仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~   作:名もなきA・弐

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 えー、作風が思い切り迷子になっています。ファイズらしくしようと考えていたら良く分からないものとなりました。
 ちなみに今回の話、結構カットしています。レプリカファイズ戦は「people with no name」を聴きながらお楽しみください。


TIME29 1026:ネクスト・ジャスティス

日暮夏樹が自分の家庭環境は普通じゃないと気づいたのは、一緒に遊んでくれた友人の話を聞いた時だ。

母は仕事と称して他の男と遊び惚け、その再婚相手の男は粗暴で短気な男……暴力と放置の繰り返しが夏樹にとっての家族であり、世界だった。

それが周囲に知られてはいけないことだと本能で理解していた彼は常に他人の顔色を窺い、明るく元気な仮面を被って学校生活を送る。

そんな中で出会ったのが、尾上タクミという少年だ。

両親の影響で幼少の頃に写真撮影を趣味としていたタクミと外の世界を知らない夏樹は自然とウマが合い、一緒に遊ぶことも多くなった。

 

「俺、さ。もっと外で遊びたい、タクミが撮った写真と同じ景色を見てみたい」

「じゃあ、僕は凄いカメラマンになるよ!ナツキがもっと外に出たくなるような写真をたくさん撮る!」

 

二人で交わした小さい頃の約束。そんな純粋な夢が生きる希望となり、その時だけは辛い今が少しだけ忘れられるような気がしていた。

しかし、それは突如として終わりを迎える。

 

「あ……い、痛い……」

 

酒で感情を高ぶらせた男の暴力は、その日は特に苛烈だった。

力任せに振るわれた平手打ちは夏樹の瘦せ細った身体を吹き飛ばし、後頭部を床に思い切り強打した。

身体は痙攣し声も出ない、顔を青ざめた男は後始末をどうするか悩む始末。

 

(どう、してっ)

 

どうして自分だけがこんな目に合うのだろう。

何で他の家族と同じじゃないんだろう。

何故。どうして。何で?

繰り返される自問自答、気づけば動かないはずの身体は起き上がっていた。

 

「な、何だよっ。脅かしやがってガキが……!」

 

瞬間、今度は男の身体が倒れる。

動揺と怒り、そしてそれらを忘れるほどの恐怖。

彼を押し倒していたのは、蝉の幼虫を巨大化させたような灰色の人型。

夏樹……シケーダ・オルフェノクは口から生やした針を容赦なく、ゆっくりと男の右目に突き刺した。

激痛で叫び、手足を激しく暴れさせていたそれは小さな痙攣を起こし、やがて灰となって散っていく。

それをしばらく眺めていた夏樹は、異形となった自分の両手と灰の塊と化した男の残骸を見て正気に戻っていく。

 

『違う、違うっ。俺は、そんなつもりじゃ』

「ひっ!?」

 

短い悲鳴を聞き取った夏樹の視線にいたのは、派手な衣装を着こなした女性……自分の母親だ。

他の男から貢がせたバッグを落とし、腰を抜かして自分を見る姿は明らかな拒絶と恐怖が混じっている。

それでも、夏樹にとっては唯一の母親だった。

 

『母さん、母さんっ。どうしよう、俺……俺っ』

「来ないで、化け物っ!」

『違うよ、俺だよ!夏樹だよっ!助けて、俺は……!』

「やめてっ、お金ならあげるから……」

『話を聞いて、俺だって。お願いだから俺を信じて……』

「私だけは助けてっ。お願い、お願いだから」

 

彼女は、異形となった息子にすら気づかなかった。

夏樹がどれだけ伝えようと、彼の話を聞く耳すら持たず、ただただ命乞いを繰り返す。

その事実が再び夏樹の本能を化け物へと変えた。

 

『黙って聞けよおおおおおおおおおおおおっ!あんたの息子だぞおおおおおおおおおおっ!!!』

 

気づけば、夏樹はシケーダ・オルフェノクとなった両手で母親の首を絞めていた。

うわ言のように「聞けよ聞けよ」と呟きながら、恐怖で歪む女の細い首を強く掴む。

オルフェノクは本能として使徒再生を行うが、夏樹の失望と怒りが強かったのだろう。針を使わずに抑え込んだ感情のままに絞め続ける。

やがて何かが折れたような鈍い音が、夏樹を再び正気に戻した。

 

「……」

 

両手を離した時には既に事切れていた。

首はあらぬ方向に曲がり、化粧をした顔は薄汚れ、下半身には水溜まりが出来上がっていた。

 

『何でだよ、何でぇ……!』

 

夏樹はただ泣いた。

年相応に、哀れな灰の塊と汚らしい女の亡骸しか存在しない世界で、明るく生きることを夢見た少年は泣きじゃくることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

ジャケットを羽織り、ファイズギアの入ったアタッシュケースを手に持ったタクミは外に出る。

今頃、全員がレプリカファイズの捜索を始めているのだろう。誰にも気づかれることなく、店を出た彼はオートバジンにケースを積み込む。

 

「んっ?」

 

ふと、何処かからの視線と共に足元に何かが転がる。

顔を下げれば、そこにあったのは二つのライドウォッチ。

一つはブランクライドウォッチ、もう一つは赤いベゼルと灰色で構成された物だ。

颯太が所持していたのと同型らしき時計型のアイテムを拾うと、その内の一つから映像が脳内に流れ込んでくる。

それは三本のベルトに翻弄された人々の歴史。長い時の中で突き付けられた死への恐怖と、それでも生きようと抗う戦いの物語。

 

「……羨ましいな」

 

不意に、その言葉が出てしまった。

救いがあったわけでもない、それでも愛する人が隣でゴールのない道を歩いてくれている……それが少しでも眩しいと思ってしまった。

だからこそ、だろう。

 

「何がだ」

 

邪魔をしようとする者が何時の間にか現れていたことに気付かなかったのは。

目の前の少年……颯太の鋭い視線を向けられたタクミは「こっちの話」と溜め息を吐く。

 

「何か用事?」

「ファイズの力を繋ぎに来た」

「……ナツキは僕が殺す。その後ならいくらだって力を渡すから」

「お前はそうやって、自分から罪を重ねるのか?」

 

オルフェノクは単なる怪人ではない。

本来なら命を落とすはずだった人間が、もう一度だけ命を宿してしまった存在だ。

異形の肉体を持っていても、根底にあるのは人間の性……故にオルフェノクを倒すことは命を奪うことと同義。明確な殺し合いに等しい。

颯太は気づいた、気づいてしまった。

オルフェノクに悪はいない、人の心を捨ててしまった彼らには彼らなりの事情があったのかもしれない。

この世界では異形となってしまっても人間であり続けようとする者たちがいる。

だからこそ解せない。

誰かに強要されたわけでもない、なのに彼は戦いを続けている。

 

「……一番辛いのは」

「何?」

「辛いのは、心を捨てた奴らなんだ。突然与えられた力をどう使えば良いのか分からなくて、今の自分が本物なのか遺体に宿った意識の残り滓なのか。生きているのかどうかも分からなくなっているんだ」

「そいつらを倒すのが、救済だとでも言うつもりか?」

 

颯太の非難するような言葉に「まさか」と肩をすくめる。

 

「どう屁理屈を並べたところで僕の行動はヒトゴトシだ。それでも無関係な人が巻き込まれるのなら、僕はこの罪を背負う」

 

視線を逸らすことなく、タクミは告げた。

その言葉には重みが、長くも短い戦いを終えた人間としての強い覚悟を秘めている。

ならば、颯太もそれに応えなければならない。

 

「俺と戦え、尾上タクミ」

「はっ?」

「俺はお前からファイズの力を繋ぐ。レプリカライダーを倒したいなら、俺を倒してから進め」

【REX!!】

 

ジクウドライバーを装着し、レクスライドウォッチを起動する。

そこに迷いはない。強い意志と対面したタクミもまた応えるべく「2024」と刻まれた赤と灰色のライドウォッチを掲げ、ベゼルを回転させてからスイッチを押して起動。

 

「だったら、僕に見せてみろ」

【NEXT FAIZ!!】

 

夢の続きを象徴とするライドウォッチが淡く光り、腰に装着された状態で具現化される。

消えたライドウォッチの代わりには、分厚いスマートフォンが握られていた。

 

「どんな答えを得るのか。殺戮の中にある決意を、僕に教えてくれ」

 

静かな狼の哭き声と共に、流れ込んだ記憶を基にデバイスを操作する。

コードは変わらない。

5・5・5、と液晶画面に表示されたナンバーパネルをタッチする。

 

【Standing by】

 

待機音声が響く中、颯太はライドウォッチを装填して大きく構える。

同じように端末を高く掲げた彼は眼前の敵を見据え、そして叫ぶ。

颯太は新たな覚悟を決めるための、タクミは罪を背負うための言葉を。

 

「「変身!」」

【KAMEN RIDER REX!!♪】

【Complete】

 

接続を確認したベルトから放出されるのは光の管。

血管のようにタクミの全身へと絡みついた白い光は生成された灰がかった黒いボディスーツと銀色のプレートを繋ぎ合わせていく。

そうして完了した姿はファイズとは異なるファイズの姿。

特徴的な頭部は面影を残してこそいるものの両肩は角ばった黒のショルダーアーマーを纏い、頑強となった胸部装甲は「φ」を象った円形になっている。

それは未来の技術、物語の先にある力、そして停滞と現状維持の象徴。

 

『仮面ライダーネクストファイズ』

 

進歩したベルトで変身した姿に気にすることなく、ネクストファイズは気怠そうに右手をスナップさせる。

そして、しばらくの睨み合うと。

 

「「はぁっ!」」

 

距離を詰めた互いの拳が胴体に炸裂した。

 

 

 

 

 

家族の命を奪ってから数日後、夏樹は「スマートブレイン」と名乗る組織の人間に連れ去られ、凄惨な実験を受けた。

肉体と精神を極限にまで追い詰められ、食事は水と灰の塊、睡眠中には何らかの薬液を投与される。

そんな日々が何度も何度も繰り返された。

耳に入って来るのは、自分と同じ被験者たちの狂った声と無機質な大人たちの声。

檻に閉じ込められた夏樹は「死にたくない」と願い続けた。

タクミとの約束は生きることへの渇望になり、彼がまだ人間であり続けるための小さな夢となっていた。

どれだけ身体を弄られても、オルフェノクの残骸を食わされても、生きることだけは決して諦めない日々が続く。

そんなある日、研究員たちの悲鳴が聞こえてきた。

命乞いや罵声の混じった騒音が響き渡っていたが、それはすぐに鎮静化する。

そうやって部屋から現れたのは大きな影。

 

『……ここも、かっ』

 

苦し気な声でそう呟くのはイタリアンマフィアを思わせるようなコートと帽子を羽織ったバクのような灰色の巨体『テイピア・オルフェノク』だ。

誰かと連絡を取った後、被験者となっていたオルフェノクの子どもたちの顔を一人一人見て謝罪の言葉を口にしていく。

それが終わると、今度は夏樹のいる檻の前まで来ると優しくその手を差し出す。

しかし。

 

「嫌だっ、嫌だ!」

 

夏樹の精神は、既に壊れ始めていた。

救いの手を拒絶し、彼から逃げるように裸足で実験場から外へと逃げ出す。

実験による影響なのか、単なる生存本能が刺激されたためなのか、当時の実力者だったテイピアから逃げ出した夏樹は生きるために動き始めた。

泥水も啜った、蝿や蛆のたかる残飯を食べた、生き延びるためなら人間の体裁すらも捨て去った。

 

『死にたくない、死にたくないっ、死にたくない……!』

 

シケーダ・オルフェノクに変化し、地面に潜って息を潜める。

余計なエネルギーを消耗しないように、ただただ生きることに意識を傾ける。

死にたくない、だって『あいつ』との約束があるから……あれ?

 

『あいつって、誰だっけ?』

 

どうして死にたくないんだっけ?

大事なことがあったはず、自分に何か大切な夢があったはず。

あれ、何でだっけ?

日暮夏樹は、もう既に壊れていた。

度重なる不幸が未熟な精神にダメージを与え、生きる目的すらも消え去っている。

そんな疑問も、すぐになくなった。

死にたくないのは怖いから、だったら生きたいと願うの当たり前のことだ。

そう結論付け、夏樹は両脚を抱えて眠り始める。

そこから時間は流れ、尾上タクミが災厄のオルフェノクを倒して数か月後。

 

「決めたよ、君はこれからハッピーエンドを作る主人公だ!」

【FAIZ……!!】

 

夏樹はレプリカファイズとなり、自身に埋め込まれたウォッチを他のオルフェノクや人間に押し付けて生命力を集めるようになった。

 

 

 

 

 

レクスの砲撃がネクストファイズに直撃し、ネクストファイズの投擲したファイズエッジがレクスの装甲を抉る。

火花を散らしながらも、二人は攻撃をやめることはない。

 

「だぁっ!」

「がっ!?」

 

戦況としてはレクスが優勢だ。

タクミの戦闘経験とネクストファイズの最新システムなら明らかにレクスの方に分が悪いが、多機能故の弊害によって上手く戦えていない。

しかし、それは最初の内だけだ。

 

「ふっ!」

「なっ!?」

 

ネクストファイズの腕がレクスの攻撃を受け止め、カウンターによる前蹴りが叩き込まれる。

その動きは段々と無駄がなくなり、装備品に馴染み始めているようだ。

 

【Knuckle Mode】

 

バックルからスマートフォンを抜き取り、それをガントレットに構えることで変身端末が専用の打撃武器へと変わる。

 

【Exceed Charge】

「はぁっ!」

「ぐああああああああああっ!?」

 

赤熱するネクストファイズの拳がレクスに向かって放たれる。

予想よりも速い攻撃を防ぐことが出来ず、変身解除されなかったものの強烈ダメージを負った肉体が地面を転がる。

端末を再びバックルに戻したネクストファイズが、起き上がろうとする彼を見下ろす。

 

「君の答え、聞かせてもらおうか」

 

淡々とした声を聞いたレクスは荒くなった息を整えながら立ち上がる。

その姿勢に感嘆しつつも黙って見据える彼に、若き復讐者は口を開く。

 

「俺の答えは変わらない。敵は倒す……それだけだ」

「それが例え、誰かの命を奪うことになっても?」

「当たり前だ」

 

今度ははっきりと答えた。

先ほどとは異なる様子に、ネクストファイズは黙って続きを促す。

 

「俺は迷わない。俺が迷えば、きっと誰かが傷ついていく。顔も知らない誰かが、未来があると信じていた誰かが不幸な結末を辿っていく」

 

奴から仮面ライダーレクスのライドウォッチとジクウドライバーを渡された時、仮面ライダーという存在を知った時、変身して戦えるのかと迷うこともあった。

だがそれ以上に、力さえあれば自分の世界が滅ぶことはなかったと信じている。

 

「戦いが犠牲を生み出すなら、それを受け入れてやる。それで誰かが助かるのなら化け物にでも悪にでもなってやる!誰かを助ける戦いが『罪』だと言うなら、俺はそれを背負ってやる!」

【BUILD!!】

 

それが、最矩颯太の見つけた『自分』に他ならない。

ビルドアーマーへと変身したレクスの叫びに、何処か悲しそうな表情を仮面の下に見せたネクストファイズは「AXEL」と表示されたアイコンをタッチする。

 

【Complete】

 

頭部のバイザーが百八十度回転すると複眼が真紅に発光。

同時に胸のコンバーターも内部機構回路が露出し、ベルトに装填された端末にはカウントが表示される。

 

【FINISH TIME!】

【BUILD!】

 

レクスもライドウォッチのスイッチを再び押し込んで起動し、ドライバーのロックボタンを解除する。

そして、ネクストファイズの指がバックルに触れた。

 

【Start up】

【VOLTEC! TIME CRUSH!!】

 

飛び込むように放った両者の攻撃が、炸裂した。

 

 

 

 

 

レプリカファイズ災王態とレプリカウォズは廃園となった遊園地に足を踏み入れていた。

光もなく錆びたアトラクションと建物の数々はかつて夢と希望に溢れていたことが感じられる。

何故この場所に来たのかは分からない。

ただ、レプリカファイズの赴くままに訪れただけでレプリカウォズも深い理由は考えていない。

 

『後は、君の思うがままに動くと良い。私は他のメンバーに呼ばれてしまったので、残念だがお暇させてもらうよ』

 

その言葉を最後に、歪な吟遊詩人は姿を消したが気にすることなく災厄の王は口を開く。

この場所を軸にして世界を巻き込むほどの破壊音波を鳴らそうとした時だ。

 

『……?』

 

目の前に三人の人間が現れる。

シュウジとタクミ、そして颯太だ。

 

『誰だ?いや違うっ、さっきの奴らか?あれ、さっきっていつのことだっけ?』

 

頭を抱え、混乱するレプリカファイズに颯太が一歩前に出る。

シュウジも手に持ったアタッシュケースも開こうとしたが、タクミが制したことで釈然としない様子ながらも一先ずは同意する。

 

「……お前を、倒すっ」

 

その言葉に、レプリカファイズの纏う気配が変わった。

恐怖と拒絶。そして生への執着が混じった声が響く。

 

『嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!何で俺が死ななくちゃいけないんだよ!どうして生きたいって願っちゃいけないんだよ!?』

 

髪の毛を掻き毟るように、レプリカファイズの影に夏樹の姿が映り込む。

 

 

『母さんもおじさんも!俺の身体を弄った奴らもっ!みんなみんな、俺が普通に生きることを嫌がった!何でだよっ、何で俺だけ……俺は、俺は産まれてきちゃいけなかったのかよ』

 

その言葉だけ、最後の言葉だけが颯太の胸に突き刺さった。

決意が揺らぎそうになる、迷いで道を曇らせそうになる。

それでも、彼は止まるわけにはいかない。

日暮夏樹を化け物として終わらせないために……。

 

「お前の生きようとする想いは絶対に正しい」

『だったら……!』

「今のお前は、生きる理由を忘れた獣だ。人間は、そう簡単に獣になるべきじゃない」

 

颯太はジクウドライバーを装着し、二つのライドウォッチを起動する。

一つはレクス、もう一つはネクストファイズを倒した影響で砕け散ったライドウォッチの破片がブランクに流れたことで生成された黒と白の『ファイズライドウォッチ』だ。

 

【FAIZ!!】

『っ!!?』

 

本能が危険信号を発信したのだろう。

音による振動を纏った赤黒いサーベルを取り出したレプリカファイズが距離を詰めて颯太へと振り下ろす。

しかし、それを回避した彼はすれ違いざまに横腹を蹴って転ばせると態勢を整えてからファイズのライドウォッチを装填し、ロックを解除したバックルに手を添える。

 

「……変身!」

【ARMOR TIME!】

 

仮面ライダーレクスの身体が、赤い閃光へと包まれる。

その光にレプリカファイズが顔を覆っている間に、戦士は新たなアーマーを装着していた。

両肩に生やしたガラパゴス式携帯電話のようなユニット、赤いラインが刻まれた上半身。

マスクには「FAIZU」とローマ字で記された複眼が輝く。

 

【COMPLETE. FAIZ!!♪】

「はぁっ!」

 

『仮面ライダーレクス ファイズアーマー』の拳がレプリカファイズの顔面を捉えた。

体重が乗った一撃は贋作の身体を大きく仰け反らせ、追撃を浴びせるための隙を作る。

続けざまの攻撃に動揺しながらも、右手を払うようにサーベルを投げ捨てたレプリカファイズはガントレットに赤黒いエネルギーを溜める。

 

『ぶっ潰れろぉおおおおおおおっ!』

 

更に音の高周波を重ねることで相手を完全に粉砕する破壊兵器となった拳を叩き込まんと、憎悪の雄叫びをあげて迫って来る。

しかし、レクスに動揺は見られない。

右手に持っていたのはジカンジャナックルではなく、ファイズアーマー時に使用出来る専用のデバイス。

小型の携帯電話のような白い機械『ファイズフォンX』を展開すると、すぐさまコード入力を開始。

 

【READY SHOT ON!】

 

音声と共にエネルギーが赤いラインを伝ってレクスの右手にマテリアライズされたのはファイズショットに酷似した打撃武装。

ファイズアーマー専用の『ギア555』の一つである『ショット555』だ。

 

「はぁああああああああああっ!」

 

レクスは右腕を大きく振り上げ、レプリカファイズの攻撃に合わせて拳を振り下ろす。

瞬間、爆ぜるような衝撃と爆音が響き渡ったかと思えば、レプリカライダーの手を覆っていた鉄鋼が弾け飛んでいた。

 

『はっ!?なっ、あぁっ!!』

 

腕ごと大きく身体をよろめかせたところへ間髪入れずに、ショット555の一撃が再び炸裂する。

精神的な動揺も相まって、レプリカファイズは受け身を取ることも出来ずに地面を転がった。

 

『はぁっ、はぁっ!嫌だ、俺は生きて……絶対に生きてっ』

 

それでも、彼は生にしがみつこうとする。

死への恐怖から、自分を不幸にする世界への逃避から、ハッピーエンドに縋りつこうと主人公であり続けようとする。

故に、レクスは引導を渡す。

 

「その歪んだ歴史、俺が打ち砕く」

【READY POINTER ON!】

 

 

彼は望んで歪な喜劇の主人公になろうとしたわけはない。

純粋な想いがあった、ただ生きたいと願った。

その歪みだけを、壊す。

 

【FINISH TIME!】

【FAIZ!】

 

ファイズフォンXでファイズポインターの役割を果たすポインター555を右脚に武装し、フィニッシュタイムを起動。

レプリカファイズが破壊音波を響かせるが、エネルギーの充填が完了した右脚を振るってポインターを命中させる。

狙いを定めるようにゆっくりと腰を落としたレクスが跳躍すると、強烈な飛び蹴りが炸裂した。

 

【EXCEED! TIME CRUSH!!】

『がぁああああああああああああああああっ!!!』

 

拘束されて動けなくなったレプリカファイズの身体は貫かれ、ファイズの力を繋いだ戦士が背後に着地した同時に爆発が起きる。

レプリカウォッチⅡも完全に砕け、変身が解除された夏樹は倒れそうになる。

しかし。

 

「……あっ」

 

タクミがその小さな身体を抱き締めていた。

自分の服が汚れるのも構わず、ただ黙って倒れないように止めていた。

そして、レプリカウォッチ破壊による精神汚染の回復と修正は、夏樹の精神にも影響を及ぼしていた。

 

「タク、ミ……?」

「ナツキ、お前……!」

 

自分の名前を呼ばれたタクミは驚くものの、夏樹は気にせず笑顔を浮かべる。

 

「お前、遅ぇよ。おかげで、嫌な夢見ちゃったじゃんっ」

 

それでも、夏樹の時間はあの時から止まったままなのだろう。

楽しかった唯一の思い出、それだけが彼にとって生きた時間だったのかもしれない。

だからこそ、タクミはその夢に声を掛ける。

 

「ごめん。見せたい写真があって……遅れちゃった」

「そっか、お前の写真。キラキラしてて、すっげぇもんな……でも、今日は何だか眠いんだ」

 

夏樹の身体から、灰が零れる。

元々無茶な実験の影響にもよるのだろう、そこから劣悪な環境で生き延びていたせいで寿命自体は限りなく短いものだったのだ。

 

「俺さっ、お前が見せてくれた、遊園地の写真。あれが好きだったんだ、いつかは行ってみたいって。そんなことをずっと思っていたんだ」

「あそこは楽しいよ。たくさんの楽しい記憶が作れる、色々な表情が撮れて僕も好きなんだ」

 

既に廃れたその場所で、二人は語る。

それを邪魔する者はいない。颯太もシュウジも、黙って見守っている。

 

「タクミ。もし、俺が自分の夢を叶えられなかったらさ。その時は……」

「うん、僕がお前の夢を叶えるよ」

「はは。即答、かよ。でも、ちょっとだけ安心、したかもな」

 

灰の零れる量が段々と増えてくる。

それでも、タクミは夏樹を離さない。この場に彼が存在していたという事実を忘れないように。

 

「少しだけ、寝て良い、か?」

「別に良いよ。時間が来たら起こすからさ」

「あぁっ。そうしたら、また、話そうぜ」

「うん。約束だ……お休み、ナツキ」

「お、休、み……」

 

その言葉を最期に、日暮夏樹の身体は完全に灰となって消滅した。

安らかに眠る表情は砂のように流れ、僅かな体温や重みが消え失せていく。

 

「ナツキ……」

 

タクミは彼に言葉を残そうとした。

それは、あの時に助けられなかったことか、それとも小さい時の約束を果たせなかったことへの謝罪なのか……夏樹に向けた言葉を、彼は最後まで言うことは出来なかった。




次回でファイズ編は完結となります。欲を言えば井上ワールドを展開したかったのですが、再現出来なかったので自分の思い描くファイズを全面的に押し出しました。

 ちなみにリマジファイズことタクミですが、自分の解釈として写真撮影が得意という設定になっています。ただ幼い頃に寒い地方で両親と乗っていた車が事故に合い、その時にカメラ越しに父親と母親の死に顔が見えたことで写真撮影が苦手になったというトラウマがあります。ちなみに腕前はプロ並みです。
 高校に入って由里の写真への想いや考えを知り、写真部に入って彼女に写真の撮り方を教えていた……というのが自分の解釈です。
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