素晴らしきエオルゼアライフ   作:トンベリ

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9:大迷宮バハムート:イキリディザスター編(主人公視点2)

 アリゼーから直接シャーレアンへ招待されてから忙しなく準備を進めて数日、俺は小型の船に揺られていた。

 甲板の柵へ寄りかかり潮の匂いを堪能しながらまだ見ぬ地であるシャーレアンを思えば、来るところまで来たのだなと感慨にふける。

 

(色んな地域に顔を出したりはしたが、大体が"見知らぬが見知った土地"だった)

 

 ゲームの基本となる地域――FFXIVでマップとして登場していたエオルゼア各地――に足を運ぶことはあれど、ゲームでは名前だけ出てきた場所や、名前すら出てこない地域なんかにはあまり行った事がない。

 単純に未知に対する恐怖もあったが、まずは知っているはずの場所の事を知るために、本当の意味で見知らぬ土地を避けていた側面が大きい。

 俺がメインの活動場所としている砂の都ウルダハに始まり、海の都リムサ・ロミンサと森の都グリダニアはゲームプレイヤーからは三国と呼ばれなじみ深い場所だ。

 ストーリーにおいて主人公であるヒカセンはこの三国を中心とした各種問題に立ち向かっていくので、FFXIVの始まりと言って差し支えない。

 

 しかして俺は自キャラへ憑依するという意味が分からない未曾有の事態に陥っている。いや、もしかしたら俺以外にもそんな体験をして同じ世界に存在しているヒカセンがいる可能性は否めないわけだが、今のところそれらしき形跡はない。

 文献から歴史を読み解いても『原作を知っているが故の優位性から立ち回った結果』という痕跡はなさそうで、暗躍していたとしても今のエオルゼアには何ら影響がなかったのだからいないのと同じだ。

 もし"同郷"がいたなら、某ファーストフードのバーガーは何が好きか、くらいの話はしてみたい――閑話休題、結局のところ、先の認識に続き、俺が認識できていないのだから現状までは存在しないと結論付けて探すようなこともしていない。

 

 そうなってくると、まずは"見知らぬが見知った土地"である三国をはじめ、拡張ディスクにて追加された山の都イシュガルドや、おもっきし日本をベースとしたひんがしの国と牧歌的なドマ、帝国に支配されてしまったアラミゴなど、知っておきたい地域での探索を優先した結果、未知の地域にまでは足が伸びていなかったのだ。

 

(シャーレアンか……知っている事と言えば、超でけぇらしい図書館がある事と、ヒカセンが所属する暁の血盟をバックアップするバルデシオン委員会っていう存在。あとは星詠みとか占星術とかそういうのが発祥した地で、民主制をとってて哲学者議会ってのがいわゆる国会――他にもストーリーに出てきた知識を断片的に知ってるくらいだ)

 

 俺としてはこれだけ憶えていれば上出来である。バトルコンテンツに直結しているならまだしも、メインストーリー以外の話は会話をクリック連打して飛ばす事の方が多かった。

 

 今にして思えば、とてつもなく勿体なかったことをしたものであると後悔の念が先に立つ。

 こんなにも魅力で溢れているエオルゼアを知ろうとしなかったなんて――そんな思いはあれど、俺だけは、聞いて、感じて、考えることができる。ヒカセン各位には悪いが進行形で十二分に堪能させてもらっている。

 

「ちょっと、ディ? 黄昏ちゃってどうしたのよ」

「ん……シャーレアンの事を考えててなあ」

「面倒くさがっていた割には興味あるんじゃない……まっ、私としてはそっちの方が都合がいいけど」

 

 そう、こんな感じで気さくに話しかけながらも、俺と同じように柵へ寄りかかるアリゼーを見れるのは俺だけなのだ。すまんな、ヒカセンたちよ。

 

「それにしても、準備に数日かかった割に、あなた自身の準備なんて殆どなかったじゃない」

「いつでも出かけられるようにはしてるからな」

 

 アリゼーの言う通り、遠出するとなっても、ちょっとした買い物をすれば事足りる程度の備えはしている。それこそ道中で消耗品の類を買えば問題ない程度には。

 出立まで時間がかかった理由は……俺も気づかないうち、しがらみってのにひっかかってたらしい。

 

「ディ、あなたがスラム街の相談役だなんて知らなかったわ」

「んな役職ねえよ、ありゃランデベルト……パールレーンの奴らが勝手に言ってるだけだ」

「ふうん……? その割にはわざわざ遠出する事を伝えてたし、何なら随分と慕われてたし」

「気が合った奴らと飯を食ったことがある。そんで、アイツらが勝手に感謝してるだけ」

 

 ウルダハのスラム街にも知り合いがいる。いつもみたいに数日ふらっといなくなるだけならいいが、今回は移動と合わせて何週間か不在にする可能性もあるし、挨拶して回った知り合いの一つ。そんな説明をアリゼーにしても、訝し気に吊り上がった目元は戻らなかった。

 

「サファイアアベニュー国際市場じゃ、商人に結構なお金を渡していたじゃない。あれ、スラム街の住人に便宜を図るようにってことじゃないの」

「……スラムのやつらが取りに来る商品の代金を先払いしたんだ」

「そ、じゃあやっぱり目にかけてるってことね、相談役さん」

「うごごごご……!」

 

 このお嬢様は随分と口も立つようになった。

 

 確かに俺の事をそんな風に呼んでくる奴らもいる。俺を便利に使おうってんなら出来る限りの事はしてやってもいいと考えていた……のだが、そもそもスラム街の奴らは与えた以上に恩を返そうとしやがるのだ。

 もちろんあいつらだって無い袖は振れない、特に金や物資なんてあいつら自身が必要としているのだ。ならどうするか。

 

 気付けば、俺の手元にスラム街で手に入る情報が入ってくるような、そんな情報網が構築されてやがった。

 スラム街の全部が全部ってわけじゃない、あそこにも派閥はあるし、お上に逆らえるような身分じゃない。だからこそ、その情報の大体はスラム街ですら嫌悪されるような悪だくみや、吐き気を催す極悪人、カタギが絡むような事件、そんな情報を教えてくれるのだ。

 それら以外に表に出せない物品やら流れ者やらの情報など、他の派閥に不審に思われない程度に収集しているようだ。

 

「大体、代金の先払いって……スラムの住人がする物盗りのお目こぼしの為でしょ。私だって気づかないほど世間知らずじゃ――なくなったわよ。ほとんどが食品とか果物を売っているお店だったし、それって食い詰めた人たちのため、ってことじゃない」

「……どうだろうなあ」

「まっ、いいけどね。お人よし」

 

 アリゼーが言っていることは正しい。特にガキどもはすばしっこく棚下のしなびた果実なんかをよく盗んでいる。商人側も分かってて売れ残ってしまった商品を棚下に置いているし、ガキどもも売れないであろう物を盗んでいる、報復されにくいって意味でな。

 それでも犯罪は犯罪、下手を打てば腕の一本くらいはへし折られるか、酷けりゃ奴隷商にでも売られるだろう。

 

 元々積極的に助けようとしていたわけじゃない、だけどそれも数年続けば、しがらみってのは出来ちまう。スラム街の奴らだって俺が表立っては関わろうとしているわけじゃない事に気づいているから、そうそう会う事もないのだが、だが……縁ってのは、そう簡単にはなくならないらしい。

 

 普段なら会いに行くようなことはしないんだ。今回、わざわざ会いに行ったのは、これから大変になることが分かっていたから。

 原作が開始したという事は、今まで以上にウルダハは騒がしくなっていくだろう。

 だから一つの区切りとして、ちゃんと挨拶くらいはって思ったんだ。もしかしたら、もう二度と会えないやつだっているだろう。

 それら全部を救うなんて、俺がウルダハの実権を握る砂蠍衆にでもならなければ無理だから。そんな風に自分を慰めるための方便で、言い訳で、逃げなのだから――感謝なんてされるものじゃない。

 

「それに、随分と美人の知り合いも出来ていたようだし? 手紙にはそんな事書いてなかったけれども?」

「そりゃここ最近の話だからな、アンもそう言っていただろうに」

「最近ねえ……氏族名抜きで呼ぶくらいには親しいみたいですけど?」

 

 挨拶回りでアン達のパーティに出会った時、アンとアリゼーはお互いを値踏みするかのような視線を送り合っており、それを見たダネスやウィールドは「あーあ」とでも言いたげで、ミミはにゃふにゃふと楽し気だった。

 

「船の待合室でも説明した通りだよ。ちっとばかし教導役を仰せつかって知ってる技を教えた程度だ」

「じゃあ、妹弟子ってことね」

「そう、なるのか? うん?」

「そうよ!」

 

 アリゼーのふんすと息を鳴らすドヤ顔がまぶしい。

 そうなるとウィールド含めダネスもミミも弟子になっちまうが。

 

「ダネスには写本も渡したし、実際んとこ弟弟子だわな。赤魔道士がこれだけいるってのも中々珍しい」

「あの時一緒にいたヒューランの彼ね。今度手ほどきしてあげようかしら……というか」

 

 アリゼーは言葉を区切りこちらを一瞥した。訝し気なその目は俺と出会ったころ、後ろをついて回っていた時の目だ。

 

「高度なレンジャー技能に、失伝したはずの魔道士の術、加えて、あり得ないレベルの回復魔法、極めつけは大剣による防御技術――ほんとに規格外よね、あなたは」

「お嬢様にそう言ってもらえるとは光栄だな」

 

 俺は肩をすくめてアリゼーから視線を逸らす。今更その話を蒸し返されるとは思っていなかった。

 それはアリゼーと共に駆け回った日々の出来事。マジで自重せずに"ヒカセン"としての能力を使っていた時期の話だ。

 

「あの出来事以来、ディは赤魔道士としてしか活動していないようだけれど、やろうと思えばどの道だって先導できるほどの領域よね」

「急にどうした、今までそんな事気にしていなかっただろうに」

 

 昔にアリゼーがシャーレアンに帰り手紙でやり取りするようになっても俺の戦闘能力についての話はしなかった。純粋に赤魔道士として成長するための指導めいたことはやっているが、

 

「ん……」

 

 神妙な顔をしつつも俺からは目を背けず、どこか遠い場所を見つめているような、そんな彼女は振り返って船の柵へと背を預ける。

 すると一陣の風が吹き抜けてアリゼーの後ろ髪をかき上げ、俺の顔を叩きつけていく。

 

「あなたに――」

 

「っ……すまん、なんて言った?」

「あなたは随分と、変わっていないようで変わったわよね、って言ったのよ」

 

 アリゼーは手をこちらに向けてひらひらと振る。

 

「そりゃアリゼーとあの場所にいた頃に比べたらな。俺も色々あったってわけよ」

 

 バハムートをぶっ倒した時の事は今でも鮮明に思い出せる。彼女もその時の事を思い出しているからこその表情なのだろう。

 

「出会いはまあ、私も若かったわ。でもディは輪をかけて若かったわね」

「あーあー、その話は言わない約束だろ……俺だって色々反省してんだ、マジでさ……つーか、歳の話もやめろよな」

 

 俺は柵に背を預けるアリゼーとは逆で、柵へ寄りかかり彼女には顔が見えないように思いを馳せる。

 あの出来事――俺がこのエオルゼアで生きると決めた切っ掛け、大迷宮バハムートの攻略は、思い出したくない黒歴史であり、誇らしい思い出であり、忘れられない記憶なのだ。

 

 もう一度同じことをやれと言われても無理だろう。それだけ色んな想いが重なって生まれた奇跡のような出来事だったのだ。

 

 俺と、アリゼーと、ルイゾワと、バハムート。その四つの魂だけが記憶した、第七霊災の最期。アリゼーは俺の背を見て、俺はまだ臨めぬシャーレアンを見やり前を向き、その記憶を思い起こす。

 

 

 

 




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