素晴らしきエオルゼアライフ   作:トンベリ

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10:大迷宮バハムート:イキリディザスター編(主人公視点3)

 片手に酒瓶、もう片手に持つ手製の燻製肉へとかぶりつきながら澄んだ海を見る。

 ここはワインポート――海の都リムサ・ロミンサ近くにあるワインの名産地。その一角にある背の低いベンチに酒瓶とツマミの燻製肉が広がっていた。

 

「これでもそこそこは旨いんだが……一味足りねえな」

 

 エオルゼアに飛ばされて、何だかんだ料理が趣味になりつつある今、料理と言えば肉、肉と言えば酒、そんな単純な思考でここワインポートに来ていた。

 ここのワインは最高に旨い。しかしだ、俺の作る肉は今一つ足りていない……そう、平たく言えば材料の厳選が出来ていないがため、調理師70レベルを活かしきれていないのである。

 もっといろんな地方で材料を集める必要があるだろう。ワインポートのワインを飲んでそう悟ってしまったので、物足りない肉と最高の酒を両手に黄昏つつ酒盛りをしていた。

 

 昼間っから酒盛りをしている俺を、周囲の人間は駄メンズを見る目である。如何ともしがたい。

 

「……平和だねえ」

 

 漫然と呟くその言葉は後ろにある物体を見て発されたものだ。視線を少し後ろにそらせば、そこには未だ消えぬ第七霊災の傷痕がでかでかと残っている。

 

 ダラガブの破片――第七霊災を誘発するきっかけであり、第七霊災そのものであり、今なお現存する第七霊災の爪痕である。

 ダラガブってのは月の衛星にして人工衛星だ。このファイナルでファンタジーな世界においても異質なそれは、高度な魔法と機械によって隆盛を誇った『アラグ帝国』の産物であり、アラグ文明の基幹技術である魔科学と呼ばれる技術によって生み出され、月の衛星として打ち上がった"牢獄"である。

 

 今俺から見えているのはダラガブが破壊されて飛び散った破片でしかないのだが、優に500メートルを超えているような気がする。現代におけるなんたらスカイツリーに比肩する、あるいは追い越しているデカさのそれが、ただの破片なのだ。

 

 本来の見た目は赤黒いダークマターと呼ばれる謎の素材で出来た球体となっていて、所々に棘が刺さっている、ちなみにその棘ってのは戦艦だ。うん、戦艦なのだ……普通に考えたら全く意味が分からない。

 

 そしてダラガブを牢獄と表現したが、何が収監されていたのかと言えば、バハムートである。全く意味が分からない。

 

 アラグ帝国の奴らが何でそんな事をしたのか、とかは憶えてないが、要約すればダラガブとは、バハムートをダークマター製の球体に戦艦をぶっさして封印している月の人工衛星である……全く意味が分からない。

 

 まあこの世界におけるアラグ帝国の遺産ってのは大体そんな感じだ。あまりに超高度文明過ぎて、一周回って頭がおかしい類のアレだ。

 戦艦が刺さっていると言っても一隻とかではなく全体に何十隻というレベルなため、どれくらいのデカさかもはや想像が難しい。そして説明も難しいので現代ならググれと言ってるだろう。バハムートを収監するための物体であるため、逆に言えばバハムートもデカさの規模が違うということだ。

 

 そんなもんの中身が空で暴れて飛び散って、陸では魔法やら気やらを使う人間が戦っていて、なんてやっていたのが第七霊災。

 

「そりゃ世界も滅びかけるわな」

 

 ダラガブの破片はエオルゼア各地に飛散していて、そのうちの一つがここワインポートの東にある。見ていて楽しいものではないが、その破片のそばではこうしてワインの名産地がちゃんと残って稼働していたりと、復興を感じさせる部分もある。

 破片を視界に入れないよう、綺麗な海を臨み、ぼうと水平線を眺めていれば平和と感じる程度にはのどかな風景だ。

 

 酒精が強いワインを瓶ごとあおり、塩っ気の強い燻製肉を口でちぎり、のほほんとした言葉をもう一言。

 

「平和だねえ」

 

「……ねえ」

「あん?」

 

 横合いから投げかけられたのは、目の前の海ほどではないが透き通った声。本来ならばもっと透明度があるはずなのに、苛立ち交じりの声は多少濁ったように聞こえる。

 その感覚は正しく、声の出どころに目を向ければ、目じりを釣り上げた幼いエレゼンの女の子が腕を組んでこちらを睨んでいた。そして濁るどころか汚泥のような言葉でぶん殴ってきたのだ。

 

「平和、確かに平和ね。良いことだわ。真昼間から酒盛りできるほどに、暇を持て余しているくらいに。ところで、それが与えられたものであるという自覚はあるのかしら。今この瞬間の、あなたが満喫している平和が誰かの屍の上に成り立っているって、考えたことはある?」

「なんだァ、てめェ……」

 

 気持ちよく酒を飲んでいたら突然言葉のナックルでデンプシーロールをお見舞いされる。一体何なのだこの幼女は……いや、幼女というには大きいが青年というにはまだ早い、成長過渡期の少女か。あまりの突然さにアルコールと塩で酒焼けした喉からはドスの効いた声が出てしまった。

 

「そっ、そんな凄んでも怖くないわよっ!」

「お、お嬢様っ! 不逞の輩に軽々しく近づいてはいけません!」

 

 ちょっと後退する推定お嬢様を支えるように声をかける執事服を着た推定執事なルガディン族の男。不逞の輩とは随分と失礼な……昼間から酔っぱらってる大柄な推定無職なオッサンはそう呼ばれるに値するかは考えないこととする。間を取って推定不逞の輩としておいてほしい。

 

「それに、むしろこうして平和でいられる者がいる事、それこそが復興の証左でもあるかと」

「でも――は、こんな奴らの為に――――ない」

 

 うつむく少女。かすれた声の一部は聞こえなかったが、何かしらの想いがあって俺に絡んできたのだろう。とはいえこちらとしても水を向けられたのだから、言い返すくらいはいいはずだ。

 

「あのな、今は確かにこんな感じだが俺は冒険者で、今日は休暇としてここに来ている。そしてこれは自慢だが、今までの依頼遂行率は九割越えで、撤退回数はゼロだ。そんな勤勉な俺が、一日の休暇くらい満喫したって、いいだろう?」

 

 酔っているからか、俺の口は饒舌なようで、それを聞いた少女は値踏みするよう上から下まで確認して告げた。

 

「……ふぅん? あなたは、自分が優秀だから、これも当然の権利だと言いたいのね」

「そういった意図はねえが、見るからに裕福そうな、お供抱えたお嬢様よりゃ働いてるわな」

 

 手入れの行き届いた髪に、旅装とはいえ整った服、お供の執事にお嬢様とくれば、それはもうバリバリ富裕層の子女であろうことは想像に難くない。

 執事は剣呑なやり取りを見て、懐に武器を隠しているのか取り出そうか迷っているようだった。

 

「っ……言うじゃない。結局は日銭稼ぎしかしてないくせに。私はね、大きな意志で動いてるの。あなたとは比べ物にならないわ」

「へえ、お嬢様がそりゃすげえ。お父さんのお使いでワインでも買いに来たか、お供連れてすごいなーあこがれちゃうなー」

「……確かにお土産としてここのワインを買おうとしてたけれども、こんなボンクラが飲む程度のワインなら、程度が知れるわ」

 

 オイオイオイ、死んだわコイツ。百歩譲って俺がボンクラだったとしよう……しかし、最高のワイン造りに勤しんでいる彼らを貶すような言葉は否定せざるを得ない。

 

「ちょっと待て、そいつは聞き捨てならねえ」

「お嬢様、それ以上は流石に」

「あ……ごめんなさい。そうね、醸造士の人たちを貶めるような言葉だったわ」

 

 そう言うとお嬢様は蔵の方に向かって頭を下げた。別に誰かに聞かれていたわけではないが、売り言葉に買い言葉だったという自覚はあったのだろう。それでもしっかり頭を下げれるあたり、俺に理由もなく絡んできたわけではなさそうだ。何かしらの理由はあるのだろう。

 

「それで、変な因縁つけてくる割には律儀な奴のようだが、俺に何か用事でもあったか?」

「別にないわよ。ただ、エオルゼアっていう国に、愛想が尽きそうなだけ」

「ふーん……?」

 

 エオルゼア諸国、そんなに悪い国か?

 

 まあメインストーリーを進めていると、国家で取り組むべき課題をヒカセンに丸投げしてるようなイメージを抱いてしまうのは否定しないが、そこはフレーバー的に動いてはいたのだろう。流石に個人だけで全てを解決できるとは思わない。少数精鋭が必要な場面を切り取ればそう見えてしまうだけ……だと思っている。

 

 しかし、エオルゼアに愛想が尽きる、ね。

 

「何を思ってかは分らんが、そりゃ早計ってもんだ。まず各国に旨いもんがある。ウルダハにあるクイックサンドのモモディさんが作るクランペットは絶品だぞ。リムサ・ロミンサのビアホールで出てくるのは安い旨いだがコーンブレッドは一度食べておくべきだな。グリダニアじゃあ豆からできるムントゥイジュースって発酵食品があったりもする、好みは分かれるだろうがね。ラプトルシチュー、ドードーのグリル、いくらでも旨いもんはあるが、このワインポートのワインだってそうだ。こういうのを全部味わってからでも遅くはない、そうだろ?」

 

「あなたが食いしん坊というのは伝わってきたけれど、エオルゼアの良いところって食事だけなのかしら。なら私が求めている答えではないわ……ま、まあ、あなたが言った食べ物はちょっと食べてみようと思ったけれど」

 

 お嬢様は俺が言った飯を執事にメモさせているようだった。

 他にエオルゼアの良いところはもちろんたくさんある。

 

「あと旨い酒も」

「食事の事ばかりじゃないの!」

 

 だってしゃーんめーよ、俺、この世界に来てから自分の知識があっているかってのと、飯食ってるか金稼ぐための戦闘しかしてねえんだもん。元々絶景スポット巡るとかもやってなかったし。

 

「お嬢様の言う通り、日銭を稼ぐことと飯を食う事くらいしかやってなくてね。浅学なのはご愛敬ってな感じで許してくれ。でもよ、ワインポートの醸造士に頭を下げるくらいには、人に敬意を払ってはいるわけだろ? なんでエオルゼアがダメなんだ」

 

 俺がそう聞くと、お嬢様は神妙な顔つきで、何かを思い出すように問いかけてきた。

 

「あなた、自分の身内が命を賭して助けた人が自堕落に過ごして、あまつさえ隣人の手助けすらできないような人物なんだってわかったら、どうする?」

「ケツ蹴る」

「ケっ……そ、そう。そうよ。引っ叩きたくなるでしょう。あの人は何のために死んだんだって。助けられた命を無為に使うなんてって。誰のおかげだと思ってるんだ、って」

「まあ、そうなるな」

 

 なるよな?

 

 例えば親友が死んだ代わりに生き残った奴がどうしようもないクズだったとしよう。誰だってキレる。俺だってキレる。人によってはそれでも二人とも死ぬよりは、とか、色々意見はあるだろうが……それでも俺は、見知らぬ奴よりは、親しかった奴に生きていて欲しかったと毒づくと思う。

 

「何よ、結構話が分かる人じゃない。だから私は確かめるためにここへ来たの。お祖父様が死んだ意味を知るために、お祖父様の意志を知るために」

 

 お嬢様が言いたいことはとりあえず理解できた。ここまで一連の流れを鑑みるに、彼女の身内がエオルゼアで誰かを助けて死んでしまった、しかしその助けたやつは何とあまりよろしくない人物だった可能性があるので、それを調べていると。

 

「今回は下調べのつもりで来ていたのだけれど……あなた、自分で言うくらいには優秀なのよね? まさか今更嘘だなんて言わないわよね?」

 

 お嬢様は口角を上げると、挑発めいた言葉で確認を取ってくる。そんな事は聞かれるまでもなかった。

 

「優秀とは言ってねえが、そこらの奴に負ける気はしねえな、酔ってたとしても」

 

 こうして話している間にも俺はぐびぐびワインを飲んでいるわけだが、はて、お嬢様が語ったことは何か聞き覚えがあるような気がする。というか、そもそもこのお嬢様、どこか見覚えがある気がしてきた。シルバーブロンドでエレゼンでお嬢様で……ワインポートで……?

 

「まあ嘘か本当かは見ればすぐに分かるもの。あなた、冒険者ってことなら、依頼受けてくれるわよね。報酬は出すわ」

「ああ、そりゃ構わね……」

 

 俺が返事をした瞬間、脳裏には『アリゼー』という人名が浮かび、それに付随する情報がどんどんと呼び起こされてくる。

 アリゼーは思いっきり原作キャラで、目の前の彼女は俺が知る姿より幼い見た目だ。原作じゃこんなに早くエオルゼアに訪れていたなんて描写はなかったはずだ。

 そして、死んだ身内ってルイゾワのことじゃねえか。第七霊災をその命でもって終わらせた、まごう事なき英雄だ。アリゼーはルイゾワの事を慕っており、そんな彼が身を賭して助けたエオルゼアの在り方に疑問を持ち、色々な調査していたらなんやかんやあって――ワインポートでアリゼーから受注できるクエストで、最終的にバハムートと戦うのである。

 

「そう! じゃあ、とりあえず実力の確認と行きましょうか」

「待っ――」

 

 テッテテーテーテーン! そんな、クエスト受注の効果音が流れた、気がした。

 

「お嬢様……ワインをご購入なされたら帰還する予定だったのでは?」

「今のまま帰っても、私はエオルゼアに失望の念を抱いたままだわ。でも、コイツは私に対してエオルゼアを説いた。なら、証明してもらう必要があるわよね。それに、改めて訪れてやるはずだったことを今先にやるだけだから、ある意味予定通りよ」

 

 二人の会話をよそに、俺は思考を巡らせる。最終的にバハムートと対峙する事になったとして……何か問題があるだろうか。

 強大な敵と戦うリスクは付きまとうが、そもそもの話、俺はそういったゲーム中にエンドコンテンツとして存在していた奴らに挑もうと考えていたのだ。これはその時期が早まっただけで何も問題はない。

 

「いいぜ。実力が見たいってんなら、その辺の魔物相手でいいよな、お嬢様」

 

 ベンチの後ろに置いておいた大剣『スカエウァ・マジテックグレートソードRE』の変形機構を作動させ、地面へと突き立てた。

 

「それがあなたの武器なのね。見た目は強そうじゃない。それに、変形機構なんて珍しいわ……あと、なによその呼び方」

「お嬢様はお嬢様だろ。依頼主だし、もっとかしこまった方がいいか?」

「ハァ、好きにして。まずは見掛け倒しじゃないこと証明して頂戴」

 

 何となく訝し気な目で見てくる執事と、どこか楽し気なお嬢様を連れ、俺たち一行はワインポートを出て南下する。

 

 

 そうしてしばらく歩いていると、水辺に生息しているカエル型の魔物であるギガントードを見つけた。

 

「あれでいいわね。大きくて長い舌が厄介な魔物……だったわよね」

「はい、お嬢様。近づくと舌で絡め捕ろうとしてきますので、決して近づかぬようにお願いいたします」

 

 俺の後ろでは二人が危険域から離れてこちらを見ている。そんなに心配しなくてもこの程度であれば問題はないだろう。

 未だこちらの存在に気づかぬギガントードの後ろで武器を構えた。実力を見せるためなので、出し惜しみはせず、バフ類を一斉にかけ始める……といっても、相手にかけるデバフ類は使っていないので、全てではないが。

 

「『ランパード』『ブラッドプライス』『ダークマインド』『シャドウウォール』『ブラックナイト』『ダークアーツ』」

 

「っ……な、なによあれ」

「これは……」

 

 後ろで何かを言っているが、既に耳には入ってこない。

 

 戦闘を開始する時の高揚感は体に熱を与えているのに、そんな中を冷たい水が流れているかのような感覚で集中力が高まっていく。もし俺が一般人のままだったのなら、エンドコンテンツにリアルで挑もうなんて考えないだろう。しかし、今の俺にはこれがある。

 戦闘の勘ってやつは70レベル相当のものが最初から備わっているらしい。敵を屠るために最適な動きを導く頭。どう武器を振るえば効率的なダメージを与えられるかイメージをすればしっかりとついてくる体。加えてこのエオルゼアに置いてもトップクラスの性能を持つであろう装備たち。これらをいきなり手に入れたのだ――使ってみたくなるのは、人の性と言っても許されるだろう。

 

 俺が走り出したらギガントードもこちらに気づいたようで振り向こうとする。

 

「『プランジカット』ッ!!」

 

 それでは遅いのだ。踏み込みから飛び掛かるスキルで間合いを詰めると同時に切りかかる。そこからは手に馴染んだスキル回しを叩きこもうとしたのだが。

 

「『ハードスラッシュ』『ブラッドウェポン』『サイフォンストライク』……って、もう意味ねえか」

 

 頭や体の動かし方もさることながら、いわゆる"ステータス"まで自キャラのままのようで、この世界においても異常な値、英雄と呼ばれるような領域のそれとなっているらしかった。ステータスが全てだとは思わないが、力の差は事実そこにはある。

 最初の一撃で既に両断されかかっていたギガントードだったが、その後の攻撃でミンチよりひでぇやと言われそうな状態になりかねなかったので追撃はとどめた。

 

「これで如何です、お嬢様」

「…………嘘は、ないわね。これからの事を詳しく話しましょう」

「それは何よりです」

 

 お嬢様の基準はしっかりと満たせたようだ。これで満たせないとなると、名の通った古強者とか、ガチのヒカセンを持って来るしかなくなるとは思うが。

 

 

「ああ、それと、あなたを私の大剣として認めてあげるわ!」

 

 

 基準は、満たすどころかオーバーしていたようだった。

 

 

 

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