仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~ 作:名もなきA・弐
今回はレジェンド登場はなく、プロジェクト東京ドールズのストーリーが進みます。後、最初に言っておきますがこの新宿編……実はとある方とのコラボ前日談となるストーリーになっています。
それでは、どうぞ。
キバの力の継承、サクラのデビューライブが成功したことで汚染された地域の浄化も無事完了。
女子寮でライブ成功によるパーティーを開催し、椋や颯太も交えての交流会はチームとしての繋がりを強くなり、達成と充実感に満たされた。
その翌日のことだった。
「先日のライブ、ご苦労だった……しかし、終わった直後で悪いが調査員たちによる『新宿』捜索の結果が届いた」
新宿……?
ドールハウス所長の班目からの言葉に聞き慣れない名前に椋が小首を傾げる。
名称から何かの地名らしきことは分かるのだが、それが何を意味しているのかは分からない。
……けど、それを考えようとすると『まるでそれに関することが切り取られている』ような妙な不安と違和感を覚える。
その態度に気づいたミサキが疑問符を浮かべている彼に説明を始める。
「かつて東京の心臓部だったという都市……しかし、それを覚えている者は誰もいません」
「ピグマリオンが生まれた地。私たちは、そう聞いています」
「なるほど。この世界に来た時に妙な感覚があったのはそれか」
ミサキとユキに颯太が一人納得する。
彼がいた世界にも『新宿』は存在していた。しかし、椋の世界にいる人間の誰もがその街のことを知らない……いや、忘れ去られているというのが正しいだろう。
「三年前の十三時五八分。全世界から新宿の記憶が奪われた……そしてそれ以降、ピグマリオンたちが現れるようになった」
「つまり。つまりつまりつまりっ!敵さんの本拠地ってことすかっ!?」
バトルジャンキーのヤマダがここぞとばかりにテンションが上がる。
そんな目を輝かせている彼女を見て、ミサキやナナミが呆れたように溜息を吐く中班目が「そうだ」と短く肯定する。
新宿の地域は他と比較しても極端に汚染度が高く、迂闊に入り込むものなら記憶を奪われかねない。
そこで調査員らは地下トンネルを掘削ことで汚染度が低いルートを開拓、それがようやく完了したことでDOLLSの出撃が可能となったのだ。
まずは新宿に向かい、現状を調査するのが今回の任務だ。
「短時間かつ広範囲に調査するため、三つにチームを分けます」
「今までとは勝手が違うぞ。しっかりと気を引き締めろ」
『了解っ!!』
カナと班目の言葉に、全員(颯太は頷くだけだったが)が一礼した。
変身したロワが見たのは、青く染まった世界と無数に飛び交うプシュケーの群れだった。
当然、そこに人の気配がなくかつては機能していたであろう都市部のシステムは完全に停止している状態だ。
淀んだその空間は、まるで全てを拒絶しているかのよう……。
「まるで、ゴーストタウンだ……!なのに誰も、気づいてないのっ」
自分の住処だと証明するかのように汚しながら宙を飛ぶ蝶を見て、自分の知らないところで起きていた巨大な規模の惨状に怖気が走る彼を横目に、戦闘用ドレスを纏ったミサキが務めて冷静な判断を下す。
「敵の本拠地と思しき地区です。慎重に調査を進めましょう」
「すごく、嫌な気分です……」
「ふひひ、ヤベーイ感じがひしひしと伝わって来ますなぁ」
普段は表情を表に出さないユキが悲しそうな顔を見せる中、ヤマダは汚染された地域が引き起こす改竄力と改変力に呆れたような笑みを零す。
慎重に足を進めていくと、カナからの通信が入った。
『周囲に生体反応が。これは、人間……?』
「えっ?」
思いもよらぬ報告にロワが思わず声を上げた瞬間、誰かと肩がぶつかった。
そこにいたのは眼鏡をかけた男性、服装は至って普通だ。
驚くも慌てて安否を確認するが。
「あうああああああああああああああ……」
「あの、大丈夫ですかっ?」
こちらからの呼びかけには何も答えず、目の焦点が合っていないなど明らかに正常ではない。
彼だけではない。
不気味な笑い声をあげる女性や、何やらぶつぶつと独り言を繰り返す人たちがいたのだ。
「見たところ、正気を失っているようです」
ユキの分析通り、男性らの足取りは覚束ない。
しかし、まるで何かに釣られるかのように彼らは歩いており、動きを特定すべくカナが目的を補足する。
そこで異変が起こった。
『……何、これっ』
「カナさん?」
震える彼女の声にロワが首を傾げるも、ユキが彼の右腕を抱き締めた。
その表情は曇り、まるで怯えているようだ。
「ユキ、どうしたの」
「嫌、です。この感じ、ここは……嫌です」
身体を震わせる彼女を安心させようとした時、強い寒気がロワを襲う。
ミサキたちも同様の気配を感じたのか、慌てて同じ方角を向いた。
「何、あれ……!?」
そこにあったのは、巨大な『塔』だった。
かつてはこの都市のシンボルだったのだろう……二つのビルが連なるその建造物には巨大な骨がムカデのように巻き付かれており、内部から複数に生えた腕や脚や怪物の頭部が彼らに不快感を与える。
そして、その周囲をプシュケーが飛び回っていた。
『そうか。ようやく……辿り着いたのだな』
異質な存在感を放つ『塔』に、事務所内の指令室にいた班目とカナも驚愕で声を漏らす。
だが、同時に確信があった。
あれが奴らの『本拠地』なのだと……!
各員にそれを告げた班目が改めて指示を飛ばす。
『シオリたちのチームをそちらに向かわせた。警戒しつつ、前へ進め』
「分かりました」
ロワがそう返し、全員がその塔へと脚を近づけた。
「新型、と南田から聞いていたが肩透かしだな」
ロワたちのチームと合流したレクスは現れた新型……掌のような形を四足歩行のピグマリオン『スラッパー』の残骸を踏みつけて消滅させながら先に進む。
敵の本拠地なだけあり、道中には無数のピグマリオンが牙を剥くも、戦闘特化型のミサキ・ユキ・ヤマダの三名が前線にいるため取り分け苦もなく進めていた。
ナナミやレクスも迫る敵を撃破しながらもその足を止めることはない。
やがて、塔の中へと踏み込んだ時、ロワの視界に広がっていたのは『赤』だった。
「うっ!?」
「これは……!?」
何かに荒らされたように破壊された備品に、赤黒い染みが部屋中にまき散らされている。
そして、倒れている大勢の人々……。
その光景にサクラが呻き、ミサキは何も言わなかったが握り拳を固める。
「はぁ……誰得胸糞展開で反吐が出るっす」
これまでのピグマリオンとのバトルで上機嫌だったヤマダも、顔をしかめる。
ロワが「くそっ」と近くの壁を殴る。
行き場のない悲しみと怒り、この悲劇を知らずに生きてきた自分への嫌悪感が湧き上がる。
それを制したのは、ミサキだった。
「マスター。これを機会に言っておきます」
真っ直ぐと、二人の目を見た彼女は続ける。
「私たちは、ドール。奴らと戦うために存在しています。幸せな結末だけではありません、むしろ……この過酷な現実こそ私たちの戦場です」
だからこそ、この現実を少しでも減らすために彼女たちがいるのだ。
例え誰から忘れ去られた偶像だとしても、脅威を打ち倒すために存在している。
ロワだけが、背負うものではないということだ。
「サクラ。あなたも、どうか覚えておいて」
いつものように告げたミサキだが、その表情は何処か苦しんでいるようにもロワは見えた。
気まずい雰囲気になってしまうよりも早く、周囲を観察していたシオリが目を見開く。
「皆さんっ、こちらにっ!」
彼女を先頭に再び探索を開始する。
そこには。
「あーあー……うー……」
「いひゃひゃひゃひゃ」
「千歳飴美味しい美味しい」
正気を失った人々が歩いていた。
まるで巡礼者のように、何かに吸い寄せられているかのようだ。
「一体、この先に何があるのでしょう」
「行こう。みんな」
ロワがその先へと進もうとした時だ。
カナの通信が入る。
『っ、ピグマリオン反応検出!ジャミングのせいで発見が遅れましたっ!迎撃態勢、用意!!』
全員が武器を構えた瞬間、それらは群れを成して現れた。
「ピグ、マリオン……?」
現れた存在に、ユキが首を傾げる。
それは、ピグマリオンとは、何よりも異質な『存在』だった。
青白い身体を持つ人型……一見すると蝶のピグマリオンが人間の形を模しているように見えるが、ガスマスクとメーターを合体させたような頭部と、黒と灰色が混じった無機質な両脚がそれを否定している。
良く観察すれば蝶を思わせる青い身体も何処か科学的で、まるで何かの兵器を連想させる。
計測上での反応は間違いなくピグマリオン。だがその在り方は明らかに人工的で矛盾していた。
『仮面ライダー発見。排除を開始する』
「なっ、こいつ言葉をっ!?」
「こいつも新型っすかっ!?」
「軽口はそこまでよ、来るわっ!」
ヤマダとミサキの言葉に応えるように、青い異形が地面を蹴った。
距離を詰めた異形が驚いていたロワとの距離を一瞬で詰めると、いつの間にか変形させていた右腕を振り下ろす。
まるで西洋剣のように鋭く変化したその刃を辛うじて受け止める。
「ぐっ……このっ!!」
『ッ!!』
パワーと耐久力はそれほど高くないのか、鍔迫り合いをしばらくすると体勢を立て直したロワがその胴体を蹴り飛ばした。
すると、残りの異形たちも右腕をマスケット銃や斧のような刃へと変形させて襲い掛かる。
無機質な動き、躊躇も迷いも一切ない攻撃……怯みこそするもののまるで痛みを知らないかのように起き上がり、そして襲い掛かってくる。
青い異形の敵意はまるで機械のようだ。
しかし、だからこそ付け入る隙も存在する。
「ふっ!」
ミサキのフェイントを織り交ぜた斬撃が青い異形を一体消滅させる。
恐怖や痛みを感じないのは、厄介だがその攻撃の軌道は単純そのものだ。
「数が多いだけの雑魚ね、マスター指示をっ!」
「なるべく二人で組んで倒すんだっ!ミサキはヤマダのサポートを!」
ロワの指示に全員が動いた。
サクラはシオリと、ナナミはユキと、そしてミサキは指示通り敵陣に突っ込むヤマダのアシストを始める。
最初こそ動揺していたが、行動パターンを完全に把握したことで青い異形はその数を徐々に減らしていく。
「一気に片付けるぞ」
【QUIZ!!】
「うんっ!」
【WIZARD!!】
レクスもロワもライドウォッチを起動し、アーマータイムを発動。
クイズアーマーとなったレクスがジカンジャナックルによる雷を纏った打撃で怯ませ、ウィザードアーマーを装着したロワが風のエレメントを宿した斬撃を無数に浴びせる。
数を減らした群れが、一か所に集まった。
【ただいま砲撃中!】
【【FINISH TIME!】】
「問題!『アゲハ蝶の学名はパピリオニダエである?】〇か×かっ!」
「はぁぁぁぁぁ……!!」
カノンモードにしたレクスがクイズライドウォッチをスロットに装填。
ロワもウィザードライドウォッチを装填し、魔力をショットモードにした銃口に集める。
【QUIZ! JIRIJIRI CANNON!!】
【WIZARD! CHIKUTAKU SHOOTING!!】
「正解は〇だっ!!」
「はぁっ!!」
二人の放った破邪の雷と水のエレメントを纏ったエネルギー弾が、青い異形の群れを消滅させた。
敵の消滅を確認し、周囲を見渡す。
『……問題ありません。進んでください』
『あの異形のことは後で調べる。今は調査を優先しろ』
カナと班目の二人からの通信に「了解」と頷き、ロワたちは進んでいく。
人々の姿は見失ったが、足跡らしき痕跡や壊れた備品を目印にしばらく歩いていると、またしても血の臭いが強い場所へと辿り着く。
「何て光景……血のせいでむせ返りそうですっ」
「ここが一番酷いなっ。マーキングでもしてるつもりなのか奴らは?」
ナナミとレクスが顔をしかめ、最初に見た惨状とは比べ物にならない光景にサクラが顔を青くする。
全員が警戒を強める中、シオリだけは周囲に遺体に目を向けていた。
「シオリ、どうしたのっ?」
「ここにある遺体、ほとんどが何かに引っ掻かれたような痕跡があります」
「えっ?」
恐る恐る遺体に見てみると、確かに普通では見られないような傷跡がある。
そこでロワはこれまでのピグマリオンを思い出してみる。
イーターやキッカーたちは爪などない。唯一あるとすればこの新宿で出てきた手を模したスラッパーだが、あちらも爪と言うにはそれほど鋭利で巨大ではない。
では一体何が……?
「あ、あれを見てください!」
ロワを現実へと引き戻したのは、サクラの声だった。
何かを見つけた彼女は走り、そこへと向かう。
「うっ。ひっく、ひっく」
「大丈夫っ!?」
そこにいたのは、一人の少女だった。
年はまだ幼く前髪を綺麗に切り揃えたショートヘアーが似合う黒髪の子だ。
水色のワンピースを着ている彼女は、恐怖で打ち震えてしゃくりを上げて泣いている。
サクラの声に、少女は眼に涙を溜めながら口を開いた。
「ひくっ。お姉ちゃん、だれ……?」
「私はね、サクラって言うの。あなたのお名前は?」
「わたし、は『ルリ』」
泣きながらも、自分の名前を告げる。
ナナミは危険地区であるこの場所に子どもがいることに驚くが、シオリは少女が生きていることに安堵する。
ロワも生き残りがいたことに一息つくと、ルリが顔を向ける。
「よんごー?」
「えっ?」
「よんごーだっ!よんごーよんごー!!」
目を輝かせて喜び、ロワの身体に抱き着く。
聞き慣れない単語に疑問符を浮かべるサクラたちに気にすることなく、ルリは喜びを抑えきれない。
「お爺ちゃん言ってた!ルリが本当に泣いている時はよんごーが助けてくれるって。自分も助けてくれたって言ってたの!!」
「そっか……そうなんだ」
その言葉に、ロワは少しだけ笑う。
たった一人の英雄、そう思われていることに何とも言えない嬉しさと罪悪感が芽生える。
少女も周りが見え始めてきたのだろう。
ナナミとシオリの姿を見たルリの顔が喜びの色に満たされていく。
「ナナミンとシオリンだっ!ルリ、DOLLSのことが大好きっ!!よんごーも好きっ!」
「……そうですか。だったら後で、サインを書いてあげますよ」
その言葉が嬉しかったのだろう。
自然と笑みを零したナナミの優しい発言に、ルリの目が輝いた。
「だから、こんなところから早く帰りましょう?」
「あっ」
すると、彼女の表情が暗くなった。
どうしたのかと全員が思うが、震える声で口を開く。
「多分、無理だよ」
「えっ、どうして?」
「新しいパパが、外に出たらだめだって」
新しいパパ……?
少女の口から出たとは思えない単語に、ロワが疑問符を浮かべる。
そんな彼らに気にすることなくルリは続ける。
「新しいパパは、本当のママとパパを食べちゃったの。だから、ルリが動いたらパパはきっとルリのことを食べちゃう……」
「ルリちゃん。それってどういう…」
サクラが真意を訪ねようとした時だ。
『っ!ピグマリオン反応検出っ、頭上から十メートル……避難してくださいっ!!』
「全員離れてっ!!」
「ふっ!!」
カナとロワの叫びにサクラたちは反射的に下がる。
そして、レクスの放った打撃と、赤い斬撃がぶつかり火花が散ったのはほぼ同時だった。
降り立ったのは二体の異形。
その内の一体は、先ほど現れていた青い異形と同型の個体。
そして……。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!』
降り立った異形が巨大な口から嘲笑うような不快な雄叫びをあげる。
獲物を威嚇、もしくは自身が上であることを証明するように周囲を震わせるほどの叫びだ。
それは、顔のない白い異形だった。
今までの個体と比べて人型に近いが、その巨体には赤い模様が刻まれており、両腕には鋭く鮮血のような赤く鋭利な爪が四本生えている。
「パパ、やめてっ!DOLLSのみんなを食べないでっ!!」
ルリが泣きながら必死に懇願するも、「パパ」と呼ばれた白いピグマリオンは目の前にいるサクラたちに顔を向けている。
だが彼女の発言、そして突如として現れた異形に、驚愕の表情を浮かべた班目は最悪の仮説を立てた。
『まさか、少女を囮に……!?』
自然界では、光や匂いを利用して餌を取る動植物が存在している。
例を挙げるとすればチョウチンアンコウ、そしてハエトリソウなどの食虫植物がおり、このピグマリオンも少女を疑似餌や誘蛾灯として利用しているのだろう。
しかし、それは『このピグマリオンには知性がある』ということに他ならない。
彼女を食わずにいるのも、幼い子どもが餌を警戒させない弱い存在だというのを理解しているからだ。
「何だっ。あれは……!?」
しかし、レクスだけは白いピグマリオンの右肩に視線を向けていた。
赤いバルブが取り付けられた黒い機械が埋め込まれており、生物的な外見をしているピグマリオンには明らかに浮いたパーツが組み込まれているのだ。
『……仮面ライダー発見。排除する』
『~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!』
機械的な宣告と、白い異形の雄叫びが合図となった。
右腕と一体化しているマスケット銃から放たれた弾丸を回避し、跳躍したロワがジカンハカリバーで切りかかる。
しかし、それを白いピグマリオンが妨害し、逆に地面へと叩き落とされてしまう。
「ぐっ!?」
「マスター!」
ミサキが二丁の銃を乱射しながらロワの元まで走ると、ピグマリオンの追撃を振り被ったハンマーで防ぐ。
凄まじい衝撃音が発生する中、その彼女に照準を合わせた青い異形がマスケット銃を構えた。
「ヤマダを忘れてもらっちゃあ困るっすよぉっ!!」
「……!!」
ヤマダとユキの斬撃が狙撃しようとした異形を怯ませる。
そこに間髪入れずにレクスのジカンジャナックルによる一撃が炸裂する。
火花を散らし、よろめいた隙を逃すことなく二人が追撃するが、すぐさま右腕を西洋剣に変形させると、その斬撃を防いで距離を取った。
青い異形の方は対して強くはない。
だが……。
『~~~~~~~~ッ!』
問題は白いピグマリオンの方だ。
巨体とその爪から繰り出される攻撃は凄まじく、あのミサキでさえも防ぎ回避するのが精一杯だ。
だが、それ以外の攻撃手段は持っていないのか爪での攻撃しかしていない。
「それなら……!」
「援護します!」
サクラが遠距離からの狙撃に攻撃を切り替えた。
同時にシオリも銃を構え、銃弾の雨をピグマリオンに浴びせる。ダメージは受けているようだが、あの体躯では微々たる物だろう。
だが、今まで銃撃を受けていたピグマリオンが右腕を振り上げた。
【ICE STEAM……!!】
擦れたような音声が響くと同時に、右肩の機械から蒸気が噴き出して腕に纏わりついていく。
ピグマリオンが右腕を思い切り叩きつけた瞬間、地面が凍結し始めた。
「っ。これはっ!?」
「うおっ!?」
叩きつけた個所から徐々に凍結していく光景にシオリが短く悲鳴をあげる。
そしてそれは、青い異形と交戦していたヤマダの元までが凍り付き、地面に滑ってしまう。
『~~~~~~~~~ッ!』
【EREK STEAM……!!】
好機を捉えたピグマリオンが再び右肩の機械から電気が付与されている蒸気を纏うと、その右腕を振るってヤマダの華奢な身体を斬り裂こうとする。
しかし。
「「させないっ!!」」
キバアーマーを装着したロワと、ハンマーを構えたナナミがその攻撃を弾く。
そして。
【KIVA! PITTARI SLASH!!】
カウンターとしてキバの数あるフォームの一つ、ガルルフォームを再現したジカンハカリバーによる必殺の斬撃を放つと、その勢いを利用したナナミが弾丸のようなスピードで接近し白いピグマリオンの顔をハンマーで思い切り叩き込んだ。
「こいつもおまけだヒャッハーーッ!!」
そして転んでもただでは起きない女ヤマダ。
すぐさま銃を二丁取り出すと、ピグマリオンが攻撃を受けた個所を狙って狙撃する。
無論、その弾丸は寸分の狂いもなく命中するも白いピグマリオンには効果が薄い。
「……強いっ」
「何なの、こいつ……!」
今までとは違う個体、明らかに強い戦闘力、そして氷と電気の能力。
それを補佐するように動く青い異形も厄介なことこの上ない。
レクスとユキが攻撃するも、右腕を様々な武器に変形させて近距離にも遠距離にも適応するため、今いち決め手に欠ける。
『これ以上は消耗する一方だ!撤退しろっ、他のチームを待つ時間はない!』
「でもっ!」
「まだ、ルリちゃんがっ!」
『撤退しろっ!今すぐにだっ!』
通信越しに班目の声が響き、その強い口調はロワとサクラの有無を言わさない。
ロワたちは他のピグマリオンとの戦闘も行っている。
それ以前にあの二体に対する攻略法すらも掴めていないのだ。
戦略的撤退、その指示に早く動いたのはシオリだった。
サクラを抱えると、冷気を纏った爪の攻撃をバックステップで回避する。
「マスター!早く指示をっ!!」
「……くっ!退却っ、退却だっ!」
ナナミの言葉に、仮面の下で苦虫を噛み潰した表情を見せたロワはドールたちに指示を飛ばすと戦線から離脱するのだった。
ビルだった建物の屋上から観戦していたトゥエムが恍惚の表情を浮かべていた。
予想以上の成果と結果に興奮を隠せずにいるのか、可愛らしい唇から残念なほどの息を荒く吐いている。
「じゅるっ!んふっ、んふふふふふふふっ!!実験は良好っ、あのピグマリオンにスチームブレードのシステムを組み込んだ甲斐がありましたっ。そ・れ・にぃ……」
向けられた視線には、先ほどロワたちを苦戦させた青い異形に視線を向けている。
白いピグマリオンへの改造も、青い異形も全ては彼女が生み出した兵器の産物だ。
「『ビルドの世界』の北都に存在した最終兵器『デッドアナーク』を元にネビュラガスとフルボトルで再現した疑似ピグマリオン『デッドファンタズム』!そして私の目的も、もうすぐっ!!じゅるっ!じゅるるるるるるるるるんふふふふふふふふふふふっ!!!」
笑う嗤う哂う……。
ピグマリオンたちの蔓延る青い世界に、狂気に堕ちた彼女はただ笑い続けた。