SAObr - System Artificial Operation by reincarnation - 作:くく
第五十層フロアボス撃破話。 切りどころが悪くて長いです。
世界に、色がある。
目を開けた時、まず最初に思い浮かんだのはそれだった。
ハッとするほど鮮やかで、思わず反射的に目を細めた。
――眩しい。
目が眩むような感覚。それは今までに味わったことのない、不思議な感覚だ。
手探りでそれを自分のものにしようと恐る恐る瞼を開いていく。
「スイッチ!」
やっと目が目の前の光景に馴染んできた瞬間、聞こえてきた声に反射的に視線がそちらを向く。
あれからそこまで時間は経過していなかったようで、かの巨大な敵である第五十層のフロアボスは未だ顕現しており、そのHPゲージは残り一段の約半分を残していた。
それに対し、キリト達のHPは大分削れた痕があり、何とかPOTローテを成立させているようだが皆六割から七割ぐらいまでしか回復は出来ていないようだった。
見るからに苦戦しているのが、わかる。スイッチで交代し突っ込んでいったクラインの攻撃が虚しく弾かれ、微々たる量しかダメージを与えられていない光景が目に入る。
いつの間にか、地面に膝をついていた身体を立ち上がらせた。
――行こう。
それが俺の、元は二人で、でも今は完全に一人である"俺自身"の選択だった。
腰にある細剣の柄を握る。これでは大した攻撃は与えられないかもしれないが、それでも俺の頭の中には立ち向かうという選択肢しか浮かばなかった。
もう、怖いと言う感情に支配され、身体が動かなくなることは無かった。
攻撃を弾かれたクラインは、カウンターのように繰り出される拳から逃れるように右へとステップを踏み回避する。そしてその隙を狙うようにキリトが突撃した。地面へと響く拳の脇をすり抜けて、その片手剣を肘関節部分を狙うように振り下ろした。
じり、と僅かにだが敵のHPゲージが抉れる。ソードスキルも発動していない攻撃ではその程度しか与えられないだろう。キリトが次の敵からの攻撃に備える。反対の拳から繰り出される攻撃を軽くいなすようにして受け止めつつ、声を響かせる。
「スイッチ!」
その声にアスナが反応しようと足を踏み出そうとした。その瞬間、それよりも速くそこへ駆け出していた俺が、その役目を担う。担う、というよりもは奪ったが、正しいが。
キリトやアスナ、クライン達がみんなして目を見開くのが、何となく雰囲気で伝わる。が、俺は躊躇い無く敵の懐に身体を滑り込ませ、急所部分になるだろう合金の関節部分を狙う。繰り出したのは片手用細剣技 『フラッシング・ペネトレイター』。技通りの貫通までは狙えなかったが、約半分ほど残っていた敵のHPゲージの一割弱ほどをどうにか削り、軽いノックバックを与えることに成功する。
軽い硬直時間をくらいながら、じっと俺はフロアボスを見つめる。敵が動くのが先か、俺が動けるようになるのが先か――。という、駆け引きを行っていればかなり大きな声が近くでしたのと同時に、両脇の下に腕が回り引っ張られる感覚を覚えた。「おわっ!?」と思わず声を出しつつ、どんどんボスの姿が遠くなるのに気付き、そしてそこでやっと俺がクラインとキリトに両側を掴まれ引きずられるような形で後退させられたことを理解した。
「あ、あの、もうちょっと優しく引っ張ってくれても……」
「何言ってんだ!あんな無茶してよォ!」
「全くだ。敵がノックバックしてくれたから良かったものの、あんな誰もスイッチに入れないぐらいまで懐に突っ込んで……」
「……いや、……まぁ、すみません……」
両脇を掴まれていることで何となく足先が地についてない気がして、気まずさを覚えながら掴む二人に声を掛ければ逆に小言を貰う。緊張感あるボス戦である筈なのに、何だか気が抜けそうになるのを堪えつつ、心の籠っていない謝罪を口にしておく。やっとある程度の距離が稼げたのか二人に離してもらえば、アスナとエギルがこちらに寄って来るのが見えた。
「アルスさん!大丈夫?」
「ったく、無茶するんじゃないぜ。流石にひやっとしたぞ」
二人に対しても謝罪を述べては、改めて心配そうにこちらを見ているキリトと向き合う。
彼が言いたいことは何となくわかっていた。だからこそ、多くは語らずしっかりと頷くことで応える。
「俺も、戦うよ」
正直、ソードスキルなんてものを迂闊に使ってしまえば逆に命取りになり得るような戦いだ。
重撃としてカウント出来るのはエギルと辛うじてキリトのみ。クラインの得物ではやや威力に欠けてしまう。スイッチも上手く使いながら、どうにかヘイトを分散させることで隙を作り、攻撃するという形を繰り返す。
俺は、最初の戦略の時と同じようにスイッチには基本的には加担せず、攻撃を繰り返すことで狙いを分散させていた。それは、戦えるようになったが、それまで連携を取れなかった俺が攻撃リズムを崩す可能性を考慮した俺自身の提案であった。
「なに笑ってんですか」
そうは言っても、このボスの前で、先ほどよりも少ない人数で戦っている状態で一人で行動は危険ではある。故に、俺は絶対的な盾とも言えるユニークスキル『神聖剣』を扱うヒースクリフと組むような形で攻防を続けていた。それは、キリトが俺の提案に渋った末にヒースクリフの方から妥協案として提案されたことだった。
流石に回復した方が良いだろう、と判断した俺は特に声もかけずにささっとヒースクリフの後ろに隠れようと後退する。マナー的には最悪ではあるが、彼に対してそのような声かけをするのが何となく癪でもうその行為を何回も行っていた。
敵の強撃を食らいながらも涼しい顔をしたままの彼を後ろから見ていれば、その口元が弧を描いているのに気付き、思わずそう声をかける。
「いや、君がこうしてボス攻略に参加する姿を見ているとつい、ね」
「……すみませんね。五十層近くサボっちゃって」
「構わないさ。その分、面白いものも見れた」
「……まぁ、これからは参加しますよ。やっと折り返しですし」
HPゲージがフルまで回復するのを視界端で確認しては、彼の横を滑り出るように足を踏み出す。
「貴方が決めた勇者を、来たる時まで生かさないとでしょ?」
口元が七文字の言葉を付け足すのを最後まで聞き遂げた彼は、ふ、と軽く息を吐くようにして笑った。
「君の活躍に期待しているよ。アルスくん」
それからどれぐらいの時間が経ったのか。
じりじりと削るには削れていく敵のHPゲージも残すところ一割ほどとなっていた。
HPゲージは何とか皆七割ほどをキープしているが、それよりも精神的な疲労が表に出ている。息も心なしが乱れ、攻撃に微かにキレが失われつつある。これ以上の長期戦はきついだろうというのは皆が気付いていた。
スイッチの掛け声と共に、キリトが前に出る。少し離れたところで俺も敵と対峙し、微々たる意味しかなさないだろう攻撃を繰り出す。他のメンバーは回復のために少しだけ下がっていた。
誰もが、気を張り詰めつつも、限界が近かった。
「っあ!」
声と地面に何かが響く音がしたのはその時だった。
「キリトくん!」とアスナの声が聞こえそちらを見れば、敵の攻撃を防ぎきれずに武器が弾かれてしまったキリトの姿が目に入る。すぐさまステップを踏んで後退しようとするも、間に合わず敵の追撃を食らってしまう。一気にゲージが削れ、ゲージの色が黄色に染まったのがわかった。
しかも、更に追撃をするようにキリトの方へもう一つの腕からなされる拳が振りかぶられる。誰もがやばいと駆け出す。しかし、このままでは間に合わないことも誰もがわかっていた。
反射的に駆け出していた俺も、心の中に微かな絶望が生まれる。守ると決めたのに、生かすと言ったばかりなのに、こんなところで失ってしまうのか。まだ、彼の本当の物語は始まりきっていないと言うのに――!
――いや、違う。まだだ。まだ、方法はある。
さっきみたいに『フラッシング・ペネトレイター』を使うか?いや、硬直時間が生まれさらなる追撃が来た時に対応出来ない。隙を作るなら、もっと確実な、それこそパリィを狙わないといけない。
なら、方法は。
頭で成功率やら最適な行動やらを考えるよりも先に、俺の右腕は手に持っていた細剣を躊躇い無くそこへ投げ付けた。
『アルスって細剣使いなのにAGI型じゃなくてSTR重視だよな』
勢いよく投げ付けられた細剣がキリトへ振り下ろされようとした腕にぶつかる。持ち前のSTRが効いた投擲は、それなりの衝撃を与えられたようで攻撃のタイミングに微かに遅れを作る。俺は、そんなのを確認するよりも早く、走りながらも投げたことで空いた右手を動かし、慣れたようにメニューのとあるアイコンをタップする。
完了まで残り五秒。
――五。
AGI型であるアスナが誰よりも先にキリトの元へと駆け付けて、その身体をキリトの前へと滑り込ませる。
――四。
細い剣を盾にするようにして攻撃に立ち向かう彼女の名前を彼が叫ぶ。
――三。
背中に重みを感じさせるような馴染み深い感触を覚える。
――二。
合金の腕が二人の元へ振り下ろされる。
――一。
間に合え。
ガキィィインッ!!と大きな音と共に、視界一面に星が散る。
金属と金属が擦り合い、その摩擦で生まれた火花のようなエフェクトが舞う中、タイミングをどうにか間に合わせることが出来たのか、敵はパリィを食らったことによるノックバックを発生させていた。
「アル……ス?」
背後から、聞き慣れた少年の声がする。
ちらりと、視線だけを後ろにやる。彼の視線は俺を含めた俺の手に持っているものを映している。
俺は、言葉を返さずに手にある本来の自分のメインウェポン――
決めるならば、ここしかないだろう。
「六撃目」
「は……」
「頼んだよ」
彼の問いたい内容を遮るように、それだけ伝えて俺はボスの元へ駆け出す。
敵は、あの大技である六連撃を仕掛けようとするモーションに入っている。上体を軽く捻るような構えから五連撃の後にもう一撃を広範囲で繰り出すあの大技を。
あの攻撃の最大の特徴は六連撃ではあるが、五連撃の後にタイミングよくもう一つの大技を繋げている構成となっている。そして、その五連撃はパリィのタイミングが非常に難しいのに対して、その六連撃目は広範囲の強力な攻撃な代わりにモーションに微かな隙が目立つのだ。
ちらりとHPゲージを確認すれば、残りは七割程だった。武器防御を持っているが、耐えきれるかは運次第と言ったところか。しかし、恐れは無かった。
キリトに、この意図が伝わっていることだけを祈りながら繰り出された一撃をいなすように軌道をずらすように防ぐ。じり、とそれでも与えられる衝撃によってHPが削れる。二撃目、三撃目、四撃目と同じように防ぐ。HPは残り三割ほど。バーは黄色に染まり、微かに赤みを差してきた。
遠くからキリトではないだろう俺の名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。しかし、俺はやめない。鎌の刃の側面に沿わせるようにして五撃目を受け流す。バーが赤く染まる。
そして、待ちに待っていた六撃目のモーションをボスが取る。タイミングを間違えて攻撃をもろに食らえば俺は間違いなく死ぬ。でも、俺の口元は笑っていた。
薙ぐような攻撃を繰り出す直前、微かに生まれたその瞬間を狙うように俺はソードスキルを発動させた。
攻撃が敵の攻撃とぶつかり合い、相手側が弾かれる。
最後のチャンスだろうその瞬間、俺は今まで生きてきた中で、一番の声を叫ぶ。
「キリトッッ!!」
彼は、全てを理解してくれていたように、攻撃を弾いた俺の横を駆け抜けていく。
「「スイッチ!!」」
お互いの声が、大きくこの部屋に響き渡った。
一面がまるで星屑のようなポリゴン片でいっぱいになり、空中に大きく「Congratulation!」と表示される。
それは、勝利の証だ。
中々実感を掴めなかったのか、暫くそこは静寂に包まれ、そしてクラインの声を始まりにその歓声は部屋を埋め尽くした。
戦意喪失してたくせに、なに我が物のように喜んでんだ。って言いそうになったが、水を差すだけだし何より、彼らだって戦いたい気持ちはあったからこの部屋に残っていたのだ。責めるべきは彼らではないだろう。
視界端で自分のHPを見れば、何とか数ドッドだけ残っていた。
最後の攻撃を弾いた際に受けたダメージがこれ以上だったらアウトだったなあ、と思いながら、喜びラストアタックを決めたキリトを囲うアスナ、クライン、エギル達を少し離れたところで見届ける。
重たいために持ち歩かない武器をストレージにしまっては、投げてしまっていた細剣を回収しようと一歩踏み出したところで。
「アルス!?」
俺の意識は無くなった。
プレイヤーを運ぶのは≪担架≫が必要だ。
だからこんなところで倒れてしまったらやばいだろうなぁ、と思っていたような気がする。
気がする、というのは、その思考が倒れた瞬間俺が思ったことなのか、それとも倒れた後に見た覚えのない夢の中で思ったことなのか、俺にはわからないからだ。
でも、これだけははっきりしている。目覚めた今、俺がいるところはあのフロアボスの部屋ではないということだ。
「……えー……っと……」
「あっ、起きた?」
視線だけを彷徨わせるも、全然現状を掴めなかった俺は、声を漏らした。
すると、その声に反応した声が聞こえこちらに近づいてくる。肯定の言葉を返しながら上半身を起こせば、その声の主があの血盟騎士団副団長であるアスナだということに気付き、身体が硬直した。
「……えっと……?」
さっきと同じ言葉が口から滑り出てくる。何で彼女がここにいるのか、というより何で自分の面倒を彼女が見ていたのか。HPはいつの間にかフルまで回復している。その上ここは圏内だろう。
よくよく見ればここが自分の取っていた宿屋の部屋であることに気付く。そして、己のパーティーにキリトの他にアスナ、クライン、エギルが追加されていることにも気付いた。大体予想はつくが、多分宿屋の部屋の出入りを可能にするためにパーティーを組んだのだろう。……と、いうことは、だ。
「お!起きたか!」
「いきなり倒れたから心配したぜ」
「アルス!大丈夫なのか?」
「……大丈夫だけど、現状理解が出来なくて大丈夫じゃない」
ある意味予想通り、男三人が部屋に入ってきたところで俺はこの状態になった経緯が想像できず、素直に混乱を訴えた。
話を聞けば。
どうやら俺が倒れたあと、治癒結晶で回復はしたものの、全然目を覚まさないことから相談した結果、転移結晶で圏内へ戻り、そこから≪担架≫でここまで運び寝かされていたらしい。
転移門のアクティベートは血盟騎士団団長であるヒースクリフの元行ってもらい、キリト達は皆何故か俺を優先してくれたらしく、目が覚めるまでこうして待ってくれていたようだ。因みに俺の細剣は回収してくれていた。
ある程度現状を理解できたおかげで冷静さを取り戻してきた俺を確認したキリトは、心配げな表情をそのままに俺に問いかけてくる。
「何で倒れたかとか心当たりあるか?」
「んー……多分、普通に疲れたからだと思う。流石にあの状況は精神的に疲労がやばかったから……」
実際、何で倒れたかという決定的な理由は無い。けれど、多分これはただの疲労だろうと自分の中で確信していた。ソロ状態で戦っていた後、彼らは知らないけれど俺は俺自身との葛藤の末、あの戦いに参戦したのだ。その上、この正式サービスから使っているところをこの武器を作ってくれた奴以外には見せたことない、俺の本当の相棒である武器を使っての戦いにそれなりに、いやかなり緊張したのだ。しかもあんな生きるか死ぬかの瀬戸際で。
キリトも俺の言葉に納得したように特に言及はせず、ただ無理はするなと言葉を付け足すだけで終わる。しかし、その瞳は何かを問いかけようとするも、出来ないでいる迷いを滲ませていた。
何か、言ってやった方が良いだろうか、という感情になる。キリト、と声をかけようと口を開こうとするも、それを遮るようにクラインの声が響く。
「てかよ!アルス、お前あの武器なんだ!?大鎌って、そもそもこのソードアート・オンラインにあんな武器あるのかよ!?」
「……えっと、あれは一応両手斧の分類に入るんだよ。両手斧だと斬撃特化なんだけど、鎌は一応打撃も対応もしてるんだ。……ただ、重いし癖が強いから、あんまり使ってる人は見ないかもしれない」
「へぇー……因みによ?お前普段は細剣使ってっけど、その両手斧のスキルはどれぐらいなんだ?」
「クライン、そりゃマナー違反の分類だろ」
「気にしなくていいよ。……ただ、そうだな……実のところ、細剣よりも熟練度は高かったりする」
「おわっ、マジかよ……つか、なら何で細剣使ってたんだ?」
「……新しい武器を使ってみたかったってのと……そっちの方が何かと都合が良かったからかな」
「都合?」
「いや、なんでもないよ」
クラインの質問に、時々その質問内容を咎めるエギルを制しながら答えていく。
キリトは俺の言葉を聞けば聞くほど眉間に皺を寄せているし、アスナは俺が目覚めたことをどうやら団長様に報告しているのかホロ・ウインドウを開き画面を操作していた。
そして、ある程度の時間が経ち、日も暮れ始めたのを見てアスナ、クライン、エギルの三人がお暇すると立ち上がる。
「何だか心配かけちゃったみたいで、悪かったね」
「いやいや、アルスがいなかったら突破出来たかも危ういぐらいだ」
「そうだな。お礼を言うのはこっちの方だ」
「今日は取り敢えずゆっくり休んで、落ち着いたらまた攻略に協力してくれたら有り難いわ。今日はありがとう」
お互いに礼を言い合い、別れを告げる。
話を聞けば、エギルはこの第五十層に店を構えるから攻略戦に参加する回数も減るかもしれないとのことだったし、クラインももうちょっとギルド全員のレベリングすると言っていたし、次の層への攻略開始にはもう少し時間があるだろう。
その間に心も身体を休めて、次の攻略にも参加できるようにしよう。
……その前に。
部屋の中で一人、未だに迷いを浮かばせている黒の少年と向き合う。
「キリト」
「……アルス。一つ、聞いてもいいかい?」
「……ああ。俺も、キリトに話したいことがあるから」
「……アルス、君は」
少しだけ眉を下げて、でも、懐かしさを隠せないと言ったような表情を浮かべた彼は問いかける。
「"Light"、なのか?」
メイン武器→大鎌(両手斧)
サブ武器→細剣
でした。ソロでレベリングしていた時は基本的に両手斧の方を使っていたので熟練度は両手斧の方が上です。
因みに戦闘前に何かをセットした描写がありましたがこの大鎌をクイックチェンジにセットしたという設定です。