もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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分かり合えないモノ

「じゃあ、神鳥のほこらとやらに行くぞ!」

「おう!やる事はやったし、オーブも手に入った!」

 世界中から集めた六つのオーブ。それを携え、一行は神眠る地へと向かうのだった……

 

 そこはほこらと言うよりも、森の中にぽつんと建つ祭壇だった。守り人も、神鳥とやらの卵も、何も無かった。

「本当に何も無いんだな……イメージ的に、巨大な卵やら双子の守り人やらが居ると思ったよ。」

「あぁ、そんでもってでっかい石で何か建てられてたりな。」

「いやいや……守り人などは存在しないが、卵がないはずがなかろう!どこかに消えているのだ!いったい、どこに行った……!?」

 アリスはそう言って足早に祭壇の周囲をぐるりと回る。しかし、卵はどこにも見当たらないようだ。

「もう羽化しちまったんじゃねぇのか?」

「いや、それはありえん。六つのオーブを捧げなければ、絶対に羽化はせんはずだ……」

「じゃあいったいどこに……ん?」

「……」

 木陰から、第三者の気配がする。何者かが、そこに潜んでいるようだ。

 魔物か……?いや、この気は人間のものだ。

「そこに、誰か居るのか……?」

「出てこいよ。」

「ひっ……!?」

 木陰の男は一瞬身を隠し……そして僕達の様子を伺うと、安心した顔を見せた。

「なんだ人間かよ……魔物かと思って、ビビっちまったぜ。」

 額の汗を拭いながら、ひょこひょこと木陰から出る戦士。

 アリスは、既に人間の姿に変身しているようだ。

「おめぇはここで何を?」

「俺は、イリアスクロイツの団員だ。聞いて驚くな、幾多の魔物どもを八つ裂きにしたルプトンとは俺のことだ!」

「おぉ、そりゃあすげぇ。」

「……!!」

 ヴィクトリーはこの男にそんな戦闘力は無いと察していた。冗談か何かだと受け止め、適当に答えていたが、ルカは違った。

 男の襟首を掴み上げ、その体を木に叩きつけ、そのまま押し付けていた。

「ごはっ!何しやがる……がぁああっ!?」

 ルカの全身に土の力が駆け巡り、制御出来ないほどの力が流れ込んでくる。大木がぐらぐらと揺れ、男の体がきしんだ音を立てた──

「……やめろ、ルカ!殺す気か!」

 アリスがそう一喝するが、ルカは止まらなかった。

「や、やめ……た、すけ……が……あぐ……」

「そこまでにしとけよ!」

 ヴィクトリーはルカの肩甲骨の間に、肘打ちを落とした。

「ぐぁっ!?何するんだ!?」

 ルカは男を解放し、剣を抜いて彼をなぎ払った。

「うわっ!?」

 その胸にズバッと刃が通り、僅かに散血する。

「いってーな!!てめーがなにすんだ!!」

「先にやったのはお前だろうが!!」

 そして、二人はぶつかり合った。彼らのラッシュがドカドカとぶつかり合い、溢れるエネルギーで一帯を揺らす。

「ひ、ひいぃい……!!」

 ルプトンは、その人ならざる領域の喧嘩を前に、腰を抜かして震えていた。

「……やめんか!」

「んぎゃっ!?」

「ぐぁっ!?」

 アリスの拳骨で二人は制止する。

「こんな所で喧嘩している場合か!頭を冷やせ!」

「いっててて……た、確かに、肘鉄はやりすぎたな……ごめんよ……」

「うん……僕も、熱くなってたみたい……少し、頭を冷やすよ……」

 二人は深呼吸し、頭を冷やす。

「……あいつに、魔物をぽんぽんぶっ殺せる戦闘力はねぇ。見ろ。」

「……確かに、そうみたいだな……」

「ひぃ、ひぃい……そ、そうです……武道家様の言う通り、調子に乗って、ホラを吹いただけです……」

 ヴィクトリーは、『な?』という顔でルカを見る。

「……はぁ……はぁ……」

「大丈夫か?」

 次にルプトンに肩を貸し、背中をさすった。

「し、死ぬかと思ったぜ……ちょっとホラ吹いただけで、ここまでやらなくても……」

 ルカはルプトンを睨む。そうすると、彼は姿勢を正した。

「……いえいえ、すみません旦那。まだお若いのに、とんでもない強さですね……」

 ヴィクトリーはルプトンが立てると見たや否や、ぽんぽんと彼の服の汚れを払い、ルカの横に来た。

「それにしても、イリアスクロイツの団員がここで何してんだ?」

「何をしているって言うか、もう終わったっていうか……あっし、少しばかり遅刻してしまって、このザマで……」

「遅刻……?」

「イリアスクロイツの連中が、ここに集まっていたのか?」

 ルプトンはコクコクと頷いた。

「先日、ここで馬鹿でかい卵が発見されたんですよ。そこで、バケモノの卵を破壊しちまおうって事になったのですが……どれだけカチ割ろうとしても歯が立たなくて。それで、とりあえず本部に運び込もうって事になって……そういうわけで団員が招集されたのが、今朝と言うわけです。」

「なるほど、事情は分かったよ……」

 つまり……つい数時間前、神鳥の卵はイリアスクロイツの本部へと運び込まれたという事だ。だとすると、かなり厄介な事になる。

「まずいな……もし、卵を破壊されでもしたら……」

「大丈夫だ、その心配は無い。神鳥の卵を人間の力で破壊するなど、不可能だ。」

「そうか、それは良かった……」

「でも、意外とやべぇかもよ?海の底とかに落とされたらどうすんだ?」

 ヴィクトリーがそう言うと、ルカとアリスは「確かに」と呟いた。

 だが、卵の在処が分かるのなら話は早い。イリアスクロイツの本部に行って、神鳥の卵を取り返せばいいだけだ。当然、向こうも黙って渡してくれる筈が無いだろうけど……

「それじゃ……あっしは、ここらで失礼します。ではダンナ、ご達者で……」

 ルプトンは、そのまま一目散に逃げ去っていった。結局のところ、ただの小悪党レベルだったようだ……

 アリスはそれを見送った後、ルカを見た。

「……ルカ、イリアスクロイツの本部に乗り込む気か?」

「当然だろ、神鳥の卵を取り戻さないと。」

「……貴様が行くには不安がある。余とヴィクトリーが代わりに行ってやろうか?」

「俺もかよ……」

「えぇっ……?いったい、どういう風の吹き回しなんだ……?心配無用、相手はチンピラ同然の連中なんだよ。四天王とかポセイドネスとかに比べりゃ、紙クズ同然の奴等さ。」

「……そういう、貴様らしくない物言いが不安なのだ。そもそも、貴様の身など心配しておらん。今の貴様が行けば、連中を殺しかねん……そう危惧しているのだ。」

「……あぁ、確かに今のおめぇは興奮してる。いつものおめぇなら、仲間に剣を向けねぇはずだ……おめぇ、その気になったら人をぶっ殺しかねねぇぞ……」

 ヴィクトリーは、胸のキズを撫でる。もう塞がってるらしく、僅かに血が滲んでるだけだった。

「……安心してよ、親父の話は親父の話。この話はこの話だからさ……」

「……なら、いいのだが……」

 アリスは、浮かない顔を崩さなかった。

 ともかく一行は、イリアスクロイツ本部へと向かったのである……

 

「少しばかり、ラザロに用があるんだ。悪いけど、合わせてもらえないかな……?」

 イリアスクロイツ本部の前で、ルカはそう言い放った。いかにもガラの悪そうな団員達は、たちまち顔色を変える。

「なんだ貴様!ラザロ団長が、貴様らのような若造に会うか!」

「とっとと消えろ!ゴミクズみたいにされてぇか!」

「あっははは……」

 ヴィクトリーは苦笑いするが……次の瞬間、ルカはギロリと二人を睨みつけ、ドスの効いた声になった。

「マルケルスの息子、ルカが会いに来た……そうラザロに伝えてくれ。」

「え……?マルケルスさんの息子……?」

「おいおい、そりゃあ……」

 団員二人は、顔を見合わせた。

「……どういう事だ?」

「前にも言っただろ?僕の父さんは、イリアスクロイツ創始者の初代団長だって……」

「わ、分かった……」

「ここで待ってな……」

 二人の団員は、建物の中へと消えていく。それから一分ほどで、彼らはすぐに出てきた。

「……中に入ってくれ。ラザロ団長が、合われるそうだ。」

「団長は今、地下の広間に居る。こっちだ……」

「……」

「……」

 こうして二人は、あっさり本部の中へと通されたのだった……

 

 薄汚れたロビーを通り、地下への階段を降りる。本部の地下は、かなり大広間になっているようだ。

「こ、これは……」

「おぉ……すっげぇ……」

 その広間の中央には、巨大な卵が置かれていた。ここまで運んでくるだけでも、かなりの労力だったはずだ。

 そして、その隣で卵と向き合っている男……ラザロ。

「……なるほど、やっぱりお前さん達だったか。ところで、このタマゴの壊し方を知らないか?何をしても、ヒビ一つ入りやしないぜ……」

 ラザロは横目で僕達を見ながら、卵を拳でこつこつと叩く。

「羽化させる方法なら知ってるけど、壊し方は知らねぇな……」

 ヴィクトリーが言うが、ルカが前に出た。

「……僕がマルケルスの息子だって、知っているのか?」

 それを聞き、ラザロはニヤリと笑う。

「気付かんわけないだろ。あいつとは何十年の付き合いだと思ってんだ。棒切れ振り回して野原駆け回っていた頃から、あいつとは一緒だったんだぜ。お前さん、マルケルスのガキの頃にそっくりなんだぜ。」

「……」

「そ、そうなのか……?」

 ヴィクトリーは、二人の顔を交互に見る。

「……それで、何をしに来たんだ……?親父の……マルケルスの復讐か?」

「復讐……?親父の?何の事だ、それ……?」

 親父は、魔物に殺されたのだ。この原因はイリアスクロイツの活動にあるが、結局は親父の築いた結果。完全に自業自得である親父の死を、誰かに償わせるつもりなどない。

「なんだ……お前、知らない様子だなぁ……俺ぁてっきり、マルケルスの復讐に来たのかと思ったぜ……?」

 ラザロの続けざまの台詞に、ルカとヴィクトリーは困惑する。

「……どういう事なんだ?」

「そ、そうだよ……ルカの親父は、魔物にぶっ殺されたんじゃ……」

「あぁ……そういう事になっているな、表向きは。なんだ、息子のお前さんと、勘の良さそうなお前さんまで信じ込んでたのかよ。浮かばれねぇなぁ、マルケルスも……」

 二人の疑念が、次第に確信めいたものに変わっていく。そして、一つの結論が頭に浮かんだ。

「どういう事なんだ……?お前いったい──」

「ま、まさかお前──」

「……そうだよ。お前さんの察しの通り、ルカの親父を殺したのは、この俺だって事さ。」

 頭で浮かべた通りの、回答だった。

「何だって……!?」

 ヴィクトリーは、激しく動揺した。

 まさか、こんな奴がルカの父ちゃんをぶっ殺したなんて……

「……」

 一瞬、ルカの目の前が真っ暗になる。慌てて平静を保とうとした彼の目に映ったのは、ラザロの歪んだ笑みだった。

「……おいおい、思ってもみなかったって顔じゃねぇか。つまりは、組織による団長の粛清ってやつだぜ。首謀者は副団長だったこの俺。奴を油断させて斬った後、魔物に殺られた事にしたのさ……組織の中で、ごく一部の人間しか知らないこった……」

「なんて事を……」

 そう言うヴィクトリーの横で、ルカは言葉を詰まらせていた。

「な、んで……そんな……事を……」

 ラザロは溜息を吐きながら、頭を掻き毟った。

「マルケルスは、団長でありながら組織を裏切ったのさ。魔物根絶という理念を放棄し、影でこっそり魔物共を保護してやがった……だから、俺が粛清してやったんだよ!魔物の仕業って事にして、極秘裏になぁ!」

「……」

「親父が……魔物を、保護……?」

 あの親父が……魔物殺しとして有名なハズだった、あの親父が……?

「攻撃予定だった魔物のアジトから、事前にこっそり逃がしていたり……わざと情報を漏らしたり……裏で色々やってやがったぜ。挙句の果てには、魔物を集団でどこぞに移住させてやがった。お前の親父は、イカれてたんだよ……!」

「そんな……!親父は、魔物を憎んでいたはずだ……!」

「……」

 わなわなと震えるルカに、ヴィクトリーは寄る。そして、小声で「落ち着け」と言いながらその背中を撫でた。

「あぁ、俺もそう思っていたぜ。魔王城での一件以来、俺もマルケルスも修羅になった筈だったんだ!魔物への報復と根絶のためだけに生きる、復讐の権化にな!」

 ラザロは、拳を卵に叩きつけていた。その手は、ルカ以上に震えている……

「ルカの親父は、何で魔物の保護を?」

 精神的に動揺しているルカの背中を摩りながら、ヴィクトリーは聞いた。

「さぁなぁ……組織結成当初は、本気で魔物を憎んでいた事は確かだ。俺やマルケルスが魔王退治に行った話は、どこまで聞いた?」

「……俺は殆ど知らねぇ。」

「僕も……途中で挫折したっていうくらいしか……」

 ラザロは、卵を見上げる。その目に映っているのは、卵ではなく──

「マルケルスは勇者、俺は剣士、あと僧侶に魔法使い……若かった俺達は、世界平和を夢見て、魔王討伐に旅立ったパーティだった。そして……俺達は魔王城まで行き、実際に魔王を殺ったのさ。色々と込み合っていたが、まぁ俺らが魔王を殺った事には違いねぇ。」

「そんな……まさか……」

「……それで?」

 ルカは聞きたくないと言わんばかりに顔を落とすが、ヴィクトリーはしっかりと向き合う。

「魔王を殺った途端、次の魔王が生まれたのさ。そいつは、ほとんど戦う気のなかった前の魔王とは段違いだった……!何だか分からない内に、俺達はグチャグチャさ。マルケルスも俺も瀕死の重症、俺なんて左手が今でも動かねぇ。魔法使いのマーリン爺さんは首を飛ばされた。僧侶のカレンなんざ、上半身を引き千切られたんだ。」

「……そりゃご愁傷さん。」

 ヴィクトリーの慰めに、ラザロの心が動揺する。

「……俺もマルケルスもなぁ、カレンに惚れていたんだぜ。それを魔王は、俺達の目の前で引き裂きやがったんだぜぇ!まるで、紙クズを引きちぎるようになぁ!!」

「……っ……」

「そ、そんな事が……」

 ヴィクトリーは息を呑み、口を開く。

「……それで、おめぇらは鬼になったのか……そりゃあ、そんな体験をすりゃあ魔物を憎まない訳がねぇ……」

「そうだ……何とか生き延びたマルケルスと俺は、魔物と正面から戦うことを放棄した。俺は左腕が動かなくなってたし、どちらにしろ格の違いを思い知ったのさ。」

「非合法の暴力を使って、魔物をぶっ殺しまくる……イリアスクロイツの結成ってわけだ……」

 ラザロは頷き、三秒ぐらい黙る。

「……それが……知らねぇうちにマルケルスは変わっちまった。あいつが、いつしか魔物をかばうようになるなんてなぁ……イカれちまったのか、なんなんだか……元同志として、悲しいぜ……俺はよぉ……」

 ここで、震えていたルカがラザロに視線を向けた。

「親父は……イカれてなんか……いない……」

「イカれてんだよ!魔物をかばうなんてなぁ!あいつらは、人間の敵だろうがぁ!」

「違う、敵じゃない!」

 声を荒らげる、ラザロとルカ。

「そ、そーだそーだ!人と魔物だって、仲良くする事が──」

 ルカに便乗し、ヴィクトリーが言おうとする。しかし──

「出来ねぇってんだよ!」

 ラザロの否定により、遮られた。

「人と魔物は、断じて相容れねぇんだ!たとえ友好的なツラをしてる魔物がいたとしても、そりゃ向こうの気分の問題なんだよ!奴等は、紙クズみてぇに人の体を裂くことができるんだぜ!俺は、それを身に染みて分かってんだ!」

「む、向こうがそう言う力を持ったとしても、共存は──」

 ルカが言うも、ラザロの否定で遮られた。

「向こうがそういう力を持ってるだけで十分、ちっぽけな人間は共存なんざできねぇんだ!そりゃ、お前らは強いだろうよ!だからこそお前らは、弱ぇモンの気持ちが分からないのさ!奴等は、気分次第でこっちの体を引き裂ける連中なんだぞ!そんなモン、怖くて馴れ合いなんざ出来ねぇだろうが!」

「ちょ、待てよ……人と魔物が、お互いに理解し合えば──」

 ヴィクトリーが宥めるように言おうと、ラザロは止まらなかった。

「だから、それは強ぇヤツの理屈なのさ!互いに理解すればするほど分かるんだ!決定的な違いってやつをな!てめぇらの言ってる事は、結局夢物語なんだよ!てめぇらが一番、弱ぇヤツの言い分を踏みつけにしてやがるぜ!!強者に怯える弱者の心ってヤツを、まるで分かっちゃいないんだ!!」

「……っ!」

「ち、違う……僕は……」

 震えるルカを、ラザロは睨みつける。

「何が違うんだ……?なぁ、甘ちゃんよぉ……!」

「いいや、違うな。少なくとも、貴様には現実が見えていない。」

 答えに窮する二人の前に現れたのは……なんと、アリスだった。

「……何だとぉ!?誰だ、てめぇは!」

「貴様の考え方も、一理ある。人間と魔物で力の格差がある以上、恐怖による拒絶も無理もない……が、決してそれだけが現実ではないということだ。」

「アリス……」

「おめぇ……」

「余とルカとヴィクトリーは、今まで様々な町や村を見てきた。その多くの場所で……人間と魔物は、それなりに上手くやっているぞ。貴様の思っている以上に、魔物を受け入れる人間は多いようだな。それもまた、貴様が目を背ける現実よ。」

「何だと、女……」

 そう言ったラザロの顔が、急に引きつった。極度の怒りと恐怖を混ぜたような、歪みきった表情だ。

「てめぇ……今代の魔王か!忘れもしねぇぜ、そのツラはよぉ!てめぇが……!てめぇがやったんだよ!マーリンとカレンの事を、忘れちゃいないだろうな!?」

「ああ……一時たりとも、忘れなどしない。あの二人を殺した時の実感、自身の魔力が人の命をかき消した感触を……」

「……」

「そうか……子供の頃のアリスが、ラザロの言う二人を……」

 幼かったアリスが、母親が殺された怒りによって暴走し……それが不幸にもマーリンとカレンとやらの命を奪ったのだ。

「……人間と妖魔の共存だっけか?俺達が倒したあの魔王も、死に際に言ってたよなぁ……俺達だって、少しは信じたんだぜ?これから人間と魔物は共存していくべきだと……そう思ったんだ。」

 ラザロは目を見開き、アリスに向かった。

「てめぇが飛び込んできて、マーリンとカレンを肉クズに変えるまではなぁ!」

「……」

 アリスは一瞬だけ、悲しい表情を浮かべ……それを、いつもの無表情で塗りつぶした。

「そういう事も、確かにあった。だが……余も先代と同じく、人間と魔物の共存が成ることを信じている。」

「どのツラ下げて、そんな事が言えるんだぁ!?俺の仲間を残酷にブッ殺して下さった、魔王サマよぉぉぉぉ!!」

「もう……もうやめろ……!!」

「もう、やめろ!やめてくれ!!」

 いたたまれなくなり、ヴィクトリーとルカは二人の間に割り込んでいた。

「ラザロ、あんたの気持ちは分かる!でも……あんたにとって、人間と魔物はそんなに相容れないものなのか!?あんたがそう言う気持ちも分かるけど……世の中には、上手くやってる人間と魔物がいくらでもいるだろ!?あんたは、そういう人まで否定するのか!?」

 ヴィクトリーが、ラザロに向き合う。

「当然だろうが……いつか、その連中も気付く筈だ。人間と魔物は、決して仲良く暮らせる間柄じゃなかったってなぁ!」

「人間と魔物は種族が違うだけだろうが!それでも、仲良くしようと思えば仲良く出来んだ!今までそういう魔物を俺達は見たんだ!」

「さっきも言ったじゃねぇか!その『違う』って所が根本的大問題なんだぜ!」

「単に『違う』ってだけで……それだけで、排除する理由になんのか……おめぇは!?」

「何度も言った通りじゃねぇか!ようやく分かったか!」

「それでルカの親父もぶっ殺したのか!?」

「あぁ、その通りだぜ!そいつの親父は、俺を裏切ったんだ!マーリンもカレンも……あの死を踏みつけにしやがったんだよ!だから殺した!この俺が、殺してやったんだ!!」

「お前……!」

 その瞬間、ルカの心には復讐心が宿っていた。

 今まで、真相を知った衝撃によって麻痺していた復讐心……それが、まるでスイッチが入ったように燃えたぎったのだ。

 彼は無意識のうちに、剣の柄に手をかけていた。堕剣エンジェルハイロウではなく、殺傷力を持つ普通の剣を……

「なっ……!?」

「……復讐か?いいぜ、やれよ!お前の親父のカタキが、ここに居るんだぜ!ただし、死んでもお前の考え方には屈さないがなぁ!」

 ラザロは手を広げ、殺される覚悟を示した。

「覚悟はできてるだと……!?我を通すためなら、死んでも構わないのか……!?」

「俺は、自分自身の考えに殉じるのさ!今更覆すくらいなら、死んだ方がマシだぜ!」

「お前は……!!」

「さぁ、殺れよ!俺は、何があっても生き方を曲げねぇ!魔物を憎み、殺し続けるぜ!それに文句があるなら、俺を殺してみせろ!」

「お前は、どこまで……!!」

 僕は、激情の赴くままに剣を抜いていた。そして、その刃でラザロに切りかかった──

 だがヴィクトリーが素手で刃を掴み、剣を止めた。

「んぎ……!!」

 彼の手からは血が滴り、ポタポタと床に落ちる。

「そ、そこまでだぜ……ルカ……」

 その剣先は、ラザロの胸には届かなかった。

「ヴィクトリー……」

 僕は、自分の意志で剣を止めたのだろうか。それとも止めてなかったのだろうか。

「流石に、そこまでする必要もねぇだろうよ……」

「そうだ……この男のために、お前が手を汚す事はない。」

「どうした、殺らねぇのかよ……!?俺はこの命に代えても、お前らの考えを否定するぜ!同じ人間同士でも分かり合えねぇんだ。人間と魔物が、分かり合えるわけがねぇだろ……!」

 ラザロはアリスの方を向いた。

「てめぇでもいいぜ、魔王!俺は、てめえの母親の仇なんだ!ほぉら、俺が憎いだろうが!引き裂いてみろよ、あの時みたいになぁあああ!!!」

「……貴様が、死に場所を探しているのは分かってる。だが、殉教者として死なせてはやらんぞ……」

 アリスは、魔力を含んだ目でラザロを睨みつけた。その目が眩く光り……そして、ラザロの体がピシピシと石化していく。

「が……何だこりゃ!何をしやがった……!」

「殺しはせん……が、石になってもらおう。死ぬわけではない、余の意志でいつでも元に戻せるのだからな……」

「くそ、魔王めぇええ……!!」

 断末魔の叫びを残し……ラザロは石になってしまった。

「……」

 その前でルカは呆然と立ち尽くし……徐々に熱が冷め、平常心を取り戻していく。

「……すまなかった、ヴィクトリー。」

 ルカは、ヴィクトリーに頭を下げる。

 ヴィクトリーが居なければ、ラザロを殺していたかも知れないのだ。

「……あいつの言葉は挑発に近いものを感じていた……おめぇに切られるためにな……そんでもって、自分の死を望んでいたんだ……理想に殉ずるためにな……」

「ラザロが……死にたがっていたって言うのか……?」

「俺の目には、そう見えた……」

「ラザロ自身、自覚していたかどうかは怪しいが……おそらく、これ以上生きるのが辛かったのだろう。自身が行っている事が正しくないと、他の誰よりも自覚していた。その挙句に、親友さえ殺めてしまった……今更信念を否定することなど、殺してしまった親友の為にも出来はしない。結局、信念に引きずられるがままに蛮行を繰り返すしかなかった……もはや、自分では止まれなかったのだろう……」

 まるで、自分の事のようにアリスは語る。

「そこに、殺しちまった親友の息子が現れた……無意識に、この息子の手で自身の人生を終わらせる事を望んだんだろうな……」

 ヴィクトリーは、そう言って石になったラザロに目を向けた。

「おいアリス、これっておめぇの意志で戻せんのか?」

「……余が、その気になったらな。」

「だったら、これからしばらくはこうしておいた方が良さそうだぜ。少なくとも、ルカの心の整理がつくまではな……」

 ふと、ここに団員が降りてきた。

「ラザロ団長、明日の予定ですが……っ!?」

「だ、団長が……石に……!?」

「今日で、イリアスクロイツは終わりだ。団長がこうなっちまえば、何もできねぇだろ。」

 しかし、これでこいつらが納得するか……?もうひと波乱あるか……

「う、うわぁああっ!団長がっ……!!」

「魔物に復讐されちまったんだ!逃げろぉおっ!!」

 なんと、団員は脱兎のごとく逃げてしまった。結局、あいつらにも信念は無かったみたいだ。

「そんじゃ、こいつだな……」

「ああ……」

 ルカとヴィクトリーは、神鳥の卵に目を向けた。

「しっかし、これじゃあほこらに運ぶまで大変そうだな……」

「……いや、オーブさえ揃っていれば、場所を移動する必要は無い。」

「じゃあ、ここでもいいのか……」

「じゃあ、さっそく……」

 アリスが、ルカの肩を叩く。

「いや……お前はちょっと休憩した方が良さそうだ。」

「大丈夫だよ、そんな……」

 別に、戦闘を行った訳では無い。わざわざ、休む必要なんて無いはずだ。

「ルカ、おめぇは今精神的に動揺している……そのまんま行っても、途中でぶっ倒れちまうぞ。」

「そうだ、ヴィクトリーの言う通りだ。」

 アリスは、ひょいとルカを荷物のように持ち上げた。

「おいおい、僕は大丈夫なのに……」

「おめぇ、鏡で自分の顔色見てみろ。」

「安心しろ、卵は逃げはせんし、他の人間もどうにもならん。すこしぐらい、ここに置いておけ。」

「……休むのは、ちょっとだからな。」

 ぐずる僕を、アリスとヴィクトリーは外に連れ出したのだった……

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