SAObr - System Artificial Operation by reincarnation -   作:くく

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残酷描写が入ります。閲覧ご注意ください。


09.第二十七層 迷宮区

 

 

 

 厳密に言えば、俺はとっくの間に物語に関与していた。

 でもそれは、記憶を思い出す前のことだ。

 思い出して、こうして関わっていくのは初めてだから、初めてで良いだろう。

 

 人を救おうと決意した、第一歩だ。

 

 俺はひっそりと目標があった。

 彼らとちゃんと第二十七層でのコル稼ぎから帰還出来たその時、その時こそ俺は。

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくる。転移!はじまりの街」

 

 目標額の達したギルドの資金を手に、リーダーであるケイタはホームを買うために仲介プレイヤーの元へ向かうために一人はじまりの街へと向かうのを、俺たちは見送った。うずうずとした気持ちを堪えきれないと言わんばかりにササマル、ダッカーが声を上げる。メンバー皆の表情は明るく、この先の未来に希望を持っていると言わんばかりのものだった。

 二〇二三年六月二十二日。今日は、原作上では月夜の黒猫団の壊滅した日となる。

 しかし、そうはさせない。そんな確固たる思いが俺の中にはあった。

 

「なぁ、ケイタが家を買ってる間にさ、少し稼ごうよ」

「あっ、家具を買うの?」

 

 テツオの提案に笑みを浮かべながらサチが賛同する。

 続いて他のメンバーも賛同し、一人がいつもより上の層に行こうと提案した。

 

「いつもの狩場でいいんじゃないか?」

 

 ぽつりと、そう提案するキリトの言葉は彼らには届かない。そして、ギルドに所属しているわけじゃない俺の声も届かないだろう。だから、提案も虚しく却下されるキリトの背中をそっと叩いてやる。

 大丈夫、そう告げるように。

 

 

「言ったろ~!俺達なら余裕だって!」

「もう少しで最前線にも行けるかもな!」

「あったぼ~よ!」

 

 第二十七層迷宮区での狩りは、それはスムーズに進んだ。そもそも大分皆のレベルも上がり、レベル自体ではほぼ安全地帯であるのだ。彼らの言う通り、最前線に加わるのもきっと時間の問題であろう。

 俺は彼らにバレない様に何度か≪看破≫を発動させる。先日自分が看破し、解除したはずのトラップが復活してないかの確認だ。ほぼ全てが復活していないのを確認して、少し安心する。

 キリトは、ここがトラップ多発地帯である迷宮区だと知っているからこそ、あまりに穏やかな狩りとなったことに少し驚いているようだった。そのネタ明かしは今はしていない。言ってしまえば、ここに狩りに来ることを事前に知っていたとバレてしまうから。

 

 でも、この狩りから無事に帰れたら、俺はキリトにこのことを告げようと思っていた。

 未来は変わるのだから、言えると思ったのだ。

 流石にラスボスの正体は言えないかなあ、と考える。この段階で言うのはリスクが高い。言える内容も選択しないといけない。でも、それを考えるのは、楽しいと思えた。

 そして、彼らにも言おうと思ったのだ。この狩りが終わって、ケイタのところに、皆で買ったホームのところに戻れたら。

 

「お!こんなところに隠し扉じゃね!?」

 

 俺を、月夜の黒猫団に入れて欲しい、って。

 

 

 

 入るのは止めようと、俺とキリトとサチは言った。

 俺達なら大丈夫だから行ってみようと、ササマルとダッカーとテツオは言った。

 多数決なら同数。でも、ならばと彼らは三人だけで行くと言ってしまった。

 

 嫌な予感がした。

 だって、可笑しいのだ。

 昨日までは、こんな扉、()()()()()()()

 

 言えばよかった。俺は昨日までここに籠って片っ端からトラップを看破していたのだと。

 その時に、こんな扉は無かった。だから、何があるかわからないから危険だと、言えばよかった。

 

 でも言えなかった。

 あの夜、キリトに俺は忠告した。

 共にいたいと思うならレベルは明かすべきだ、と。

 

 そう言った俺が、彼らに言えなかった。

 

 

 何もかも、間違えてたのは、俺だった。

 

 

 

 ――ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 けたたましいアラームが鳴り響く。俺達が入った扉と、突然現れた二つの扉から怒涛のようにモンスターが押し寄せてくる。

 溢れんばかりの量。今までのトラップで出てきた数の数倍はいるんじゃないかと思ってしまう数だ。

 

 なんで、どうして。

 そんな感情が真っ先に思い浮かぶ。ここは第二十七層。最前線より三つ下ではあるが、みんなで力を合わせれば突破できないものではなかったはずだ。でも、これは、無理だ。

 数が、多すぎる。

 

 咄嗟に左手を伸ばす。その先にいたダッカーがキリトの声に反応して転移結晶を手に叫ぶ。俺は目を見開いた。駄目だ、と口だけが動く。やめろ、やめてくれと希う。

 左手を振り切るようにしてその勢いを狩りて彼の元へと飛び出す、間に合え、合ってくれ――!

 

 悲痛な叫びと共に、目の前で砕ける音が聞こえた。

 

 あ、あぁ、と声にならない音が口から洩れる。

 咄嗟に、放ったソードスキルは彼を囲んでいたモンスターを倒すことは出来た、なのに、彼は。

 

「アルスッッ!!」

 

 ダッカーがいない。目の前で砕けた。

 見たことがある光景。最悪で、望んでいなかった結末。

 立ち尽くす自分を呼ぶ声が聞こえた気がするが、反応は出来なかった。背中をドンッと突くような痺れが来て、前のめりに膝をつく。Mobが、俺を攻撃する。

 攻撃は、ちっとも俺のHPを削らなかった。重ねられれば話は変わるが、これが俺の罪の正体だと言われているような気がして。

 

「うわぁあっっ!!」

 

 許せなかった。

 

 

 がむしゃらに叫ぶ。持っている細剣を突く、振る、払う。感情のままに動かし、Mobを屠っていく。それでもまだ減らない。終わらない。

 視界の端で、テツオが攻撃を受けそうになるのが見えた。ソードスキルの硬直時間のせいで動きが鈍るも、叫びそこへ食い込むように走り出す。左下から右上にかけて払うように細剣を振る。突進に合わせたその剣撃はMobに当たり、間一髪で仕留めることが出来た。

 目元が熱い。視界が赤いエフェクトが弾けている。何なのかはわからない。いや、わかろうとしない。

 

 若干のラグが自分に訪れたのは、その時だった。身体が思うように動かず、反応が一拍遅れる。攻撃がこちらに向かっているのがわかったが、この程度の攻撃なら俺は死なない、一度食らってから体制を整えて、また攻撃を。そう、思っていた視界にその攻撃を阻止しようとメイスを振りかぶるテツオの姿が目に入った。

 

「やめろ、テツオ、だめだ、やめ――ッ!!」

 

 Mobの攻撃が、自分からテツオへとシフトチェンジし、ゴーレム型のそいつの腕はそのまま払うようにしてテツオの腹部へと当たった。HPゲージが消える。

 四散する。伸ばした左手が宙を掻く。

 

 

 その背後で、ソードスキルを発動させて突進するササマルの声が聞こえた。

 こんなところで、ソードスキルを使ってしまったら、硬直時間の間に袋叩きに遭ってしまう。そう、冷静な自分が叫ぶ。勢いよく身体を反転させ、それを阻止させようと動くより先に、ササマルの身体もまた、ポリゴン片となって砕け散るのが視界に入った。

 

「あ、あ、あ……」

 

 

 もう、一歩も動けなかった。

 

 だから、視界の横でサチ、と叫ぶキリトとMobに切り裂かれ、口を僅かに動かし、最期にこちらを見て少しだけ眉を下げて笑い砕け散るサチの姿を、ただ、見ているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 心が、壊れていくのを感じた。

 

 何が前世だ、何が知識があるだ。

 全て意味なんてなかった。全て役に立たない驕りでしかなかった。

 助けられると思っていた。レベルだって、対策だって申し分なかったはずだった。俺の力で、俺の力だけで、助けられると思っていたんだ。

 

 必死に武器の持たぬ左手を彷徨わせるように宙で動かす。目の前で四散していった彼らのことを思い浮かべる。間に合わなかった、助けられなかった。その思いばかりが募って、募って、それでも涙は出ない。どこかで心が空っぽになってしまったようで、そこにあるのは、どうしようもない空虚。どこかで、原作通りなのだから仕方ないと自分を正当化しようとする甘えた心があることに気付いて、驚愕と、絶望が俺を彩っていく。

 そこに膝をついてしまってどれぐらいの時間が経っただろう。同じように膝をつき、絶望していたキリトがよろよろと起き上がるのが視界の端に写る。

 

「キリ……ト……?」

「……ケイタに、報告しないとな」

 

 見上げて見た彼の表情は、全てが抜け落ちたような表情をしていて、それがさらに俺の心を抉った。

 

 

『ビーターのお前に、嘘つきのお前らに、僕たちに関わる資格なんて無かったんだ!』

 

 落下していくかつての友へ必死に手を伸ばす彼と、落ちて四散していったポリゴン片を視界に入れながらも、俺は一歩も動くことは出来なかった。

 ――俺のせいだ。

 それだけが、胸を支配する。キリトのせいじゃない。俺だ。全て知っておきながら、それに驕って現実をきちんと見ていなかった俺が、全て悪かったのだ。

 

 左手を上げる。何度かその手を行き先が見つからないというように彷徨わせた後、塀に掴まり下を見つめ歯を食いしばる彼へと伸ばそうとする。声が、上手く出なかった。掠れた声で、たった三文字の言葉を絞り出せば、よろりと彼が振り返る。

 

「……アルスだけのせいじゃないさ。俺が……レベルを隠してさえいなければ」

「……」

「それに、アルスは言ってくれてただろ」

「それは……」

「本当に、共にいたいと思うならレベルは明かすべきだ、って……ごめん、言ってくれてたのに」

「違う。俺だって、言えなかったから」

 

 堂々巡りな応酬だ。お互いに、自分自身が許せない。だからと言って、お前のせいだと責任を押し付けることも出来ない。彼はそういう奴だ。そして、俺も。

 じっと底の無い下に視線を戻して見つめている彼の、服を摘むようにして掴む。わかっているはずなのに、このまま彼が追うようにしていなくなったらという不安が、止まらなかった。徐々に靄が掛かったままなのに思考が鮮明になっていくような、そんな矛盾が俺を支配する。

 

「……悪い。暫く、一人にさせてくれないか」

「……キリト……」

「落ち着いたら、連絡する。……だから」

 

 伏し目がちだった視線が、俺の方と向き合い視線が絡む。暗い澱みを携えた瞳が写る。何故か、それは反射している筈の俺にもあるように見えた。

 

「アルスは、死なないでくれ」

 

 どくん、と。心臓が鳴るような感覚がした。

 ナーヴギアから同期されるのは呼吸と心音だという。別にこの音が止まったところで実際のリアルの心音が止まらない限りは死なないのだが、その架空であるはずの心臓が大きく音を鳴り立てたような感覚。

 思わず、頷けず俯いてしまう。死ぬつもりはなかったけれど、そう、感じさせてしまうほど、彼だって辛いはずなのに、そんな彼に心配されてしまうほど、俺が追い詰められているような表情をしていたことがただ、今は辛かった。

 

「……キリトも、死なないでくれ」

 

 やっと、返せた言葉はそれだけで。ああ、と力のない返事と共に彼が踵を返していなくなるのが音だけでわかる。

 今、自ら命を断ったところで、何の贖罪にもならないことが、お互いにわかっている。だから、今は死なないのだ、死ねないのだ。

 

 "このゲームは、なんて残酷なんだろうな"

 

「……く、ぅ……っ……ぁ、ああ……」

 

 流れない涙が悲しい。嗚咽だけが漏れて、その場に崩れ落ちる。

 心の中で、頭の中で、ひたすらに謝る。ごめん、ごめんと。三文字の言葉しか知らないと言わんばかりに何度も、何度も。

 

 ごめん、みんな。

 ごめん、キリト。

 

 ごめん、ごめん。

 ――俺で、ごめん。

 

 

 

 

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