ダンジョンに食材を求めているのは間違っているだろうか? 作:猫と果実
「さてどんな料理を作るのかね」
ミア、リュー、シルはカウンター席に座りベルの料理を待つ。
ミアがベルに課した『得意料理』を振る舞う事、そして三人を旨いと思わせることがここで働く条件となった。
「ミア母さん、私は特に料理に詳しくないのですが…」
「そんなの気にしなくて普通に食いな!素人目線もこうゆう時は必要になるんだよ」
「私も同じだから大丈夫だよリュー、ベルさんの料理楽しみに待ってよ?」
「わかりました」
「…僕の得意料理」
今僕は『豊饒の女主人』の厨房に一人で立っています。
ミアさんに言われて得意料理を作る事になったんだけど……僕ってなんの料理が得意なのかわからない!?
ど、どうしよう…まず第一におじいちゃん以外に手料理を食べてもらった事がないから、自信のある料理が少ない…
おじいちゃんは僕の料理に関して結構辛口だったからな……
よく『ベルはまだまだじゃの~』って言われてたしな…ホントにどうしよう…
厨房に用意されている多くの食材を見てベルは作る品を考える。
肉料理、魚料理、野菜料理と様々な品を作れるけど…
「肉、魚、野菜…」
多くのメインとなる食材を見てもあまりしっくりこない
それはなんでだろう?と頭を悩ませる。
うろちょろと厨房を歩き、ベルは端に置いてあったある食材を見つけた。
「あっ…リンゴだ」
リンゴを手に取り懐かしむように見つめる。
リンゴはおじいちゃんの大好物の果実。
おじいちゃんとの食卓、おじいちゃんが喜ぶ笑顔
おじいちゃんを思い出してしまうから作っていなかった料理。
でも唯一僕の料理の中で『これなら誰に出しても旨い!と言うじゃろ!!言わなかったやつが居たら天罰もんだ!!』
っておじいちゃんも褒めてくれた料理。
…何度も失敗して最初はよく怒られちゃったけどね。
「…よし!!これにしよう!!」
ベルは目に溜めた涙を拭い、リンゴを手に取り料理を始めた。
時間が経ちベルが料理を持ち厨房から出てきた。
「お待たせしました皆さん!」
「さてアタシ達にどんな品を出すんだい?」
ミアの真剣な目に一瞬臆してしまいそうになる。
この料理に満足してもらえなかったら僕はこのチャンスを逃してしまう…とても怖いけどやるしかない!
非力な僕が進むと決めた一歩目なんだ!!
「これが僕の得意料理です!!!」
ベルは覚悟を決め三人の前に皿を置く。
「これは…アップルパイかい?」
「はい!!」
そう僕が得意料理に決めた料理、最初におじいちゃん以外に出す初めての料理。
それはおじいちゃんの大好物『アップルパイ』。
「わぁ…凄く美味しそうですよベルさん!」
「私は料理に関して無知ですが、とても食欲をそそられます」
「あ、ありがとうございます!!」
シルとリューの言葉に思わず心が高鳴る。
生まれて初めておじいちゃん以外に料理を出すので
褒められるだけで涙が出そうになる。
でもまだ食べてもらってもないのに泣いていられない!
「それと飲み物も用意してます!紅茶とコーヒーになりますがどちらがよろしいですか?」
アップルパイに合うように二種類の飲み物を用意。
「アタシはコーヒーで」
「私は紅茶でお願いしますベルさん」
「シルと同じでお願いします」
三人に飲み物も用意し、僕が出来る事は全てやった。
後は…食べてもらうだけ
「さて味を確かめるかね」
「「「いただきます」」」
三人がフォークを手に取り、僕の作ったアップルパイを食べ始める。
し、心臓がどうにかなりそうだ!?
上手く焼けてる筈だし、リンゴの良さも壊さないで調和させられた…だ、大丈夫だよね??
「「「……」」」
んっ?なんで一口目食べて固まってるの?
も、もしかして不味かった!?
ど、どうしよう!?都会の皆さん口には合わなかったのかもしれない!?
沈黙する三人、僕の体は緊張と不安で硬直してしまう。
このアップルパイはおじいちゃんが褒めてくれた初めての自慢の料理。
今の僕の全ても言っても過言じゃない
数秒の沈黙でさえ僕にとっては何分、何時間の様な長い時間に感じてしまう。
「あ、あの皆さん…美味しく…なかったですか…?」
僕は空気に耐えきれず感想を催促してしまうような言葉を出してしまった。
「「「……」」」
三人が言葉に反応しベルの顔を見つめる。
おもむろにミアが席を立ち、皿を持ちながらベルの前に移動
ベルはどうしていいか分からず直立不動でミアを見上げる。
そして戸惑っているベルの口にアップルパイを突っ込んだ。
「うぐっ!?あふっ!?」
まだまだ熱さの残るアップルパイが突然口に入ったことでバタバタと動くベル、なんとか食べきった。
「ふーふー…ミアさん突然口に入れないでくださいよ!?」
「アンタが自信のある料理を不味いですか?って聞いた罰だよ!!」
「うっ…」
確かに僕は自信のある料理を出した、そして美味しくないですかと聞いてしまった…
ミアさんの言葉を聞いて僕は恥ずかしくなり、肩を落とす。
「次はそんなこと聞かないで自信たっぷりに料理を提供しな!!うちで働くならドンと構えて料理人名乗りな!!」
「えっ?それって…」
僕はミアさんの言葉がすぐには理解出来なかった
そんな僕を見たミアさんはガシッと肩を掴み笑顔を浮かべ
「合格だよベル!こんな旨いアップルパイ食べたことないよ!!」
「ご、合格!?僕が合格!?で、でもシアさんとリューさんは…」
そう合格条件は三人に旨いと言わせる事。
ミアさん一人ではだめなのだ、その事を思いだし二人の方をゆっくり見る…すると
「「……」」パクパクパクパク
物凄い勢いでアップルパイを食べてた、しかも無言で
「…えっ?」
「はぁ…感想をまず言いなバカ娘共!!」
「「ふぁい」」
アップルパイを口に含んだまま返事をする二人、恐らくハイと言いたかったのだろう。
二人は口に残るアップルパイを食べきり、ベルを見つめ言葉を発する
「今まで食べた物で一番美味しかったと言っても過言じゃないぐらい美味しいアップルパイでしたベルさん!!」
「私自身料理に対して疎いのですが、これは誰が食べても絶賛するアップルパイですクラネルさん」
二人は少し興奮気味に感想を告げた。
「あ、ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
僕は二人に何度も頭を下げた、情けないけど嬉しくて泣きそうになってしまった。
「これで三人の同意を得たね!晴れて合格だよベル!
明日からしっかり働きな!!」
バシンと背中を叩かれる。
「はい!!!」
正直物凄く痛いけど、それよりも嬉しさが勝った。
おじいちゃん以外に初めてベル・クラネルという存在を認めてもらえた瞬間だった。
試験を終え、三人の皿を片付けるベル。
「……えへへ」
完食された皿を見て思わず頬が緩む。
初めて振る舞った手料理、おじいちゃん以外に初めて美味しいと褒めてもらえた
夢の様な出来事だけど夢じゃない、その事実を物語る皿を見てにやけが止まらない。
たかが料理1品褒められただけ、端からみたら全然大した事のない出来事。
しかしベルにとっては、美味しいと褒められる事は何よりも嬉しい言葉。
料理人としてオラリオに出てきて、初めての料理
僕のアップルパイを美味しいと言ってくれたミアさん、シアさん、リューさん。
僕だけじゃなくて僕を育ててくれたおじいちゃんも凄いと言ってくれてる様な感じがしてより嬉しかった
「おじいちゃん…僕はやっと料理人としてスタートラインに立てた気がする」
皿を洗いがながらおじいちゃんを思い出す。
料理。
それは今の僕にとって唯一自分を証明出来る力。
その料理をするきっかけになったのは、おじいちゃんが教えてくれていた『
この迷宮都市オラリオで業績を残した様々な英雄の物語が載っている本、僕が小さい頃はよくおじいちゃんが寝る前に読み聞かせてくれた。
なぜ英雄のお話で料理人?ってなるかもしれないけど、小さい頃は僕も本に書かれている英雄達に憧れを抱き冒険者になろうとしていたんだ、しかし一つの物語を聞いてその気持ちは変わってしまった。
『そして双剣を振るいし青年は家族を守り、森の中で永遠に眠った…』
『…?おじいちゃんお終いなの??剣のお兄ちゃんは皆に会えたの?』
『そうじゃの…この青年は家族を守る代わりに、家族とはもう会えない決断をしたんじゃ』
『えっ!?だめだよ!?それじゃ皆悲しくなちゃうよ!!』
当時の僕は家族と会えなくなるという事は何よりも嫌な事だった、そして守るために命を懸けて死んでしまうという行動は子供の僕にはあまり理解が出来なかった。
そして僕はおじいちゃんに『おじいちゃんはいなくならないでぇぇ!!』と大泣きし、冒険者になってしまったらおじいちゃんと唯一の家族とも離れ離れになってしまう恐怖と絶望感……その頃の僕には冒険者を諦めるには十分な理由だった。
それから少しの間『
『ベル、おじいちゃんのとっておきの話を聞きたいか??』
『……それは誰も居なくならない?』
『大丈夫じゃ!おじいちゃんも大好きな物語じゃからの!!』
今思えばおじいちゃんが話た物語はおじいちゃん自身が考えた話なのかもしれないって思う、だって『
かの者達は多くの者を救い多くの偉業を立てた
その【
しかし彼らは口を揃えて彼の話をした
その彼はただただ料理を家族に振る舞っただけ、ただただ家族を笑顔にするために皆に料理を作った料理番。
この物語はその多くの英雄を支えた料理人の物語。
おじいちゃんが話した物語は冒険者の話ではなく料理人の物語、皆が憧れるような冒険だったりハラハラするような探検があるわけじゃない物語。
でもそのお話は料理人が僕はとても好きだった…料理で皆を笑顔にして力を与える姿に憧れ、そして家族団らんの食事風景を羨ましいと心の底から思ったんだ
だから僕は家族を大切な人を笑顔にさせることの出来る料理人になりたいんだ。
「……よし」
そんな僕の夢への一歩…ここから頑張るよおじいちゃん!!!
おじいちゃんから貰った大切な包丁に想いを込めて僕は料理人としての道を進み歩み始めた。