もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話 作:ジョーカー:ゼノ
とりあえず町を出たところで、アリスはルカを呼び止めた。
「貴様の戦い方を見て、一つ気付いたことがある。貴様がモンスターを殺したくないというのは、嘘ではないようだな。そのせいで剣術のキレが鈍っているようだな。」
「うん……そうかも知れないね。」
ヴィクトリーの方は拳なので、手加減しようと思えば手加減できる。だが、ルカの戦闘スタイルは剣術を使う。ゆえに相手を生かそうとしても手加減しようがないのだ。さすがのルカも襲いかかってくるモンスターの命を奪うことは躊躇している。そのせいで無意識に剣が鈍っているのだった。
「アリス、そういう事を言うって事は何か用意してあんのか?」
「勿論だ。余を誰だと思っている。」
「……だいたい察しはついてるけど今は言わねぇようにしとくよ。」
ヴィクトリーが目を鋭くしてその言葉を言う。その言葉を聞いたアリスはふっと笑い、そして僕の方に向いた。
「という訳で、ルカ、貴様にこれを貸してやろう。」
「うげ……何だこれ!?」
「き、キモッ……」
二人はアリスが取り出したものを見て、口を揃えて同じ感想を言う。
「堕剣エンジェルハイロウ……この世に一本しか存在しない、極めて貴重な剣だ。」
その剣は、見るからに不気味で邪悪なオーラか何かが漂っていた。そして剣にまとわりつく無数の天使のようなものは苦悶の表情を浮かべ、剣に溶けている。
「今後の戦いではこれを使うがいい。」
「う、うえぇ……?これを……?」
「ど、どう考えても勇者が持つ剣じゃねぇ……」
いったい何の嫌がらせなんだこれは。
こんなの持ち歩いていたら、「私は悪者です」と言ってるようなもの。正直、触りたくもない。
「や、やだよこんな気味悪いの……」
「貴様ら人間が喜ぶ天使が柄や刀身に埋め込まれているだろう。ありがたいとは思わんのか……?」
「そ、そういう問題じゃねぇ……」
「その天使、苦悶の表情浮かべてるし……」
どう見てもありがたみのあるものじゃない。
「ち、ちょっといいか……?」
ヴィクトリーがエンジェルハイロウを持ち、そしてぶんぶん振り回す。そして、意外そうな顔をした。
その様子をアリスが少し驚いたような目で見ていた。
「見た目以上に軽いみたいだぜこれ。剣術を使うにしても全然邪魔になんねぇし。」
「……その剣は耐性がない奴が持つと五秒で昏倒し、十秒でその者の命を奪うそうだが……貴様、なぜ持てる?」
「知るかよ。もうとっくに十秒経ったって事は、俺に耐性があるんだろ。ほれ、ルカ。」
「……つくづく不思議だな……貴様は……」
ヴィクトリーがエンジェルハイロウをルカに渡そうとする。だが彼はさっきのアリスの説明を聞いて余計触りたくなくなっていた。
「や、やだよ……何でそんな危なっかしい剣持たなきゃいけないんだ……」
「大丈夫だって!安心しろよ!ほれっ!」
無理矢理持たされてしまった……どうやら僕にも耐性があるらしく、体に異常は無かった。そして、ヴィクトリーの言う通り、見た目程重くない。だが……
「ひぃっ……!今、何か呻き声みたいなのが聞こえなかったか……?」
「当然だろう。666匹の天使を溶かして精製した剣なのだから。」
「その……正直本気で嫌なんだけど……」
こんな禍々しいもの使っていたらイリアス様に見放されてしまうのでは……
「むむ……でも、どうせこいつで切りつけた敵には不思議な事が起きるんだろ?」
アリスが頷き、説明を始める。
「その剣には天使の怨念が込められており、聖素の含有率が極めて高いのだ。その効果により、魔素を消散し生骸から引きはがすという効果がある。それによって魔素を固着することが極めて困難となり……」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ……」
「は、話が難しすぎて俺頭が爆発しちまいそうだ……」
「……ドアホな貴様らにわかりやすく言うとその剣で致命傷を与えた敵は一時的に退化した姿になる。」
ヴィクトリーが腕を組み、発言する。
「……例えば、スライム娘だったらただの粘液になったり、ナメクジ娘ならただのナメクジになったり……って事か?」
「その通り。ヴィクトリーの言う通り、命を奪わずに無害化……つまり魔物を封印する事ができるのだ。」
「命を奪わないで無害化……この剣が……?」
ルカとヴィクトリーはエンジェルハイロウに目を向ける。
「……どう妥協して見ても命を刈り取る形してっぞ。」
「うん……」
正直この剣で魔物を無害化して封印というのもピンと来ない。
「……む、ちょうどいい相手が近づいてきたではないか。」
「……らしいな……」
「えっ……?」
少し離れた所の地面が膨らみ、もこもこと近づいてくる。
「百聞は一見にしかず。その剣でトドメを刺してみろ。それでは余は少しこの場を離れるぞ。」
そう言い残し、アリスはふっと消えてしまった。
「あっ!?おい!アリス!?」
「ルカっ!よそ見してる場合じゃねぇぞ!」
うろたえている間に地面の膨らみは近づいてきて……僕達の前に姿を現した!
腕のない女の上半身、そしてミミズの下半身。そんなモンスターが僕達の前に立ちふさがった。
「あんた達旅人?ちょっと精液絞っちゃうけどいいよね?」
「かぁっ……気持ち悪ぃっ……やだおめぇ……」
「いいわけがないよ。魔物との交わりはイリアス様によって禁止されているんだ!」
ルカはいつもの剣ではなく、エンジェルハイロウを手に取り、構える。
「……そいつでトドメ刺しゃいいんだろ?」
「……多分……」
ヴィクトリーも構え、臨戦態勢をとる。
「ネバネバになっちゃえ!」
ミミズ娘は、いきなりネバネバの粘液を分泌し、こちらに飛ばしてきた。
「くっ!」
「ふんっ!」
ルカは剣でガードし、ヴィクトリーは素手で粘液を弾き飛ばし、ミミズ娘の顔面に気合砲を放った。
「っ!?」
彼の気合砲をまともにくらったミミズ娘は鼻血を吹き出しながらよろける。
「てやぁっ!」
そこにすかさずルカが追い討ちをかけるように彼女を切りつけた。
「あぐっ……!?……な、なんか……切られた所から力が抜けていく……」
「……アリスの説明はホントみてぇだな……」
「うん……みたいだね……」
「だけんどこの程度じゃダメみてぇだ……もっとダメージを与えるぞ!」
そう言い、構え直した二人。だが、ミミズ娘もやられてばかりではなかった。
「このっ……!!」
ミミズ娘はルカに接近し、巻きついた。
「このままじゅるじゅる搾り取ってあげる……」
そう言い、皮膚粘液を分泌し、ルカの全身がぬるぬるにしてしまった。
「ひゃ……やめろ……!」
ルカは手足をバタバタさせ、もがいた。だが、ミミズ娘に離れる気は無いらしい。
「悔しいねぇ……巻き付かれて……離して貰えなくて……惨めだねぇ……」
「ひゃうぅ……」
「どぉこ見てんだミミズぅ!」
その時、ヴィクトリーが回転しながら跳び、渾身の後ろ廻し蹴りをミミズ娘の顔面に叩き込んだ。
「ぎゃっ!?」
「しめたっ……!」
後ろ廻し蹴りが決まった直後に締め付けが緩くなり、そしてルカを解放してしまった。
「だぁっ!」
そして何とか持ち直したルカは、ミミズ娘の懐に入り、魔剣・首刈りを放ち、ミミズ娘の喉元にエンジェルハイロウを突き刺した。
「……がっ……!?な、何なの……これ……!!きゃああぁ……」
ミミズ娘にトドメを刺した瞬間、その姿がたちまち消散してしまった。
「な、何だ……!?」
「……ど、どうなったんだ……?」
まさか、死んでしまったのでは無いだろうな。いや、よく見るとミミズ娘のいた所に小さなミミズがにょろにょろしていた。
ヴィクトリーはそれを見つけるなり、それをひょいとつまみ上げる。
「なんだこいつ。」
「そいつはさっきまでミミズ娘だったモンスターだ……これで理解したか?」
不意にアリスの声がした。僕達の勝利を確認し、戻ってきたようだ。
「なるほど……これでもう無害そのものになったって訳か……」
ルカは納得し、剣を納める。
「もう悪さすんじゃねぇぞ。」
ヴィクトリーはそう言い、ミミズをぽいっと投げ捨てる。
「おいおい……」
そのミミズは、地面に落ちた後、地面に潜り帰ってしまった。
「でも……何か可哀想な気もするな……」
「だけど、殺すよかよっぽどいいじゃねぇか。」
「うむ、生命力は変わらんから、あのような姿になってもそう簡単には死なん。他者から魔力をもらうなり、自分で蓄えるなりすれば元の姿に戻れる事もできるのだ。」
「そうか……元に戻ったら反省してるといいな……」
「反省どころか人間への憎しみが増していたりしてな……」
「そん時はまたこらしめるだけだ。」
ヴィクトリーはぐっと拳を握る。
アリスの言う事を否定出来ないのも悲しい。せめて、反省してくれていることを願うのみだった……
「ところで、これで魔物以外のものを切ったらどうなるんだ?……例えば人間とか……試す気は無いけど……」
「勿論封印される……小人の姿になる筈だ……また、その剣は天使の体を練り込んであるから聖素濃度が極めて高い。だから天使を切るときにも絶大な威力を発揮するぞ。」
「何で天使様を切らなきゃいけないんだよ……」
そんなの、神への冒涜もいいとこだ。
「でも、ありがとうアリス。これで僕も思いっきり戦える!」
ルカは初めてアリスに心から感謝した。この剣ならば、僕の信念に反する事なく武器を振るえる。
「ふむ、予想通り貴様の剣技のキレが鋭くなった。遠慮がなくなったことでヴィクトリーとの連携もうまく噛み合うようになったな。」
「殺したくねぇから今まで遠慮してたんか……」
「うん……僕もあんな風に戦ったのは初めてだよ。」
確かに初めて戦闘らしい戦闘をした気がする。
「ふん……だが二人とも未熟な事には変わらん……決して慢心するなよ……」
「分かってるさ……」
アリスの言う通り、僕達はまだ弱い。これからいっぱいレベルを上げて、魔王を倒せるほどに強くならなければ!
「ルカ〜次は何処に行くんだ〜?」
「そうだな……」
現在地点はイリアスベルク近郊。このまま北へ行けばイリアスポートだ。だけど、例のハピネス村と、盗賊団の事が気にかかる。
「ハピネス村という所が気にかかるな。」
不意にアリスが口を開いた。
「なぁんだおめぇ……盗賊団の時は寄り道は無用だのどうこう言ってた癖によ……」
アリスは目を閉じ、ふふふんと笑う。
「ハピネス村のハピネス蜜……それをふわふわのパンにつけて食べるとたまらないそうだ。」
それを聞き、ヴィクトリーも食い気味に反応する。
「マジでか……俺も気になってきたぞ!」
「……何だか君達、この旅を世界食べ歩きツアーか何かと勘違いしていないか?」
ルカは頭をかきながら食欲溢れる二人を呆れながら見ていた。
密かに隠れ里エンリカという所も気になっている。そこでひっそりと暮らしている人達がいるらしい。
「さて、次の目的地は……」
ルカが地図を広げ、ヴィクトリーが覗き込む。
「イリナ山地って所に盗賊団がいるんだったよな?」
「うん。ここから丁度西にあるね。」
「行ってみようぜ……今の俺達でドラゴンやヴァンパイア相手にどこまでやれんのか……」
「……ん、そうだね。」
ルカは地図を閉じ、顔を上げる。
「よし、イリナ山地へ行こう。魔物の盗賊団なんて放置しておけないよ。」
「待ってましたァ!」
「……本当に行くのか……?自分たちから死にに行くとは、ドアホめ……」
ドラゴンやヴァンパイアなどに今の僕達が勝つ術なんて無いのは分かっている。
「何を言われようが僕の信念は曲がらない。もし実力が及ばないようだったらいっそ理想に殉じるよ。」
「俺はルカについてくだけだ。反対はしてねぇ。」
「……ドアホ共め……」
それ以上をアリスは語ろうとしなかった。こうして僕達は、西のイリナ山地に向かったのであった……
流血表現
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もっとする
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このままでいい
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しなくていい