仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~ 作:名もなきA・弐
光流が目を覚ましたのは、病室の白い天井だった。
何故自分がこんなところにいるのか分からない。
今の彼が知る由もないが、ファスティが新たに作り出した改良型レプリカウォッチ……通称『レプリカウォッチⅡ』は変身者を起点に世界を汚染することで異なる世界を無理やり混ぜ合わせることが可能になる。
強大な力を簡単に得られる分、変身者の精神汚染が凄まじい上にレプリカライダー共通のルールである『撃破後の歴史修正』が残っているのだ。
よって、光流の記憶には『ライブハウスで結衣を別れた後ファントム・バジリスクに襲われ、永山から小屋を畳むことを伝えられた記憶』しかない。
それは、仮面ライダーとその関係者以外も同様だ。
「光流君」
「結衣、先輩っ?」
病室にいたのは、憧れの先輩が不安そうな面持ちで座っていた。
しかし何故だろう。彼女に何故か酷く怖い想いをさせてしまったような気がする。
結衣だけではない。
同じように尊敬していた永山に対しても、自分は恐ろしいことをしようとしたような……そう思ってしまって仕方がないのだ。
「その、もう聞いているとは思うんだけど……」
「小屋を、閉めるんですよね」
「うん。彼と一緒に新しいことを始めようって」
彼というのは、永山のことだろう。
その言葉に思わずシーツを握り締めてしまうが、ふと脳裏に声が響く。
────「本当に必要だったのは、想いを伝える勇気でしょ!」────
誰の言葉だっただろう。
記憶にないはずの記憶が、ふと思い出したようにフラッシュバックする。
だけど、それは事実だ。
自分がこの想いに気づくのが遅かった……ただそれだけの話だ。
「先輩たちなら、やっていけますよ」
「えっ」
「俺、結衣先輩のことが好きでした」
過去はもう変えられない。
結果は既に決まっている。
それでも。
「だから応援しています。俺も、先輩たちに負けないような手品師になってみせます!」
この一歩が、自分の未来を変えられる。
贋作に彩られた歴史ではなく、一人の青年が自分の歴史へと戻った瞬間だった。
病室の外にいたマユが薄く微笑むと、廊下を歩いてそのまま外に出る。
「お疲れさん」
「……待ち伏せですか和崎さんっ」
言外に「趣味が悪い」と非難する彼女の鋭い視線を、目の前にいる上司はのらりくらりと躱す。
棒のキャンディーを咥えながら仕事の内容を話す。
「バジリスクの撃破後……厳密にはレプリカライダーが倒された瞬間、『それに関する記憶』だけが人々から消えた。まるで最初からなかったようにな」
「ではやはり、彼の言葉は事実だったのですね」
「そうなるな。けど、俺たちは覚えている」
和崎はマユの目を見る。
彼女もはっきりと覚えている。
あの不愛想な少年と一緒に行動していたことも、レプリカウィッチやレプリカウィザードという自分や怪盗に酷似した怪人が現れたことも。
そして、自分の力を彼に託したことも……。
「しっかし、ライドウォッチってのは魔法使いの力なんだろ?何でまた、自分の力を渡そうなんて考えたんだ」
「それは……実のところ、自分でも分からないんです」
普段の彼女らしくない曖昧な答え。
しかし、颯太の言葉はライドウォッチを渡すのに充分な理由だった。
自分の希望のために他者の希望を踏み躙る矛盾、一時はそれに苛まれた時がある。
彼の答えは、今の自分が選んだ答えと似ていたのだ。
「ただ、彼なら私の力を正しく使ってくれる。そう思ったんです」
それしか言えなかったが、和崎は納得したのだろう。
「なら良いや」と頷くと腕時計で時間を確認する。
「そろそろ昼時だし、飯にするか。一度で良いからジュエルって店に行ってみたかったんだよなー」
「では案内します。あの店は清く正しい店員さんがいるので、くれぐれも粗相をしないように」
釘を刺しつつも、絶望から人々を守る警察官は病院から背を向けて歩き出した。
薄暗いその部屋は暗黒が広がっていた。
周囲には夥しいほどの牢屋が積み重なるように存在しており、部屋の中央にだけ唯一灯りがある。
そんな部屋の中央に、奏真は立っていた。
両手にある鈍く光る無骨な手錠と右足に取り付けられた鎖付きの鉄球に気にすることなく、彼は目の前にある牢屋に顔を向ける。
『……久しいな、小僧』
視線の先にある牢屋の奥から姿を現す。
そこにいたのは……一匹の生物。
四本の脚と長い尾を持つ両翼を生やした巨体には白い装甲が覆われており、頭部と胸元には赤い宝石が埋め込まれている。
鋭い牙と爪を持つその威容は、古今東西の神話と伝承において聖なる神と邪悪なる怪物の側面を秘めた幻獣。
「また寂しくなったのか、『ドラゴン』?」
『くくっ』
かつて、奏真の絶望によって生み出されたファントム・ドラゴン。
魔力を持った人間『ゲート』が絶望に抗い、自らの精神世界たる『アンダーワールド』へ抑え込むことで奏真とマユのような魔法使いに変身する資格を得る。
牢屋に閉じ込められているにも関わらず、鎖に繋がれた奏真を見下ろすように彼は笑った。
『その名は好かん。儂には「ウィザードラゴン」という名前がある、愛実からもらった大切な名前がな』
「……本当に変わっているよ、お前」
ドラゴン……ここでは彼の意を汲んでウィザードラゴンと表記しよう。
奏真のアンダーワールドから生まれた彼は暗躍することもなく、むしろ奏真の行動を黙って見守っているだけだ。
彼ほどの魔力ならば、夢や深層心理に介入して絶望させることも可能だが行動を起こそうとしない。
何故なら、ウィザードラゴンは『龍堂奏真』という青年に興味があるからだ。
『通常、アンダーワールドは宿主の想い出や過去などの印象に残った記憶で構築される。じゃが、お主にはそれがない』
そう。奏真の精神世界は暗闇が続く無数の牢屋、誰も存在しない孤独の檻。
まるで罪人を閉じ込めるかのように、あるいは自分自身を罰するかのように奏真の心は優しい想い出が封じられているのだ。
故に、ウィザードラゴンは試した。
このまま絶望して自分を生み出すのならば「それで良し」と考え、絶望に屈することなく抑え込んだことで静観を決めた。
『しかし、何故あの小僧からライドウォッチとやらを奪わなかった?』
自身に宿るファントムからの問いに、奏真が「あー」と言い淀む。
本当は、ライドウォッチを見た瞬間にこっそり盗もうとしていたのだが、彼らの話を聞いて気が変わったのだ。
────「僕は、これ以上泣いている人を見たくないんです。悲しむ人を助ける力があるのに、それを見て見ぬふりをするなんて出来ない」────
あの女装少年……椋の言葉が不思議と入り込んできた。
同時に理解もした。
どうして自分とは違うもう一人のウィザードが彼に自身の力を託したのか、どうして彼に興味を持ったのか。
同じだったのだ。
サバトに巻き込まれたあの日、指輪の魔法使いとしてファントムを戦うことを決めた自分と。
そんな理由を言っても目の前のドラゴンに伝わるかは分からない。
それは向こうも分かったのだろう、「まぁ良い」と別の話題に切り替える。
『ネクロマンサーもワイズマンも、それぞれが動き始めておる。この混沌とした状況がどうなるのか楽しみで仕方がないわい』
「呑気で良いな、他人事だと思って」
『事実、他人事じゃからな。さて、お主はどう動く?』
「変わらないさ。いつも通り、ファントムを倒してゲートから魔力を頂戴する。全てが終わったら、質素な獄中生活をするさ」
ウィザードリングを光らせて宣言すると、ウィザードラゴンは再び笑う。
滑稽でありながら、強く惹かれる宿主の行く末を本気で見たいと思ったからだ。
『はははは!良かろう。儂もいつも通り、お主に力を貸してやる。主の希望がどんな軌跡を描くか、改めて楽しませてもらうぞっ!!』
ウィザードラゴンがそう叫んだ瞬間、奏真の意識は覚醒した。
世界が修正されたロワの世界。
DOLLS事務所ではちょっとしたとあるブームが起きていた。
「お前が引いたカードは、これだ」
「うっそ、当たってる!」
颯太の取り出したトランプのカードを見てアヤが驚く。
「手品は茶番」と最初に言っていた彼だが、一度気になったら色々と調べたくなる性分なのか練習を重ね、カードマジック程度なら出来るようになっていた。
そうなると、真似をしたくなるというのが人の性。
今は全員がお互いにマジックを見せあうような光景が広がっているのだ。
「これぐらいなら練習すれば造作もない」
「ねーねー!ヒヨにも見せて!!バシューンってなるようなカッコ良い奴」
「良いだろう。小野寺来い」
「えっ」
ヒヨのリクエストに表情はクールのままだが、完全にノリ気になった颯太の呼び出しに傍観者を決め込んでいた椋が思わず声を漏らす。
嫌な予感しかない。
こういう状態の彼は、大概碌なことをしないのがここ最近分かってきていたのだ。
「今から人体切断マジックをやる。手伝え」
「いやいやいや!?カードマジックから一気に跳ね上がっていないかな!無理無理無理無理っ!!」
「やる前から諦めるなっ!!」
「諦めるに決まっているでしょっ!えっ、嘘っ?本気でやるのっ、ちょっと待って誰か助け……ミサキもレイナもナナミも何で合掌しているのっ!?お願いだから鋸持ってくるのやめてええええええええええっっ!!!」
イレギュラーな事件が起きてもライドウォッチを手に入れても変わらない。
今日も今日とて、賑やかな光景が広がっていた。
とある小さなライブステージでは熱気に満ちていた。
そこにいる観客は殆どが若い男女であり、中には小学生の少女もいる。
彼らは赤・緑・黄・橙・紫などのペンライトを片手に今か今かと待っていた。
やがてしばらくすると、ようやく待ち望んだ時がやって来た。
「みんなーーーーー!今日は来てくれてありがとーーーーーーっ!!」
ステージから現れたのは五人の少女たち。
赤や緑などのそれぞれのイメージカラーで纏め上げた可愛らしい衣装に身を包んでおり、リーダーらしき赤い衣装の少女がマイクを通して感謝を伝える。
その声に観客たちが歓声を持って応えると、少女たちもそれに応えるように手を振る。
「それじゃ、今日も頑張りましょう!」
「歌と……!」
「ダンスと」
「笑顔で!」
「世界を満たす!」
『みんなの届け!私たちの「AVARICE」!』
メンバーやファンにとってお馴染みのフレーズを言った瞬間、スモークが噴射されると同時に最初の曲が始まった。
洗練された歌とダンスに観客たちが熱狂し、それに応えるように彼女たちのパフォーマンスにも熱が入る。
その様子を舞台裏からマネージャーらしき赤いシャツを着た黒服の青年が見ていた。
「また、儲かるなぁ」
ステージの成功に確信した笑みを浮かべながら、エスニック柄の赤いネクタイを緩める。
そして、襟に取り付けてある赤い羽根に軽く触れた。
Next Legend Rider……???
さて、次回のリマジライダーは誰かなー?
龍堂 奏真(りゅうどうソウマ) ICV福山潤
『ウィザードVSウィッチの世界』で指輪の魔法使いこと仮面ライダーウィザードに変身する青年。怪盗ウィザードとして権力を笠に着た悪党から魔法石を盗み、ゲートから魔力を魔法石として奪っている。
飄々としているが、悪は絶対に許さない正義感の持ち主。
煌羽マユ(きらばねマユ) ICV井澤美香子
『ウィザードVSウィッチの世界』で万能の魔法使いこと仮面ライダーウィッチに変身する少女。市民を絶望に陥れるファントムの殲滅とウィザードの逮捕に尽力する真面目な性格。生まれつき胸が大きく、そのことでからかわれることが多かったが普通の女子として接してくれた奏真に特別な想いを抱いている。
市民の安全を守ることを重要視しており、ウィザード逮捕よりも危険度が高いファントムの殲滅を優先するなど警察官の鑑のような人物。