仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~ 作:名もなきA・弐
レプリカファイズの雄叫びが世界を蝕み穢していく。
停止していた時間が再び動き、両肩にあるスピーカーが嘆きと悲鳴を災厄へと変換する。
『アァァァァアアアアアアアッ!アッ、アァァアアアアアアッ!!』
「くぅっ!」
攻撃ですらない、単なる癇癪に等しい行為をファイズたちは止められない。
否、止めることすら出来ない。
災厄そのものとなったレプリカファイズの口腔から発せられる衝撃波が行く手を阻んでいるのだ。
そして、ファイズとデルタは地面に倒れている生身の颯太を見捨てられない。
時間停止が解除された二人の初動は彼を守るために前へと立ち、その余波を極力受けないよう盾になることを選択した。
(……くそっ)
一時の激情に身を任せたばかりか、足を引っ張る形となってしまった颯太は悔しさを露にする。
目の前に奴がいるのに、倒すべき敵がいるのに……守られる立場に甘んじてしまっている事実が焦燥感を生じさせる。
心は折れていない、武器であるライドウォッチやジクウドライバーはまだ手元にあるにも関わらず、身体が言うことを聞かない。
それでも渇を入れ、再び変身するべく強引に立ち上がろうとした時……。
【ハ・ジ・メ!全力必筆!!】
珍妙な、それでいて力強い叫びを思わせる音声が響き渡った。
突然の、場違いにも程がある音声に全員が呆気に取られるも、その時間はほんの数秒だった。
『ッ!?ゴアァアアアアアアアアアッ!!?』
凄まじい勢いで空から飛来した『何か』が、レプリカファイズ目掛けて命中。
完全な不意打ちに災厄の王は反応が遅れ、そのまま近くの建物へと叩き込まれる。
同時に、ファイズたちを苛んでいた破壊音波が止まった。
土煙で姿は見えないが、その地点に人型の何かが立っているのが見える。
しかし、デルタはそこまで考える余裕はなかった。
「『3821』ッ!」
【Jet Sliger. Come Closer.】
音声コードをデルタギアが認証する。
無機質な機械音に続く形で空気を裂くような轟音が近づいてくる。
現れたのは武装が施された大型二輪車……銀と黒で塗装された車体は兵器としての要素を強く主張しており、威圧感を周囲に与えている。
この世界のスマートブレインがモーター社に開発させた超高速アタッキングビークル『ジェットスライガー』を起動させたデルタはすぐさま搭乗する。
「尾上君っ!」
そこから先は、言わずとも分かった。
ファイズが倒れる颯太の身体を担ぐと、先ほどまで彼が乗っていたオートバイ『オートバジン』のライトが自動で点灯する。
それは独りでに変形を始め、やがてロボットのような形態『バトルモード』へと移行。
そのまま所有者であるファイズと保護対象である颯太を抱えると、ジェットスライガーが先導するように上空へと走り出した。
『このまま退場……というのは、少し面白みが欠けるね。そうとも、欠けるともっ!』
当然、レプリカウォズは納得がいかないとばかりに戦斧にエネルギーを集める。
そして、空高く逃げた敵対者を撃墜すべく攻撃を放とうとした時だ。
【アクセラレート!エスカレート!ゴー・ファスト!】
激しく熱かりし音声が響くと同時に、武器を構えたレプリカウォズの手が何者かによって妨げられる。
億劫そうに視線を向けた先にいたのは、横向きのバイクを模したドライバーを腰に巻いた灰色のアンダースーツに身を包んだ戦士。
翼や竜を象った薄緑色の軽い装甲を纏い、燃えるような赤い複眼を光らせた……バイクレーサーとプテラノドンが混ざり合ったような出で立ちが特徴だ。
『……ふむ』
驚きよりも、何処か思案する仕草をするよりも速く、戦士の拳が飛ぶ。
それを難なく受け流し、ついでに後ろから迫って来た派手な形状のバイクを躱すと、今度はレプリカファイズを攻撃した存在が一振りの白い刀身の日本刀を光らせる。
全身を包む墨のような黒いスーツに銀と白い鎧を纏った書道家のような姿に、飛蝗を連想させる丸い青の複眼と二本の角。
腰には『』(カギカッコ)を模したドライバーを装着しており、中央には漢字の「一」が刻まれている。
「ッ!」
戦士が刀を振るう。
その軌道は流れるように、宛ら達人が一筆書きで文字という作品を生み出すかのようだ。
墨を彷彿させるエネルギーを纏った剣閃を散らし、それが戦斧とぶつかる度にけたたましい火花と金属音が響く。
『君も初めて見る顔だ……私が見てきた物語にも覚えがないし観たことがない!』
レプリカウォズの好奇心に、火が点いた。
未知の存在、それ即ち物語を彩らせる劇薬にして最高のアドリブ……二体の仮面ライダーに狙いを定めたレプリカウォズはレプリカファイズを無視して戦意を滾らせる。
しかし、それは一瞬で消えた。
「……」
そこに現れたのは、目を痛めない程度の彩度に調整されたイエローの装飾を纏う戦士。
体格からして女性なのだろう……左腕には置時計を象ったブレスレット型のデバイスを装着し、台座に当たる部分がカードを入れるスロットになっている。
右側に集中しているいくつもの黒いプレートの装飾はマスクを貫通しているような造形で、まるでバーコードを表現しているかのようだ。
『最近活躍中の仮面ライダーレジェンド、ではないね。その姿からはゴージャスさも気品も感じられない……となれば』
レプリカウォズの単眼が嫌悪の感情を抱く。
不愉快なものを見たと言わんばかりに、目の前の戦士を睨む。
『あぁ、私の作る物語を理解しない芸術家気取りめ。君とは二度と会いたくなかったよ』
「それは、こっちの台詞よ演出家気取り。あんたの性悪さは健在なようで安心したわ」
互いに敵意を向けた視線がぶつかり合う。
首元に巻いた緑色のストールを弄りながら、黄色の戦士は二つのライドウォッチを掲げる。
既に起動しているウォッチは二体の仮面ライダーと同じであり、その絡繰りを理解したレプリカウォズのテンションが段々と下がっていくのが分かる。
『君が作った人形か。何処で観測したのか知らないが、そこまでして私たちの邪魔をしたいらしい』
顔を抑え、大袈裟な溜め息をわざとらしく吐くと、ようやく起き上がったレプリカファイズの元に近づく。
戦士たちは動くことなく警戒し、操り手である彼女も視線を外すことはしない。
『邪魔をするならしてみると良いさ。この世界は災王の産声によって全てが消える……その果てにあるハッピーエンドを、目に焼き付けると良い』
そう言い捨てると、レプリカウォズとレプリカファイズの姿は消えた。
最初からそこにいなかったように、辺りには不気味な静けさだけが残ると同時に、戦士の身体にノイズが走る。
「……やっぱ、まだ安定しないか」
舌打ちと共にライドウォッチの機能を停止させ、バイクと古生物の『仮面ライダーファスト』と一筆戦士『仮面ライダー一(ハジメ)』を再現した分身を消すと、自身もスロットからカードを抜いて変身を解除する。
「だけど、変身時間は確実に伸びている……そのためにも」
ファイズたちが撤退した場所を彼女は見上げる。
その視線には揺るぎない、強いものだ。
「レクス■■■■、あんたには私たちが自由に動けるようになるまで、強くなってもらわなきゃ困るの」
彼女……宮廷画家の女性はそう呟いた。
「話は、設立した直後のスマートブレインが『オルフェノクの王』を探していたところから始まる」
愛作から聞いた話は、シュウジにとって気分の良い話ではなかった。
スマートブレインは、両親を亡くした子どもたちを支援するために設立された慈善団体の総称だ。
様々な事業へのコネクションを持ち、初代会長でもある『稀石獏』の手腕とカリスマによって身寄りのない少年少女たちを救ってきた……というのが表向きの顔。
裏の顔は人間からオルフェノクとなった者たちに住居や労働環境を与え、人間社会に違和感なく生活させる……所謂オルフェノクの支援機関だ。
「人類を超越した代償なのか、それとも死んでいながら不相応の力を手に入れた罰なのか……俺たちは短命だ。特に力を使っている積極的な奴ほど、最期には訳も分からぬまま灰になって二度目の生を終える」
当然、全員が死にたい訳ではない。
当時のスマートブレインはオルフェノクが生き延びるための方法を模索し、その過程で『王』の存在を文献から知った。
しかし、九死に一生の子どもなど簡単に見つかるはずもない。増して何の罪もない子どもにオルフェノクの記号を埋め込むことで強引に覚醒させるなど、そんなリスクのある方法を稀石が許すはずもなかった。
「だが、そんな稀石の方針に否定的な奴もいてな。その連中が俺やあいつに黙って『ある実験』をしていたのさ」
「それは一体……」
「覚醒した子どものオルフェノクを集め、その子たちに『死んだオルフェノクの残骸を移植する』ことだ」
思わず、間の抜けた声が口から洩れた。
確かに幼い子どもがオルフェノクとして覚醒することは調書にもある……この世界ではオリジナルや死と再生問わずオルフェノクの覚醒率は若者の方が多い。
いやそれ以前に、自分がどうなっているのかも分からない幼い者に死骸を接合させるという悍ましい行為が、シュウジの思考を一瞬だけ止めた。
「子どもの時点でオルフェノクになったということは『九死に一生を得た』という条件を満たしている。そしてオルフェノクの王は『同族を喰らうことで生き永らえた』とされている。それなら、命を落としたオルフェノクを子どものオルフェノクに食わせれば王として新たに覚醒するのではないかと……奴らはそう考えたわけだな」
「そんなのっ、合理的じゃない。あまりにも狂ってる!」
淡々と語る愛作とは対照的にシュウジの身体と声は震えていた。
狂気的で根拠もない、そんな迷信染みた存在のためにオルフェノクとはいえ多くの子どもたちが犠牲になっていたというのか。
嫌悪で激しく鼓動する心臓を鎮めるように、胸元に手を抑えたシュウジは続きを促す。
これ以上は聞きたくもないが、真相を知るべく深く暗い層へと踏み込んでいく。
「結論から言えば実験は前提の時点で破綻していた。上手いこと誤魔化していたが、違和感に気付いた稀石は一人で実験所に向かい、そこにいた研究員と協力者だったオルフェノクを殲滅した」
元々は子ども好きだった稀石にとって実験の内容は怒りを覚える者であり、実験に関わっていた者の中には人間もいたが容赦なく手を掛けたらしい。
実験台にされた子どものオルフェノクたちは常軌を逸した環境や虐待紛いの調教と実験によって人としての原型を留めていなかったり、或いは発狂している者もいた。
「そして、そこにいた一人の少年オルフェノクだけは残骸の移植による拒絶反応も奇跡的に起こらず、特殊なケージに閉じ込められたのを発見した。もちろん保護をしようとしたが……怯えるように逃げていったらしい」
稀石はその少年の行方を追っていたが今日まで発見されることはなかった。
そして、その生き残りが……。
「ヒグラシゼミ……彼がっ」
「恐らくはな。日暮夏希、蝉の幼虫に似た姿をしたオルフェノクの少年だ」
愛作から聞いた話を、シュウジは『礒菊』の事務所にあるソファに腰を掛けながら伝えていた。
なるべくオブラートに事実のみを伝えたが、それでも衝撃的な内容だったらしく姫香のような女性陣は口元に手を抑えたり顔色が青い。
他の面々に関しても動揺を隠せないでいた。
「……じゃあ、そのオルフェノクは昔の実験の生き残りってことですか?」
「そうだ。今は部下たちに事情を説明して住民の避難を行っているが、時間の問題だろう」
蔓久の問いに返したシュウジが頷く。
既に成長の止まっている痛々しい姿を目に焼き付けてしまった今、彼としては戦いたくないというのが本音だ。
しかし、既に犠牲が出てしまっている以上は甘いことも言っていられない……深い溜め息と共に思考を切り替える中、颯太が口を開く。
「どんな事情があろうと怪人は怪人だ。俺が倒す」
「君に、それが出来るのか」
その決意に、シュウジが問い掛ける。
それは歴戦の戦士としてではなく、かつて人間だった者の命を奪ってきた者の暗い覚悟を秘めた光を宿している。
「犠牲が出ているなら、それを止めるのが仮面ライダーだ。出来る出来ないじゃない、やれるだけの力があるならそうするべきだ」
「確かにそうだ。君の意見は正しい、だが彼は人間だ。経緯はどうあれ生きようと藻掻き苦しんでいる子どもだ。その命を、君は奪えるのか?」
「それは……!」
答えられなかった。
気迫じゃない、放たれた言葉に返せるだけの強さが今の彼にはない。
これまで颯太が仮面ライダーレクスとして戦ったのは元々の人外かレプリカライダーだけ。そして今、戦士としての覚悟が改めて問われているのだ。
その言葉を単なる脅し文句だと捉えられたらどれだけ楽だったのだろう。
しばらく続いた沈黙の後、先に破ったのは「済まない」と謝罪したシュウジの方だった。
「少し感情的になり過ぎた。だけど、俺にとってオルフェノクの戦いは単なるヒーローとヴィランの関係じゃない……れっきとした命の奪い合いだということだけは、覚えておいて欲しい」
「……」
語気を少しだけ和らげた彼に、颯太は何も返すことが出来なかった。
そこからは今後のことを話し合い、シュウジは傷ついた身体に鞭を打って自分の部下と共に見回りへと向かうべく、事務所を後にする。
「……俺は」
颯太は、戦うことで失うものの意味を考える。
自分の行動と選択が、どのような結末を迎えるのか。
そして。
「……」
タクミもまた、変わり果てた親友を救うべく行動に移ろうとしていた。
タクミと夏希の関係は次回に。
今回、愛作の口から語られたのはオルフェノクの王を人為的に生み出すための実験ですね。そもそもオルフェノク化した子どもを使うという点で倫理的にアウトなのですが、これに参加していた研究員たちは盲信的だったので「絶対に成功する!」という謎の確信をもって実験していました。夏希が生き残れたのは本当に偶然で運が良かっただけです。詳しく語るとグロ的になりますが、痛みを与えて早期覚醒を促したりオルフェノクの残骸を無理矢理食わせたりなど凄惨なものだったとだけ語っておきます。酷い時には性欲の捌け口にすらされたり……そりゃあ、全滅させられるよ。
そして、今回。以前募集したオリジナルミライダーを登場させて頂きました。本人登場ではなく、あくまでもライドウォッチによる召喚という特殊な方法での登場となります。
〇仮面ライダー『一』(ハジメ) 案:黒崎好太郎 様
〇仮面ライダーファスト 案:ミスタータイムマン 様
改めて、お二人ともありがとうございました!
ではでは。ノシ