SAObr - System Artificial Operation by reincarnation -   作:くく

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08.黒の隣 - 3

 

 

 

『……なぁ、逃げ出さないか』

『……どこから』

『周囲から、親から……この世界から』

『……死にたいの?』

『……どうなんだろう。……そもそも俺って』

 

 "生きて、いるのかな"

 

 ぼんやりと、重い瞼を上げる。どうやらたった数分だけだけど、寝てしまっていたらしい。

 懐かしい、夢を見た気がする。

 

「こんなことになるなら、それも素敵だったかもしれないわね」

 

 誰もいない部屋に零した独り言は、どこにも届かなかった。

 

 "うそつき"

 

 目の笑わぬ彼が、眉を下げて笑う。

 ええ、そうね。

 肯定の言葉を胸の中で告げて、深い記憶の奥底にまた沈めるように瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――サチが、姿を消した、らしい。

 らしい、というのは、実際それを俺は黒猫団の人から聞いたわけではないからだ。

 

 そうなることを知っていた俺は、そろそろだろうと夜になると自分の借りている宿屋で、フレンドリストに登録された彼女を毎日のようにマッピングしていた。別にストーカーのつもりはない。黒猫団に加入していない故に、自分の方まで連絡は来ないだろうことからの行動だった。

 迷宮区へと向かう数個の点を横目で追いながら、一つだけ違う方向へと向かう点に意識を向ける。きっと、これがキリトだろう。

 少しだけ、心配していたので、彼がちゃんとサチを捜し出してくれそうな展開に思わず安堵の息が漏れる。

 

 この世界は俺の知っている物語でありながら、そうではないのではないかと疑問を抱いたのは、キリトと情報を共有した時だ。

 確かに大まかな流れや、犠牲となったプレイヤーは間違いなく自分の知っている物語通りだ。しかし、やはり詳細が違うものが何個かあった。

 特に、それが顕著に感じられたのは人の"感情"で、キリトがあの時語った、アスナへの感情は俺の全く知らない物だった。

 

 嬉しさ、楽しさ、苦しさ、そして、孤独に、嫉妬。そんなのが一気に混ざったような瞳と、微かに感情が抜け落ちたような声色。あまりに印象が強過ぎて、今も鮮明に思い出せる。

 まるで、大切にしていた宝物を誰かに取られてしまったような。

 まるで、そこに自分の存在価値を見出していたような。

 

 それは、酷く不安定だと感じさせられた。

 ――彼は元々このような人間だっただろうか。

 

 始まりも終わりも、わからない。ただそんな事実があったとだけ彼に聞かされた時のもどかしさ。

 それと同時にふつふつと湧いてきた、一つの可能性。

 それは、自分が何かしたわけでなくても未来が変わっているのではないかという可能性。

 

 知りたいと言う気持ちが湧いて出てくる。

 今まではそれを抑えていたが、そうならば、触れてもいいのではないかという期待が日々募っていく。どこかで、大筋の未来を知っているのだから、対応も出来るし何より、自分が何もしなくても未来が変わってきているなら、俺が関与して変えるのと変わらないだろうという思いが大きく育っていた。

 だからこそ、もしキリトがサチの元へ駆けつけないと言う展開があれば、そこに自分がすり替わってやろうと考えたのだ。まあ、そんなことは無かったのだが。

 

 目の前にあるホロ・ウインドウの画面を操作して自分の装備を変えていく。

 最後にマップを見れば、黒猫団のメンバーも、サチも、キリトももう追跡不能な状態だった。それを気にすることなく宿屋を後にして、転移門へと向かう。

 

 サチのことはキリトに任せられるだろう。

 確かに、彼は少しだけ俺の知っている彼と違って人との関係の距離感に偏りがあるように見えるが、根が良い奴なのは変わらない。

 ならば、自分がすることはただ一つだけだ。

 

 

 

 

「最近付き合い悪いよな、アルス」

「ん?そうか?」

 

 二〇二三年六月十五日。

 俺は、数日振りに月夜の黒猫団と一緒にダンジョンに訪れていた。

 隣を歩くケイタが若干不満げにそう声をかけてくるのに対して、俺は多分きょとんとしたような顔を向けているだろう。

 

 正直言えば、自覚はあった。

 別に避けていたわけではない。ただ自分がやるべきだと思っていたことをひたすらに行っていた。でもそれは、彼らには言えない内容でもある。故にすっ呆けたような様子を装いながら言及された時用に考えてた答えを口にする。

 

「ちょっと受けてたクエストが溜まっちゃってさ。消化にあちこちの層に行ってたんだよ」

「えっ……一人で?」

「ん?ああ、一人でだけど……」

 

 ケイタに答えたはずの言葉を近くにいたサチが拾い、何故か酷く驚いた表情を浮かべながらこちらを見ていた。なんでそんな顔をされているのかわからず、少し狼狽える。

 サチは、あの失踪以前に比べたら少しだけ雰囲気が和らいだ。きっと、キリトのおかげだろうことは容易に想像できる。どうやら、盾剣士への転向もキリトの言葉もあって一度見送りになったらしい。両手に抱える長槍が、なんだかんだ、彼女に一番合っているような気がした。

 

 

 

 

 

「おー……みっけ。はい、≪看破≫っと」

 

 第二十七層 迷宮区。あれから毎晩、日中も時間が許す限り、俺は第二十七層の迷宮区に籠っていた。

 もう攻略されている層故に、特に新しい宝箱などもなく、ひたすらにまだ起動していないトラップを看破し、対処していくだけの作業を始めてそろそろ一ヶ月が経とうとしている。

 何故こんなことをしているかと言うと、ここが彼らの壊滅した原因となる場所だから、の一言に尽きるだろう。一体どこのトラップに掛かってしまったかはわからないが、ならば先にそのトラップを看破してしまえばそのトラップは再度発動しなくなるのではないかという考えの元の行動だった。実際、一度看破したトラップが復活するのは早くても一週間ほどかかることがわかった。俺はそれを元に頻繁にここに訪れてはトラップを解除し、その時に備えている、というわけだ。

 

 明日、どうやら彼らは目標の金額を突破したことから、プレイヤーホームを買うらしい。というのは、昨日キリトからメッセージがあった。是非とも買った際には立ち寄って欲しいと黒猫団のみんなが言っているという言葉も付け加えてあり、明日、彼らの元へ赴くと返事をしたのは今日の朝方だった。

 迷宮区内であり、そもそも滞在している層が違うために新しいメッセージは飛んでは来ないが、昨日来たメールを確認するようにウインドウを開く。指を滑らせていけば、メールは遡り、それこそ一ヶ月前ぐらいから来ていた彼のメールにたどり着いた。

 

 "サチが夜眠れないみたいなんだ"

 "それで、夜は俺のところに来てるから暫く一緒のレベリングは出来そうにない"

 "君は死なないって言ってやるとやっと眠れるらしいんだよ"

 "なぁ、アルス"

 "このゲームは、なんて残酷なんだろうな"

 

「……そうだな」

 

 ウインドウを消して、時間を確認する。

 もう少し、回ることは出来そうだ。迷宮区の奥へ、奥へと目指すように歩き出す。

 

 ――俺が守ってみせる。だから、だからその時は。

 

 

 初めて物語へ関与することを決めたその一歩は、酷く重かったことを、今でもよく覚えている。

 

 

 

 




黒の隣にはいないんですけど、タイトルが思いつかなかったので許してください。
場面がコロコロ変わって読みにくくてすみません。時間経過が激しい話だなと実感してます。
月夜の黒猫団編は残すところあと三話になりそうです。よろしくお願いします。

また、迷宮区トラップを看破した後に復活する設定はオリジナルで設定しました。捏造です。
ご了承ください。
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