もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話 作:ジョーカー:ゼノ
「いんや〜……ハーピーってつえぇんだな〜……」
首をゴキゴキ慣らしながら服の汚れを払い、ヴィクトリーが歩いてきた。どうやら、そっちも終わったらしい。
「そうだね……僕もちょっとやばかったかも……」
ルカは剣を納め、ヴィクトリーは道着の帯を締めて、二人は一息つく。
「ちょっと……どうなったんだい?」
「ハーピー……旅の人が追い払っちゃったの?すっごーい!」
建物に閉じこもっていた村人達が、次々と広場に集まってきた。僕達はたちまち、ハピネス村の人々に囲まれてしまった。
「……やっぱ男がいねぇ……なんか落ち着かねぇな……」
ヴィクトリーがボソッと呟く。
僕も落ち着かなかった。やはり、男の姿は見当たらないのだ。
「ふむ……ハーピーを追い払うとは、なかなか腕の立つ若者よ。」
村人達の中から、いかめしい顔の老婆が出てきた。
「あんた、この村の村長か?」
「村長の妻じゃが……村長が不在の今、わしが代わりに村長を務めておる……」
「ふん……子供をさらわれそうになっても、見捨てて家に閉じこもるような奴が村長代理か。いや……一人とも子供を助けようとした者はいなかったな。」
僕達の背後からアリスの声が不意にした。でも、もう流石に驚かない。
「おいおい、アリス……!」
「そこまで言わなくても……!」
ルカとヴィクトリーは、チラと村人達を見る。村人達はアリスの言葉に対し、ただ黙って目を伏せていた。
「言い過ぎだぜ、アリス……」
「そうだよ……か弱い女性にモンスターと戦えと言ったって、無理に決まっているだろ。」
そして、そう言う人達を助けるのが、僕達の使命である!
「ヴィクトリー、貴様のような脳みそ筋肉なら、「村人一丸になってかかればこんな奴の一人や二人、楽勝だろ。」と考えるのじゃないか?」
アリスがヴィクトリーに目を向け、言葉を放つ。極論者の彼なら、もっとも考えそうな事だ。
「……だ、だけどよ……」
ヴィクトリーは、老婆の方を見る。
「……力無き我々にいったい何が出来ようか……塵は積もっても所詮塵じゃ……」
その言葉を聞き、彼が一番しょんぼりする。どうやら、同じ事を考えてたらしい。
「さて、旅人達よ、お主達の剣と拳を見込んで頼みがあるのじゃが……」
アリスが老婆を嘲笑い、僕達に向かって話す。
「ははっ……そら来たぞ。勇者一行サマ。例によって村の面倒事を押し付けようとする魂胆らしい。」
「……」
老婆はむっとした顔をしたものの、無視して話を続ける。
「お主達もお気づきだろうが、この村には男がおらん……さっき見た通り、近隣に住むハーピーの群れが男をさらっていくからなのじゃ。」
「私のダンナも、この村に嫁いでから、二ヶ月で攫われて……」
「私の夫も……他の村から来た時に攫われて……その夫が遺した愛する我が子も……」
次々と被害報告が僕達に言い渡される。この村に来た男は片っ端からハーピーに連れ去られているという。男がいなければ子供も出来ないので、他の村から男を婿にとっているのだが……そんな彼らさえ連れ去られているという。
「そんな……なんてひどい……」
「……ハーピーに連れ去られてるオトコはどうなっちまうんだ?」
「分からんのじゃ……帰ってきた者はおらんからのぅ……」
「ま、まさか……!!」
ギャアギャアと鳴くハーピーが、男達の肉を啄み、悲鳴をあげる男を容赦なく食らいつくし、骨だけにしてしまう。
そんな想像が膨らんでいた。
「……それか、奴隷のように働かされているのじゃろうな……それにしてもわしが言うのも何だが、発想が古いぞ……お主はあれか、大昔の人間か。」
同じ事をアリスに突っ込まれたばかりだぞ……ヴィクトリーは後頭部に手を回し、へへへと笑う。
「ぐっ……なんてひどい……!」
こんな事、許してはおけない!そんなひどい事をする魔物がいるから、人と魔物が仲良く出来ないんだ!ヴィクトリーもシリアスな顔になり、目を鋭くさせる。
「難しいハナシはここまでだ。よーするにハーピーぶっ飛ばしてオトコ達を救えばいいんだろ?」
「ぶ、ぶっ飛ばす……」
僕はうろたえてしまう。何もぶっ飛ばさなくても……
「まぁ、そう言う事じゃの……どうか、旅の方たちよ、頼まれてはくれんかのぉ……」
「自分でやれば良いだろう。」
アリスが、一刀両断に答える。
「アリス……」
「おめぇって奴は……」
「そうだろうが。自分で維持出来ない平和などに何の意味があるのだ。よそ者を頼って、自分達は屋内で震えている……無様な話だ。」
ルカはため息をつき、アリスに言った。
「そうは言うけどね、アリス。か弱い村人達に、魔物と戦えって言うのは無茶だよ。」
「おめぇさっきもそれ言ってたじゃねぇか。」
「う、うるさいな……」
アリスをなだめ、僕は村人達に問いかける。
「それで、ハーピーの住処は何処にあるんですか?」
「この村から少し東に行った森の中に、集落があるそうじゃ。」
「退治に行ってくれるのかい……?」
「あぁ……旅のお方たち……ありがとうございます……」
アリスがまた村人達を嘲笑いながら言葉を放つ。
「ふん、良かったな。このニセ勇者と脳みそ筋肉はドアホだから、魔物退治でも何でも行ってくれるそうだ。そんな風にして、お前達はいったい何人の旅人をハーピーの巣へと送り込んだんだ?」
ルカがその言葉に反応する。
「いったい何人……って今まで僕達以外行った旅人がいるのか?」
「俺も気になってたぞ……」
二人は老婆の方に向かう。だが、老婆は目を伏せたまま黙り込んでしまっている。そこで、若い女性が代わりに答えた。
「これまで七人もの旅人が向かったのですが……誰も帰っては来ませんでした……」
「そ、そんな……」
「七人も犠牲になってんのか……相当手強いんだろうな……」
アリスはフッと失笑し、言い放つ。
「ほぉれ見ろ。この連中はその事を言わなかった。貴様らはいくらでも替えのきくお人好しにしか過ぎん。魔物を退治してくれたらもうけもの、駄目だったらまた次の旅人に差し向ける……そう言う魂胆なのだ。この連中はな……」
アリスの鋭い言葉にルカとヴィクトリーは黙ってしまう。
そして、老婆が口を開く。
「しかし、我らは戦う術を持たん……あまりに無力なのじゃ……」
「それで、七人もの旅人を犠牲にしてきたと?そして今度は二人、これまでの事は伝えずに、ハーピーの巣に向かわせようというのか?」
「アリス……おめぇ嫌な奴だな〜……ぜってぇ将来未来永劫独身だぞ……」
アリスはそんなヴィクトリーの言葉を無視して、話を続ける。
「余が保証してやろう。ハーピー族の振る舞いも目に余るが、貴様らも相当の悪党だ。」
村人達の中に反論する者は無く、ただ目線を地に落とすのみ。
「……もういいよ、アリス。それでも僕は、ハーピーの集落に行くよ。」
「……あ、当然俺もだ。」
「ふん、そんなに英雄になりたいか。しまいには英雄願望で身を滅ぼすぞ、ドアホめ……」
ルカは迷いの無い瞳で、アリスの問に答える。
「僕は、英雄になりたい訳じゃないって。ただ、勇者の剣は弱者を守るためにあるんだ!」
「ニセ勇者だがな……」
アリスが大きなため息を吐いた、その時だった。
「あ、あたしも行くよ!」
不意におばさんが、目線を上げて言った。
「あたしの夫は病気で先立たれたけど……愛する息子のマルクが待っているかも知れないんだ!」
「し、しかし……」
老婆が驚いている時だった。
「わ、私も行きます!」
また一人、別の女性が声を上げた。
「そこの銀髪の女性の言う通りです!この村の危機だというのに、我が身惜しさに旅人に押し付け続けた……そんな私達は卑怯者です。」
「そうね……私達の村は、私達で守らないといけないのよ。」
「うんうん……今、ようやく目が覚めたよ……これは、この村の問題なんだ……」
みるみると村が団結していった。
ハーピーの集落にカチコミをかけようという女性は数を増し、ほとんど全員が名乗り挙げたのだ。
「むぅ……しかし、皆の者……」
老婆はまだ乗り気ではないようだが、ヴィクトリーが声をかける。
「婆さん……この村の人達は今、自分達の責任に気付き、そして自分達でケジメをつけようとしている……そして、初めて自分達で戦うことを決意したんだ。そこに口出しすんのは野暮じゃねぇか?」
老婆はその言葉に、黙ってしまう。
そして、周りの村人達はそれにうんうんと頷く。
「ちょ、ちょっと待ってください……!いくら団結したといえ、ハーピーの巣窟に乗り込むのは危険じゃ……」
アリスが言葉を遮り、提案する。
「ハーピーの群れには、仲間を統一するボスがいる。そいつさえ倒せば、群れは大混乱に陥るだろう。か弱き人間でも何とか追い払えるかも知れないな。」
「そうなのか……じゃあ、僕がボスを叩くから、ヴィクトリーは村人達を……」
「いや、待て。ボス討伐は二人で行け。さもないと作戦は失敗に終わるぞ。」
ハーピー族のボスっていうのはそんなに強いのか……?そう思い、作戦を練り直す。
「じゃあ、ボスは僕達がやります。だからみんなは、安全な所で待機していて下さい。」
「俺達がボスを倒したら何かしら合図を送る。そしたら一斉に突っ込むんだ。いいなっ!?」
この作戦なら、村人達の被害も最小限に抑えられるはずだ。
最悪失敗しても、犠牲になるのは僕とヴィクトリーの二人だけだ。
「分かったよ……すまないねぇ。肝心なところを任せちゃって……」
「ふん、結局貴様らが一番面倒な役回りではないか……」
「当然だろ?僕達は勇者一行なんだから!」
「ニセ勇者と脳みそ筋肉だがな……」
「うぐぐ……」
「ぐぬぬ……」
何とでも言うがいいさ。行動が勇者的なら、すなわち立派な勇者なんだ。
ともかく、こうしてハーピー集落への攻撃作戦が進められる事になった。決行は夕方、それまで僕達は大人しく待つのである……
夕方までの間、ヴィクトリーが筋トレしているので、一緒に修行する事にした。ちなみに、僕は剣技の鍛錬だ。
「イッチ……ニ……!!」
ヴィクトリーは木にぶら下がり、腹筋運動をしている。多分僕じゃ十回も持たないだろう。
修行している最中、他愛の無い質問をしてみた。
「……やっぱり、ヴィクトリーが武闘家になるって決めたのは、憧れの人の影響なの?」
「そうだ。おめぇとおんなじだ。」
「ハインリヒのように、強くて、優しくて、それでいて悪を絶対打ち砕くような……そんな感じ?」
「あぁ……あの人なら……どんなピンチも何とかしてしまいそうって感じがするんだ……何だか知らねぇけどそんな気がする。」
そんなに凄い人なのか。そこに僕達の修行を見ていたアリスが口を出してきた。
「それで、そいつの名前は?」
「あぁ、孫悟空って人だ。」
「……孫……悟空……西遊記?西遊記の孫悟空はそんな格好をしていたか?」
アリスの天然な言葉にヴィクトリーが木から落ちそうになって、足一本で留まる。
「……まぁ無理もねぇか。そういうことはいつかゆっくり語れる日が来てから話そうぜ。」
そしてまた両足で木にぶら下がり、腹筋運動を再開する。
「……それにしても凄い筋力だな。ルカがやろうとしたら五回ももたないだろうな。」
「……見せモンじゃねぇんだけど……」
それでも気にせずに腹筋運動を続ける。
そして、木にぶら下がったまんま、上半身の服を脱ぎ捨てた。
ヴィクトリーは着太りするタイプで、道着を脱いだその体は、程よい筋肉と均整のとれた体だった。
「お、おぉ……」
女の武器が柔肌だとしたら、男の武器は筋肉だろう。
そう思いながら、少し憧れのようなものを抱きながら眺めていた。
「ルカ、視線が気持ち悪ぃぞ。」
「あ、あぁ……ごめん……」
アリスは興奮と驚愕が混じったような顔でルカを見る。
「き、貴様……!!まさかそういう趣味が……!!」
「ち、違うってば!!」
必死で否定するルカをあははと笑いながら見る。
「……どんな性趣向であろうと、余は否定せんぞ。だから胸を張って……」
「だ、だから違うってば!!おいこら!勝手に解釈するなー!」
そんなこんなで、戦士達は夕方の戦いに備えたのだった……
流血表現
-
もっとする
-
このままでいい
-
しなくていい