素晴らしきエオルゼアライフ   作:トンベリ

5 / 11
5:詩人はHimechan率高いけど操作難易度は結構高いから注意な(主人公視点2)

 俺を含めた五人の歩みは順調と言ってよかった。ブラックブラッシュ停留所から半日かからない程度でかなりの距離を進めていて、東ザナラーンへの到着も今日中だろうと思う。

 草影から飛び出してきたアントリング・ソルジャーを前に四人が武器を構える中、俺だけは手をだらりとさせて傍観する。

 ナイトくんのヘイト取りは安定しているし、白ちゃんはオーバーヒールにならない程度に『ケアル』を使い、詩人ちゃんはちゃんとDoT――ダメージオンタイム、いわゆる毒のような継続するダメージ――をしっかり付与するし、赤魔くんはキャスターとしてきっちりダメージを与えている。

 

「いくぞアンッ!」

「ええっ!」

 

 ナイトくんの剣が蟻型魔物の足先にある第一関節を切り飛ばし、大きく体勢が崩れた瞬間、赤魔くんの号令で詩人ちゃんが頭部へ『ミザリーエンド』をぶち込んだ。ゲームでは一部のジョブが使える一定体力以下への追撃なのだが、この世界ではいわゆる"必殺技"のような立ち位置をしてるようだ。実際、他のスキルよりはちょっと威力が高く設定されていたはずだし、間違ってはいない。

 頭部を射抜かれた魔物はバランスが取れない足で必死に抵抗しているが、更にぐらつきながら金切り声をあげる。

 そこへ赤魔くんが接近攻撃の起点であるスキル『コル・ア・コル』で突撃し、続けざま『エンリポスト』で身体に穴を増やしていくのだが、ここから予想していた動きとは違う。

 普通ならば『エンリポスト』からはコンボで『エンツヴェルクハウ』『エンルドゥブルマン』と三段コンボを撃って、距離を取るスキル『デプラスマン』で離れるのだが、ここまでの戦いで赤魔くんはどうしてか一段目のコンボ後『デプラスマン』ですぐに距離を取って、詠唱に戻ってしまう事がほとんどだ。たまーに二段目の『エンツヴェルクハウ』まで行くことはあるが……今の蟻型魔物に対しては使ってから離れたようだ――と、ここで思い出す。

 

(そういえばコンボ三段目って習得レベルが50なんだっけか)

 

 ゲーム的に赤魔道士はメインストーリーが進んで解放された後発のジョブである。そのためジョブ解放時の初期レベルが50レベルで初期スキルとばかり思い込んでいたが、そうではない。

 小難しい話を置いとくと、この世界に当てはめてもレベル50で習得していたスキルの習得難度はかなり高いはず、というわけだ。

 一概にゲームの習得レベルがこの世界での習得難度ではないのだが、やはりゲームである程度育ってから使えるようになるスキルを覚えている人間が少ない事から、習得レベルが高いスキルは高位のスキルなのだろう――もちろん例外はある――ただ突然変異的に強力な魔法を使える場合があるという考えは間違っていなさそうである。

 

「でけえ魔物だったな」

「……頭上からの攻撃は、中々に威力があった」

「っていってもー盾で防げてたしー」

「毒と魔法の通りは悪くなかったのでセオリー通り攻めれば問題なさそうですね」

 

 ナイトくんの逆袈裟切りでトドメをさして警戒しつつもまた歩みを進める準備をしだす四人。そんな彼らの楽しそうに喋る様子を後ろで眺めながら、次の休憩時にメモに書き起こしておくことを頭の中でまとめておく。

 赤魔くんの動きはレベル相応と考えれば問題はないだろう。一点気になることがあるとすれば、赤魔くんは接近攻撃を弱った魔物相手への追い込みにしか使わない。ただこれもこの世界基準でいえば当然、近接攻撃を行う魔物相手にタンクを通り越して接近するというのはかなりの危険が伴うのだから、鎧装備の竜騎士ならばまだしも、軽装のキャスターが飛び込むのは自殺行為になりえる。ゲームのように敵がヘイトリストの上から順番に攻撃してくれるわけではない。

 とはいえ、赤魔道士の魔法剣はダメージソースとしてかなりデカい。本来ならば内在マナが高まった段階でコンスタントに放出してダメージを与えていく必要があるため、俺だって慣れるまでは接近攻撃を使うタイミングは相当気を使ったものだ。ソロでやっていると下手をすればコンボ中に攻撃されて中断、なんてこともあったし。

 

(しかしなあ)

 

 ちょっともったいないとも思う。現在のパーティがそれを良しとしているのだから、最高効率のダメージよりも安定を取るのはそれこそ当然であるが、安定しているパーティなのだから少し上を目指す意味をこめてもスキル回しは――なんて考えていれば、休憩にすると詩人ちゃんが伝えてきた。

 近くの岩場に荷物を降ろし、そそくさと少し離れたところで四人が集まって何事かを話している。仲間同士での話し合いでもあるのだろう、

 そんな彼らを横目に、半日現在のパーティ総評をメモに書き込んでいく。

 

 総評――問題なし。……これだけではモモディさんに呆れられそうだ。

 

 しかし、先ほどの蟻型魔物は初見と言っていたのだが、支援魔法はしっかりかけて油断せず、慢心せず、パーティメンバーが全員がやれることをやって確実に屠っていたのを見て口には出さず一言、こいつら教導いらねえだろ。

 中堅パーティとは聞いたが、中堅でも中位、人によっては上位と評価を下すのではなかろうか。これが数年をかけて育ったパーティならば普通の事だったのだが、この四人の冒険者歴は半年だという。これは異常である。そもそもの話、あえて突っ込まなかった事――彼らが習得しているナイト、赤魔道士、吟遊詩人、白魔道士と呼ばれるジョブ。

 

 ジョブとは、古くにあった技術だが次第に忘れ去られていった強力な技術を指す事が多い。全部が全部ではないのだが、大体そんな感じ。

 第七霊災――簡単に言えば世界を滅ぼしうる天変地異――を切っ掛けに「古き事物を見直そう」っていう考えが各国で検討され始めて、段々と研究が進んだり、広まったりしている。

 彼らパーティにおいて、そんな背景を持つジョブを四人中四人が取得しているというのはかなり珍しい。ものによっては国家レベルで秘匿、あるいは専有されている存在のはずで、集まりすぎではと思うのは仕方ない。

 

 出した結論は、国家の思惑が絡む可能性があるのでスルー安定。

 

 だったらそもそもジョブを名乗るなよってなるかもしれないが、彼らが習得しているジョブは知ってる人は知ってるくらいに公表されているジョブもある。

 

 ナイトはウルダハの銀冑団――王家の近衛兵のみが使える技術の粋だったはずなのだが、近年は部隊の規模縮小や士気の低下から冒険者にも門戸を開放したようだ。一定水準以上の強さを持つ人物に、ウルダハでの有事に協力する代わり、ナイトとしての技術と"自由騎士"の称号を与える。名が露見していても比較的問題ない部類のジョブだ。

 

 そして吟遊詩人も問題はない。古き弓兵は戦場で弓の弦をはじいて詩歌と呼ばれるバフとかデバフをばらまいていた。そんな詩歌をとある高名な爺様が広めようとしているので、時系列がどうかは分からないが、その爺様がグリダニア国家と接触する前なら、才能次第では直接教えてもらえるだろうし、もしグリダニア所属になっても弓術士ギルドにコネがあれば教えてもらえると思う。簡単ではないだろうが、無理ではない。

 

 赤魔道士はそもそも存在を知っている人がどれくらいいるのかって話になる。与太話だと笑い飛ばすか、それこそ酒場で歌う方の吟遊詩人から語られればおひねり投げてもいいかなってそんな感じのやつ。それもそのはず、FFXⅣにおける赤魔道士とは、一文明前……1600年以上前に、争っていた白魔道士と黒魔道士が対立をやめて、文明の崩壊を食い止めようとした結果生まれた魔法なのである。というか文明が崩壊したきっかけが、白魔と黒魔が戦争おっぱじめて環境のエーテル、要は魔力を消費し続けて枯渇したので大地が崩壊しますって流れなのだから、人間とはいと罪深き存在なのだ。ぶっちゃけ、文明が崩壊した1600年前の資料が残ってる事の方が奇跡である。

 

 さて、ここまでは問題ないのだが白魔道士、テメーはダメだ。白魔はこの世界においてグリダニア国家の皇族達が秘匿継承してきたジョブであるはずだ。俺からすれば『ケアル』と言えば"白魔法"だが、このエオルゼアで『ケアル』と言えば"幻術"なのだ。あのギャル魔道士はこともあろうに普通に白魔道士を名乗っていた。下手をすればグリダニアからお尋ね者扱いされてもしょうがないくらいの事であるはず。

 もちろんモモディさんも気づいているはずだが……あえて触れていないか、既に裏付けが終わり安全であると判断されているのかもしれない。ただその裏付けというのが国家レベルのあれそれである可能性は否めず、わざわざ触る事もないとスルーしている。

 

(俺が白魔道士を知ってるのはおかしくないからな。グリダニアが秘匿している技術という点を表に出さなければいいだけなんだ……ジョブの習得クエストは面白いストーリーが多いから結構見てたんだよな)

 

 赤魔道士は成り立ち上、黒魔法と白魔法の存在を知っている必要がある。モモディさんには赤魔法の説明をしたときに話しているから問題はない。

 そんな珍しい彼ら彼女らのパーティだが、エオルゼアにおいては珍しいというだけで俺からすればむしろ測りやすい存在だ。だって俺が憶えているスキル回しとかはジョブが前提であるのだから。

 

 ここまでの道のりを思い返せば、少なくとも"教導"が必要なレベルではない。

 モモディさんは彼らを、ゆくゆくはうちのエースにしてもいいくらい、と評価していた事から結構な腕前だと分かっていたが予想以上だ。

 依頼としては、パーティの支援魔法のタイミングや出来れば過酷な状況での心構えとかを教えてあげてと、言われていたがどれも俺の眼には問題なく映っている。

 

 改めて現状の評価をメモ。半日で結論が出るわけもないが戦い方からして分かる部分は書いておく。

 

 赤魔くんは上を目指すなら少しの危険に飛び込んでみる事もありだと思うが、しかし安定しているパーティ体制を崩すほど急を要するかと言われれば否。俺から教えるとしたら技術面が主な部分になるだろう。『フレッシュ』を覚えれば魔物殲滅能力はかなり上がる。

 

 ナイトくんは……もうちょっと喋ろう、ではなく、問題ないと思われる可能性が高い。なぜこんな曖昧な表現をしなければいけないか、それはゲームとの差異が他の役割と比べて一番大きいからだ。

 ゲームであればヘイトリストと呼ばれる魔物が誰を狙うかのゲージがあるのだが、現実となったこの世界ではそうはいかない。魔物相手であれば知能が低い奴らは目の前で小突いてくるウザいやつから狙おうとするだろうが、知能がある、言ってしまえば人間とかは物理的に行く道を阻むような動きをしなければならない。

 従って、ゲーム内で行われているような突っ立って敵視ゲージを溜めまくるだけーなんて戦法は魔物相手ですらNGな場合があるのだ。

 更に代表的なタンクのスキルである『挑発』は特定の相手に殺気を飛ばして意識を向けさせるだけだし、ナイトでは一般的なスキルである『シールドロブ』は盾を投げて物理的に気付かせたうえ自分の元まで跳ね返させる角度で当てる超絶技巧になっていたりする。一応TPと呼ばれる"気"とか"集中力"と表される凄いパワーを使ってやってるのだがもはや別ゲーでは。

 俺もゲーム内ではサブジョブとして暗黒騎士を使いタンクロールをやってたが、この世界では状況が逼迫でもしてない限り出さない。いやマジで殴られ続けるってめっちゃ怖いんだぞ。そういう意味でもこの世界のタンクはパーティの要であり強大な意志が必要とされる凄い人たちなのだ。そんな彼らに何を言えようか、言えまい。

 

 詩人ちゃんは、胸のあれそれで弓を番えるのが大変なんじゃないかってずっと見てて――もとい、見てずっと思ってた。だってあの装備、オフショルダーで胸当てないんだよ、北半球なんだよ、射るたびに弓柄と弦に挟まれないかと心配になるこっちの身にもなってくれ。

 ――冗談はさておき、詩人ちゃんも赤魔くんと同じく現状を崩すほど急を要する問題は無し。強いて言うなら攻撃間隔だろう。これは仕方ない事なのかもしれないが、弓術は魔法のように大雑把な狙いをつけるだけではなくピンポイントで弱点を射る事に意味があり、その分狙いを定める時間が必要になる。更に詩人はパーティ全体の状況を把握してバフをかける必要まであるのだから純粋なダメージディーラーとはいかない。

 そんな事情を抱える詩人だが、詩人ちゃんの動きはかなり高水準だ。状況把握にかけている時間をもう少し攻撃に割ければこのパーティで一番化けるのは彼女かもしれない。

 

 ギャル魔ちゃんもとい白魔ちゃんは、胸のあれそれで大変なんじゃないかってずっと見てて――このメモをモモディさんに見られたらアカンな。真面目な評価だが、白魔ちゃんは天才型だ。あんまりこういった表現を使うのはよろしくないのは分かっているが、今まで見てきたヒーラーの中でも戦況把握能力が群を抜いていた。

 ヒカセン的に言えば、初見の高難易度コンテンツで回復が無ければ全滅する攻撃がきそうだからこのタイミングから詠唱を始めれば問題なさそう、ってのを感覚的に掴んでヒールをしている。

 だが攻撃はそこそこの頻度で留めていて、多分回復タイミングを逃さないようになのだろうな。『ストンラ』で投石器になるタイミングを掴めればエンドコンテンツ勢の仲間入り待ったなしの逸材である。

 

(現状はこんなところかな。白魔ちゃんが天才と書いたけど、このパーティは全員がかなり才能を持ってる。磨けば光るなんてもんじゃないぞ)

 

 半年で中級冒険者の仲間入り、下手をすればベテランを喰えるところまで来ているとなれば、なんかもう運命的な出会いを果たした四人組なのではないだろうか。

 

 書くことを書き終えると岩陰から四人が戻ってきたので手帳をしまいバックパックを持ち上げる。

 なんか四人から見られているようだが、特に詩人ちゃんはこちらを探るような視線だ。やはり胸を見ていた事がバレたのだろうか、極限まで視線での気配を殺していたはずなのだが、まさか先ほどの会議はその話……しかし違う場合の事を考えると墓穴を掘るよりは黙っておく方が賢い。指摘されたらごめんなさいしよう。

 

 魔物を屠っていく様を観察し続けている途中、それは起こった。

 

 サンバット――蝙蝠の魔物が丁度俺の真横から接近しているようだ。距離にして三十ヤルム程はあるが流石に視界外の魔物にこの距離で気づけというのは現状の彼らに対して酷だろう。

 二十ヤルム――ベテラン弓術士なら気づける距離――十ヤルム――そろそろ気づいたかな――五ヤルム――気づいてるようだが動かない、どういうこった――三ヤルム――あれもしかして気づいてない――一ヤルム――いややっぱ気づいてるわって、何でこの距離で対処始めるねーん。

 

 ちょっと判断つかなかったのでサンバットと俺の距離が残り一ヤルムを越えたあたりで突撃スキルである『コル・ア・コル』を超至近距離からぶちかました。内在マナが溜まっていないので強化されておらず魔法剣ではないが細剣で攻撃するスキル『リポスト』で追撃を加えついでに叩き斬っておく。

 一ヤルムでやっと反応したにしても、ナイトくん以外の三人が同時対応って、この距離でも余裕で対処できますよってパフォーマンス……じゃあないよなあ。ギャル魔ちゃんは『ケアル』だったし赤魔くんは『ヴァルケアル』って俺のことを回復させようとしてたし攻撃される前提だ。

 

「ふむ」

 

 どういう意図を持っていたかは……まあ、こいつらの表情見れば分かるか。右から順に唖然、呆然、愕然。

 

 ははーん、これはあれだな、俺の事をボンクラだと思ったから確かめたやつだな。悲しいかな、冒険者ギルドで日中暇そうにしていると勘違いされることは稀によくある。揶揄されるくらいならいいが真昼間から酔っぱらってる中でも一緒に呑もうぜってタイプではなく、粗暴に絡んでくるタイプのアホにレイピアを突き付けてやればあんな顔になるのだ。しかし、なんだ、無能扱いされてたのね、オッサン悲しいよ。

 

「どうした? たかが一匹ヘイト漏れしただけだろう。新人にはよくある事、次から気を付けような」

 

 跳ねっ返りには肉体言語が手っ取り早いエオルゼアであるが、今回は新米冒険者に優しく諭すセリフその1でいく。やっぱ無精髭こさえてるオッサンは需要ないか、そうですか。

 

 そこからの道中はそこそこやる気になってくれたようで元から問題がなかった道程が更に安定して予想よりもかなり早く行進できていた。

 日が傾いてきたあたりで野営の準備を始める。一度目の野営では温かいスープを四人から分けて貰って一緒に食べていたのだが、その際に詩人ちゃんは色々と質問を俺に投げかけてきた。バフのタイミングは、俺のパーティ経験は、初見の魔物相手には、赤魔法は――勉強熱心な詩人ちゃんの姿はいつもの事らしいが、今回のは輪にかけて興奮していると白魔ちゃんと赤魔くんが語っている。どうも、前回教導係を任された奴が酷かったらしい。

 キラキラした顔と、その、体勢的に両手を顔付近で構えていて、豊満な胸が腕に挟まれ潰され俺の視覚が埋め尽くされる。そのポーズも含めてあざとすぎるだろうっ、これが熟練himechanのスキルなのか……無論、バレ防止で視線は顔に向けたままだった。

 

 二日目の道中はもちろん何事もなく、二度目の野営、夜半、たまたま赤魔くんとツレションになった時のことである。

 

「何で道中は手伝ってくれないんだ?」

「教導が手を出したら純粋な戦力を測れないだろう、手を出すのは命の危機がある場合だけだ」

 

 何を当たり前なと顔に出しておく。冒険者ビギナー向けの訓練所である初心者の館でもそうだしな。

 

「……あー……じゃあ、前のあれがむしろ……」

「単純にそいつの親切心かもな」

 

 実践ではそこそこだが教導に慣れていないなんてパターンはよくあるだろう。実際に出来ることと教えることは別である、あと聞いている限りでは前の教導担当は親切心で手助けをしていたのだと思う。モモディさんが選んだ人らしいし、丁寧過ぎたのと彼らの実力が予想外だった不幸な事故だ。

 

 俺たちが掘った穴を隠すように土を覆いかぶせていく。臭いに敏感な魔物が寄ってくる確率を少しでも下げるために怠ってはいけない。二人そろって土を蹴っていると赤魔くんがぽつりと呟いた。

 

「なあ……俺、オッサンに追いつけるかな」

 

 チャラい見た目に反して繊細そうな表情をして俺に問いかける赤魔くん。

 

「努力と才能次第だと言っておこうか」

 

 俺は正直にそう答えた……いや、願望も入っていたかもしれない。

 

 この世界には存在しない友人がよく言っていたこと、ストーリーでちょっと納得がいかない部分を挙げるとすれば、敵味方問わず才能に負かされるキャラクターが多いことだと。物語の都合上、かませ犬のようなキャラは多く存在する。特にメインシナリオに関わらないストーリーにおいて尺を長くは取れないためなのだろうが、手法としてぽっと出の才能ある敵キャラにより味方陣営が窮地に陥ることや、ぽっと出の才能あるキャラによる問題の解決がたまにあった。それが悪いとは言わんさ、強者感も出るしな。

 

 現実になってしまったこの世界だからこそ、突如現れた存在になすすべなくやられてしまう未来があり得るのかもしれない。それでも、努力は才能を凌駕しえるのだと……努力もせずに強い力を手に入れた俺が言える義理ではないが、もう一言願望を付け加えるくらいは許してもらえるだろうか。

 

 

「追い越してくれよ」

「――おおよっ」

 

 

 赤魔くんが最初にして見せた顔はきっと不安の表れだったのだろう。どのようにして赤魔法を習得したのかはわからないが、師はいないだろうと考えている。もしくは、元はいたか……この二日間でよくよく観察すれば、どうにも赤魔くんの使う赤魔法は細部に拙さが見え隠れしていて、それは技術的な部分ではなく赤魔法に対する知識的な部分だと感じたのだ。

 例えば術の発動に最適なエーテル量だとか。予想だが、ページが欠落した文献が師代わりなのではないかと思っている。

 なんちゃって赤魔道士から始まった俺なんかを目標に据えるのは間違っているが、現状指標がないよりはマシかと思い飛び出た軽口は、思いのほか彼を嬉しそうな表情にしていたのでいいだろう。

 ここで素直に教えてくれと頼んでこないあたり跳ねっ返り精神はそこそこあるようで、まあ教導という立場だし時間がある時に少し相手をしようか。こちらから全部を打診するほど俺も男には優しくはないのだ。

 

 詩人ちゃんか白魔ちゃんだったら教えてたがね。

 

 

 

 次の日の夕方、何の問題もなくキャンプ・ドライボーンへと到着する。

 

 宿屋で五人分の部屋を取り各自自由となったら、辺りに興味津々な白魔ちゃんと付き添いのナイトくん、それと赤魔くんがそれぞれ広場に繰り出していった。詩人ちゃんは休憩するようで自室へと入る。さて、俺は情報収集といきますか。

 

 

 




ファンフェス行った方はお疲れさまでした。

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