仮面ライダーロワ ~歴史を守護する仮面の王~   作:名もなきA・弐

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 この作品は言わばお試し版や体験版です。なので作者のモチベや読んでくださった方の反応次第では本格連載しようかどうか考えています。


本編
TIME0 ライダータイム0622


この世界は地獄へと変わった。

そびえ立ったビルは崩落し、コンクリートの地面は砂へと変わり、自然の木々は枯れ果ててしまっている。

青年の住んでいた『世界』は突如現れた『怪物』によって消滅させられたのだ。

今、彼が佇んでいるのはその抜け殻…「残骸」とも言うべき場所。

だが今の彼には『力』がある。

自分の家族を、仲間を奪った連中と戦えるだけの『王の力』を手に入れたのだ。

 

「俺は、お前らを絶対に許さない……!!」

 

この場にいない怨敵に対して青年は時計のようなバックルを腹部に当ててベルトを射出させる。

そして手に持ったデバイスのスイッチを起動させ、低く呟いた。

 

【REX!!】

「……変身っ」

 

こうして世界を渡る王は復讐のため、自分の世界のような悲劇を繰り返さないために歩みを進める。

 

 

 

 

 

そこは、壮大で幻想的な場所だった。

白い花や若々しい芝生に足をつけ、何処かも分からない虹色のような綺麗な空を見上げる。

まるで絵画の中に閉じ込められたようだ……。

そんな非現実的な考えと共に、長い髪を耳に掛けた時だった。

 

「ひゃっ」

 

突如、一陣の風が吹く。

強くはなかったが、思わずスカートを抑えてしまう。

花の匂いが鼻腔をくすぐる。

思わず閉じた眼をゆっくり開いた。

 

『この物語の、主演はあなた……』

「えっ」

 

聞こえてきた声に、思わず辺りを見渡す。

この不思議な場所にいるのは自分だけ……なのにその声は決して大きくないにも関わらず、はっきりと自分に聞こえてくるのだ。

混乱しているその様子に気にすることなく、声は話を続ける。

 

『あなたを定義します。あなたの名前は?』

「…椋。『小野寺椋(おのでら りょう)』……」

 

思わず、自分の名前を口にしてしまう。

不思議と警戒心を抱かなかった……。

聞こえてくるその声は、何処か落ち着くようで何故か心が安らぐような錯覚さえ持ってしまう。

口にした名前を『声』はインプットするように何度も復唱する。

しばらくすると、再び『声』が響いた。

 

『私は、あなたを定義しました。これで歴史を紡ぐ舞台の準備が整いました』

「ま、待って!」

 

一方的に物事を進めようとする『声』に、流石に焦りを抱き始めた椋は思わず呼び止める。

 

「君は、一体…」

 

その問い掛けへの答えが返ってくることも、耳に届くこともなく、椋の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

ふと自分の意識が覚醒すると、目の前に一人の少女がいた。

桜を思わせるような髪色のセミショートに一本のアホ毛、白いワンピースタイプの衣服の上に桜色の上着を羽織っている可愛らしい顔立ちの少女……。

誰からも好かれる印象を与えるような女子が心配そうな表情で覗き込んでいたのだ。

 

「あの……大丈夫、ですか…?」

 

目が覚めたことに気づいた少女が、体調を労わるように自分に話しかけてくる。

「大丈夫」と頷きながらも、まだ覚醒しきっていない身体を無理やり動かして立ち上がってから周囲を確認する。

 

「良かった、いきなり倒れたからびっくりしました」

「あー、その。ごめん……」

「せっかくのライブなんですから、倒れちゃったらもったいないですよ?」

 

安堵した表情を見せる少女…まるで自分のことのように表情を変える彼女に頭を下げるが、少女は笑顔見せて続きを話す。

ふと、『ライブ』というキーワードに思わず小首を傾げる。

 

「だって、そのチケット……『DOLLS』のライブチケットですよね?ほら、一週間記念ライブの」

 

彼女の言葉に、段々と思い出していく。

そうだ。確かに自分はこのチケットを手にライブ会場へと向かおうとしていたんだ。

倒れたせいか記憶がぼんやりとしているので未だに実感が湧かなかったが、意識もはっきりしてきた。

青いスカートについた汚れを払い、同じカラーの帽子を被る。

 

「うん、大丈夫……心配してくれてありがとう」

「いえ……じゃあ、私はライブに行くので。気を付けてくださいね」

 

頭を下げると、少女は背を見せてそのまま早足気味に去って行く。

そんな彼女の後姿を見送ってからポツリと呟く。

 

「……可愛くて良い子だったな」

 

そんなことを口にしながら『小野寺椋』も目的地のライブ会場へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

同時刻……。

少女『笛真晴子』の休日は最悪の日へと変わった。

祖母のために趣味でもある手品の道具を買い、はやる気持ちを抑えるように帰路へ着こうとした時だ。

自分の通う学校でも性質の悪い同級生とその取り巻きと偶然出会ってしまったのだ。

その女子生徒は晴子に絡み、自分の大切な物を無理やり奪い取る。

「返してっ」と声をあげる彼女の態度に女子生徒たちは気分を良くしたのか、それを地面に落とし脚を上げる……その動作だけで何をしようとしているのか分かった。

必死に抵抗する彼女に笑みを浮かべながら、足を振り下ろそうとした瞬間……世界が停止した。

最初は止めてくれたのかと思ったが、止まっている取り巻きたちの様子から冗談ではないことが理解出来る。

困惑する彼女に、声がかけられた。

 

「危ないところだったね」

 

そこに現れたのは、右肩に黄色い布を巻き付けてある赤いジャケットを羽織った青年……外国人とのハーフのような端正な顔立ちには憂いのある表情を張り付けており、何処となく人を惹きつけるような存在感を放っている。

 

「あなたは……誰っ」

「誰だって良いじゃないか。今の君にとってはね」

 

青年は優しく微笑む。

その表情に少しだけ緊張しながらも、目の前にいる普通じゃない青年から視線を外せないでいる。

 

「このままだと、君は彼女たちに虐げられた挙句、命を落とす結果になる。大切な希望を壊されてね」

 

そう言ってリーダー格の女子生徒が踏んで壊そうとした玩具の指輪を手に取って彼女に渡す。

それは祖母からもらった大切な宝物、他の何よりも価値のある……その少女にとっては「希望」と呼んでも差し支えのない品物だ。

大事そうに胸元へと持っていく晴子に対し、「だけど」と青年は言葉を続ける。

 

「僕と契約することで、君は自分の歴史を守る力が手に入る」

 

「どうする」と言いたげに青年は少女と視線を合わせるように対峙する。

しばらくの間その問いに逡巡するが、やがて意を決したのか小さく…だけどしっかりと頷いてしまった。

契約に成功した青年は、楽しそうに再び微笑んだ。

 

「それなら、今日から君も…『仮面ライダーウィザード』だ」

 

そう呟いた瞬間、何時の間にか持っていた無機質な黒い掌サイズのデバイスに異変が起きる。

 

【WIZARD…!!】

 

不気味な、擦れたような電子音声が鳴り響くと同時に紫色のようなストップウォッチや懐中時計のようなデバイスへと変化する。

だが、中央には罅割れた赤い宝石と骸骨を混ぜ合わせたような醜悪なマークがイラストされていた。

そのデバイス『レプリカウォッチ』の上部のボタンを押して起動させた青年は女子高生の身体へと埋め込ませる。

 

「うっ!?あ、あぁ……!!」

 

何が起こったのか分からぬまま、自分の体内に入り込んで行く異物に恐怖し苦しむ。

やがて闇のような紫色のエネルギーが苦しむ少女の身体を纏い、火の粉と宝石の輝きのような一瞬のエフェクトと共に歪な姿へと変貌させた。

 

『な、何これ……!?』

 

突然の出来事に晴子は困惑し自分の身体を自分の手で触る。

両肩と胸にある髑髏の造形にボロボロになった赤いローブ、そして左手の中指にはめたメリケンサックのような赤い指輪から辛うじて魔法使いを彷彿させる。

しかし、こめかみから生やした銀色のリングや後頭部の鷲掴んだような骨の手とルビーのような赤い宝石のようなマスクは粉々に割れてしまっている。

ドクロのように落ち窪んでいる目の辺りには瞳が存在し、マスクの下には剥き出しになった歯を思わせるクラッシャーが薄っすらと見える。

マントには「WIZARD」の文字が書かれ、背中には「2012」の年号を思わせる四桁のナンバーが刻まれている。

 

「さぁ、彼女たちに見せてあげな」

 

最高のショータイムをね……。

そう言ってから微笑んだ青年はその場から立ち去る。

突然変わった自分の姿と、溢れ出る不思議な力が目の前の連中に対して今まで抑え込んでいた憎悪が沸き上がり……そして時間停止が解けた瞬間。

 

『ううっ、あああああああああああああああああっっ!!!』

【FLAME】

 

指輪の魔法使いの力を模倣した『レプリカライダー』は骸骨の手を模したバックルに指輪をはめてある左手にかざし、火属性の魔法を自分の怒りごと爆発させた。

 

 

 

 

 

ライブを終えた椋は、外に出てからもしばらくぼうっとしていた。

DOLLSはここ最近で話題になっている八人のアイドルグループでありA・B・Cの三つのチームで構成されているのだが、今回はチームメンバー勢揃いでのライブイベント。

メンバーたちのルックスもさることながら、歌唱力やダンスなどのパフォーマンスは見る者を魅了させていた。

胸が熱くなるような高揚感も冷めやらぬまま、ふと視界の端に映った見覚えのあるアホ毛に反応する。

 

「ね、ねぇっ!」

「あ。さっきの…」

「さっきはありがとう。まだちゃんとしたお礼をいっていなかったから…」

 

帽子を取って頭を下げる椋に、先ほど出会った少女は「いえいえ」と慌てた表情を見せる。

「優しい子だな」と思うが、これ以上お礼の言葉を行っても彼女を困らせるだけかもしれない……そう判断して話題を変える。

 

「それにしてもさ。ライブ……すごかったね」

「はい!やっぱり、DOLLSは素敵だなって……」

「うん。みんなが熱中するのも分かる気がする」

 

瞳が輝かせる少女に、椋も自分の素直な感情を言葉にする。

DOLLSはテレビでもよく観るが、やはり本物を間近で見ると本当にファンになりそうだ。

 

「……」

「えっと、どうかした?」

「もしかして、モデルさんか何かですか?」

「うえっ!?」

 

ふと自分を黙って見つめてくる視線に苦笑いすると、突拍子もない言葉に椋は思わず変な声を漏らしてしまう。

少女から見れば黒く長い髪を後ろに垂らし、華奢でスレンダーな体型と可愛らしい顔立ちをしている椋は何処かのモデルに見えるだろう。

服装も赤の装飾が入った白い長袖のシャツに、青のスカートと帽子。黒いハイソックスを着用しており、それが様になっているのだから猶更だ。

 

「そんなことないって!だって…」

 

その続きを口にしようとした瞬間、『何か』が視界によぎった。

気のせいかと思ったが『何か』はやがて視界へと入り込んでいく。

幻想的で何処か不気味なその光景に二人は口を開いた。

 

「「青白い蝶……?」」

 

二人が気づいた時、『頭部だけの奇妙な怪物』がこちらに牙を向けて襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

朦朧とした意識を振り払うように、ゆっくりと立ち上がる。

何が起こったのか…身体を蝕む痛みに堪えながら周囲を見渡すが、そこは先ほどの賑やかな光景が嘘のように荒廃していた。

空は暗く、日の光さえもない空間に椋は驚くもすぐに一緒にいた少女のことを探す。

瓦礫のせいで悪くなっている足場に苦戦しながらも、捜索を開始して数分後に彼女は見つかった。

 

「逃げて、ください……」

 

先ほどとは逆に、椋を見上げる少女。

だが、その身体は既に満身創痍であった。

可愛らしい服装は破け、肌は瓦礫や怪物たちによってあちこちに傷がついている。

……そして何より、腹部に大きな傷跡が入っていた。

新しく出来たその傷からは赤い血が止めどなく溢れ、少女の周囲を赤く彩っていく。

それに群がるのは先ほどの青白い蝶…まるで蜜を求めるように現れる蝶の群れはまるで死に装束を彷彿させる。

誰が見ても手遅れ……しかし椋は目の前の少女を見捨てることが出来るほど、賢い人間ではなかった。

 

「放っておけないって!まだ…」

「この娘はもう手遅れだ」

 

自分の服が汚れるのを気にせず、彼女を抱えて移動しようとした時、女性の声が響いた。

冷たい声色に思わず振り返ると、その場にいたのは黒いスーツに身を纏った長身の女性。

黒いロングヘアーを靡かせ、冷たい表情を美貌に張り付けたその女性は動揺する椋に気にすることなく近づき、命の灯が消えそうになる少女を見下ろす。

訳も分からず、無念のままこの世から消え去ろうとしている少女に表情を変えることなく問いかける。

 

「お前は選ばれた。だから選ばせてやる」

「…何を、ですか?」

「『人形として惨めに生きる』か。『人間として尊厳を持って死ぬ』か」

 

椋は「何を」と言おうとするが、女性は鋭い視線で黙らせると再び少女の方へと視線を戻す。

少女の答えは…決まっていた。

 

「私は、生きたい……だって、まだ何もしてない。まだ…何も出来ていない…!」

 

「だからっ」と必死に声を出そうとする少女の言葉に、一瞬だけ瞳を閉じた女性は椋に鍵穴のあるアンティークなハート型の奇妙な物体を投げ渡す。

 

「娘…それを心臓へと差し込め」

「……そうすれば、助かるんですかっ」

「命だけは、な。生前の知り合いであるお前が楔を打ってやれ」

 

何処か含みのあるその言葉に、一瞬だけ逡巡する。

果たしてあの女性の言動に信憑性はあるのか、そもそもこの惨劇について事情を知っている彼女は何者なのだろうか……様々な考えが浮かんでは消える。

 

「ちっ、嗅ぎ付けてきたか」

 

忌々しそうに舌打ちをする女性の声に振り向くと、そこには先ほどの怪物が得物を見つけたように近づいてきた。

背に腹は代えられない……。

 

(怪物は一匹だけ……それなら、この子を助けてあの女の人と一緒に逃げ切れるかもしれない)

 

椋の答えは決まった。

 

「待ってて、必ず助けるから」

 

そして少女の心臓部へと、その物体を宛がい差し込んだ。

瞬間、眩いほどの光と共に少女は『蘇った』……。

先ほどまで着用していた衣装は黒を基調とした物へと変わっており、胸元の部分には鍵穴の空いた装飾が特徴的で、頭部には同じく黒のリボンを身に着けている。

だがその表情は悲しみも喜びもなく、口元を隠すようなデザインの衣装も相まってまるで機械や人形のように無機質だ。

瞳の色も赤く染まっており、明らかに正常ではない。

 

「あ、あの…」

「……」

 

安否を確認しようと声を掛ける間もなく、少女は襲い掛かってきた怪物に向かって一直線に走る。

一瞬で距離を詰めた彼女は何時の間にか手に持った両手剣で怪物を両断した。

真っ二つにされた怪物は悲鳴をあげながら、そのまま消滅する。

怪物を倒した少女はまるで人形のように一歩も動かないまま立ち尽くしている。

 

「ねぇ、君。君っ!!」

 

そんな無機質な彼女の様子に、耐えられなくなった椋は肩を掴んで必死に声を掛ける。

だが少女はそれに答えることはない。

それを見ていた女性が淡々と言葉を述べる。

 

「命と超常の力を代償として感情と記憶を捧げる……それが『ドール』の生き方だ」

 

聞いたことのない単語を口にするが、それでも椋は声を届けずにはいられない。

覚えているからだ。

例えほんの僅かに話しただけの知り合いだとしても、関係のない赤の他人だったとしても……。

 

「でも覚えてるっ!君のことをっ、君の記憶をっ!!」

「……無駄なことを」

 

必死に呼び掛けるその姿に、女性はただ見ているだけだ。

それでも、椋が納得するまでそのままにしておこうと静観していた時だった。

 

「……あっ」

 

ふと、少女が椋の顔を見た。

心配そうに、今にも泣きそうな表情を見せている同年代の知り合いに声を掛ける。

 

「どうしたんですか?もしかして、また倒れちゃったとか……」

「なっ…!?」

 

心配そうに椋へ語り掛ける少女に、女性は初めて驚きを露にする。

確かにあの少女はドールになっているはず……。

しかし、そんな彼女の心情を余所に先ほどと同型の怪物が群れを成して現れる。

 

「っ、まだ『ピグマリオン』がいたのか!」

「あ!あの時の怪物……!!」

 

自分に襲い掛かった「ピグマリオン」と呼ばれた怪物に少女は恐怖し、椋が彼女を守ろうと前に出る。

完全に感情が戻っている様子の彼女に女性は増々驚きを露にする。

しかし、それで戦況が変わるわけもない……戦えない二人を庇うように立つ女性が「どうするか」と知恵を巡らせたその時だった。

乾いた音と共に怪物……ピグマリオンの一体が吹き飛んだ。

飛ばされた巨大な口だけのピグマリオンは音もなく消滅し、その残りと椋たちも攻撃された方向を見る。

そこにいたのは遠くからでもはっきりと分かるほどの多種多様な武器を構えた八人の少女たち。

その少女たちに椋はただ驚くことしか出来なかった。

黒い衣装と赤く染まった瞳という差異こそがあるが、あの少女たちは間違いなく『DOLLS』のメンバーだったからだ。

それぞれの武器を構えた少女たちはピグマリオンの方へ飛び掛かる。

青いポニーテールの少女とオレンジカラーのツインテールが特徴の少女たちが両手剣で切り裂き、彼女の背後を狙おうとしたピグマリオンに幼い顔立ちをした少女と水色のショートヘアーにしたダウナー気味の少女の二人が巨大な槌を振り下ろして直撃させる。

残りのメンバーが怯んだピグマリオンたちに照準を定め、両手に構えた二丁の銃で狙撃して殲滅させる。

このまま彼女たちが一気に場を制圧しようと更に動き始めた時だった。

 

『何、ここ……』

 

見たこともない、魔法使いを彷彿とさせる骸骨の怪人が周囲を見渡しながら、現れたのだ。

罅割れた赤い宝石のような歪な外観は何処となくマネキンを思わせるピグマリオンとも異なり、何よりも理性のある動きをしているのが余計に異質だった。

突然の乱入者に青いポニーテールの少女は先立って武器を構え警戒する。

だが怪人…レプリカライダーはそれに気にすることなく標的を当てもなく探す。

取り巻きの連中は既にこの力で病院送りにさせたが、逃げてしまった主犯の追跡をしていた際、この場所へと迷い込んでしまったのだ。

得物が来たと本能で判断したピグマリオンは彼女の周囲に現れるが……。

 

『邪魔、するなぁっ!!』

【PAPETT】

 

標的を逃したことへの苛々と自分に襲い掛かってくる怪物に対して魔法使いのレプリカライダーこと『レプリカウィザード』は左手をかざして操り人形の魔法を行使する。

白い糸がピグマリオンたちに巻き付かれた瞬間、それらは身体の向きを変えて周囲への破壊活動を開始する。

 

『何処に隠れたぁっ!!出てこないならこの辺一帯破壊してやるぅっ!!』

「このっ!」

 

流石に蛮行に眼鏡をかけたショートヘアの少女がレプリカウィザードに向けて銃弾を放つが、ダメージを与えられている気配はない。

しかし、半ば暴走状態になっている怪人は自分に攻撃をしてきた存在に怒りを爆発させると再び左手をバックルに当てる。

 

『邪魔だって言ってるでしょ!?』

【GRAVITY】

 

すると周囲の瓦礫は浮かび上がり、少女たちへと凄まじいスピードで迫る。

辛うじて彼女たちはそれを躱すもレプリカウィザードは既に次の魔法を発動させていた。

 

【THUNDER】

『きゃあっ!?』

 

地面を焦がすほどの凄まじい速度と威力の落雷が降り注ぎ少女たちはダメージを負ってしまう。

 

『あ、あはっ。あははっ!あっはははははははははははははははははははははははっっ!!!!』

 

自分に与えられた強大な力にレプリカウィザードは狂ったように笑う。

やがて止めを刺そうと左手を動かそうとしたその瞬間、レプリカウィザードの身体が大きく揺らいだ。

見てみると、椋が怪人の腕に掴まって少女たちへの攻撃を妨害していたのだ。

 

『こんのっ…放せぇっ!!』

「うわっ!?」

 

無理矢理引き剥がされた華奢な身体はそのまま地面へと叩きつけられ、転がるがそれでも立ち上がり必死にしがみつく。

彼女たちのような力を持っていなくても、動かずにはいられなかった。放って逃げることなど出来なかった。

きっと誰かが悲しむから、きっと誰かが涙を流すから……今の椋を動かしているのは、それだけだ。

 

「これ以上、誰かを悲しませるようなことはさせないっ!」

 

傷だらけになりながらもそう叫んだ瞬間、椋の腰と右手に白い光が灯る。

それは一瞬で消えたが、腰には時計のようなドライバーが巻き付かれ、右手にはやや大きめの赤いウォッチが握られていた。

気にすることなく右手で持ったウォッチの外側…ベゼルに当たる部分を左手で回すと緑色のゴーグル状の複眼を持った仮面の戦士へと変わる。

そして、上部のスイッチを押した。

 

LOI(ロワ)!!】

 

ロワ……フランス語で「王」を意味するライダーの力を宿したライドウォッチ『ロワライドウォッチ』をジクウドライバーの右側へセット。

すると同時にアンティークなデザインの置時計を思わせるエフェクトが背後に出現する中、椋は誰に教えられたでもない独自の構えを取る。

自分の心臓の音を重なるようにカチ…コチ、と鳴り響く時計の針の音を聞きながら左手は拳を作って腰の横へ置き、右腕を左前へ突き出してからそれを右側へゆっくり動かす。

そして『あの言葉』を叫んだ。

 

「……変身っ!!」

 

掛け声と共に振り下ろした右腕でドライバーを回転させる。

 

【RIDER TIME!】

 

電子音声が鳴り響き、エフェクトから鏡文字となっている「ライダー」の文字が出現すると赤と緑のエネルギーが椋の全身を覆う。

 

【KAMEN RIDER!……LOI!!♪】

 

やがて華奢なその身体に燃えるような赤いインナースーツが装備されると、緑色の文字がゴーグル状になっている部分へ収束されることで変身が完了した。

この姿こそが、歴史を歪める存在を排除し正しき未来へと修正する王の姿……。

 

『仮面ライダーロワ』……今ここに、世界を護る王が誕生したのだ。

 

「えっ、あれ?何、これ…」

 

少女たちと女性が姿を変えた椋に驚くが、一番動揺しているのは本人だ。

黒い手袋で自分の身体を何度も触り今の自分の姿を何度も確認している。

 

『っ、お前も邪魔者かぁっ!!』

 

困惑した空気の中で、レプリカウィザードは自分と似たような力を持つ敵に敵愾心を露にする。

すかさず自身の忠実な僕と化したピグマリオンを操って襲わせる。

しかし…。

 

「ふっ!でりゃあっ!!」

 

巨大な頭部のようなピグマリオンの単調な攻撃を僅かな動作で躱し、隙だらけになった横側に強烈なキックを叩き込んで消滅させる。

その光景に全員が驚く……特にDOLLSである彼女たちにとっては無理もないだろう。

一方のレプリカウィザードは半ばやけくそ気味に次々とピグマリオンたちをけしかけるが、ロワはストレートパンチやハイキックなどで次々と蹴散らしていく。

優勢に立っているように見えるが、一方のロワは自分の攻撃手段が徒手空拳であることに限界を感じていた。

あの様子だと恐らくあの怪人は至近距離での戦闘は不得手かもしれない。だが、遠距離からの魔法を続けざまに放たれてはこちらが一気に不利になる可能性がある。

「どうしよう」と頭を悩ましていた時、目の前に「ブレード」と書かれた緑色の文字が出現し、反転すると『ある形』へと具現化させた。

 

【JIKAN HACALIBER!】

 

現れたのは西洋剣のような武器で、白い刀身には「ブレード」と鏡文字で記されている。

「これなら」と『時間剣銃 ジカンハカリバー』を構えたロワは一気にレプリカウィザードへと肉薄し、髑髏の模様にもなっている胴体へと斬撃を浴びせる。

火花を散らしながら悲鳴をあげた魔法使いの怪人は距離を取ろうとするも、その間にも鍔の部分にあるレバーを押し込んで回転させると「ショット」と鏡文字で記された銃身が出現する。

 

【SHOT!】

「はぁっ!」

『ああああああああああああああっっ!!?』

 

不意打ち気味の零距離射撃を受けたレプリカウィザードは再度火花を散らして、後方へと大きく吹き飛び倒れる。

完全に弱ったのを確認したロワは武器を投げ捨てて終わりの時を刻むべく次のアクションへと移行する。

 

【FINISH TIME!】

 

ベルトにセットされているロワライドウォッチのスイッチを再度押し、バックルのロックを解除したロワは再びベルトを回転させた。

 

「はぁぁぁ……!!」

 

煙を上げながら尚も立ち上がろうとするレプリカウィザードを見据え、助走をつける。

そして一定のところで地面を蹴って飛び上がり、そのまま赤いエネルギーを纏った渾身の飛び蹴りを放った。

 

【TIME STRIKE!!】

「らああああああああああああっっ!!!」

『があああああああああああああっ!?」

 

ライダーキック『タイムストライク』を躱すことも出来ないまま、直撃を受けたレプリカウィザードは爆散。

その中央に、ロワはまるで王のように悠然と立ち尽くすのであった。




0622……プロジェクト東京ドールズが配信された日『6月22日』。

 本作に登場した怪人『レプリカライダー』はジオウに登場するアナザーライダーの劣化品ともいうべき存在です。よって「アナザーライダーの力は同じ時間には共存できない」というルールは存在していません。
 レプリカライダーを生み出した青年はタイムジャッカーとは異なる存在です。
 ではでは。ノシ

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