もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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抱える障害

 淫魔と化したサラをなんとか押さえた二人。

 二人は、クィーンエルフに視線を向けた。こちらも、まだ解決したわけではないのだ。

「……なるほど。あなた達は、人と魔物との共存のために力を振るっているようですね。その真摯な想いと魂の叫び……それは、確かに私にも届きました。しかし……あなた達人間の神は、それを認めるのですか?魔物との共存など、イリアスが最も嫌う事なのではありませんか……?」

「知らねぇよ。俺はイリアス信者でもねぇし。」

 ヴィクトリーは吐き捨てるようにそう言ってから、ルカの方を向く。

「そ、それは……」

「どうやら、その矛盾にもすでに気付いているようですね。矛盾を知りながら、見ないふりをして力を振るっている……」

「……」

「何も言い返せねぇな……」

 ヴィクトリーの言う通り、返す言葉がない。代わりに僕がやったのは、相手に対する指摘だった……

「そういうあんたも、魔王の命に背いているんじゃないのか?魔王は、人間を人質に取ることを許しているのか……?」

 アリスなら、こんな事はしない。一緒に旅をしてきた僕達だから、それぐらいは分かる。

「それは……」

 やはり、クィーンエルフは口淀んだ。しかし、相手をやり込めた優越など感じなかった。

「……矛盾を抱えているのは、お互いにさまのようですね。」

 そう呟いてから、顔を上げる。

「ただ……魔王様は、私達の苦しみを理解なされてはいない。あの方の理想的平和主義は、ただ私達を苦難に導くだけです。」

「……分かったよ、あんたが何も分かっちゃいない事が……」

 ルカは、溜息混じりにそう言う。

「何が分かっていないというのです……?」

 クィーンエルフは、そんな彼を睨み付ける。

「あんたは、魔王を何も理解していない!被害者の立場に甘んじて、人を知ろうとすることさえ拒絶してるだけだ!魔王は人間を知り、人間の営みをその目で見、理解しようとしている!人を理解して、共存の道を搜索しようとしているんだぞ!」

「黙りなさい!」

 クィーンエルフが懐から短剣を抜いた、その瞬間だった。

「おっと。」

 ヴィクトリーが彼女の手を蹴り、短剣をすっ飛ばした。

「……っ!」

「そりゃあねぇだろ……」

「くっ!」

 今度は手に魔力を込め、彼に殴りかかった。

「……っ!!」

 避けずに、その拳をモロにくらう。

「もはや私達は、後には退けないのです!」

「……」

 今度は、拳が腹筋を貫く。

「がはっ……!」

「お、おい……!!」

「どのような手を使ってでも、サバサの地を取り戻します!」

 その次の瞬間、彼女は思いっきりぶん殴られた。ぶっ飛んで、木に叩きつけられる。

「……もうやめにしようぜ。こんなこと、何時間やっても時間の無駄だ……」

「そ、そうだ!魔王だってこんな事は望んじゃいない筈だ!」

「……っ!」

 クィーンエルフの手元……先ほど蹴飛ばされた短剣が落ちている。

「魔王様が、私達の苦しみや悲しみを理解して下さらないのなら……そんな者が、私達の上に立つ資格はありません!」

 彼女はそう断じて短剣を取り、サラの首筋に突きつけた。

「動くなっ!動いたらこの小娘の命はありません……!」

「ぐ……卑怯だぞ!」

「……」

 ヴィクトリーは黙ったまま、前に一歩踏み出そうとした。

「ただの脅しだと踏んでいるのですか!?私は本気です!」

「やってみろよ。」

「!?」

 予想外の挑発に、ルカは驚きを隠せなかった。あんな状態になったモンスターをこれ以上刺激すると、何をしでかすか分からないのに……

「……っ!!」

 ヴィクトリーはじりじりと歩み寄りながら、クィーンエルフを追い詰める。

「おいクィーンエルフ、俺はこれからの世界の為ならそいつの命なんて軽い犠牲だと踏むぜ。どうすんだ。」

「く、来るな……!これ以上踏み込むというのなら……!」

「……」

 ……多分、このクィーンエルフは人を殺した経験が無いのだろう。手は震え、目が充血し、汗を大量に沸かしながら、その重圧に耐えている。そんな脅しにもならない脅し……屈する必要もなし。

「……」

 ヴィクトリーは歩を進め……

「こ……のッ!!」

 クィーンエルフが、大きく短剣を振りかぶった。

 そして、ヴィクトリーも大地を蹴ろうとした時だった。

「……っ!?」

「何だっ!?」

「え……!?」

 不意に、凄まじい気が地面の鳴動を呼び起こした。

「またか……!今度は……!?」

「……この気は……!!」

 この威圧感、この燃えるような気は……間違いない。

「グラン……!!」

「……ふん……」

 そう、グランべリアが現れたのだ。

「エルフの女王よ……先の言葉は、魔王様への造反と解釈してよいのか……?いかなる理由であれ、魔王様への造反はこの私が許さんっ!」

「そんな……四天王……!」

 クィーンエルフは短剣を取り落とし、そのまま後ずさる。

「グランべリア、どうしてここに……!?」

「もうちょっとでカッコよく決められる所だったのに、台無しにしやがって……」

「奇遇だな、二人とも……しかし今回のところは、お前達に用はない。上位のエルフやフェアリーが結託し、よからぬ事を企んでいると耳にしてな。しばらく様子を見ていたら、人間の女を人質にするという醜態。まして魔王様への造反を口にした今、黙って見ている事はできん。」

「ち、違います……!私は、ただ……」

「問答無用……覚悟!」

 グランべリアは剣を振りかぶり、そしてクィーンエルフに振り下ろした。

「……やめてっ!」

 彼女をかばうように飛び込んだのは、なんとサラだった。

 グランべリアの剣が、サラに当たる直前で止められる。

「……王族の娘よ、なぜかばう?この者は、お前を害そうとしていた妖魔なのだぞ。」

「あなたは魔王の側近で、この妖魔も魔王の臣下なんでしょう……?魔王も王なら、臣下同士の殺し合いなんて望まない……と思うの。」

「……一理ある。確かに、魔王様は喜びなどするまい。我が剣も少し性急に過ぎたな……」

 グランべリアは、静かに剣を納めた。そして、クィーンエルフをまっすぐに見定める。

「人間に助けられる事になったな、エルフの女王。もう一度確認しておこう。貴様は、なおも魔王様に反逆するつもりなのか……?」

「……最初から、反逆の意志などありません。ただ、魔王様に私達の辛さを理解してもらえず悲しかった……それだけです。」

「了解した……ならば、反逆の罪は無かった事にしよう。だが、一つだけ言っておく。魔王様は、お前達の苦しみを分かっておられる。そして、その苦しみを除こうとされているのだ。」

 次に、サラがクィーンエルフの肩を叩いた。

「私達は、決してあなた達エルフや妖精の苦しみを分かってあげられなかった。でも、決してあなた達を虐待しようとしていたわけではないの。お父様なら、それも分かってもらえるわ。あなた達がちゃんと話し合おうとすれば、悪い話にはならない筈よ。私だって、いくらでも協力するし。」

「……その通りだよ。人間は間違いもするけど、あんたが思っているほど愚かじゃない。話し合おうとしている相手に、武器を向けたりはしないはずだ。まずあんた達も人間を理解する所から始めて欲しいんだよ……僕も、人間達が魔物を理解するよう努力するからさ。」

「……」

 ルカの言葉を聞き、しばらく黙り込んでいたクィーンエルフは、深く息を吐く。その後の表情は、今までよりも柔らかくなった気がした……

「……決して、納得した訳ではありません。しかし、あなた達がそうまで言うのなら……少しは待ってみる価値があるのかもしれませんね。魔王様も、本当に私達を見捨てていないのなら……我々も、それを信じると致しましょう。」

「……ありがとう、僕達を信じてくれて。」

「……先行きを見守る。今はそれだけです。当分の間、エルフも妖精も人を害さない事を約束しましょう。なにより、私は人間の王女に命を救われた身。その恩を、仇で返すわけにもいきません……」

 とりあえず、先行きを見守るというクィーンエルフ。彼女は、決して人間全体の事を理解したわけではない。それでも、目の前に立っている僕達の事は理解してくれたのだ……

「そんじゃあ、これからも見守っててくれよな。ぜってぇ期待に応えてやっからよ。」

「僕も、失望なんかさせたりなんかしないから。」

「ええ、私も協力するわ。サバサの人達だって、きっと分かってくれるはずよ。」

「信じましょう……そして、待っています。人間が我々を受け入れ、共にサバサの地で暮らせる日を。その日まで、私達も人間を理解するよう務めましょう。」

 クィーンエルフは柔らかに微笑み、グランべリアの方を向いた。

「……グランべリア様、報告したい事がございます。噂に聞く『黒のアリス』が、私とクィーンフェアリーの元にも現れました。人間を憎む同士として、一派に勧誘されたのですが……私とクィーンフェアリーは、同じ道を行く事を断ったのです。あの者は、とても禍々しい気がしたのですから……」

「そうか……『黒のアリス』は、お前達の元にも……」

「……?」

「黒のアリス……?何の事だ?」

 魔物の間でも、何かゴタゴタがあるのだろうか。

 クィーンエルフは、僕達に視線を戻して微笑んだ。

「……随分と迷惑を掛けましたね、あなた達。人と魔物が真に分かり合えた時、また会いましょう……」

「あの……」

 ヴィクトリーがクィーンエルフの足を指す。彼女の足は、使い物にならなくなっているのだ。

「ご、ごめんなさい……足、そんなんにしちまって……」

「いいのですよ。この程度なら三日ぐらいで治りますから……では。」

 クィーンエルフはそう言ってヴィクトリーに会釈し、消えてしまった。

「……」

 この件は、これで一応は解決したが……決して、全てが丸く収まったという訳でもない。エルフやフェアリー達がサバサの地で安らかに暮らせるようになってこそ、真の解決なのだ。

「やれやれ、これでこの一件は片付いたか……困ったものだ、昨今の反逆者の多さには。」

 グランべリアは溜息交じりにそう言って、空を見る。

「おまけに、『黒のアリス』などという妙な妖魔まで暗躍するとは……」

「なぁ、その『黒のアリス』って何者なんだ?」

「さっきのクィーンエルフとの話にも出てきたよな……」

「知っての通り、アリスフィーズ様は人間に対し融和政策を取っておられる。しかし、それに不満を募らせている魔物も世界には数多い。そうした連中に声を掛け、同志に引き入れてる妖魔が居るという……それが、『黒のアリス』と呼ばれる少女らしい。」

「そいつはおっかねぇな……」

「どういう妖魔か定かではないが、『アリス』を名乗る時点で極めて不遜。それは、魔王様にのみ許された名なのだからな。」

「へぇ……」

「妖魔の中には、そんな奴まで居るのか……」

『黒のアリス』……魔王アリスに反逆する集団の、総元締めと言ったところか。

 人間を敵視した魔物達が徒党を組む……まるで、魔物版のイリアスクロイツのような連中だ。

「あっ、そうだ。ありがとう、グランべリア……お陰で助かったよ。」

 あそこでグランべリアが割って入らなければ、サラが危なかった。結果的に彼女は、サラを助けてくれたのだ。

「ふん……お前達を助けたつもりは無いし、いざとなったらそこの武道家だけでも何とかなってた筈だ。」

「は、ははは……」

 ヴィクトリーは、頭をかきながら笑う。

「それに妖魔ともあろう者が、人質策など目に余っただけだ。」

「グランべリア……以前とは、何か変わったな……」

 どこがとは言えないが……イリアスベルクで始めて会った時とは、何か変わった気がする。

「私が変わったとしたら……お前達のせいかもしれんな。」

「え……?」

「俺達……?」

「元より剣しか知らん身なれど、時にこの世界の事も考えたりはするものだ。人と魔物がどう関わっていくか、その道に交わる所はあるのかどうか……」

 そこでグランべリアは言葉を止め、挑戦的な態度で僕を見た。

「何にせよ、お前と私は剣を交えねばならん。人と魔物としてではなく、ただ戦士同士としてな。全てはそれからだ……ゆえに、魔王城にて待つ。」

「あぁ、待ってろ!」

「へへへ……」

 移動魔術で、その場から去ろうとするグランべリア……

「待って、グランべリア様!」

 不意にサラは、消えゆくグランべリアに飛びついた。僕達が制止する暇もない、まさに一瞬の早業だったのだ。

「なんだと……?」

 そして、そのまま二人は消え失せてしまう。

「……」

 ……これは、どうしたものだろう。おそらく、サラはグランべリアと共に魔王城に転送されたと思われる。まぁ、グランべリアだからか弱き女性に手を挙げたりしないと思うが……

「……って、ダメだろ!僕、さらわれた王女様を助けに来たんじゃないか!」

「あ、あははは……サバサ王様に何て言う?」

 結局、このままヴィクトリーとサバサ城へと帰るハメになってしまった……

 

「……って事があってよぉ。どうしたモンか……」

 サバサ城、謁見の間。

 ヴィクトリーがサバサ王にこれまでの事を話していた。

「な、なんと……!?さらわれたのではなく……」

「あぁ、自分の意思でグランべリアについて行っちまった……あはは……」

「……自分から……か。」

 そう呟き、王は玉座に深く沈み込んだ。

「……実は、思い当たる節は無いことも無いのだ。サラは、以前からグランべリアについて色々と調べておったようだ。おそらく、剣士を志す者として憧れておったのだろう……」

「あははは……ま、まぁ……なぁ?」

 ヴィクトリーは、ルカを見る。

「……」

 いや、何故僕に振る?とりあえずコクコクとは頷いてみる。

「む、むぅ……」

 流石のサバサ王も、戦士としてではなく女として憧れていたとは予想だにしていないようだ。

「昔から、思い立ったらすぐ実行する娘ではあったが……まさか、妖魔の元に行ってしまうとはな……」

 いかにも複雑そうな表情で、サバサ王は深々と溜息を吐く。

「グランべリアは妖魔でありながら、騎士道精神に厚く、弱き者には決して剣を振るわんと聞く。君の目から見て、それは本当と思うか……?」

「……ええ。サラ王女が、グランべリアに危害を加えられる可能性は無いでしょう。」

「そいつは間違いねぇよ。危険な目には遭ってねぇ筈だ。」

「ふむ……この件は、外部には漏らさない方が良さそうだな……」

「もうすぐ、僕達も魔王城に乗り込むつもりです。その際に説得して、連れ帰りますよ。」

「……無理に連れ帰らずとも良い。娘のやりたいようにやらせるがよかろう……」

「え……?」

「女王の座に就かず、己の道を進むというのなら……それを咎める権利は私にはない、あの娘自身が選んだ道なのだからな……」

「本当にいいのかよ……」

「いつかあの娘は、己の意思でこの城を飛び出すと思っておった。それが意外に早く、そして行き先が予想を超えていただけの事。……二人とも、私を薄情な父親だと思うか?」

「いえ……サラ王女の事を、それだけ大切にされているのだと思います。」

「それはそれでいいんだけどよ、王位は誰が継承すんだ?」

「次のサバサ王は、他の王族から選べば良い。いっそ王制を廃止し、議会制を導入してもよかろう。それとも……お主が王になってみるか?」

 ヴィクトリーは、首を横に振る。

「あはは……冗談の癖に……」

「ああ、冗談だ。」

 そう言って、王は笑った。

 さっきまでの苦心の色も、その表情から消えた気がする。サバサ王も、踏ん切りがついたのだろうか。

「ともかく……娘に会ったら、顔ぐらい見せに来いと言ってやってくれ。」

「あぁ、分かった。」

「必ず、伝えて起きますね……」

 結局、サラをサバサ城に連れて帰ることは出来なかったが……少なくとも、エルフ達の共存における第一歩は踏み出す事はできた。そもそもの事件は、課題を残すものの一応解決したのだ。

 こうして僕達は、王の間を辞したのだった……

 

「話は終わったようだな……」

 外でアリスが待っていた。

「おう。」

「サラも、最後の最後にやらかしてくれたもんだよ。」

 そう言えば、アリスを見るのは久々だ。妖精の島に到着する前ぐらいから、ずっと消えていたのだ。

「アリスは、クィーンエルフとは会わなかったのか?」

「顔を合わせて、何と言ってやれば良いのだ?少なくとも今の余には、彼女達を救う事は出来なかったのだぞ……」

 アリスは、珍しく憂いの表情を見せた。

「余とて、エルフやフェアリー達の苦難を理解していなかったわけではない。だが、彼女達とあの地の人間達の利害はどう足掻いても激突する。人と魔物の関係そのものを改めなければ、あの問題も解決すまい……そう思いつつ、エルフ達には苦難を押し付け続けざるを得なかった。」

「分かってるよ……」

「おめぇも苦労してんだなぁ……」

「エルフやフェアリー達のためにも、余の理想は実現せねばならん。そのためには、貴様らにも手を貸してもらうぞ。」

「あぁ!」

「うわぁ、アリスがそう言う事を言ってくれるのは初めてだよね。もちろん全力で手伝うよ……えへっ、えへへへへ……」

「ウ……ウザっ!」

「かぁっ……キモッ!」

 アリスとヴィクトリーの突っ込みが重なる。

 今回の一件で、人間と魔物が大きな争いの火種を抱えている事を知った。そして、人間と魔物が互いに理解し合えるという事も知ったのだ。

 しかしエルフは本来温厚で心優しい種族。他の魔物がみなクィーンエルフのように物わかりがいいとは思えない。まだまだ僕達やアリスの理想には、障害が大きいようだ。

 さぁ、理想のために冒険を続けなければならない。

 

 ともかく、これでオーブ集めと問題解決は終わった筈だ。

 さぁ、神鳥のほこらへと行こう……

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