もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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海神の鈴

 突如現れた謎の少女妖狐、たまも。その実力は、グランべリアと互角だそうだ。

「なんだって……!?」

「グランと同格かよ……!」

 たまもは、二匹の狐を撫でる。

「すまんのう、お主達。ウチがさきさき進んでしまったばっかりに、そんな姿にされてしまったか。……少しばかり、ウチの魔力を分けてやろう。」

 たまもの掌が光り、子狐に移る。すると、子狐は妖狐の姿に戻ってしまった。

「わわわっ……」

 そして妖狐は、たまもの背中に隠れてしまう。

「七尾、お主の魔力を満たすには少々時間がかかる……悪いが、後にさせてもらうぞ。」

 七尾は、たまもの足にすりついた。そして彼女は、立ちはだかる僕達をまじまじと眺めた。

「ふむ、お主達が勇者一行……勇者ルカと武闘家ヴィクトリーか……七尾を倒すとは結構な腕前じゃのう。」

 たまもはちょこちょこと僕達に近づき、周囲を回りながらくんかくんかと匂いを嗅いできた。

「かわいいのうー!ウチの情夫にしてやっても良いぞ!」

「なっ……!誰がそんな……!」

「かぁっ……俺ロリには興味ねぇぞ……」

「ふふっ、二人ともうい奴よのう。二人一緒に寝床の上で、存分に可愛がってやりたいのう。」

「……」

 視線を落とすと、たまもはその手に鈴のようなものを持っていた。いかにも古そうな、紐付きの鈴だ。

「どうやら、そいつが海神の鈴みてぇだな……」

 ヴィクトリーは、僕が言うより先に答えた。

「いかにも。セントラ大陸に渡られると面倒らしいから、もらっていくぞ。正直、ウチはどうでもいいのじゃが、アルマエルマがうるさくてのう……」

「アルマエルマ……?」

 ヴィクトリーも僕も、アリスに視線を送る。

「そいつも四天王の一人。風を起こして航路を封鎖している張本人だ。」

「例の嵐も、四天王の仕業ってわけか……」

「四天王が二体も関わる話とはずいぶんとゼータクな話だな……」

「そういう訳で……この海神の鈴が欲しければ、どうするか分かっていような?」

「あぁ……」

 僕は剣を抜こうとしたが、ヴィクトリーとアリスがそれを止める。

「今の俺達じゃ勝てねぇ……どう奇跡が起こってもな……」

「その通りだ。」

「で、でも……」

 そんな様子を見て、たまもがにっぱり笑う。

「およおよ……魔王様は、その人間がずいぶんとお気に入りのようじゃの……」

 ……魔王様?今、たまもは魔王様と言った。アリスが……魔王?

「アリス……お前……」

「……」

 しばらくアリスが黙り、また口を開く。

「……今頃気付いたのか、ドアホめ。余こそが魔王、アリスフィーズ16世だ。」

「そんな……!」

 最初から出会った時からただの魔物では無いことには気付いていた。グランべリアを追い払った所で、上位の魔物だという事に気付いた。まさか、魔王だったなんて……

「ぬ、ぬぅ……言ってはいけなかったかの……?ウチが全く置いてけぼりではないか……」

「そ、そんなにショックだったんかな……」

 ヴィクトリーとたまもは二人を横目に会話する。

「とにかく、『海神の鈴』はウチが頂いていくぞ。……ん?」

 たまもの背中を、妖狐がくいくいと引っ張る。

「なんじゃ?……ふむ、ふむふむ……そうか、この武闘家に命を救ってもらったのか。」

「俺か……つーかおめぇ魔物だったんか……」

 こほん、とたまもは咳をつき、ヴィクトリーの方に向く。

「それでは、狐族の長として礼をせねばならんのう。」

 たまもはちょこちょことヴィクトリーに近寄り、にっぱりと笑う。

「礼として、何が欲しいかの?おいしいあぶらあげか?特別に、ウチのもふもふ尻尾を触らせても良いぞ……?」

 ヴィクトリーは目を鋭くして笑った。

「じゃあその鈴を寄越してくんねぇかな……?」

「なんと、そう来たか……」

 そうは言いつつ、予想通りとの顔。

「ほれ、持っていくがいい。」

 ヴィクトリーが掌を見せて、たまもがそこに投げる。

「いいんか?こんなあっさり渡しちまって……」

「正直ウチはどうでも良いからのう。この洞窟がアスレチックみたいで、つい奥まで入ってしまっただけじゃ。」

 するとヴィクトリーの表情が和らぐ。

「そんなに楽しかったんかよ〜!おめぇ、アスレチックぶっ壊しながら進むやつがドコにいんだ!」

「ふふふっ、すまんのう。お主には魔王城で合うときに存分に楽しませてやろう!」

「そん時はぜってぇ勝ってやる!」

「負けたら、ウチの情夫になるのだぞ……」

 たまもはヴィクトリーの背中に乗り、耳元で囁いた。

「ま、負けないように頑張ります……」

 そのまま笑い、彼女はルカの方を見る。

「さて、海神の鈴を手に入れたところで、ついでにウチを退治するか?」

「……今はまだ戦う理由は無いよ。僕が倒すのは、人と魔物が共存する世界の障害になる奴だけだ。」

「ふむ、殊勝な心がけよ。この男がついてくるだけはあるのう。しかし、いつかは戦う時が来るじゃろう。ウチは魔王軍四天王の一人じゃからな。」

「あぁ、分かってる……」

 それでも今は戦う理由なんて無いはずだ。彼女は、ヴィクトリーの背中から降りた。

「では、さらばじゃ。」

 妖狐と七尾ともども、たまもはその場から消えてしまう。その場に残ったのは僕とヴィクトリーと……複雑そうな表情のアリスだった。

「……」

「まさか、アリスが魔王だったなんて……」

「隠していたわけじゃない。貴様がドアホ過ぎて気付かなかっただけだ……ヴィクトリーの方が、うすうす勘付いてた様だがな……」

 ルカはヴィクトリーを見る。

「ヴィクトリー……お前もアリスが魔王だって事を知ってて……」

「……実はグランべリアを追い払った時点でもうアリスが魔王か魔王の娘かなんかかって言うのは想像ついてた……前者だったのは初めて知ったけどよ。」

「……」

 僕達は今まで、魔王と旅をしていたのだ。魔王退治の旅を、当の魔王と一緒に……騙された、などとは決して思わない。ただ、その理由がさっぱり分からなかった。

「何で、僕達と旅をしようと思ったんだ……?」

「以前の答えと何ら変わらん。貴様らという人間に興味が沸いた。また、世界というものをこの目で見てみたい……」

「なら俺達と旅すりゃ一石二鳥、一番手っ取り早いな……」

「その通りだ。」

 続いてヴィクトリーが質問する。

「じゃあ、俺も質問しちゃうけど魔物を率いて人間に全面戦争仕掛けたっちゅう話はどうなんだ?」

「『自己防衛の目的においてのみ、力を振るう事を許す』……余が全ての魔物に通達したのは、ただそれだけだ。」

「それが歪んだ形で人間に伝わっただけか……いや、答えなくていい。おめぇが人間との全面戦争を望んでねぇ事ぐらい分かってるさ。」

「……今の所はな。」

 ルカが口を開いた。

「でも、グランべリアはイリアスベルクに攻めてきたじゃないか!」

 それだけではない。世界のあちこちで魔物が人間を襲っているのだ。それは、魔王がそう命令したからではないのか。世界中の誰しもがそう思っている筈だ。

「『レミナの虐殺』以来、人間達は魔物達に敵対心を持ち、極めて危険な状態にあった。よって、余は自らの身を守る暴力のみを容認したのだ……しかし、それを拡大解釈し、人間をいたずらに攻撃する魔物も多いようだ……けしからんことだな。」

「じゃあ、その『レミナの虐殺』はどうなんだ!」

「俺も気になっていたぜ。ありゃ魔王の命令とか言ってたが……まぁ目星はついてるぜ。」

「……分かるのか?言ってみろ。」

 ヴィクトリーは目を閉じて考えた後、僕達を見た。

「……レミナっていうのは元々魔物と人間が仲良くしてた所だ……だけど、突然魔物が暴れてレミナの人間を虐殺した……ここまでは合ってるよな?」

 ヴィクトリーは僕の方を見る。

 僕はコクリと頷き、ヴィクトリーの言葉を待った。

「その魔物さ、殺したのは本当に人間だけだったか?」

「……」

 アリスは少し驚き、ヴィクトリーを見た。

「どうやら、貴様は思ったより頭が働くようだな……」

「俺の頭が働く働かねぇは、この際どーでもいいだろ。」

「……その通りだ。不可解な事にレミナには魔物の死体まで発見されたのだ。」

「おっしゃビンゴ!」

「何だって……!?」

 魔物まで虐殺されていたのか……?そんな話は初耳だ。

 僕達人間の間では、あれは魔族の凶行だと言い伝えられているのだ。

「俺の予想だと……

 一、魔物の独断。

 二、イリアス様がやった。

 三、他の誰かがやった。

 って予想してんだけど……」

「二でいいんじゃないか?」

 アリスがあっさり答える。

「いや……イリアス様は人間を深く愛しておられる……それは考えにくいと思うぞ……僕は一を信じたい……」

 ヴィクトリーはゴホンと息をつく。

「アリス、おめぇ幾つで王位についた?」

「……つい最近だ。」

「なら、この事件の魔王は前代魔王か……」

 ヴィクトリーは全力で頭を回転させ、考え込む。

「……その魔王が、レミナを滅ぼせっつったってのもおかしな話になるな……」

「その通りだ……余の母上はそんな事を命令する者ではない……」

「そうなのか……?」

「……そもそもそんな事をする意味が魔王側にも見つからねぇ。」

「そのような行為を独断で行った魔物も見つけることは出来ん……」

「……」

「……」

「……」

 謎が謎を呼ぶ展開に尻込みしてしまう三人だった。

「さて、話は以上だ。どうする、二人とも……貴様らの倒すべき相手がここにいるのだぞ……?」

「え……?」

 僕達の目的は、魔王の討伐。魔王を倒すために、僕はイリアスヴィルから、ヴィクトリーは異世界からやってきたのだ。

 そして……今、目の前にいる存在……アリスフィーズ16世、彼女は……

「討ち倒すべき魔王だ。」

 ヴィクトリーが言い放つ。

「なるほど……ならば、貴様らを魔王討伐に来た勇者として、扱わなければな!!」

 アリスはボウッと気を開放した。

 その圧倒的な気の嵐にルカは吹っ飛んでしまった。だが、ヴィクトリーは一歩もひかない。

「行くぞ!!」

 アリスがヴィクトリーの顔面を殴ろうとしたその時だった。

「だが、今じゃない。」

 その言葉で彼女の拳が止まる。

「……どういう意味だ?」

「せめて、決着は魔王城でつけようぜ……それまで我慢してくれ。」

「貴様……吐いた言葉を引っ込めるのか……!?」

「俺を含め、ここにいる奴はまだ何も学んじゃいねぇ。……ここまで言えば分かるな?俺の真意が……」

「……」

 ヴィクトリーの言う通り、僕達はまだ何も知らない。

 魔物の事、人間の事、世界の事だって……僕達の目的は魔王退治。だがそれは、今の目的だ。この旅で、魔王を倒すより、もっといい方法が見つかるかも知れない。

 お前は討ち倒すべき魔王だが、今じゃない……お前を倒す前に、学ぶべき事が沢山ある。ヴィクトリーは吐いた言葉を引っ込めた訳じゃない。言葉を繋げたのだ。

「やはり貴様、そこらの単純な武闘家では無さそうだ……」

 アリスは気を鎮め、拳を下ろした。

「……それに、俺はおめぇを倒した所でどうにもならないと思っている。」

「……ほう?」

 ヴィクトリーの隣にルカが並ぶ。

「ルカ、おめぇと同じ理由だ。言ってやれ。」

「うん……」

 ルカは唾を飲み込み、口をひらいた。

「……今、アリスがいなくなったら魔物達は混乱するだけじゃないのか?」

 アリスはむしろ魔王として、魔物の暴走にブレーキをかけていたようだ。そのアリスがいなくなったら、平和が来るどころか……むしろ逆。統率を失った魔物が何をしでかすか分からない。

「うむ、おそらくそうだろうな……一応魔物達には自己防衛のみを遵守させてはいるが……それでもグランべリアやアルマエルマといった跳ねっ返りが出る有様だ。」

「イリアス大陸とセントラ大陸の航路をジャマしてるのもアルマエルマってやつの仕業なんだろ?流石にそれは自己防衛の域を越えてるぜ……」

「しかしな……グランべリアなどは堂々主張していたが、イリアス神殿こそ悪の元凶……そこで大量生産された勇者なるものが魔物に危害を及ぼしている……よってイリアス神殿を破壊するのも自己防衛の一環であるという論調だ。まぁ、理屈としては間違っていない。勇者を名乗る連中の暴挙、確かに目に余る。」

「……」

 魔物側の視点から見れば、それも真実なのだろう。

 まだまだ人間と魔物の歩み寄りというのは難しいのが現状なのだ。

 だからこそ、僕は……

「……今は余を討つ必要はない……それで良いのだな?」

「あぁ、勿論だ!」

「何度も言ったはずだよアリス。僕達が戦うのは人間と魔物が共存する世界の障害になる奴だけだって……」

 アリスは違う。

 魔王は決して邪悪な存在ではない。それが僕の出した結論。

 ヴィクトリーは「決着は魔王城でつける」……これが結論だそうだ。

「どっちにしろ、魔王城には行かなきゃなんねぇ。あそこ、世界の各地で悪い事してる四天王が雁首揃えて俺達を待ってんだろ?」

 イリアスベルクを襲ったり、航路を暴風で邪魔したり……

 その所業は断じて放置できるものではないのだ。

「しかし……四天王の言い分とて、余は理解出来る。それゆえに、余は連中の行動を放任しているのだ。」

「言い分は、誰にでもあると思うよ。ただ、誰にでも立場があるって事だけで……」

 魔物には魔物の立場が、人間には人間の立場がある。それを理解し、尊重しなければ人と魔物との共存は夢のまた夢だ。

「そして、魔王である余にも立場がある。魔物というのは全て余の可愛い部下達なのだ……言い分はどうであれ、余の部下を叩き伏せる貴様らの戦いに手を貸す訳にはいかん……それも分かっているな?」

「分かってるよ。アリスの力は借りない。」

「おめぇは同行者であって敵でも味方でもねぇんだろ?」

 結局、これまでの旅と変わらない。魔王は、意外に話が通じる奴だと分かっただけだ。

「魔王と一緒に魔王城に向かう勇者一行……面白ぇじゃねぇか。」

「あぁ、そうだね……」

 ヴィクトリーが背伸びをして、僕達を見た。

「重い話はここまでだ。さっさとイリアスポートに行こうぜ!出航が俺達を待っている!」

 こうして、海神の鈴を手に入れたところで僕達はこの洞窟を出るのであった。

流血表現

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  • しなくていい
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