もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話 作:ジョーカー:ゼノ
「隠れ里エンリカって所に、ちょっと行ってみようか。」
ルカの故郷からそう離れてはいないのに、名前さえ聞いた事が無いという。
いったいどういうところなんだ……?
「俺も少し気になってた……ルカでさえ名前聞いた事ねぇんだろ?」
「……ふむ、旅の書にもエンリカの名前は載っておらん。もしかしたら思わぬ名産品があるやも知れぬな。」
相変わらずこいつは、食べ歩きツアーか。
「気になるんだろ?行ってみようぜ。」
ヴィクトリーは伸脚しながら、そう言う。
「うん、行こう!」
こうして僕達は、隠れ里エンリカに向かったのだった。
「なぁ、この方向で合ってんのか?」
ヴィクトリーが、そう質問する。
「だいたいの場所はイリアスベルクの商人に聞いたんだ。確か、この付近の筈だけど……」
突然アリスが、眉をひそめる。
「む……?なかなかに珍しい魔物だな。」
「え……?」
振り向いた瞬間に、彼女の姿は消えた。それと同時に、一体の魔物が僕達の前に立つ。現れたのは褐色のエルフ……ダークエルフの剣士だった。
エルフとは、「森の番人」と呼ばれる種族。基本的には心優しい彼女達だが、中には闇に堕ちたものも存在する。それが、ダークエルフだという。
「直ちに引き返しなさい。この辺りは人間が近づいていい場所では無いわ……」
ダークエルフは剣を抜き、僕達に向ける。
「何で人間はダメなんだ?」
質問したのはヴィクトリーだった。彼女はその問いに、無慈悲に答える。
「あなた達が人間だからよ。言っても退かないのなら、堕としてしまうわ……」
「トートロジーかよ……」
「……」
あの剣は牽制。物理攻撃で戦闘不能にした後、本命の快楽攻撃をするつもりだろう。
「それでも、通らせてもらう……!」
ダークエルフに対し、僕も剣を抜いていた。
「退く気は無いよね。じゃあ堕としてあげる……闇で汚して、私のモノにしてあげるわ……」
ヴィクトリーは木に寄りかかり、戦おうとはしなかった。
「……ルカ、おめぇ一人でやってみろ。」
「え……?」
「俺達は格段に強くなっている。相手は珍しくマトモなモンスターだ。自分がどれだけ強くなったのか試す、いい機会じゃねぇか?」
確かにヴィクトリーの言う通りだった。今までは二人で戦ってきたから、コンビネーションによる強みを得られた。だが、一人で戦う機会というのはあまり無い。それに、ヴィクトリーが敵を誰かに譲るなんてそうそうある事じゃない。
僕は言われた通り、一人でダークエルフに向かった。
「武闘家は戦わない気……?」
「……そいつがヤバくなったら手を出すつもりだ。だけど今は剣士同士の一対一だ……俺の立ち寄れる領域じゃねぇ。」
「そう……」
ダークエルフも剣を構えなおし、ルカに向かう。
「たっ!」
「やっ!」
剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「はぁっ!」
「ふっ……!」
ダークエルフが柄の部分で顔面を打とうとする。ルカはそれを難なくかわし、腹に蹴りを打ち込む。
「うぐっ……!?」
「はぁあああっ!!」
そして跳躍し、兜割りを放つ。
だが、それは刃で受け止められてしまった。
「あまいっ!」
ダークエルフが大きくなぎ払いを放つ。それを間一髪かわし、距離をとる。
「ふんっ!」
ダークエルフはそこに踏み込み、回転切りを仕掛けてきた。だが、ルカはそれを剣で受け止める。
「ぐぐ……!!」
その状態で力を込め、押し切ろうとするダークエルフ。
「……てやぁっ!」
ルカはそんな彼女を一笑し、剣を弾き飛ばした。弾き飛ばされた剣は、ヴィクトリーの顔に飛んでくる。
「……」
彼はそれを、顔色一つ変えずに首を傾げて避けた。そして剣はスコンッという音と共に木に突き刺さる。
「なっ……!?」
「魔剣・首刈り……!!」
剣が無くなり、丸腰になったダークエルフの懐に入り、強烈な突きを喉元に放った。その一撃で決着がついた。
「な、なに……?私の身体が……きゃあああ……!!」
ダークエルフの身体が消散し、掌サイズの小人になる。
「わ、私を封印するなんて……覚えていなさいっ!」
そう言って、封印されたダークエルフは逃げていった。
「やるじゃねぇか!すげぇ強くなってるぜ!」
ヴィクトリーが僕に駆け寄り、そう言う。
「そうかな……ふふふん。」
「ふむ、このような場所にダークエルフが居るとはな。」
アリスが現れ、口を開く。
「いったい何故だ……?」
「さぁ……?」
当然ながら、僕が知るはずが無い。
「イリアスヴィルからそう離れていないんだから、出現する魔物もそう変わらない筈なんだけど……」
「ヴィクトリー、何か掴めたか?」
アリスはヴィクトリーの方に向く。
見るとヴィクトリーは額に指を置きながら、目を瞑っている。
「……邪悪な気がもう一体……その先にチラチラと小さい気が何体か集まっている……多分これはエンリカの人達じゃねぇかな……」
「もう一体……?」
「もう一体か……気をつけないとな……」
僕達は歩を進めた。
そして、そのもう一体はすぐに現れた。
「な、何だあいつ……」
「かぁっ……きめぇっ……」
召喚タイプのダークエルフで、スカートの裾から触手らしきものを出していた。
「ここから先へは行かせないわ……私が召喚した触手の餌食にしてあげるわ……くすっ。」
最初から話を聞く気も無いらしい。
「ここは俺に任してくれ……」
「あぁ。」
僕はヴィクトリー達の少し後ろに立つ。
「一人で戦うつもり……?いいわ……ぐちょぐちょにしてあげる……」
「ぶっ飛ばされねぇ内に通した方が身のためだと思うんだけどなぁ……」
ヴィクトリーは構え、ダークエルフを睨む。
「だっ!!」
先に仕掛けたのはヴィクトリーだった。ダークエルフに飛び込み、拳で頬を打ち抜いた。
「ぶっ……!?」
「でゃだだだだだ……!!」
そのまま猛烈なラッシュをかまし、一気に勝負が決まるかと思われた。
「うふふ……」
「何っ!?」
ヴィクトリーの背後から触手が迫る。そしてその触手はヴィクトリーの体にしゅるしゅると絡みつき、そのまま拘束してしまった。
「このまま可愛がってあげる……触手に嫐られて、たっぷり射精してしまいなさい……」
「断るっ!」
ヴィクトリーは目をキッと鋭くする。
「っ!?」
すると、ダークエルフは何かにぶつかったかのような衝撃を受け、よろけてしまう。その隙にヴィクトリーは触手から脱出し、バク転して距離をとる。
「か……め……は……め……!!」
「ま、まさか……その技は……!!」
「な、なに……?」
そう、クィーンハーピーを倒したあの技を放とうとしていた。もうあんな大技モノにしたのか……!?
「波ぁああーっ!!!」
そう言い、両手を突き出す。だが、出たのはライターの火程のエネルギー。それを見て、ルカはずっこけそうになった。
「モノに出来てないじゃんっ!!」
「あ、あらら〜……あん時は極限だったからかな……へへ、へへへへ……」
ヴィクトリーは、ダークエルフの方に歩み寄る。
「……どうやら大技も不発みたいね……うふふ……観念してこの触手に搾られちゃいなさい……」
「よし、じゃあ久しぶりのアレやるか!!」
アレ……!?アレとはいったい……
「だあぁっ!!」
構えてから懐に入るまでは一瞬だった。
「あら……また触手に拘束されたいのかしら……?」
そんなダークエルフの言葉を無視し、ヴィクトリーはその技名を叫んだ。
「ジャーン拳!!」
「じゃんけん……!?」
突然じゃんけんという素っ頓狂な単語に驚き、硬直してしまうダークエルフ。
しかし、それが決め手となった。
「グー!!」
「ごふっ……!?」
まず最初に腹に正拳を放つ。モロにくらったダークエルフは腹を押さえながら、ヴィクトリーを見る。
「チョキ!!」
「っ!?」
その目に、今度はチョキの手で目潰しした。これは流石に効いたらしく、今度は目を押さえて悶絶する。
「パー!!」
「がはぁっ!?」
最後はパーで胸板に掌底を食らわせた。直撃した彼女は吹っ飛び、木に叩きつけられ、気絶してしまった。
「お、おぉ……」
なんと、モンスターをエンジェルハイロウ無しで無害化したのだ。
「おっしゃー!」
「またダークエルフとはな。集団でうろつくような種族では無いはずだが……」
アリスが現れ、気絶しているダークエルフを見る。
「そもそもダークエルフ自体、数は多くねぇんだろ?」
「その通りだ。本来エルフというのは清純な種族。しかし、ごく稀に魔素を溜め込んでしまう者が出てくる。俗に言う『堕ちる』という現象だな。そうなると、好色かつ堕落を振りまく存在となる。他のエルフから疎外され、単身で行動するはぐれモンスターとなるのだ。また、ダークエルフが更に多くの魔素を蓄えると、別の魔物に変質してしまう場合もあるのだが……」
「何にしろ、そうウロウロしているモンスターじゃねぇんだろ?不思議モンスターだな。」
「うむ。」
「へぇ〜……アリスって色々詳しいんだね……」
ルカがそう言い、アリスはお決まりの言葉を吐く。
「当然だ、余を誰だと思っている?」
「知らないよ……」
とにかく、襲いかかってくるモンスターはあれで最後のようだ。
「そ、それにしても……エンリカはどこにあるんだ……僕はいい加減歩き疲れたぞ……」
「何だだらしねぇな。」
「それでも勇者か……おっと、ニセ勇者だったな。」
「……」
僕はこの二人とは違い、純粋な人間なのだ。もっとデリケートに扱って欲しい。
そして数時間後、森を抜けた所で小さな村を発見した。
「あれがエンリカか……!?」
「らしいな……」
喜び勇んで、僕達はその小さな村へと入ったのだった。
「……ここが、エンリカ……」
見たところ、狭く慎ましやかな村。しかし、その雰囲気はどこか妙だ。静かというか、神秘的というか……何か、不思議な感じがする。
「……人間の気じゃねぇ……魔物が殆どか……?いや……」
「……なるほど、そういうことか。あのダークエルフとの事も含め、全てが合点したぞ……」
困惑気味のヴィクトリーを横目にアリスは何やら一人で納得してしまった。
「どういう事なんだ……ん?」
村の奥から、一人の女性が歩み出てくる。どこか普通とは異なる雰囲気の、不思議な人だ。
「……」
ヴィクトリーはその女性に違和感を感じていた。気が全く感じられないのだ。気とは生命のエネルギー。どんな矮小な生命であろうと、僅かな気を放つ。だが、その女性からは全く感じられなかった。
この現象には心当たりがある。破壊神ビルスやその付き人ウイスと初めて出会った時だ。その二人は神の力を持っていて、通常の人間には感じられない気を持っていた。神の力を持つと気が感じられなくなり、普通じゃない存在になれるという。この女性は、神の力を持っているというのか……!?
「あなた達は……少なくとも商人では無いようですね……」
「は、はい……イリアスベルクの商人から、この場所を聞いて……」
その言葉を聞き、女性が冷徹に答える。
「お引き返しください。必要なものを搬入してくれる商人以外、この村には足を踏み込ませないしきたりなのです。」
なんと、立ち入りさえ拒まれてしまった。どうやら、恐ろしく排他的な村らしい。
「そ、そんな……」
「お気を悪くされたでしょうが……我々はずっとそうして暮らして来たのです。あなたが良識のある旅人ならば、どうか我々をそっとしておいてください。」
ルカは少し考え、答える。
「……分かりました。迷惑をおかけしました。」
静かに暮らしている人達の生活を土足で踏み荒らす……真の勇者ならばそんな事はしない筈だ。頭を下げ、その場から去ろうとした時だった。女性の視線が、ルカの指輪へと向けられる。
「その指輪は……!もしかして、あなたは……ルカ!?」
「え……そうですけど……」
「……何であなたがこいつの名を……?」
ヴィクトリーが珍しく敬語で話す。
確かにそうだ。なぜ、この人が僕の名を知っているのだろう。僕が知る限り、この村に来たことなどない筈だが……
「やはり、ルカなのですね……あの子がこんなに大きくなって……」
「あの、僕を知っているんですか?」
「ええ。私はミカエラと申します。あなたの母上の事も父上の事もよく知ってますが……」
ミカエラと名乗った女性はそこで笑い淀んだ。その目に深い決意の色が浮かぶ。
「……しかし、どうか今はお引き返しください。もし時が来れば、お話する事もあるでしょう……そこの異世界から来たあなたの事も含めて……」
ミカエラは、ヴィクトリーが異世界から来た人間だというのを分かっていたかのように言う。
「……!?」
まさか、ヴィクトリーの事も知っているのか……!?
「……俺の事もご存知でしたか。」
「えぇ。時が来れば話すつもりです……だから……」
「……確かに、今あなたから聞いても何も得るものは無さそうですね……分かりました。」
今は何も話せない……その決意は、僕達にも見て取れる。
ここで食い下がった所で、何も聞くことは出来ないだろう。
「……じゃあ、また来ることがあれば……」
「えぇ……ご武運のあらんことを……ルカ、そして異世界から来た人……」
「ヴィクトリーだ。」
こうして僕達は隠れ里エンリカを後にしたのだった。
この村の事は覚えておいた方がいいな……
「……不思議な村だったね。」
「不思議村だったな。」
懐かしさにも似た、異様な雰囲気……そして僕達のことを知っていたミカエラ……
「どういう事だ……?あの村はいったい……?」
「どうしたんだ?アリス?」
「おめぇ村に入った時は納得してたじゃねぇか。」
何だか納得したり悩んだり、変な奴だ。
「一旦は納得したが、まだまだ腑に落ちん点が沢山あるのだ。隠れ里エンリカとは、エルフの隠れ里かと思っていたが……」
「ミカエラさんはエルフじゃねぇっぽいしな……」
「あぁ、あの女、間違いなく……」
アリスとヴィクトリーがブツブツ話し合うが、両者ともため息を吐く。
「まぁ何にしても、あの村ではご馳走も期待できんだろう。」
結局、こいつは食べ物の事か。
「今は謎のまんまでいいさ。時が来れば分かるだろ、焦る必要なんてねぇんだ。」
「そうだね……ともかくこの一件はここまでにして、旅を続けようか。」
そう言い、勇者一行はまた旅路を進むのであった。
流血表現
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もっとする
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このままでいい
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しなくていい