仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~ 作:名もなきA・弐
作品はこちらから →https://syosetu.org/novel/188149/
2014年、警視庁にて。
そこにある会議室に多くの刑事が集まっていた。
彼ら宛に送られた包装紙とラッピングで彩られた箱……安全を確認した上で開封された赤いプレゼントボックスに入っていたのは小さなUSBメモリ。そして、損傷の激しい男性らしき遺体の写真。
明らかな異常事態に捜査一課の面々が動き、送られたUSBに保存されていた動画が今再生されようとしていた。
『Hello、誇り高き警察官の皆々様。まずはこのメッセージを聞いてくれたことに感謝しよう』
映像に映し出されたのはタイヤを思わせる不気味な円形の紋様……何処となく壊れて潰れたようなエンブレムを思わせる映像はゆっくりと回転する。
年齢どころか性別の判断すらも難しいほどに加工された音声は、しわがれているように聞こえているにも関わらず、慇懃な態度が見え隠れしていた。
『写真の人物は、君たちならすぐに分かるだろう?警察の汚点、恥ずべき罪人だ』
嘲りにも似た声は語る。
この場にいる面々は分かっている、被害者と思われる写真の男『狩谷泉水』はかつて自分たちと同じ志を持っていた……元警察官の人間だ。
辞めた後は気ままに暮らしていると風の噂で聞いていたが、このような形で再会するとは夢にも思わなかっただろう。そんな彼らの動揺を見透かしたように、声は続ける。
『彼だけではない。今の組織がどれだけ出遅れているのか、肝心な時に走り出せないほどに落ちぶれた君たち全てが裁かれ、浄化されるべきだと思っている』
どんよりとした重苦しい空気が充満していく中、声は「そこで」と続ける。
『「ゲーム」をしよう。内容はシンプルな宝探しだ……木組みの街に君たちの『罪』を隠してある。さぁ、市民への誓いを思い出せ』
そこで映像は終わった。
誰も喋れない雰囲気に包まれる中、警視庁捜査一課の課長が口を開く。
「……以上が、我々に送られたメッセージです」
愉快犯の挑発、過激派の犯行声明……そのどちらとも取れる内容だが、ただ一つだけ確信出来ることがある。
これは捏造でも悪戯でも何でもない、正真正銘の『本物』であるという点だ。
困惑と不信、怒りと三者三様の反応を見せる彼らに内心では「当然か」と頷きつつ、話を続ける。
「送られた写真を鑑識や科捜研に依頼し、現場を特定。狩谷の遺体が見つかったと先ほど連絡がありました。ですが、犯人に繋がる証拠品は未だ見つかっていません」
渋い表情と共に告げられた言葉に、捜査員たちも動揺を隠し切れない。
これだけの大胆な犯罪をしでかしておきながら、殺人の証拠も犯行声明から繋がる身元の特定すらも出来ない……徹底的した後処理は明らかに素人では考えられない。
そんな中、一人の刑事が挙手をして立ち上がる。
「……先ほどの映像に、木組みの街という単語がありました。そうなると、狩谷泉水が見つかった場所も?」
「いえ、厳密には管轄ではない境界線一歩手前の場所です。しかし、事が事である以上は向こうにも情報を共有しているので、必要とならば彼らの助けも…」
「必要ありませんな」
そう遮ったのは、グレーのスーツを着た中年男性。
年齢相応の顔立ちだが何処か威圧的な空気を纏わせる彼は憮然とした様子で立ち上がると、それに合わせるように立ち上がった三人の部下たちを連れて課長の前へと出る。
「あの映像は我々捜査一課に対する宣戦布告だ。たかが交番勤務の警察官に頭を下げるぐらいなら、我々『異仁班』が内容の真偽も含めて町に捜査しますよ」
「我々が捜査するのはあくまでも狩谷の事件のみです。メッセージの内容に関しては木組みの街の警察官に一任します」
「もしも街に爆発物があったら?噂によると元軍人とかいう怪しい連中や機械生命体なる化け物だっている……危険な奴らが手を組んで危険物が埋め込んだ可能性だってあるでしょうや」
刑事『異仁』の不遜とも嫌味とも取れる言葉に視線を鋭くする。
今の言葉は、人間としても警察官としても聞き捨てならないものだ。
しかし、それでも彼は冷静さを崩さない。
「……市民を疑うのですか?」
「可能性の話をしているまでですが、貴方は随分と例の交番勤務を信頼しているようだ」
「警察官に階級はあれど格差などありません……今後はそういった発言は控えてください」
態度を崩さなかった彼に「ふんっ」と鼻を鳴らした異仁が後ろの部下に顔を向けると、残りのメンバーも従うように会議室から出てくる。
別の意味で重い空気から解放された彼らは今回の事件に関する捜査を始めるべく、それぞれの仕事へと向かっていく。
そんな中で一人の刑事が声を掛ける。
「課長」
顔を上げれば、そこにいたのは一人の若い刑事。
まだ未熟さがあるものの、その顔つきは確かな熱意を感じ取れる。
「……君に、一つ頼みごとをしても良いでしょうか?」
「もちろんです」
その言葉が、何よりも頼もしい。
独断で木組みの街に向かったと報告を受けた時は一抹の不安を覚えたが、どうやら彼にとって良い変化を与えてくれたらしい。
もしも第三者の介入があったなら、この刑事は己のブレーキが壊れていたことに気付かず暴走していただろう。
『悪を裁く』……それだけに固執してしまったかもしれない。
だが、きっと大丈夫。
本当の意味で走り出せた一人の警察官に、課長は一枚のメモを渡す。
「この部署にいる刑事と合流をしてください。この場で詳しいことは言えませんが、君の助けになってくれるはずです」
頷き、それを迷うことなく受け取る。
多くの言葉は、いらない。
後は、ゴールを目指して再び走るだけだ。
「頼みましたよ、相場君」
その刑事……『相場蓮二』は上司の言葉にもう一度力強く頷くと、会議室を後にした。
木組みの街。
正式名称「木組みの家と石畳の街」はヨーロッパを思わせる外観が特徴だ。
綺麗な街並みや心を落ち着けるようなコーヒーや紅茶を中心とした飲食店の数々……時間の流れがゆったりと感じるほどに穏やかで奇妙な街。
そんな街では今、ビッグイベントが起こっていた。
「DOLLS・チームAのシオリです。ラビットハウスへ是非お越しください」
それぞれのメンバーカラーに合わせた可愛らしい制服に身を包んだシオリがチラシを配り、上ずった声で宣伝しているサクラをミサキがフォローしている。
「チームBのレイナ。甘兎庵で私が直々にブレンドした緑茶の試飲を……あら、どうしたのナナミ?首を横に振ったりして」
着物にエプロン姿の制服を美しく着こなし、さり気なく自家製茶を勧めようとするレイナをナナミが必死に止め、ヒヨは元気よくチラシを配っている。
「チームC・アヤ!フルール・ド・ラパンに是非……てサボるなヤマダ!ユキは立ったまま寝ない、ちゃんと宣伝しなさいよぉーっ!!」
ロップイヤーのヘッドピースを装着したメイド服姿のアヤに至っては真面目に宣伝していない二人にツッコミを入れていた。
それでも集客効果があるのは、バラエティ豊かな彼女たちならではだろう。
「何か、こういうのを久々だなぁ」
そんな光景を、いつも通り姉の格好をしていた椋はのんびりと見守っていた。
何を隠そう。木組みの街は現在、人気アイドルグループのDOLLSがオールメンバーで訪れており、しかも各喫茶店の一日店員として働いているのだ。
店ごとの雰囲気を崩すことなく可愛らしい制服を着る彼女たちに、ほんの少しだけ役得を感じつつ椋は周囲の見張りを行う。
穏やかな空気の街だが、ここ最近では犯罪率が上昇しているという話もある。
出来ることなら警察が介入するような事態にならないことを祈りながら、一般人の振りをして歩いていた時だった。
(……ん?)
ふと、視界の端に怪しい影が映る。
気のせいかと思ったが、視線を向けた先には一人の男性がいた。
少し離れた場所で見つめているのなら、間近で見るアイドルに物怖じしている可能性もあったが身に着けている衣服に違和感があった。
汚れたシャツの上から羽織った煤で汚れた軍服の上着……別の喫茶店で着用している制服だと判断するには明らかに場違いで、周囲に気付かれないように隠れているのも見過ごせない。
明らかに不審者だと判断した椋が別の場所を警備している警察官と連絡を取ろうとした時だ。
「っ!」
「あっ、ちょっと!?」
椋の視線と目が合った男が背を向けて走り出した。
人ごみを分けながら慌てて追跡し、逃走を続ける背中を必死に追い掛ける。
やがて、人気のない場所にまで走っていた男の足が止まった。
「はぁっ、はぁ……あの、すいません」
息を僅かに切らした椋が声を掛ける。
先ほどは反射的に追い掛けてしまったが、穏便に済ませるべく事情を尋ねようとした時だ。
「……終わらない」
「えっ」
「革命の焔は、決して消えない」
瞬間、世界が緩やかに停止を始めた。
風が吹いたような感覚と共に人が、物が、ありとあらゆる動きがどんよりとしていく。
重加速……通称「どんより」と呼ばれる現象に驚く椋を余所に、男の姿も大きく変化した。
『現時刻、この瞬間をもって!亡き同志バーンの意志を遂行するっ!!』
それは、様々な拳銃のパーツで造られた人型と表現するのが正しいだろうか。
機械的な黒く光るメタリックボディを備え、両腕はガングリップを思わせる堅牢なものとなっている。
そして頭部の右目辺りは巨大な銃口とスコープが一体化したような不気味な造形となっていた。
支離滅裂ながらも確かな狂気と執念を宿した機械生命体031……進化態の一体である『ガンズ・ロイミード』は手始めに腰に下げた拳銃を手に取って追跡者である椋へと狙いを定める。
見せしめのつもりでもあるのだろう、満足に動けない彼に風穴を空けようとする。
しかし。
「ふっ!」
『なっ!?』
視線を鋭くした椋が距離を詰めるべく前進した。
重加速の影響下であるにも関わらず、先ほどまでと寸分なく動けている事実に動揺し、隙を見せたガンズに強烈な蹴りを叩き込む。
そして、腰に巻きつけたジクウドライバーに起動したロワライドウォッチを装着した。
「多分、ロイミュード……って奴だよね?だったら、やることは一つだ」
【LOI!!】
態勢を持ち直したガンズが放つ銃弾の嵐を躱しながら、ドライバーのバックルを回転させて叫ぶ。
「変身っ!」
【RIDER TIME! KAMEN RIDER!……LOI!!♪】
椋の変身した仮面ライダーロワがジカンハカリバーで銃弾を弾く。
一方のガンズは目の前の少女(と思っている)が全く未知の仮面ライダーだったことに驚きながらもすぐにもう一丁の拳銃を手に取る。
『対象に確認する、貴様は仮面ライダーかっ!?』
「そうだ……よ!」
それ以上の問答は「必要ない」と言わんばかりに振るわれたロワの斬撃を拳銃で防ぐ。
銃身の下に取り付けられた刃で鍔迫り合いをしていたが、ガンズはすぐさま距離を取って二丁拳銃を乱射。
ガンマンとしてではなく兵器や兵士としての感情から進化したロイミュードの放つ銃弾は内部のエネルギーを凝縮して生成、更に高威力で発砲することによって装甲すらも撃ち抜くことが可能となっている。
そんな降り注ぐ銃弾の雨を躱しながら銃の形態へと移行させたジカンハカリバーで応戦。
両者の間を無数の火花と煙が散るが、再び距離を詰めたロワの斬撃がガンズを身体を切り裂いた。
『ぐぅっ!?』
「ロイミュード相手なら、このウォッチで……!」
重加速が解除され、よろめくロイミュードから視線を外すことなく今度は赤と黒で構成されたライドウォッチ……ドライブのライドウォッチを取り出す。
ロワが重加速の中で動けたのもドライブの力を持っていたからであり、高威力の弾丸を際限なく放つガンズには照準を合わせられないように立ち回る必要がある。
そう判断し、ドライブライドウォッチを起動させようと時だ。
『そうはさせぬよ、異世界からの来訪者』
何処からともなく聞こえてくる声と共に右手に纏わりつく白い糸のようなもの。
それはロワの手に収まっていたドライブライドウォッチが離れ、同時にガンズの銃弾が命中した。
「うあっ!?」
地面を転がる彼の前に現れたのは中世の貴族を思わせる赤いコートを羽織った進化態ロイミュード……頭部と両肩は洋館を連想させる外観となっており、左肩から腕に掛けて白い蜘蛛の巣が覆われている。
胴体には古様々な記号や地形が簡略的ながらも記されており、それらはまるで古い地図を連想させた。
『悪いが、これは没収させていただく。我らの目的を果たすためにも、貴様にはここで退場してもらおうかっ!』
奪い取ったドライブのライドウォッチを掲げながら、そのロイミュードは頭部の顔に当たる窓を光らせる。
すると、地面が蠢くと同時に形を変えて簡易的な檻へと変わり、ロワを拘束する。
「ぐっ、あ……っ!」
『重加速発動!』
駄目押しとばかりにガンズが重加速を再び発動し、ドライブの恩恵を失くしたことでその影響を受けたロワの動きが制限されてしまう。
そしてガンズの両手に構えた二つの銃口が向けられ、抵抗する手段を失った仮面ライダーに風穴を空ける……はずだった。
『ぬっ?』
『……ちっ。思ったよりも速い……いや、攻めあぐねていたこちらの落ち度か?』
響き渡る車のエンジン音。
重加速下であるにも関わらず、それを突き破るように現れた赤くシャープなスポーツカー。
停止しようとする世界で走る文字通りのスーパーマシンの進路を援護するかの如く、掌サイズのミニカーを模した機械が先陣を切る。
炎の如きオレンジ、刺々しいライトグリーン、夜景を反射したパープルの車体が牽制とばかりに二体のロイミュードに突撃し、攻撃を中断させるとオレンジのミニカーが檻を破壊しながらロワの元に来る。
思わず手に取った瞬間、どんよりとした重加速が解除された。
「これって『シフトカー』?じゃあ、あれは……!」
「進化態が二体、随分と珍しいな!」
颯太から聞いた、人間を護るべく開発されたサポート用小型マシンに様々な機能を積んだスーパーマシン『トライドロン』。
そのドアを開けて出てきたのは、一人の警察官だった。
着崩した警察の制服とは対照的にきっちりと締まったネクタイと、目の覚めるような眼差し。
木組みの街に辿り着いた際、椋とDOLLSたちに簡単な道案内をしてくれた交番勤務の警察官だ。
赤味がかった茶髪の青年はブラックの缶コーヒーを手に持ったまま、解放されたロワに視線を向ける。
「……壮間?」
「えっ?」
警察官が呟いた聞き覚えのない名前に驚いた様子のロワを見て、彼も困惑と驚きが混じった表情を見せる……恐らくは本人も無意識に口から出た言葉だったのだろう。
その警察官は気を取り直すと改めて二体のロイミュードと対峙する。
そして、缶コーヒーを一気に飲み干すと左手に持っていたベルトを腰に装着した。
「最初からトップギアに行くぜ……Start my engine!」
エンジンが急速に上がり、熱く叫んだ決意表明と共にベルトのバックル部分にある赤いイグニッションキーを警察官『栗夢走大』が捻る。
手元に飛来し、変形させた己の相棒である赤いシフトカー『シフトスピード』を左腕のブレスレットに装填後、彼は『あの言葉』を口にする。
「変身っ!」
ブレスレット……シフトブレスに装填させたレバーを倒す。
シフトカーの情報を伝達したベルト『ドライブドライバー』はその戦士の名を叫ぶ。
【DRIVE! TYPE-SPEED!!】
体の周囲に生成された黒いスーツと赤いアーマーが、走大の全身を変貌させる。
そしてトライドロンから射出されたタイヤが左肩からタスキ掛けで突き刺さるように装着されたことで、その変身が完了した。
そう、彼こそが小野寺椋……仮面ライダーロワが初めて出会うドライブの変身者。
『仮面ライダードライブ』
心に灯したエンジンと、常にトップギアで走り続ける戦士。
止まった世界に恐れることなく進み、その活路を切り開く宿敵に二体のロイミュードが警戒を強めて戦闘態勢に入る中、ドライブもまた腰を低く落とす。
そして、複眼のライトを光らせながら宣言した。
「ロイミュード!一っ走り、付き合えよ」
この男、交番勤務の警察官で……仮面ライダー!