仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~ 作:名もなきA・弐
ジクウドライバーとライドウォッチを手にした颯太は周囲に人がいないことを確認していた。
詩織は本来の業務に戻っており、大人しく安静するようにと優しく言われた……が、それを受け止められるほど素直ではない。
レプリカライダーは世界の歴史を歪める存在、それを野放しにして眠っていられるわけがないのだ。
何より、颯太を突き動かしているのは……。
「子ども扱いされたまま、黙っていられるか」
それは誇りだ。
自分が弱いのは理解している、未熟な精神性なのも重々承知している。
それでも、あの時に抱いたワールドハックへの怒りを忘れることなどあってはならない。『仮面ライダー』という称号を背負ったからこそ、このまま終わって良いはずがない。
「俺自身の運命は、俺だけが決めるっ」
上着を羽織り、CRから外に出る。
そこにいたのは、見知った顔の少女たち。
「やっぱり、来たわね」
「んじゃ、リベンジマッチといきますかねー」
「マスターと皆さん、助けますっ」
アヤ、ヤマダ、ユキの三人だ。
包帯などを巻き付けてこそいるが、その瞳には闘志が宿っている。
颯太は呆れたように溜め息を吐くも、すぐに思考を切り替える。
「問題はないのか」
「当然」
代表してアヤが即答し、他の二人も頷く。
「それなら」と颯太はバイクライドウォッチを作動させてライドストライカーを呼び出す。
そして、レクスライドウォッチともう一つのウォッチを手に取る。
「俺なりの裏技、見せてやる」
【REX!!】
そして、もう一つのライドウォッチも起動させた。
────「良いか、詠春。自分から握った手を離す人間にだけはなるな」────
そう笑いながら頭を撫でてくれたのが、華道詠春が思い出せる祖父との最初で最後の思い出だ。
多忙だった政治家の祖父は事故で両親を亡くし、施設で暮らしていた詠春に様々な話をしてくれた。
当時の彼は幼かったため難しい話は分からなかったものの、清濁併せ呑む祖父の人としての在り方だけは何となくだが理解は出来た。
それは目の前で命の灯が消えていく両親を助けられなかったショックで、世界の色を正常に認識出来なくなった詠春にとって楽しい時間だったのだろう。
祖父が天寿を全うし、一人で暮らせるだけの知識と身体に成長した彼は旅をすることを決める。
様々な人に触れ、様々な文化に触れ、祖父が遺した言葉を理解するために始めた旅の途中で一人の少女と出会う。
────「私、フィーニって言います!あなたのお名前は?」────
そうして、詠春の世界に色が戻っていった。
仮面ライダースナイプがグリードのテニィーレと戦闘を開始した同時刻。
『~~~~~ッ!』
「くそっ、こいつらしぶといっ!?」
「あの怪人が本当の姿を出したみたいに、こいつらも本性を現したってこともなのかも!」
城内の廊下を走っている椋と詠春が刀や槍を持って迫る兵士たちを生身で追い払う。
ムエルテによって生み出された彼らは全身を甲冑で覆っていたが、バグスターとしての正体を晒したことで本来の姿が開示されたのだ。
兜を脱ぎ捨た顔はオレンジ色の特徴的なバグスターウィルスだが、首回りには黒い毛が張り付き、胸元や頭部には矢が突き刺さっている。
動きも統率された真っ直ぐな動きではなく、覚束ない動きを時々しているなどゾンビのようだ。
半壊した和風の城内も突入した時の絢爛さを失っており、壊れた備品や薄暗い照明も相まってホラーゲームのような有様だ。
しかし、攻撃時の踏み込みや速度は鋭さを増しており、侵入者であり不信信者である二人を始末せんと襲い掛かる。
『ッ!』
「うわっと!?」
振り下ろされた斬撃を躱した椋が間髪入れずにハイキックを叩き込み、弓矢を構えたバグスターウィルスの兵士を詠春が足払いを仕掛けて転倒させる。
しかし。
「う……っ!」
「詠春さんっ!」
ラトラーターコンボを使った反動が抜けていない身体が、意思と反して膝を着いてしまう。
好機と捉えたゾンビ兵が一斉に迫るも椋が近くにいたゾンビ兵を投げて進路を妨害すると、ジクウドライバーを装着する。
最上階にいるムエルテを倒すために、あまり体力は消耗したくないが詠春を庇いながらの戦いではそうも言ってられない。
ダメージの残る身体に活を入れて、ライドウォッチを起動しようとした時だ。
【GURURU MONSTER MOON!!】
「「培養」」
【INFECTION!】
異なる音声と掛け声が響いた瞬間、二つの影がゾンビの雑兵を吹き飛ばした。
椋の前に立っていたのは二体の異形。
トリケラトプスの頭蓋骨を思わせる頭部に、ティラノサウルスを模した右腕の手甲にプテラノドンの羽根を模したブーツ、胴体はモササウルスの鋭い牙が並んだ恐竜と翼竜、そして海竜の要素を混ぜ合わせた青い人型の竜。
もう一体は人形のような黒い素体に美しい毛並みを両手首と首回りに生やしたサファイヤブルーの人狼でその上に貴族を思わせる上品な青い紫色のスーツを纏っている。キャラクターのような簡素な顔は狼の横顔と三日月を掛け合わせたような仮面で右半分を覆っていた。
椋たちは知る由もないが恐竜の怪人は発売中止となったサバイバルアクションゲーム『ジュラシック・クライシス』に登場予定だったボスキャラモチーフの『ジュラットン・バグスター』。
もう一人はヴィルスがモンスター育成バトルゲーム『グルルモンスター・ムーン』のガシャットを自身に埋め込むことで変異した『コラボス・バグスター ムーン』だ。
二体は椋たちがいることに気にするどころか目もくれず、ティラノサウルスの顎を象ったハルバードを肩に担いだジュラットンが息を吐く。
『……噛み応えがない。やはり骸の雑兵ではこの程度か』
『ぼやくなよジュラットン。本命は最上階だ、さっさと上に……』
軽口を叩くコラボスの視線が鋭くなる。
しかし、それは椋たちに向けられたものではない。
『神の冒涜者、排除する』
『……』
歯を食い縛ったような人の顔を張り付けた、黒茶色の屈強な装甲と装甲を纏う鎧武者のような存在と顔をしかめた人面を持つ赤と白の鎧に身を包んだ侍がゾンビ兵を率いながらゆっくりと近づいてくる。
それは武将などでは断じてない。
兜には一本の巨大な角が伸びており、白と黄の混ざった胴体はまるで昆虫の腹のよう……ムエルテの欲望から生み出された昆虫系のヤミー『カブトヤミー』と、侍は右腕に巨大な刃を生やす魚の鰭や鱗を持った水棲系ヤミーの『ニシキゴイヤミー』だ。
宛ら戦国将軍の如き威圧感を放つカブトムシと錦鯉のヤミーにコラボスが笑う。
『中ボスのご登場ってか、なら……ボス戦前の肩慣らしと行こうか!』
『参る』
拳を打ち鳴らして地面を蹴るコラボスと、ハルバードを構えたジュラットンが二体のヤミーに向かって前進する。
状況は分からないが、少なくとも彼らは自分たちに意識を向けていない。
「詠春さんっ」
「ごめん、椋君」
怪人たちの攻撃に巻き込まれないよう、詠春に肩を貸した椋は最上階へと階段を上る。
幸いにも屑ヤミーやゾンビ兵はコラボスとジュラットンが暴れたおかげで発見されることなく、戦闘の余波で僅かに揺れる城内を進んでいく。
「多分あいつは、自分の神様を人を蘇らせたいっていう欲望で動いている……僕たちを落としたのも、ここでしかその準備が出来ないからだ」
「じゃあ……あのレプリカライダーを倒せばっ」
「攫われた人たちもきっと助かる、急ごう」
無理に動こうとする詠春の身体を慌てて支える椋。
コンボの負担がある程度治まったのか、今度は自分の足でしっかりと立ち上がる。
華奢な容姿も相まって穏やかかつお人好しな印象だったが、椋は何処か違和感を覚えていた。
疲労やダメージが溜まっているにも関わらず、すぐに無理をして行動する様子はまるで自分自身を軽視しているようでもあり、何処か軽んじているようでもあったからだ。
しかし、それでいて一つの目標に突き進んでいるような、達観しているようで実は夢想家なのかもしれなと思ってしまう。
「あの」
「どうしたの?」
「詠春さんって、何かしたいことはあるんですか」
気づけば、椋は問い掛けていた。
この相反する人間性を持った彼を、知りたいと思ったのだ。
突然の言葉に驚きながら、「うーん」と少し悩んだ詠春が口を開く。
「あるよ、一つだけね」
「それって」
「『友達に会いたい』……かな」
そう照れ臭そうに笑う様子に椋は唖然とするが、気にすることなく彼は胸ポケットに手を置く。
何処か大事そうに、そこにある何かを確かめるように。
「だから、僕はもう一度オーズになったんだ。あの子にもう一回だけ、ほんの一瞬だけで良い……あの子の手を今度は離さないためにっ」
割れた心を取り戻す。
それだけが、華道詠春が抱いた唯一の欲望なのだから。
時間は、エムとヒイロがムエルテのいる城に突入するところまで巻き戻る。
AVARICEのメンバーを人質に取られたアッシュ、そしてレプリカエグゼイドの傍らに立つアイシェルとテニィーレ。
今にも飛び掛からんばかりの敵意を膨らませるアッシュに対し、グリード態となったアイシェルが楽しそうに嗤う。
『形勢逆転という奴ですねぇ……アッシュ、あなたの持っているメダルを全て差し出してくれませんか?』
嘲笑的な声色が、自分たちの優位性を物語っている。
恐らく向こうは真っ当な交渉や契約をするつもりなど微塵もない、従わなければすぐさま彼女たちの命を奪うだろう。
しかし、コアメダルを渡したところで彼女たちが助かる保証もない。
打開策を必死に練る彼を尻目に、アイシェルはテニィーレに指示を出す。
『テニィーレ、下の守りをお願い出来ますか?妙な連中の気配がします』
『ん、分かった』
ハンマーを肩に担ぎ、テニィーレがその場を立ち去るが状況は芳しくない。
「さて」と気を取り直したレプリカエグゼイドも神再誕の準備を始める中、アイシェルは呆れたように溜め息を吐く。
『オリジナル・グリード、人間の身体を使ってしぶとく生き延びた旧世代の遺物よ。あなたにとって人間など単なる資源に過ぎないでしょう?そして、今のあなたではコアメダルに適合し新たなグリードとなった我々に勝てないことも理解しているはず』
「……はっ」
メダルの塊風情が人間様の真似をするなと、心底見下した態度で話す彼にアッシュは鼻で笑う。
「たまたまグリードになれただけの元人間が、偉そうに喋ってんじゃねぇよ。俺が遺物なら、てめぇらはくたばり損なった古代人だろうが」
『我々には欲望があるのですよ、人工的に造られたあなたと違ってね……雑談は、これで充分』
アイシェルがウナギを象った黒いトライデントをメンバーの首元に向ける。
『さぁ、コアメダルを』
「……ちっ」
流石に打つ手はなしか……。
悔し気に表情を歪ませたアッシュがコアメダルを収めたホルダーを取り出し、目の前に投げ捨てる。
満足そうに頷いたテニィーレは余裕のある足取りで、それを拾い上げようとした時だった。
『えっ?』
アイシェルの右横に巨大な白い物体が出現していた。
照準を合わせるように突如として現れたそれは曲線を描きながら城外へと続いており、まるで何かの道しるべみたいだ。
そして、他のグリードの中では現代の知識に明るい彼は何かのグラフのようだと場違いにも感じた。
【VOLTEC! TIME CRUSH!!】
『はっ!?』
場違いに鳴り響く電子音声と同時に悪寒を覚えたアイシェルはその場から離れようとするも、時既に遅し。
エンジン音を鳴り響かせながら、凄まじい勢いで爆走するバイクが水棲系の動物で構成された細身の身体に直撃した。
『ぎゃああああああああああっ!?』
『なっ!』
不意打ち気味の一撃に碌な防御も取れないまま、壁に激突するアイシェル。
更にそこから零れ落ちたのはセルメダル数枚と青い輝きを放つメダル。
すぐさま走り出したアッシュは落ちたメダルホルダーを回収し、宙に舞うウナギが描かれたコアメダルをキャッチする。
「こいつは儲けたな」
『貴様ぁっ!!』
ほくそ笑むアッシュに見下ろされる形になった彼は「くそっ」と呻くことしか出来ない。
怒りと苛立ちを露にしたレプリカエグゼイドは準備を中断し、侵入者を排除しようと動く。
しかし。
【GHOST! CHIKUTAKU SHOOTING!!】
緑色の矢が寸分の狂いもなくレプリカライダーの顔面に命中。
射抜かれたレプリカエグゼイドは絶叫と共によろめき、煙を上げる顔を抑える。
ダメージが幾分か抜けたアイシェルがやっと立ち上がり、侵入者たちを睨む。
「「「マスター!」」」
「アヤ、ヤマダ、ユキ……それに」
「遅かったな、小野寺」
彼らの計画を邪魔する者、DOLLSのチームCとビルドアーマーを纏った仮面ライダーレクス、そしてレプリカエグゼイドを攻撃した仮面ライダーロワと詠春。
そして。
「到着っと」
「むっ?」
爆走バイクのガシャットから生成した二台のバイクゲーマで一気にショートカットしてきたエムとヒイロ。
最悪から生まれたコラボゲームの、エンディングが近づいて来た。