだ。
「うん、アタシもそれでいいよ」
当然、美嘉も提案に乗った。その答えを聞いて加蓮は一層、耳かきに集中する。
「綿棒、奥に入れるよ」
す、すりすり……ずり、すり、すり、すっ。
やり過ぎないように中を確認しながら綿棒で奥を擦っていく。
「痛かったら言ってよねー?」
「ああ」
「まぁすぐ終わるんだけど」
加蓮はそう言いながら、最後に耳の気持ちいい場所を擦る。
すりすり、すっ。さっ。すり、すり……さっ。
「なんか美嘉の時よりも短い気がするな……」
プロデューサーは名残惜しそうに言う。
「って言われても、耳が綺麗なのにやり過ぎるのは良くないんだから仕方ないでしょ?」
「わ、分かってるって」
「まっ、私の膝枕と耳かきをもっと堪能したいってなら、今度またゆっくりしてあげてもいいけど♪」
これには流石に美嘉も一言かける。
「ちょっと、さっきその話は終わってからって言ったでしょ?」
「だってプロデューサーさんがもうちょっとして欲しそうに言うからさぁ」
笑いながらそう口にする加蓮に、美嘉は呆れながら「だからってね……」とだけ返す。
「それじゃあ仕上げの梵天、しよっか」
そんな美嘉の様子を加蓮は気にせず、耳かきの仕上げへと移る。
彼女は手にしていた綿棒をティッシュの上に置いて梵天付きの耳かき棒を持つと、そのまま何度か指で弾く。
「ほら、ふわふわーっと」
すす、ふわふわ……ふわ、さっ。
耳の中を優しく梵天で綺麗にしていく加蓮。それにプロデューサーの表情はまたしても崩れる。
「ふふっ、気持ちいいか聞こうかと思ったけど、その様子だと丸分かりだね」
そう言われて表情を戻そうとするプロデューサーだったが、美嘉の時の事もあって梵天の最中はどうせ無理だと思い諦めた。
「プロデューサーってば、案外チョロいよね」
「チョロいとか言わないでくれますかね……」
これが表情が崩れたままの彼が出来る、美嘉の言葉に対する精一杯の抗議だった。
ふわ、ふわ、ふわ。さっ。ふわふわ。さっ、さっ。
梵天を何度か動かした後、耳かき棒を引き抜いて耳の中を覗き込む。
「……うん、綺麗になった――って元からそんなに汚れてなかったけど。あとは……」
ふー……ふっ、ふっ、ふっ。
プロデューサーの耳に息を吹きかける加蓮。くすぐったい感覚に震える彼に、思わず加蓮も悪戯をしたくなる衝動が沸き上がってくる。
「プロデューサーさん、かわいいー♪」
「それ、大人の男に言う言葉じゃないと思うんだけど?」
「そんなこと言われたって、耳にふーってされて震えてるプロデューサーさんの顔、凄くかわいいんだから仕方ないでしょー? それとも、ちょっとオトナっぽく耳にキスされる方がいい?」
悪い顔をしながらプロデューサーに囁く。だが、それは美嘉の耳にも届いていたようだ。
「か、加蓮!? そういうのはダメだからっ!」
彼女は慌てて席を立つと、今にもプロデューサーの耳に唇を付けそうな加蓮を引き剥がす。
「美嘉ってばホント、こういうところは純情な乙女だよねー」
「ちがっ――じゃなくて!」
笑いながらからかう加蓮に、美嘉は頬を赤く染める。
「……二人とも、そろそろ起きていいか?」
「あっ、ごめんプロデューサー。起きていいよ」
「私はもうちょっとプロデューサーさんに膝枕してあげてても良かったんだけどなぁー」
身体を起こすプロデューサーに加蓮は変わらぬ様子で口にする。
「はぁ……それよりもさっきの話の続きするんでしょ」
そう言いながら美嘉は再び椅子に腰を下ろす。それを見てプロデューサーと加蓮もベッドの
「それで次のプロデューサーの耳かきだけど――」
「その話、私たちにも参加させてもらっていい?」
美嘉が話を始めようとした瞬間、仮眠室のドアが開け放たれ、そんな言葉が聞こえてきた。三人は驚きと共に声がした方に目を向ける。
「面白そうなお話をしていますね、プロデューサーさん?」
「言ってくれたら私だって……」
そこには渋谷凛、佐久間まゆ、五十嵐響子の三人が立っていた。そして、さらにその後ろには、プロデューサーが恐ろしさを感じる笑顔を見せている
――これは一番ダメなパターンでは!?
プロデューサーの目には、彼女たちから何やら黒いオーラのようなものが漏れ出ている気がした。
「あー……」
「マジかぁ……」
美嘉と加蓮の二人も、突然のこの状況に戸惑っているようだ。
「どうせなら、もっと広いところでその話しよっか」
そう言ってプロデューサーの手を引いたのは、最初に声をかけた凛だった。他の面々もそれを見て仮眠室を後にした。
× × ×
プロデューサーが美嘉と加蓮の二人から耳かきをされていたのがバレた次の日。
「はぁ、昨日はどうなるかと思った……」
結果を言えば彼は無事に朝を迎えていた。とは言え、四人に見つかったあの後は別の方向で大変だった。
凛に連れられ、事務所のソファに座らせられたプロデューサーを待っていたのは、どうして二人に耳かきをされていたのかを聞かれた事と、彼女が最初に言った通り『次にプロデューサーの耳かきをするのは誰か』を決める話し合いだった。
耳かきをする事になった経緯の説明をした時も多少荒れたのだが、その後の話し合いが特に難航した。最終的に、次の耳かきは加蓮がする事に決まったのだが……。
それから凛とまゆはしばらくプロデューサーに引っ付いて離れず、響子は好きな食べ物と嫌いな食べ物を聞いてきた上で弁当を作る約束を取り付けた。その状態を見た美嘉と加蓮の二人は、苦笑いを浮かべるしか出来なかったのは仕方がない事だろう。
ちひろはと言うと、昨日はあれからも話し合いには直接参加はせず、しかし変わらない
「プロデューサーさん、口よりも手を動かしてくださいね?」
「はい……」
――
「何か言いたい事でも?」
「なっ、なんでもないですッ! 仕事しますッ!」
考えている事を読まれたかのようなタイミングに、プロデューサーは慌ててデスクに向き直る。
「――プロデューサーさんのバカ……」
不機嫌そうな顔で小さく呟くちひろの言葉は、余計な怒りを買わないようにと仕事を始める彼の耳に届く事はなかった。