素晴らしきエオルゼアライフ   作:トンベリ

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6:詩人はHimechan率高いけど操作難易度は結構高いから注意な(主人公視点3)

 情報収集といってもやることは単純で、念のために依頼の納品対象である薬草の特徴を聞くだけだ。しかし、ここウルダハではそんな情報収集ですら、確実に他国より難易度が上がるだろう。

 

 国是……ではなかったかもしれないが、国旗を見れば理解できるはずだ。黒地には金の天秤が描かれ、その秤の上は富を表す宝石と、力を表す炎が描かれていて、それらこそが国の土台であると主張している。

 普段は見向きもされないような薬草の情報ですら、そこらの露天商に聞いたところで対価を求められる。それも割とえげつないレートで。

 困ってる人が誰かを頼れば、困っている分だけ対価は吊り上がる。10ギルのパンひとつが1000ギルになる国、それがウルダハである。

 

 交易都市国家の名は伊達ではないのだ。

 

 では人情が全くないかと言われれば流石に全くとは言わないだろうが、都市でひと財産築いているような商人たちに当てはまるかは疑問である。最終的に自分へ利するなら情すら秤の上に乗せるのが"本当の商人"くらいは言うだろうし。

 素直に商人から情報を聞き出そうとするのはウルダハに精通している者ならばとらない愚策である。その辺に生えている薬草の情報が欲しいと言えばこの辺りに詳しくない事がバレてふっかけられること請け合いだ。

 つまり薬草程度の情報ならば聞き出すべきは商人以外である。商人しか知りえない情報ならまだしも一般的な病への備えに用いられるはずの植物ならばキャンプ・ドライボーンの住人でも知っている可能性はあるが……依頼の報酬を考えると元手はかけたくない。

 

 なので元手がかからないブツを手に入れるべく、キャンプから小半刻ほど歩いた場所へと向かう。

 

 一帯に群棲している大山羊、ミオトラグスの肉が目的だ。発見後サクッと倒してすぐさま血抜きを行いつつ皮を剥ぐ――当たり前だがドロップアイテムとしてボックスに格納されるなんて便利機能はない。

 肉を手に入れるには解体しなければいけないし、皮も自分でどうこうするならなめす必要がある。特に前者はちゃんとした知識を得るまで大変だった。切り込みを入れすぎて筋繊維を傷つけるとか、逆に切らなければいけない部分が切れておらず変な成型状態になってしまうとか……それも魔物ごとの構造も憶えなければと年単位でつけた知識の一つである。

 甲斐あって大抵の動植物は問題なく解体できるし、その後の調理もお任せあれのスーパー調理師に……いやさ、あくまで冒険のついでのはずだったのだが、やっぱ旨いもん食いたいよね。冒険って腹減るし。

 

 キャンプ・ドライボーンを出立してミオトラグスを倒すまでにかかった時間の倍以上をかけて血抜きを終えたら皮ごと麻袋に詰め、月明かりが荒野へ満ちていく中、次の目的地へと向かった。

 

 商人や住人あるいは冒険者以外から情報を聞き出す場合の選択肢、それは難民だ。前にキャンプ・ドライボーンへ来た時は北の湧水地近くに住んでいたはずなのでそちらに歩みを進める。

 

 ウルダハの難民は大きくまとめれば一括りだが、詳細に語るなら二つの要因から二種類の難民がいる。一方は二十年前のアラミゴ陥落に起因する難民たち、こちらはガレマール帝国の侵攻により占拠された都市国家アラミゴから亡命してきた者達を指す。そしてもう一方は五年前の第七霊災によって故郷を失った者達。

 

 アラミゴからの難民ですら受け入れきれずいっぱいいっぱいだったのに、五年前の霊災でさらに増えた難民は国家ですら制御しきれずスラム街が形成されるにまで至っている。

 ぶっちゃけ他国家であるグリダニアやリムサ・ロミンサと比べて治安はかなり悪い。そもそも他の二国は少なくとも一人の元首によって統制されているが、ここウルダハはナナモ・ウル・ナモ様を頂点とした君主制が敷かれている……はずが、実権は"砂蠍衆"と呼ばれる金持ちとか王族以外の権威者によって握られていたりする。もちろんナナモ様を王として尊ぶわけもなく、ナナモ様派は6人中1人だけ。

 

 まあ国政を取り仕切る人たちがちゃんと一つにまとまってない状態で難民にまでしっかり手が差し伸べられるわけもないよなってのは政治に疎い俺ですら理解できる。

 

 そんな瓦解寸前なんじゃないかってのがウルダハの実態だったりするが、小難しい事は置いといて、人間腹が減れば気が立って隣の奴をぶん殴る、なら腹いっぱいにすりゃ気分良く情報を喋ってくれるって寸法だ。

 生きるために必死な難民の中でも小規模な、複数の家族で構築されているようなグループがねらい目になる。もちろん家族の構成にはよるが大人衆は食わせるために餓死寸前でもなければ無茶が出来ず、家族が生き残っていることから気性がそこまで荒くない事が多い。付け加えて野外に住んでいるグループであれば近辺の野草や魔物の情報には詳しくなるので、前に見かけた時から場所を移動させていなければそれだけ同じ場所で過ごしている事の証左にもなり信ぴょう性も高くなるだろう。

 

 そうしてしばらく歩き突っ切ってきた荒野から、キャンプ・ドライボーンと北の湧水地に続く道の丁度真ん中へ戻るタイミングで思いつめた顔をしているぼろ布を纏ったおっちゃんを発見した、多分お目当ての人物だろう。

 

「そこのおっちゃん、ちょっといいか?」

「ッ……冒険者か、何の用だ」

 

 敵意がない事を示すべく両手を上げながら声をかけたのだが、それでもおっちゃんは腰につるしたホルダーからダガーを抜き出し半身だけを前に出して腰を下げた。どうやらかなり戦闘慣れしているようで、声をかけた瞬間から臨戦態勢までほぼタイムラグはなかったし堂に入った構え――だが、よくよく見れば膝が震えていた。単純な恐怖による震えではなく、足を踏ん張るのが辛いように見える。

 

「ちょっとした取引なんだが、武器はそのままでいいから話だけでも聞いてくれねえか」

「…………続けてくれ」

 

 長めに悩んだ素振りを見せた後、どうやら話は聞いてくれるらしい。これが難民を細かく分類すると二種類に分けられる理由にも繋がる。アラミゴからの難民にはレジスタンス活動をしていた者達が結構な割合で混じっているので、腕が立つ者が混ざっていたりする。

 戦闘能力を持っていてこの近辺では大人しくしているのであれば、無暗に力を振りかざすような矜持は持ち合わせていないのだろう。であればしっかりと話せば分かってくれる人の可能性が高いし素直に話すことにした。

 

「――ってわけでな、商人どもに金を払うのも癪だし、おっちゃんならこの辺の事には詳しいんじゃないかってな」

「はは……そんな理由で話しかけられたのは初めてだよ」

 

 麻袋の中に入った肉と毛皮を見せるとおっちゃんは話は信じてくれたようで、武器を下ろして近づいてきた。

 

「襲われる心配はしていたがその袋を見ればな。俺の持っている微々たる金よりもその辺で魔物を狩った方がよほど稼げるだろうよ」

「……おっちゃんが狩りに出れない理由は、脚か?」

 

 おっちゃんは図星だったのか少し遠い場所を見るように目を細めて嘆息した。

 

「アラミゴでな……歩く分には問題ないが、まともな戦闘は長く続けられないと言われたよ」 

 

 詳しくは聞かない。ただ昔、戦争があって怪我をした、それだけの事。きっとおっちゃんも深入りはさせてくれないだろう。だから俺が出来るのは取引だけだ。

 

「んじゃさっき言った薬草の話を聞かせてくれればコイツはおっちゃんのもんだ」

「おいおい! そりゃいくら何でも――」

 

 多すぎる。瞠目させながらそう言いかけたのだろうが、俺の顔を見て曲げる気がないのを悟ったのだろう。

 

「あんた、アラミゴの?」

「よく勘違いされるが違う。さあ、対等な取引だ、どうする?」

 

 俺の言葉を聞いたおっちゃんは俺の顔を見ながらしばらく黙っていたのだが、目を瞑ると祈りを捧げるように薬草の情報を呟いていく。この近辺に長年いるからこそ知りえる情報も含め、取引内容にはなかった情報まで教えてくれたのだった。

 

「なるほどね……助かった。こりゃ話聞いてなかったらちょい手間が増えてたな。しかしいいのか、色々と他にも情報を貰っちまったようだが」

「礼を言うのはこちらだよ……俺をウルダハ仕込みの悪徳商人に仕立て上げたいのか?」

 

 おっちゃんは日々を生きるのに必死だというのに、あくまで対等であろうとする矜持は今のウルダハどころかエオルゼアでは生きづらいだろう。それでも高潔を貫くアラミゴの民に対して、俺はどうも、必要以上の干渉をしちまう性質らしい。

 ひとしきりおっちゃんと笑い合ったあと、渇いた地面へぽつりと水が落ちた。

 

「実を言うと……ギリギリでな――これだけあればみんなも飢えずに済む……本当に助かった……すまない、本当に」

 

 おっちゃんの閉じられた瞼からは決壊したかのように涙が溢れ始める。

 

「見返りは貰っているさ。定期的にくるわけでもない、気まぐれと思ってくれ」

「変なプライドを持ってる同胞も中にはいるがね、それは飢えで困らない最低限には生活の基盤が出来上がってるからさ――同情でも、哀れみでも、面白半分でも、気まぐれでも、手を差し伸べてくれるならそれ以上にありがたい事は無い……俺は家族と、幾何の同胞と生きて行かねばならんのだから」

 

 それは絞り出した声だった。

 悪意の視線に晒されて、難民だからと蔑まれて、ため込んでいた気持ちがほんのわずかに結露した結果。

 ウルダハのどこを見ても彼と同じ状況の難民はごまんといるだろう。たまたま今日俺が出会ったのがおっちゃんだっただけだ。

 

「気にするなって……生きろよ」

「……――」

 

 おっちゃんに俺の小さな呟きが聞こえたかはわからない。だが小さな背中が見えなくなるその瞬間までずっとお礼を言われ続けた気がした。

 

(どうにも、まだまだこういった関係のには弱いねえ……)

 

 なんだかんだと理由をつけて食料諸々を難民に渡すのは初めてではない。もちろん見かけた難民全員になんて出来ないから、数奇な縁で俺と関りを持ってしまった中の更に一部ではあったが。

 知り合いの商人には感謝されるためにやっているだの偽善だの揶揄されることもあったし、稀にではあったが渡したその場で襲われることすらあった。

 

 それが彼らの為になっているのか、余計なお世話なのかは渡してしまった後にはわからない。

 

 ありふれた悲劇と切り捨ててしまうには、どうにも"エオルゼアに来る前"の感覚が未だに抜けていないのだ。多分だがこの感情を無くすことは、早々できやしないんだろうなと諦め気味にここまで付き合ってきた。

 

(まあ、何が正しかったかなんてのは、のちの歴史家に語らせりゃいいって偉い人も言ってるしな)

 

 誰が言ったのかすらわからない標語らしき言葉でごまかしつつ月明かりに染まるキャンプ・ドライボーンのエーテライトを眺めれば、視界に映った草場に違和感を感じ、よくよく見れば隠れている詩人ちゃんを発見した。

 

(おー……見事なハイディング。しかし俺もレンジジョブカンストの端くれ。敵意が無かったから発見遅れたけどな、うん、あれ……もしかして話聞かれてたか)

 

 一応理由付けをして取引しているが一般的な感覚で言えばよい事ではない、というか悪だくみしてるんじゃないかって勘違いされることもある。それだけ難民が信用されていないってことなんだが。

 とりあえず詩人ちゃんへ手招きをしてこちらへ呼び寄せると驚いた顔をしつつ開口一番問い詰めてきた。

 

「ディザスターさん……なぜ食料を渡したのですか」

 

 どうやら渡した理由の部分は聞かれていなかったようで、元々理由付けとしていた情報収集であることを伝えれば納得した様子でキラキラした視線を向けてきた。いや、詩人ちゃんが言う通り一般的にはよくない事ではあるんだよ、なんか若葉マークの初心者にギミックネタバレ解説してドヤ顔してる人みたいじゃん……初見ダンジョンでギミックネタバレとかどういう神経してんだよ……。

 

「そうですか……あっ、ごめんなさい。別に渡したのを責めているわけではなくて、アラミゴの民に変な感情を抱いているわけでもないんです。ただ、食料を渡した理由とかディザスターさんの事を知りたくて」

 

 天使か? いやhimechanだ。待て待て、これはつまらない話でも快く話させる天然系himechanの高等テクニック、謙虚な態度で分かっている姿勢を見せてもっと知りたいと次を促し高揚感を得させるという、アレだ……どれだよ。

 とりあえずおっちゃんとの会話で浸っていた感傷は詩人ちゃんの姫パワーで吹き飛んだ。俺は勘違いしないからな、月明かりを一身に受ける詩人ちゃんの北半球は絶景、じゃなくて、どうして彼女はこんなところまで来たのだろうかと話を逸らせば、ここまでの野営でも聞かれていたパーティの支援とかについてもっと聞きたいってことだった。答えは変わらないし同じことを伝えたのだが今回は別視点での問いかけを受ける。

 

「それってソロのディザスターさんから見て、ってことですよね?」

「ん……あー、いや、君たちの強さを鑑みて、だが」

 

(ソロのっていうかゲーム視点から見るとなんだけども、流石にそれをがっつりリアル基準で指摘してもな)

 

 俺が持つ力に対してゲーム的な視点で考察を重ねる分には問題ない、だがそれが他人への指摘とかになってくれば話は別だ。モモディさんが言っているような『災厄度』もそうなのだが、対象が自分以外になるゲーム知識は極力控えたいのだ。

 例えばキャスターが使う魔法のリキャストタイムはゲームと同じである場合が多いのに対してMPを使わないような"武術"に類するスキルは完全に本人の資質によって異なることを既に判明させている。魔法ですらゲームと異なる点があるのだし、それを前提にして指摘はしづらい。赤魔道士とその他一部のジョブ以外はリアル基準での照らし合わせが完璧ではないのだ。

 

 一応詩人は遠距離攻撃手段としてある程度エオルゼアに来てからも触ったジョブだ。どちらかというと気配察知とかハイディングとかレンジャー的な能力で重宝している、閑話休題、詩人ちゃんの熱意に負けたわけではないが、どうせ言ってもほとんど理解されない前提で伝えるくらいはしてもいいか。

 

 手帳を開きメモっていた詩人ちゃんが使用したスキル一覧および使える可能性があるアビリティを確認しつつ、リアル基準な戦闘の癖を加味してゲーム的には最適なスキル回しを伝えてみると――吼えた。

 

「それですよおおおおおおっ!?」

「おおおうっ?」

「なんですかなんですか、ちゃんと見てるじゃないですかっ」

 

 キラキラしていた目がギラギラに変わっておられる。なんだ、実は戦闘系姫ちゃんだったり……あ、半分くらい理解されてないようだ、それでも更に支援について聞かれたので俺が思う支援に対する見解を述べたら詩人ちゃんは考え込んでしまった。

 

(そらリアルに考えたらMPっつーリソースをマーモットに割くかって話だし、使えるタイミングで支援全部使ってたら必要なときに使えないとかもあるから、そこはもう慣れだと思うんだよなあ……まあただ、ソロでやってると思うけど、一つ出し惜しんで死ぬくらいなら、過剰なくらいが丁度いいわ)

 

 支援を惜しむな命をこそ惜しめ……これは名言になるのでは。そんな事を考えていたら詩人ちゃんが呟いた。

 

「ディザスターさんの助言は、敵の出方を見て立ち止まってる時間があるなら戦闘中の時間というリソースを無駄にしない行動を基準にしている、のかな?」

 

 なんと、この子モモディさんと殆ど同じ見解に辿り着いたではありませんか。いや、これに関してはモモディさんとは違って実際に戦いへと身を投じているからこそって部分が大きいのかもしれない。ならモモディさんすげえや……じゃなくて、たった数分俺の考えを説いただけでここまで理解されるとは思っていなかった。

 

「……すげえな――俺の話をそこまで明確に言葉に出来た奴は少ないぞ。姫ちゃんとばかり思っていたが、なるほどなるほど、見込みがある」

「そ、そんな、私なりにディザスターさんの言葉を噛み砕いただけですよ。分からない部分も多かったですから……あとっ! 姫ちゃんってほどみんなに守られてばっかりじゃないですのでっ!」

 

 驚愕しすぎて考えてる事をそのまま言葉に出してしまったが、なんというかこの子卑怯だな。行動ひとつひとつが可愛いというかあざといというか狙ってないであろうことが分かるし天然ものなんだろう。

 

「すまん、今のはあまり気にしないでくれ。っと、明日も早いしそろそろ戻るとしようか」

「はい。……出来ればでいいんですけど、明日ダネスに赤魔法の手ほどきをしてあげることはできませんか? ここ最近はちょっと伸び悩んでるようなんです。持っている文献から導き出せるのは殆ど出し尽くしてしまったみたいで……」

 

 予想通り赤魔くんの師匠は文献だったか。どうしてそんなものを持っているかは置いといても、よく失伝した魔法を文献だけで再現できたものだな。詩人ちゃんもそうだが、赤魔くん、白魔ちゃん、ナイトくんと才能あふれんばかりのルーキーだ。

 モモディさんも彼女たちには大分期待しているようだし……そうだな、軽く先達の意地を見せてやるくらいはするべきか。

 

「分かった。薬草集めが終わったら少し相手をしよう。と言っても、そう長くはやるつもりはない」

「……! ありがとうございますっ!」

 

 宿への帰路でるんるんと声が聞こえてきそうなほど浮かれた様子の詩人ちゃん。

 俺がここまでがっつりと一つのパーティと関わる事は珍しいし、普通のパーティだとジョブ持ちがゼロってのが当たり前なんだが、なんと今回はオールメンバーがジョブ持ちで俺の知識も役に立つ。ってことでいっちょ揉んでやるかな。

 

 

 

 次の日――――揉みたいのはおっぱいだよ!!!

 水かけっこをする詩人ちゃんと白魔ちゃんがこう、水で服が、こう……地球の7割は水なんだぞ……北半球は10割水か……肌色だし陸地……?

 

「……教導官殿?」

 

 はっ……不意に迫ってきた露出させてなくても鎧を盛り上げる存在感が生半可ではないルガディン雄っぱいの破壊力。

 

「少し考え事をな」

「道中のアンについてか?」

 

 男衆が俺の目の前に立つので素敵な光景が雄臭くなってしまった。まあガン見していたと思われるよりはマシだ。いや、思われてもいいから見ていたい……笑顔を浮かべるモモディさんを幻視したので赤魔くんの話に乗っておくことにした。

 

「ああ、良いペースだと思ってな」

 

 湖までの道中に見た動きは、俺が指摘したことを実践してみた結果だろう。スキルが足りていないからレベルカンスト最適回しをする詩人のようにぴょんぴょんくるくるはしていないのだが、今までの一射入魂する立ち回りではなく、集中力を極限まで素早く高める事を前提にした動きが出来ていた。

 リアル基準で考えると相当な集中力が必要になるはずなのだが、見事道中は維持したまま目的地までたどり着いたのだった。

 とはいえそれが正解かと言われれば、首をかしげざるを得ないだろう。なぜならその動きがパーティに合わなければ意味がないのだから。

 

「ありゃハイペースすぎじゃねえか。オッサンからしたら温いのかもしれねえけどさ」

「……いや、ミミや俺の負担を考えると、取れる手段の一つとして持っておくのは良いと思った」

「俺から詩人ちゃんに説明した責任があるから相談には乗る。最終的にはパーティ全体で相談してみてくれ。……とりあえず腹減ったし飯にしないか?」

 

 難民のおっちゃんから聞いた情報のおかげで薬草を規定量集めるのに時間はかからず、水かけっこをするくらいには余裕があった。このあと赤魔くんの戦闘指南もあるし軽く空腹を満たしたかったのだが女性陣は携帯食料がお気に召さない様子だ。

 ここで登場するのは丹精込めて作った『ジャムメルジャーキー』。こいつの匂いを嗅いで堕ちないミコッテはいねえぜ、喰らいな!

 

 そうして多めに持っていたジャーキーを投げ渡したのだが全員に好評なようでよかった。俺の手料理を食べたことがあるのはいつも肉調達の時に物々交換をしているオッサンどもを除けば片手で足りる程度だ。

 自分で料理を作るようになって振るまう時に初めて気づいたが、美味しいって言われると普通に感謝されるより嬉しかったりする。かと言ってその辺のボンクラ酒飲みどもに振るまうつもりはない、酒場の飲み仲間なんぞは質より量だろうし、安いツマミでも食ってろ。

 

 腹が満たされたところで俺は赤魔くんの方へ向き直りレイピアとクリスタルを抜き放った。

 

「赤魔くん、そろそろ教導係らしいこともしようかと思う……剣を抜いてくれ」

「――へへっ、そうこなくっちゃあ、嘘だぜ」

 

 詩人ちゃんから頼まれた事ではあったが、彼女に限らずみんな仲間思いで、俺が個人的に手を貸したくなるほどに良いパーティメンバーを持ったな赤魔くん――というかイケメンだな君。ナイトくんもあれ心意気イケメンだよ多分。ギャルっぽい感じの白魔ちゃんもギャップ萌えだし、詩人ちゃんは天然系姫ちゃんだし……美男美女のパーティ……ソロでも悲しくないし、好きでソロやってるんです。

 

 そんなどうでもいい事を思考した瞬間、赤魔くんの後ろにある岩場の影から魔物の殺気を感じ、最速で攻撃できるように『ジョルラ』の詠唱を始める。

 

「ダネスっ!!」

 

 現れたのはヘッジモール系の魔物、"ガトリングス"――詩人ちゃんはパーティの中でいち早く気づき弓を番え、放つのは『フットグレイズ』。

 いい判断だ、これでタンクの足止めは必要ない。

 

「50だな――赤魔くん、よーく見とけよ」

 

 手配書が出るほどの魔物、リスキーモブと呼ばれる奴らだ。群れの中で特殊な個体が生まれたとか理由は色々だが、この世界においてはそいつらを狙って賞金稼ぎがいるレベルの魔物である。

 

(攻撃さえ受けなければ、ちょっと硬い程度の雑魚だわな)

 

 赤魔くんに見て覚えてもらうためにも基本的なスキル回しを見せる――『ジョルラ』『ヴァルサンダー』『アクセラレーション』『アドル』『ヴァルファイア』『ヴァルエアロ』『フレッシュ』『コントルシクスト』『ヴァルストーン』『ヴァルサンダー』――で、内在マナの高まりを感じない、つまり、Proc切れである。

 

(ゲームでのあるあるを本当の意味で身を持って体感するのがProc切れって……)

 

 ゲームでも苦しめられたProcだが、リアル基準でもしっかりと存在した。赤魔法を使うたびに身体の内に溜まるのを感じるブラックマナとホワイトマナ。それらとは別にゲーム的には50パーセントの確率によってコンボが発生するのだが、リアル基準だとコンボが発生していない場合はマナが揺らぐ感覚がなく使えない魔法があるのだ。赤魔道士の命題ともいえるProc運だが、せめて開幕の回しくらいは運に左右されない回しをしたいものなのだが……そんな事を考えながらカバーする回しを始める――『迅速魔』『ヴァルエアロ』『コル・ア・コル』『デプラスマン』『ヴァルストーン』『ヴァルサンダー』『エンボルデン』『インパクト』『ヴァルサンダー』『マナフィケーション』『コル・ア・コル』『エンリポスト』『エンツヴェルクハウ』『エンルドゥブルマン』『デプラスマン』――コンボを放ち切り、内在マナの調和が取れた瞬間、それは放たれる。

 

「『ヴァルフレア』」

 

 赤魔道士にとって最大にして最強の一撃――今回は黒魔法由来の『ヴァルフレア』を放ったが白魔法由来の『ヴァルホーリー』も存在している。ちなみに俺は『ヴァルフレア』の方が好きである。放った後の爆風が癖になるのだ。

 

「赤魔道士の基本的なスキル回しだが――赤魔くんはちょい回し方変わるかな」

「ははっ……オッサン、名前負けなんてしてねーじゃねーか」

 

 興奮した様子の赤魔くんは、爆風による熱を浴びながら魔物がいたはずの場所を見つめ、拳を胸の前で強く握りしめていた。

 

 

 願わくば俺と同じように、ダネスもこの熱を気に入ってくれていると嬉しい――いつかお前が放つ魔法なんだからな。

 

 

 




旧世代のスキル回しです。
そのうちスコーチは使います。多分。
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