素晴らしきエオルゼアライフ 作:トンベリ
光の戦士――それはファイナルファンタジーシリーズにおける主人公の代名詞。
なんかあれやこれやで世界を滅ぼそうとする奴をぶっ倒す存在、いわゆる選ばれし勇者ってやつだ。世界を救うために色んなところ冒険して、強くなって、仲間も増えて、友情、努力、メテオ、勝利って感じの凄いやつ。
今もどこかで世界を守るために戦っているのかもしれない。それともサブイベでも消化して息抜き中であろうか。
酒を一口、出入り口を見やりながら呟いた。
「あ、ヒカセン」
酒場の一席に陣取り頬杖をついていたら見かけるくらいにはいたりするものだ。
今、俺の視線の先を歩いているチェーンメイルを着込んだミコッテからはなんかそれっぽい気配がある。何で分かるのかと聞かれれば何となくとしか答えられないが、多分俺も光の戦士、略してヒカセンだからだろう。
そう、この世界、エオルゼア――ファイナルファンタジーXⅣの舞台――には勇者がいっぱいいる。それはもう、魔王が素足で次元転移して逃げようがその先で開幕20割友情コンボ叩き込まれるくらいには。
じゃあもう俺いらないじゃん? 10人の内の1人とかだったらまだ特別っぽい感じするけど10000人の中の1人とか言われたら働かなくてもいいじゃん? 働きアリだって二割はサボるらしいし、2000人くらいサボってもバレないじゃん?
正確には『超える力』っていう万能翻訳能力――要は言語の壁とか次元の壁とか越えて色んな人とか人外とか意思疎通できる能力――を持った存在が、それなりの数いて、その中でもトップクラスに強い奴らを光の戦士っていうのだ。確かそんな感じ。
重要な部分なのだがぶっちゃけ憶えてない。前世でそれなりにやっていたゲームであるファイナルファンタジーXⅣだが、ストーリー云々とか世界設定云々ではなく、バトルコンテンツがメインだったのだから仕方ないだろう。コンテンツ攻略における効率的な装備選びとか、装備を整えるための金策に明け暮れ希少素材がどこで採れるとか、火力を最大限引き出すためのスキル回しとか、そういう方面に特化した遊び方していたゆえ仕方なし。
あーエオルゼアに生まれたかったなーとか考えながら寝て起きたらこの酒場で目覚めたのが早数年前、今ではすっかり慣れたもの。
自キャラであったヒューランという見た目完全な人間の至ってノーマルな種族に転生だか憑依だかして、冒険者として活動している日々だ。幸いなことに自キャラの能力を全て引き継いでいたようで、レベルはカンストの70レベルっぽかった。この世界基準でどの程度かは正直測りかねるが――自分の数十倍の体積を持つモンスターがいるような世界だし――その辺にポップしている小型モンスターに後れを取ることはなく、退屈にならない程度の冒険、偶然の人助け、隣人との会話、と好きに生きている。
寝て起きて仕事行ってネトゲするだけの前世に未練があろうはずもなく、モンスターと戦うスリルがあるからか、今の方がよほど充実している実感があった。
自分を評するならどこにでもいる一般貧弱ヒカセンってとこだろう。
世界の平和は他のヒカセンに任せ、エオルゼアで普通に暮らして死ぬ。いい人生設計じゃないかと本気で考えたのも最早懐かしい記憶だ。
そんな物思いにふけっていると誰かが近付いてくる気配を感じ横を見る。そこにはこの酒場、クイックサンドの店主兼冒険者ギルドのマスターであるモモディさんが小さな体を揺らして歩いてきていた。
「ディザスター、明日の予定はあるかしら?」
「いつも通り余りものの依頼を受けて過ごすつもりだったな」
「なら一つ頼まれてくれないかしら? 少しの間拘束される依頼なのだけれど……新米冒険者の教導係ってとこね」
大都市ウルダハの冒険者が大量に集まるギルドのマスターから、直接新人の教導を任されるくらいには信頼を勝ち得ているようで、声色に少し嬉しさが混ざってしまうのは仕方がないだろう。これも地道な活動の賜物である。
「ふむ、そりゃ構わんが……一人か?」
悟られぬよう取り繕った疑問を投げかけておくのも忘れない。これでもいぶし銀なキャライメージで通っているはずなのだ。見た目は無精髭のおっさんだが。
「四人ね」
詩人、赤魔道士、白魔道士、ナイトの四人で構成されるライトパーティだとモモディさんは続けた。
「へえ、赤魔道士」
「そ、珍しいわよね。それで、そのパーティなんだけど――」
「レンジジョブが二人ね。基本接近がナイトだけだが赤魔が即席のヒーラーとして動くか接近に切り替えられるしピュアヒーラーの白魔がいれば前衛はまあ問題なしか、火力も詩人と赤魔ならシナジーあるし中々バランスが取れた構成だな。ただナイトが崩れた時に赤魔一人の負担が大きそうだが、こういうとこリアル基準だからなあ……んっ?」
気づけばモモディさんが俺を見ていた。
ゲーム的な視点から見た場合の話をその辺の冒険者にしても何言ってんだコイツみたいな顔されるのだが、モモディさんはちゃんと理論的に整理した上で俺の考えを認めてくれる数少ない知り合いの1人なのだ。ララフェル――小人な種族――だし、ちっこくて可愛いし、頭もいいし、面倒見もいいしで控えめに言って最高だと思う。種族がアウラ――なんか鱗とかある竜ライクな見た目の種族――なら結婚を申し込んでいた。
さて、例えば今の話なら、一般的な冒険者の感覚で言えば少しバランスが悪いパーティと認定されるらしい。接近は二人いないとダメとかなんとか。俺的には極論タンク一人が前線を持たせられるなら他全部遠距離でいいと思うのだがな。
「うん、やっぱりあなたに頼んでよかったわ、ディザスター」
何を持ってそう言ったのかはわからなかったが、そんな事よりもあんまりその名前は連呼しないで欲しい。中学生だった時から使っているハンドルネームだが災厄とかもうなんかこの年齢になると恥ずかしいんだ。自分の名前を嫌がるのもどうかとそんな感情はおくびにも出さないが、いつまでも慣れないものだ。
「……? よく分からんが、承った。明日朝にここでいいのか?」
「少しだけ遠出してもらうから旅支度もお願いね、こっち持ちにしておくわ」
さすモモ。社会人の鑑。こういうところきっちりしているから長い付き合いでもストレスを感じた事は無い。
「了解。じゃあまた明日って事で」
ベルトに巻き付けている年季の入ったポーチから酒代分の200ギルほどをチャラチャラと机に落として席を立つ。よろしくお願いするわね、とモモディさんの言葉を受け取りつつ肩越しに手を振り外に出た。
この別れ方は俺が考えたかっこいい冒険者がやりそうな席の立ち方その5である。冒険者ってのは見栄も大事なのだ、所作ひとつで舐められたりもするし案外大事。こういう積み重ねがいぶし銀キャラを作り出すのである。実際どう思われているかを聞くのはかっこ悪いし、舐められていない事を祈るばかりだが。
外気に触れてぶるりと身を震わせた。砂漠に囲われた都の夜はよく冷える。
現代では絶対に見られないであろう煌く星を見上げて思う。愛してるぜエオルゼア。
俺は確かに、この世界における分岐点だとか、物語に関わる人物だとか、色々知っている。その知識を使えばもっと楽に生きる道があるのかもしれない、世界を救う助けが出来るのかもしれない。
だが俺はその道を選ばなかった。
理由は思いつくが、明確な意思はない。もしクリスタルに導かれるなら乗ってもいいし、光の戦士をサポートする役目をしろと仰せつかるなら異議はなく、その辺で野垂れ死ねといわれれば足掻いて見せる、死にたくはないしな。
強いて理由を上げるなら、知識に振り回されるのはもったいないと思ったからだろうか、簡単に目を閉じてしまうには損が過ぎる。
世界を救うのは俺じゃなくていい、それは俺に出来るかもしれない事ってだけで、俺がやらなきゃいけない事じゃあない。知識に振り回されるってのはそういう事だ。
俺が愛したエオルゼアは、俺がいなくたって確固足りえる強さがあるのだと信じている。
生き急ぐ必要はなく、惰性で生きているわけではない。
ただこの世界の住人として生きて死ぬ。
それを受け入れられたあの日から、俺はこの世界の住人だ。
必要があれば手を貸そう。
余計であれば身を引こう。
俺はここにいる。
誰の目にとまらなくても俺の生きる世界は、俺の愛したエオルゼアなのだ。
「へっくしっ」
寒空を見上げて今を想う――かっこよく出てきたはいいが、俺が泊っている宿はクイックサンドの横だった。すごすごと踵を返し、モモディさんは嬉しそうにも見えるにっこり笑顔でおかえりなさいと一言。締まらねえなあ。