もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:jokered

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笑うツクヨミ、狙いすます女王

 プランの森にて、戦士達はクィーンアルラウネの洗脳を解いた。しかしそこに現れたのは魔王城の時に会ったネクストドールの一体……ツクヨミだった。

 ヴィクトリーとクィーンアルラウネは連携してツクヨミに猛攻するが、ツクヨミの圧倒的なパワーによって、二人に強力な一撃が炸裂した。

 ヴィクトリーは平気だったものの……クィーンアルラウネは致命傷を負った。

「植物族に手を出させるわけにはいかねぇ、おめぇをぶっ飛ばしてやる!」

 しびれを切らしたヴィクトリー、遂にツクヨミとの本格的な戦闘に入った。

「ぐ……く……!!」

「クィーンアルラウネっ!!」

「しっかりしろ!」

「は、離れていて……下さい……!!」

 クィーンアルラウネは……ツクヨミに注目していた。

「……隙が出来るはず……!!その隙に、私の最後の力を使って……!!」

「な、何かするつもりか……!?」

「……」

 クィーンアルラウネは、ヴィクトリーと戦ってるツクヨミの隙を伺うことに徹していた。

 その隙に秘策を発動しようというのだが……果たして……

 

「だだだだだだ……!!」

「はぁあああ……!!」

 ヴィクトリーとツクヨミが、激しく攻防を繰り広げる。土の力を宿した剛力のツクヨミも、超サイヤ人2で全開バトルを繰り広げるヴィクトリーも、とてつもない速度で攻撃を飛ばし、また防御していた。

「うぉおおっ!!」

「なんのっ!」

 飛んできた、ヴィクトリーのローキック。しかしツクヨミは左の前足で受け止め、右の前足で彼に殴りかかる。

 しかし、ヴィクトリーはそれを見切り、ガードした。だがあまりのパワーに、靴と地面を擦らせながら後退してしまう。そして、背中に木が当たった。

「はぁっ!!」

「くっ!」

 ツクヨミの拳が、ヴィクトリーに迫る。しかし彼は避け、目標を逃した彼女の拳は木を粉砕した。

「ちっ……!」

 彼を追いかけるツクヨミの目が光り、ビームが連射される。ヴィクトリーはそれをバク転しながら避けて、着地した。

「がぁああっ!!」

 彼女はそれを確認して、土の力を纏ってタックルしてきた。四本足で激しく猛ダッシュしながら突撃してくるそれは、まるで棘を纏ったダンプカーのようにも思えた。

「あぶねぇっ!!」

 ヴィクトリーは飛び上がって、それを回避する。見ると、木が次々となぎ倒され、大地も粉砕しているようだ。

「ひ、ひえぇ……!!」

「うふふ……」

 ツクヨミは彼の方を見て前傾姿勢になった。補足しておくと、彼女には両腕が無い代わりに、腕の付け根から背中にかけて後輪が展開しているのだ。そして今、その後輪にエネルギーが集中している……

「はぁっ!」

 それを上空に打ち上げ、彼女の目が光った。

「弾けて、混ざれぇっ!!」

「にっ!?」

「あれは……!?」

 ヴィクトリーやアリスの視線がそこに殺到した。エネルギー弾が弾け、閃光を放ってから、光の玉となった。

 あれは……間違いない。一部のサイヤ人のみに出来る、月の生成だ……!!

「奴め、月を作ったのか……!!」

「月を生み出せるのが、サイヤ人の専売特許とは思わない事です……」

 光の玉から放たれる光が、ツクヨミの後輪に集中し、膨大なエネルギーとなる。

「ま、まさか……!!!」

「くらいなさい……月光キャノン!!」

 ツクヨミの後輪から、極太のレーザーが迸る。その技は、見覚えがある。かつてたまもが放ってきた、あのとんでもねぇエネルギー波だ。

「ちぃっ!!」

 ヴィクトリーはそれをかめはめ波で受け止め、相殺した。

「今のはたまもの技か……!!」

「その通り……たまもに出来ることは私にも出来るのですよ……」

 次にツクヨミは月光を吸収し、無数のエネルギー弾を放った。

「ちぃっ!あだだだだだだ……!!」

 それらを次々と弾き飛ばし、ツクヨミにかめはめ波を撃とうとするヴィクトリー。

「ヴィクトリーっ!!そこから離れろっ!!」

「なっ!?」

 アリスの声でハッとして、周りをよく見ると、弾いた筈のエネルギー弾が彼を囲むように浮いていた。

「消えなさい……!!」

 ツクヨミの目が光ると同時に、エネルギー弾が彼に殺到し、天にも地にも響くような大爆発が巻き起こった。

「……ふっ……」

 爆煙が晴れ……そこにヴィクトリーの姿は無かった。と思った時だった。

「だりゃあっ!!」

「っ!?」

 ツクヨミの後頭部にヴィクトリーが飛んできて、思いっきり蹴っ飛ばした。彼女は木をなぎ倒しながらぶっ飛び、岩壁にめり込んだ。

「行くぞぉ!!」

 ヴィクトリーは着地し、跳んでツクヨミに殴りかかった。

「はぁああーーーっ!!」

 彼女は気を解放し、岩を吹っ飛ばしてから、何かを念じる……

「陰陽・朧月夜!」

 そしてツクヨミの魔力により地震が発生し、地割れが起こった。

「なにっ!?」

 ヴィクトリーは浮かんで凌ごうとしたが……

「がぁっ!!」

 ツクヨミはヴィクトリーの上に高速移動し、前足で彼を地割れの穴に叩き落とした。

「ぐっは……!!?」

「閉ッ!!」

 ツクヨミがそう言って念じると地割れが元に戻った。

「ヴィクトリーっ!!」

「く……!!!」

「これで奴は、この地面に押し潰された筈……さぁ……」

 ツクヨミがクィーンアルラウネの方に向いた時だった。突如地面が爆発し、そこからヴィクトリーが飛び出してきた。

「なっ!!?」

「だりゃあっ!!」

 そしてツクヨミの顔面を、両足蹴りで打ち抜いた。

「ぐっ……!!がぁっ!!」

 しかし彼女は土の力で踏ん張り、前足で彼をぶっ飛ばす。

「ふんっ!」

 ヴィクトリーはぶっ飛ばされてる途中で体制を整え、木を蹴って彼女の顔面に飛び蹴りした。

「ぐっお……!!?」

 それはクリーンヒットし、その巨体を勢いよくぶっ飛ばした。

「……この手の飛び蹴り、クリーンヒットしたのおめぇが初めてじゃねぇか?」

 ヴィクトリーは着地して、したり顔でそう言う。

「……」

 ツクヨミは立ち上がり、体の汚れを払って笑い……そして、ヴィクトリーに猛攻した。彼もそれに対応し、攻防した。

「言っとくけど、魔王城でたまもを倒したのは俺なんだぜ!劣化コピーのおめぇが勝てるわけねぇだろ!」

「……果たして、劣化コピーでしょうか……?」

 次の瞬間、ヴィクトリーの腕に斬撃が走った。

「っ!!?」

「ふふ……私がただのたまものクローンだと思ったら、大間違いですよ……」

 ツクヨミの手の先……異常なまでに発達した爪に、血が滴っていた。

「マジかよ……!!」

「ふふ……!!」

 ツクヨミの打撃ばかりの猛攻が一変し、打撃と鋭い爪の猛攻に変わった。

「ぐっ……!!」

 腕に力を入れてなきゃ、ぶった切られちまう……!!

 そう思っていたら、ツクヨミの体がヴィクトリーと密着した。

「うふっ……!!」

 次の瞬間、首筋に激痛が走った。

「ぎゃあぁっ!!?」

 ヴィクトリーは硬直し、ゆっくりと首筋を見る。

「へぇ……とっさに硬直しましたか……そこら辺は頭がいいのですね……いえ、本能と言うやつですか?」

 見ると、ツクヨミが鋭い牙で首筋に噛み付いていた。

「くっ!」

 彼はたまらず、その耳の下を一本拳で打突する。

「あがっ!!?」

 すると彼女の顎が外れ、あんぐりと口を開けてしまった。

「あ……ぐっ!!」

 ツクヨミは前足で顎を掴み、顎の関節をハメで元に戻す。ヴィクトリーは血が噴き出す首筋を押さえ、彼女を睨んだ。

「おめぇ……まるで……!!」

「ふっふっふ……そう、お気づき頂いたでしょうか……私はたまものクローンにして、この地上にある旧世代の獣系モンスターの上位互換なのですよ……」

「くそ……!!」

 ツクヨミは笑い、またヴィクトリーに猛攻を仕掛けた。今度は拳、爪、噛みつきの猛攻だ。

「ぐっ……ぐぁっ!ぎゃっ!ぐぐ……ぐぅっ!ぐぁっ!ぐぐ……ぐふっ!うぎゃあっ!!」

 捌ききれず、ぶっ飛ばされて倒れるヴィクトリー。

「く……くそ……俺一人じゃ……分が悪ぃぞ……!!」

 アリスはあんな状態だから、戦わせるわけにはいかねぇし……

 ルカ……あいつ、何でこんな時にぼーっとしてんだ……まさか、あいつ天使の力を使いすぎて半分気絶してるんじゃ……

 プリエステス……も無理そうだ。クィーンアルラウネ……は、言うまでもな──

 ヴィクトリーがそこまで思った時だった。クィーンアルラウネの目に、光るものを感じたのだ。

 あいつ、あんなボロボロになって何を……

「ふんっ。」

 ツクヨミはヴィクトリーの髪を掴んで持ち上げた。

「ふふ……少しぐらいは、味見してみましょうか……」

 そして、鎖骨に甘噛みし、ゆっくりと首筋に舌を這わせる……

「ちぃっ!!」

 ヴィクトリーが、ツクヨミのこめかみを蹴ろうとした時だった。彼女の牙が、深く、彼の首筋に突き刺さった。

「うぎゃあああああぁ……!!!」

 噴水のように飛び出す血を、ツクヨミは喉を鳴らし、美味しそうに飲んでいく。そうしていく内に彼の超サイヤ人2が解け、黒髪に戻ってしまった。

「……ぁ……ぅ……」

「ふふん……余計なことをしなければ、もっと味わってあげたでしょうに……」

 ツクヨミが、ヴィクトリーから手を離した瞬間だった。彼の体がツタに絡め取られ、クィーンアルラウネの方に投げられる。

 それと同時にツクヨミの体が、巨大な花弁に包まれた。

「くっ!」

 まずはアリスが魔眼でヴィクトリーに応急処置を施す。

「ちちちち……一体、何が……」

 見ると、巨大な花弁がツクヨミを包んでいた。この花弁──

「……クィーンっ!」

「……はぁっ……はぁっ……!!こ、これが……私の最後の力……」

「ふふっ……こんなものは数秒の足止めにしかならないというのに……私が操る大地の力、その身で知ってるはずでしょう……?」

「数秒の足止め……それで十分です。それだけあれば、精製できる……」

「精製……?いったい、何をしようというのです……?」

 その様子を見ていたアリスが、声を上ずらせる。

「まさか、アズテックローズを……!!やめろ、クィーン!!その状態でアズテックローズを精製すれば、貴様の命もないぞ!!」

「覚悟の上です……皆を守るには、これしか……」

「やめろと言って……」

「そこの人の子が、命を賭けてまで作ったチャンスを無駄にすることは私には出来ません!!」

 クィーンアルラウネはそうシャウトし、手を合わせて何かを詠唱する。すると、ツクヨミを閉じ込めた花弁の檻……その中にとてつもない何かが満ちようとしていくのが感じられた。外から見てても、ヤバイと感じるほどの何かが……

「これは……毒……!?」

 ルカもいつの間にかハッとしてるようで、その光景を見ていた。

「な、何だよ……あれは……!!?」

「……アズテックローズ……この世に存在する毒物の中でも、最も毒性の高い神経毒だ。吸引した者の神経細胞を完全に破壊し、即座に命を奪う……無論、それは精製者とて例外ではない。」

「精製者も例外じゃない……って事は……!!」

「……これを精製すれば、クィーンアルラウネと言えど助からん。それを分かっていながら、同胞を守るために……」

「………………」

「………………」

 ルカとヴィクトリーの視線が、花びらの檻に向く。あの中では、最悪の猛毒が満ちているのだという。女王が、その命と引き替えに造り出した猛毒が……

「……そして、アズテックローズは効力の短い毒だ。この世に誕生した瞬間に全ての者を滅ぼし、五秒で完全に消え去る……まるで自分をも即座に葬ってしまうかのような、儚い毒なのだ。」

「……クィーンアルラウネ……」

「……」

 閉ざされた花弁が、みるみる朽ち果てていく。もうとっくに五秒は経った……ツクヨミも、これで力尽きたか……いやっ!

「ま……ままさか、どど毒とは…………この私ががが、こ……こ……こんななな……!!」

 呂律が回っておらず、足取りもおぼつかない。それでもツクヨミは、まだ力尽きていなかった……

「そ、そんな……!!」

「ち、ちくしょおっ!!」

「ま、ま前が……見えな……!どど毒の中和が……お追いつかなない……!!」

「信じられん……!アズテックローズを直に吸って、意識さえ保てるとは……!」

 しかし、ツクヨミも戦闘不能になったようだ。

 全身を痙攣させながら、その場に崩れてしまった。

「クィーンアルラウネの犠牲を無駄にはせん!トドメを刺させてもらう!」

「あぁっ!」

 アリスとヴィクトリーは気を解放し、ツクヨミに突っ込んだ。

「う……ぐ……おおぉーっ!!」

 倒れたまんま、ツクヨミは足を大地に打ち下ろす。その衝撃は大地を揺らし、土砂を巻き上げた……

「うぐ……!」

「ちっ……!」

 激しい地震と土煙で、アリスはたじろいでしまう。そして土煙が収まった時……既にツクヨミの姿は無かった。

「なっ……!?」

「逃げられたか……」

 ツクヨミを逃がしたのは痛い。だが今は、逃げてしまった者よりも……

「クィーンっ!」

「クィーンアルラウネ……!」

「女王様……!」

 瀕死の女王の元に、僕達は駆け寄った。プリエステス達も、倒れ伏した女王を取り巻く。しかしクィーンアルラウネは既に虫の息のようだ……

「私の命は……ここまでです……女王位は、プリエステス……あなたに譲りましょう……」

「そんな……私は……まだ……」

「女王位と引き替えでさえ、昆虫達の粛清を拒否した意志……その共存の心こそ、次代のクィーンに相応しい……プリエステス、後は……あなたが……」

「クィーンアルラウネっ!」

 ヴィクトリーはプリエステスの横から入り、仙豆を取り出す。残り二粒しか無いが……そうも言ってられなさそうだ。

「こいつを食えば、おめぇは助かる!早く!」

「……」

 クィーンアルラウネはそれを受け取り……ヴィクトリーの懐にしまった。

「クィーンっ!?」

「……確かに……これを口にすれば、私は助かるのでしょう…………しかし……どちらにしろ老い先短い私には……勿体無いものです…………」

「そ、そんな事言ってねぇで……!」

 クィーンアルラウネの手が、ヴィクトリーの手を掴んだ。

「その豆は……あなたと……あなたの連れの為に……とっておいて下さい…………そして……必……ず……イリアスを………………」

 クィーンアルラウネの手から力が抜け、地面に落ちる。

「女王様っ!」

「クィーンっ!」

「………………」

 女王位をプリエステスに譲り、受け取った仙豆をヴィクトリーに託し、クィーンアルラウネは死んだ。物言わぬ死体になり、植物モンスター達は嘆いた。昆虫モンスターも、ほとんどがその死を悼んでいた。女王の犠牲によって、この村の者達は救われたのだ……

「……くっそぉおお……!!」

 俺が、とっととツクヨミをぶっ飛ばしてりゃ……俺がもっと強かったら……!!

 ヴィクトリーも怒りのままに地面をぶん殴る。悔しさを、我慢出来ないのだろう。

「……悲しいね、アリス……」

「ああ……」

 嘆き悲しむ魔物達を眺め、僕達もその死を悼んだのだった……

 

 女王の埋葬が終わり、騒動も一段落したプランセクト村……

「……」

 ヴィクトリーは女王を埋めた土に、カードを立てた。

「それは?」

 植物モンスターがそれを見てたようで、そのカードを覗き込んだ。

「……俺の宝物。」

 もしも、ここにまた何かあったら……今度は、こいつがここを守る。

 ヴィクトリーはクィーンアルラウネの墓の前でそう祈る……

「おい、ヴィクトリーっ!」

「ん、ああ!」

 どうやら、ルカの方もプリエステスと話し終わったようだ。

「それでは、お気を付けて……」

 プリエステス……いや、今はクィーンアルラウネと呼んだ方がいいか。彼女がいれば、この村も団結出来るだろう。

 そう思いながら、戦士達はプランセクトの地を後にした……

流血表現

  • もっとする
  • このままでいい
  • しなくていい

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