SAObr - System Artificial Operation by reincarnation -   作:くく

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15.第五十層 迷宮区 - 1

 

 

 

 

 連携が未だに出来ない俺に、この層――第五十層――のボス戦に参加して欲しいと言った黒衣の剣士は、非常に申し訳なさそうな表情を浮かべたまま、その理由を続けた。

 

『前に攻略組の士気が下がってるという話をしただろ。明日のボス戦を前に、ボス戦辞退を申し出たプレイヤーが何人かいて、参戦人数が不十分なんだ。

 それで、そもそもボス戦自体一度見送って、レベル上げとかして人数を確保するって話も上がったんだけど……参加するプレイヤーが辞退したプレイヤーに対して怒っちゃって。……ボス戦の見送りは断固反対、明日絶対に決行するべきだって主張しちゃってさ。色々会議した結果、明日は予定通り決行するってなったんだけど、戦力的に不安で。

 ……なんとなく、嫌な予感がしてさ。確かにアルスはまだ連携とかが出来ないけど、強さは間違いない。問題点の部分は俺がカバーするから……お願いできないか?』

 

 そもそもあまり口数が多い奴では無かったとは思う。そんな彼が途中言葉を挟む暇など与えず述べた言葉には、思わず顔を顰めてしまった。あまりに、酷い内容だったからだ。

 攻略組と呼ばれる最前線で戦うプレイヤーは幾つかのギルドに属している者が多い。多い、というよりも属さずにソロとして活動しているのはキリトぐらいと言っても良いぐらいだ。だからこそ、この攻略組の辞退者と参加者は、別ギルド同士であろうということは容易に想像できた。元々ギルド間で出来てしまっている溝に加えて、そのようなことが起きてしまったことによって、さらに溝は深く抉られてしまった。だからこそ、あんなギルドの奴らがいなくても、俺たちだけで、という思いが募り、人数不足よりもプライドがこの討伐戦を半ば強引に続行に持ち込んだのだろう。

 キリトにはそれを止めるだけの力は無い。見送った方がいい、と言ってもビーターのくせにと弾かれてしまう。きっと、普段ならまだ耳は傾けられたのかもしれないが、もう余所なんて当てにできないと思ってしまっているだろう連中には、ただただ火に油を注ぐだけだ。

 

「……えっと、ほら、あの血盟騎士団?の副団長さんは?」

「え、あ、アスナか?アスナは見送った方が良いって言ったんだけど……団長であるヒースクリフがそのまま決行していいだろうって」

「え、その会議に団長さんもいたのか?」

 

 もしこの状態を改善させるなら、第三者のギルドがまとめるのが一番だろう。そして、俺の予想ではそれは血盟騎士団が一番適任だと思えた。だからこそ、普段会議に参加し、指揮を執っているという副団長であるアスナの名前を出したのだが、告げられた名前は予想もしてない人物の名前だった。

 ――ヒースクリフ。

 原作を知っている俺は、彼が何者かを知っている。しかし、それを言うのは憚られた。現時点でそれを認めさせる根拠が無いし、何故知っているのかと聞かれたら、答えられないからだ。

 だから今はその正体の情報を頭の隅においやって、彼がそのまま決行を促した理由を考える。しかし、特にメリットも感じない。決行しても勝てるという確信があるから?いや、ただのフロアじゃない。ここは第五十層だ。そんな中途半端な準備で簡単に通用するわけがない。

 疑問がどんどん募っていくが、無理矢理その思考を途絶えさせて目の前の問題に着目することにした。要は、明日のボス戦の決行は決定事項で、俺にそれの参加をお願いしたいという話だ。理由は先ほどキリトが言った通り。そして、今彼は俺の答えを待っている。

 

「……俺で良ければ、参加するよ」

「……アルス」

「でも、……自信はないかな」

「俺がカバーする。だから、……勝とうぜ」

 

 多分、不安が顔に出ていたのだろう。参加すると答えたというのに、キリトは安堵より先にこちらを心配するような表情を浮かべた。だから、素直に自信が無いことを告げつつ、キリトの言葉に頷いて差し出された拳に自分の拳を合わせるようにコツン、と当てる。

 

 ここまで来てしまったら、あとはやるだけだ。

 

 

 

 

「おー!キリトに……アルス!久しぶりだなぁ、元気してたか?」

「ああ、クラインか。元気だよ」

 

 翌日。定刻時間から約十分ほど早く集合場所として指定されたボスの部屋の前に訪れれば、そこにいたバンダナの男――クラインが俺とキリトに気付き、手を上げ声をかけてくる。近くにいた風林火山のメンバーは特に気にした様子も無く、ギルドメンバー同士で会話を続けており、彼の傍らにはそのギルドメンバーとはまた違った褐色の肌が特徴的な大柄な男が立っていた。

 

「クライン。知り合いか?」

「おう。アルスっつーんだ。キリトのダチだよ」

「おお……お前があのアルスか」

「えっと……はい。俺がアルスですけど」

 

 あの、ってなんですかね。という疑問を口にする前にこちらを向いた大男は親指で軽く己を指し、俺が知らないわけないだろう名前を名乗る。

 

「俺はエギルだ。キリトから話は聞いてるぜ。まぁ、あまり気張り過ぎずにな、頑張ろうぜ」

「……エギル、な。よろしく」

 

 次いで差し出された手をそっと握り返しては、三人が会話を始める姿を一瞥する。

 前世の記憶を思い出してから、初めて出逢ったサーシャに始まり、サチ、キリト、クライン、アルゴ、アスナ――アスナは見かけただけだが――とみんな全てに当てはまるのだが、前世の俺はこの原作『ソードアート・オンライン』が好きで、原作が好きということは勿論登場人物も好きというわけで、会う度に言葉に出来ない感動を覚えていたりする。なので、彼、エギルに対してもやはり凄い感動を感じてしまうわけで……。

 

「……ん?どうかしたか?」

「……」

「アルス?おーい」

「……んぇ、あ、いや」

 

 一瞥したつもりだったが気付いたらガン見していた俺の視線を、黒い指あき手袋をはめた手が遮る。やっと我に返った俺をエギルを始めとしたクライン、キリトまでもが不思議そうに見ていて、思わず顔に熱が篭りそうになるのを必死に抑えながら首を横に振った。

 言えるわけがない。キリト、クライン、エギルという三人の組み合わせが目の前で実現されたという感動にフリーズしてたなんて。キリトと行動を共にするようになって、やはり見知った人物を視界に入れることが増えはしたが、それでもこの三人が集まり会話している、という現状は俺にとっても酷く感動的なものであった。胸にこみ上げてくる興奮は、誰にも共感しては貰えないだろうが、ファン特有のものなのだろう。今回ばかりは、自分と同じような立場の人間が他にもいてくれれば、と思わざる得なかった。

 初めは不思議そうにしていた三人だったが、気にしないでくれと繰り返し答えることでなんとか納得してもらい、改めて会話し始める三人の会話を右耳から左耳に流しつつ、時間が流れていくのを待つ。ちらりと周囲を見た渡してみると、見たことある気がする人もいれば、全然わからない人もいる。しかしこれら全員が攻略組のプレイヤーなのだろうということは容易にわかる程度には、皆それなりのレベルを持っていることがわかった。

 

 ――俺、本当に必要だったかなぁ……。

 

 確かに、レイドバトルにしては人数はやや足りない気がするが、それでもこれだけの精鋭がいるのであれば問題ないような気がしてくる。ただでさえ俺は連携が出来ない状態なのだから、出来ることなんてヘイト稼ぎか迷惑にならないよう心掛けつつ攻撃してHPを削るぐらいしかないだろう。あとは誰かを庇ったりとか?いやでも、俺は盾無し細剣使いなので、タンクにはなれない。()()を使うわけにもいかないだろうし……。段々自分の肩身の狭さを実感してきて思わず身を竦めそうになるも、その前に聞こえてきたキリトの声によってその動作は不実行で終わった。

 

「アルス、いいか?」

「ん?今度はなんだよ」

「もう一人紹介したい奴がいてさ……」

「初めまして」

「おう。……お、おおう?」

 

 キリトの背後から出てきたのは、白に赤のラインの入った騎士服を着こなし、栗色の髪の毛を靡かせた、つい先日物陰から観察した彼女――アスナだった。

 

「血盟騎士団副団長を務めます、アスナです。今日はこのフロアボス討伐戦に参加してくれてありがとう」

「えっと、アルスです。連携とかはあまり期待しないでもらえると有り難い、です」

 

 コミュ障か俺は。と言いたくなるぐらい言葉がつっかかりそうになるのを必死に耐えながら、こちらも名乗る。

 思えば、俺は彼女のことを知っているが、彼女は俺のことを知らないわけで。だからこそこの凄い他人行儀な態度に違和感を感じそうになるが、当然なのだ。つられるように敬語で返した俺の言葉遣いに何故かクラインが楽しそうに吹き出す姿がアスナの向こう側から見えるも、現状、それを止めることは出来ない。あの野郎、覚えていろよ、と内心で毒づきつつ目の前の彼女の方を改めて見遣る。

 

「貴方の事情はキリトくんから聞いているわ。一応私と団長、血盟騎士団の幹部の人にも伝えてはあるけれど……無理はしないこと、これは守ってもらうわ」

「ああ。俺もまだ命は惜しいから……そこは気を付けさせてもらうよ」

「そう……。ならいいです。……それと」

「ん?」

「……貴方、大晦日にその……キリトくんの隣にいたわよね。まさか彼の連れだったとは思わず、あの時は気付かず挨拶もしなくて……ごめんなさい」

 

 少しバツが悪そうに眉を下げて謝る彼女の姿を見て、ただ俺は呆然とした。

 謝られると思っていなかった、とかではない。あの時、彼女は俺の存在にある意味気付き、しかも覚えていたということに驚いた。

 アスナがキリトに話しかけたと気付いた瞬間、自分の存在に気付いて無いのを確認してから、自然を装いそそくさにその場を去ったため、きっと彼女にとって俺というのは通行人Aぐらいのプレイヤーにしか見えなかったはずだ。しかし、そんな俺のことを彼女は覚えていたのだ。その上、意図して他人のフリをした俺に彼女は謝罪をしている。

 俺は思わず、ふは、と吐き出すように笑ってしまった。

 

「え、」

「別にいいよ。俺も結構面白いもの見れたし」

「……はっ、な!?」

「ん?」

「面白いものって……!」

「別に俺、あの時先に帰ったわけじゃないよ」

 

 どういう意味か、徐々に理解した彼女の頬が軽く赤く色づいていくのを見るのが面白いと感じる。多分、彼女はキリトにだけ話しかけた自分を見て、俺が気を遣って先に帰ったと思ったのだろう。しかし実際は面白がって物陰から観察していたわけで。まさか、と目を見開く彼女に二人のやり取りを遠くから見て楽しんでいたことを遠回しに伝えれば、その動揺は一気に表に出る。言葉が上手く出ないように口をはくはくさせているのを見つつ、白々しい笑みを返してみる。

 動揺し過ぎの彼女と、にっこりと笑ったまま何も言わない俺。その状態が数十秒続いた後、やっと俺とアスナのやり取りが微かにおかしいと気付いたのか、キリトがこちらの方を見て首を傾げて会話に割り込んできた。

 

「アスナ?アルス?どうかしたか?」

「ああ、キリト。いや実は――」

「何でもありません。全く!」

「えっ、あっハイ」

「とにかく!今日はよろしくお願いします。失礼します!」

 

 ギロリと何故かキリトを睨んだ後足早にいなくなるアスナの背中を眺めつつ、どうしてあんなに怒っているかわからないキリトは戸惑いを表に出したまま、そっと俺の方を見た。しかし、俺はそれに対して首を傾げるという仕草で返す。きっと何とも言えない消化不良のもやもやを抱える羽目となっただろう彼には申し訳ないが、俺はこの一連は彼に言うつもりは無かった。

 本当は二人のことを揶揄するつもりはなかった。だからキリトにはあの時物陰から見ていたことは一切言っていないし、あの時にアルゴに会ったことも言っていない。だから二人は俺どころか、アルゴにまであの逢瀬がばれていることを知らないのだ。

 知らないままでいいと思ったし、今日だって、彼女にこのことを示唆するつもりは無かった。笑いを吹き出した瞬間見せた、彼女の表情を見るまでは。

 

「……まさかなぁ」

 

 ぽつりと呟いた独り言は、幸いにも誰の耳にも届かなかったらしい。

 

 

 

「それでは、第五十層フロアボスの討伐作戦を開始します」

 

 定刻。ボスのいる部屋の扉の前で血盟騎士団副団長であるアスナの凛々しい声が響く。

 ここに集まっているプレイヤーの数は俺を合わせて丁度三十人。このソードアート・オンラインでは一パーティー六人の八パーティーによる四十八人でのレイド戦が可能だ。それを見ると、確かに人数が少ないような印象を受ける。

 特に、その中でも気になるのは苛立ちが微かに雰囲気に混ざっている約五名のプレイヤー。どこのギルドかまでは今更確認する気はないが、きっと彼らがキリトが言っていた今日ボス戦を決行することを主張した人たちなのだろう。

 レベル的にも最低ラインである攻略層プラス十のレベルを何とか超えているといったところだろう。苛立ちに任せて戦闘時に突っ走らないといいが……。まぁ、それを管理し、指示するのは上の役目だ。俺はアスナの告げる作戦を耳に入れながら、最後の確認のようにアイテムストレージを開き、その中を確認していく。

 

 ある意味初めてのフロアボス戦だ。どれぐらい強いのかも検討もつかない。備えあれば憂いなしだろうと貯めこんでいた回復アイテムの数たちを数えながら、下へ下へとストレージをスクロールする。

 ふと、ストレージの一番下にあるアイコンが目に入った。

 

 ――お前を、使うことはないだろうけども。

 

 普段なら、そう考えて見ないまま終わらせてしまうだろう。しかし、何があるかはわからないし、すぐ手に届くところにあった方が自分としても安心かもしれない、と思い立つ。

 そっとそれをセットして、素早くホロ・ウインドウを閉じた。

 

「行くぞ、アルス。頼んだぜ」

「そっちこそ」

 

 ギギ、と重い音を立てながら扉が開かれて行く。

 

「……キリト」

「ん?」

()()()()には、気を付けろよ」

「……え?」

 

 ――戦闘開始。

 

 

 

 

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