もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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竜印の試練

 ルカと合流したヴィクトリーとサラ。

「……ねぇ、あたしって役に立ってない……?」

「あぁ、全然役に立たねぇぞ。」

 ヴィクトリーが正直に言い、サラはその言葉が胸に突き刺さり、白目をむいてしまう。

「ちょ、ちょっと……!正直に言うなよ……!」

 ……僕もヴィクトリーと同じ感想だが、正直に言うのもはばかれる。

 そんな事を話しながら奥へと進んだ……

 

「……ここは……?」

 なんだか、雰囲気が全く違う空間。ずいぶん進んだし、ここが再奥だろうか。

「ピラミッドの再奥に、スフィンクスがいるって聞いたんだけど……」

 サラが、周囲をきょろきょろと見回した時だった。

「……!!」

「なんだっ!?」

 重圧な気が、二人の体にまとわりついた。

 なにか、とんでもない奴が近くにいる……!!

「とうとうここまで来たか……か弱き人間よ……」

 不意に姿を現したのは……なんとも強そうな魔物だった。巨大な獣の口の下半身に、女の上半身。背中から六匹ばかりの蛇と、翼が生えてる。

 こいつの気は今まで戦ってきた奴とは段違い。今の僕達ではかなわないかもしれない……

「あんたが、スフィンクス?」

「いかにも。妾がこのピラミッド主、スフィンクス。ヒトの死を見守る存在にして、竜印の試練の最終審判。」

「つまり、おめぇに認めてもらえば試練はおしまいか……」

「その通り。しかし妾が認めねば、生きたまま丸呑みにしてくれる。それでも構わんな?」

「え……!?」

 正直、それは困る。そもそも僕達はお姫様を救いに来ただけで、試練は関係ないのだ。

「あの、僕は……!」

「いっさいの質問に答える舌を持たぬ。最終試練を受けるか、受けぬかの二者択一。受けぬのなら、すぐに立ち去るがよい。」

「……分かった、受けるよ。」

 最終試練とやらを終わらせなければ、質問にも答えてくれないようだ。不本意であるが、仕方がない。

「おっしゃあ!じゃあとっとと始めようぜ!」

 ヴィクトリーが構えたが、スフィンクスは掌を見せた。

「まぁ待つがよい。人の身で妾を倒す事など不可能だ。人の身で為せぬ事を、人の受ける試練で強いたりはせぬ。」

「……」

 ヴィクトリーはイラッとした表情を見せ、渋々構えを解いた。

「まどろっこしいわねぇ……じゃあ、どうすればいいのよ!」

 スフィンクスはふふん、と笑ってから三人を見た。

「最終試練は、妾からの謎かけだ。これより、妾が投げ掛ける問いに見事答えてみせよ。」

 ヴィクトリーは、首を傾げる。

「謎かけ……?なぞなぞでもすんのか?」

「その通り。妾は賢者を好み、愚者を嫌う。汝たちが愚者ならば、その身を食ろうてくれよう。」

「な、謎かけか……」

 正直、単純な僕には苦手分野ともいえる。

「サラ、大丈夫そうか……?」

「大丈夫よ、たぶん。私、けっこう学歴あるんだから。」

 ……正直、サラよりヴィクトリーの方が心配だ。この脳みそ筋肉、とんちんかんな事を答えないだろうか……

 僕達は緊張した面持ちで、スフィンクスからの謎かけを待った。

「……では、問おう。朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足……これは何か。」

 こんな簡単な問題が、最終試練?こんなの、おとぎ話でも聞いたことのある有名な問題だ。

「人間!」

「人間。」

「人間ね。」

 三人の答えが、重なった。

「ふふふ……正解だ……四本足は赤子、二本足は大人、三本足は杖をついた老人……それが、ヒトという存在だ。」

「おっしゃーっ!」

「やったっ!」

「よしっ!」

 三人は、ハイタッチを交わす。

「……では、続けて三人に問おう。妾が、このような謎かけを汝たちに投げかけるのは何故か?」

「え……!?」

「ま、まだ終わらねぇんか……!?」

 どうやら、試練はまだ終わっていなかったらしい。

「サラ、分かるか……?」

「……」

 サラは、首を横に振った。無理もない。これは、スフィンクスの個人的な動機の問題だ。自称博識のサラとはいえ、答えを知っているはずも無いのである。

 なぜスフィンクスはあのような問いを投げたのか……?

「……単なる惰性だろ。」

 ヴィクトリーが、イラついた様子で口を開く。

 スフィンクスはその言葉を聞き、笑った。

「ふ……ふははははははっ……!面白い返答をするものだな、人の子よ……言われてみれば、確かに惰性だったかも知れん。妾はずっと、ここに訪れる者達にあの問いを投げかけ続けたのだ。何百年も、ずっと……これを惰性と言わずして、なんと言おうか。」

「……そもそも、こいつおめぇの問題だ。俺たちに知ったこっちゃねぇ。人の身では出来ねぇことは、しねぇんじゃなかったんか?」

「お、おいおい……!」

 言い続けるヴィクトリーを止めようとしたが、スフィンクスは全く気にしてない様子だった。それどころか、彼の不用意な答えは、彼女の感慨を引き起こしたようだ。果たして、吉と出るか凶と出るか……

「正解とは少し違うが、特別に認めてやろう。確かにこれまでの年月は、ずっと惰性だったのだ。あの方と死に別れてから、ずっとな……」

 なぜだか憂いを帯びたように、スフィンクスは口にした。

「では、これが最後の問い掛けだ。つまり、汝達の受ける最後の試練である……」

「……」

 僕達は、思わず息をのんだ。いよいよ、次の問い掛けで最後なのだ。

「なぜ汝達は、この試練を受けようとしたのか。その理由を、偽りなく述べるがいい。」

「え……?」

 試練を受ける理由……それが最後の問い?これじゃあ、まるで面接じゃないか。こんな問いに、答えなんてあるのか?そのまま、率直に答えればいいのか?

 僕は、ヴィクトリーの方を見た。

「……」

 彼は、静かに頷いた。それを確認した後、ルカが口を開いた。

「サラに任せるよ。」

「えっ……!?私……!?」

 サラは、きょとんとする。

「……回答を放棄するのか?ならばその理由を述べよ。妾の納得できぬものならば──」

「うるせぇよ。」

 ヴィクトリーはスフィンクスの言葉を遮り、言う。これには流石の彼女も、イラッとした表情を浮かべた。

「そもそも、俺達は試練を受けに来た訳じゃねぇ。別件で来て、サラと付き添う事になったんだ。」

「そう、だからさっきの質問は、僕に答える資格なんてない。それを答えるべきは、サラなんだよ。」

「……ふむ、汝らの言葉には確かに理がある。では、そちらの娘に聞くとしよう。」

 スフィンクスは、サラに向かい直った。

「なぜ、汝はこの試練を受けようとしたのか……」

「悪いけど私ら気の利いた答えなんてできないから。私が試練を受けたのは、愛する人と結ばれるためよ!」

「……」

 その答えを聞き、スフィンクスは黙り込んでしまった。

「なによ、文句でもあるの?正義のためとか、栄誉のためとか、そういう答えの方が良かった?」

「そのような答えだったら、躊躇なく汝達を食っておったわ……この竜印の試練は、人間と魔物の婚姻のためのもの。しかし、本当にそのような目的で試練を受けに来た者はおらぬ。このピラミッドに眠る財宝のため、試練を乗り越えたという名声のため……真に、魔物と結ばれんがため試練に挑む……そのような者はおらなんだ。いずれも私利私欲のために妾の前に立ち、意気揚々と謎かけに答えるのだ。「朝は三本足、昼は二本足、夜は三本足、それは人間だ」と。この謎かけの意味を、本気で考えようとする者などいない。なぜ魔物と結ばれようとする人間に、あらためて人の儚さを語らせるのか……」

「……人間と魔物がケッコンしても、人間の方が先に逝っちまうからだろ?」

「……その通り。人と魔物が婚姻する以上、人間の側が先に死ぬという事は避けられん。それでも人間にとっては満足な一生だったかも知れん。」

「だけんど、残された魔物は、愛する人と必然的に死に別れちまう……どうせ、おめぇもそんな経験したんだろ?」

 スフィンクスは、少し黙った。そして、三人に向かい直り、口を開く。

「……今から千年ほど前、妾はとある男と愛し合った。汝達は、砂漠の英雄サバサとして知る人物だ。」

「知らねぇ。」

「……まさか、サバサ王家伝説の……!?」

 ……ヴィクトリーは異世界の住人。知らなくて当然だ。

「その通り。妾とあの方の子が、サバサ城の主となった。その一族が代々、サバサを治めているのだ……今に至るまでな。」

「……???」

 ルカはヴィクトリーの肩をぽんと叩く。

「サバサ王家には、魔物の血が混ざっているんだ……その魔物が、スフィンクスの事だったのは、僕も初めて知ったけど……」

「……えっ!?マジかよ!通りであのおっさんめちゃくちゃつえぇ訳だ!」

「……なんと、サバサ王が……汝ごときと……!?」

「あぁ!めちゃくちゃ強かったんだぜ!俺の攻撃なんて全く通じなかったんだ!」

 ルカは、ヴィクトリーとサバサ王が戦っていた事を初めて知った。

 やっぱりあの王様、めちゃくちゃ強いのか……

「……すまねぇ、話を続けてくれ。」

 スフィンクスは頷き、また話を続ける。

「……妾は、あの人が老い、そして死ぬのを見守るしかなかった。妾の魔力で魔物化させ、延命する手段もあったが……あの方は固辞した。あの方は人間としての死を迎えたかったのだ……妾は愛する者の避けられぬ死を目にし、そして一人になった。」

「……」

 サラは、真摯になって聞いていた。スフィンクスの話を自分に言い聞かせていたのだ。

「実際のところ、妾にも人間として死ぬという選択肢があったのだ。世の中には、魔素を封印し人間そのものとなれる魔道具も存在する。それを使えば、妾も人間として、あの方と共に死ねたのだ……しかし、妾はその選択肢を選ばなかった。決して死ぬのが怖かった訳ではない。あの方が死に、そしてあの方を知っているわ妾も死ぬ……」

「……この世から、あの方のミームが消えちまうのが怖かったのか。」

 ヴィクトリーの言葉に、スフィンクスは頷いた。

「……そして妾は、あの方と死に別れた。あれから約千年の歳月、妾はずっと一人だった。」

「……」

 スフィンクスの悲哀に満ちた目がルカとヴィクトリーを見る。

「勇者の方はルカといったな……そして武闘家の方は……」

「ヴィクトリーだ。」

「そうか……ルカ、そしてヴィクトリー、汝達も奇妙な因縁を持つ者よ。汝達ならば、妾の選択をどう捉える?」

「えっ……?」

「俺達かよ……」

 二人は少し考えてから、顔を見合わせた。そして、スフィンクスの方へと向かい直す。

「死に別れるのは、仕方なかったと思うよ。」

 ルカが言い、スフィンクスも頷く。

「それぞれの種族の生を全うする……それは、死に別れた者にとって残酷な選択なのだ。これほどの孤独が待っていると分かっていたならば……あの方と共に、人として死んでいた方が良かったのかもしれんな。」

 そう呟き、スフィンクスはサラに視線をやった。

「魔物と結ばれようとする者よ、それこそが真の試練。妾は、ただそれを伝えたかったのだ。」

「……分かったわ。あんたの苦しみとか辛さとか、絶対に忘れない。グランべリア様と結ばれたとき、私はどうするのか……どうするべきなのか……よく考えてみる。」

「この話、僕も忘れないよ。」

「あぁ、俺もだ!」

 僕達は、人間と魔物との共存を夢見ている。そんな理想の世界では、決して関係のない話ではない。

「……さて、最終試練は全員とも合格とする。それでは、竜印の試練をくぐり抜けた証を与えよう!」

「えっ……!?」

「うわっ!?俺も!?」

 不意に、僕達の手の甲に竜の頭を象形化したような紋章が浮かんだ。それは、あっという間に消えてしまう。

「今のが……証……!?」

 どうやら、サラの手の甲にも同じものが浮かんだようだ。正直な所、僕にとってこの試練は目的では無いのだが……

「……あっ!!すっかり忘れてた!このピラミッドに、お姫様が囚われてるって話なんだ!」

「そういやそんな目的だったな……スフィンクス様、何か分かるか?」

「はて……そのような事実に心当たりはない。妾はピラミッドの主である以上、ここでの事は全て把握している。」

「え……?サバサ姫は、ここに捕まってるはずじゃ……」

「何それ、どういう事よ……!?何で、そんな話になってるのよ……!?」

 いきなりサラは、素っ頓狂な声を上げる。

「ん?どうした?」

「サバサ城の姫って……私の事よ。」

「え……!?」

 ルカは、腰を抜かさんばかりに仰天してしまった。

「ひゃ〜!たまげたなぁ……」

「三日前の夜中、窓を破って入ってきた魔物が姫をさらったって……」

「その夜中、自分で窓を蹴破って城を出たのよ。ピラミッドに行くって言ったって、お父様は許してくれないだろうし。」

「血も凍るようなおぞましい文字で、「ピラミッド」って書いた手紙があったっていうのは……?」

「一応、行き先だけは書き置きしたんだけど……血も凍るようなおぞましい文字って何よ!」

「なるほど、おめぇ字がヘッタクソなんだな。」

「うっさい!」

「つまり……君は自分の意思で城を出たと……?」

「三日も帰らなかったから、大騒ぎになっているとは思ったけど……まさか誘拐騒ぎになっていたなんて……」

「なんてこった……姫様本人、ずっとそばに居たんじゃないか……」

「ひゃ〜……」

 僕達は思わず脱力してしまった。ここまで頑張ってきた僕達の苦労はいったい……

「……さて、揉め事も収まったようだな。ついでに、これを持っていくがいい。」

 僕達の目の前に置かれたのは……とても美しい宝玉だった。透き通るようなイエローの光が、周囲にまばゆく照りつける。

「……確か、赤いの持ってたよな俺達……」

「うん……」

「それは、イエローオーブと呼ばれる魔導具。このピラミッドに死歳するものでもないが、財宝狙いの盗賊どもにくれてやるのも面白くない。いっそ、汝達が持っていくがいい。」

「あたしは、魔導具には別に興味無いから。もらっちゃいなさいよ。二人とも、」

「え……?いいのかなぁ……」

「俺は言葉に甘えるぜ。」

 ヴィクトリーはイエローオーブを持ち、ルカの道具袋に突っ込んだ。

「……って持つのは僕かいっ!」

 ……なんだか知らないが、オーブが二つになってしまった。

「キンタマかこのやろー」

「うっさい!」

 ……しかし、依然として使い道は分からない。

「なぁ、スフィンクス様、これ何に使えばいいんだ?」

「それは、聖なる翼を蘇らせるためのものよ。……まぁどうせ、六つ揃いなどはせぬ。売るなり飾るなり、好きにするがいい。」

「あぁ、うん……」

 結局のところ、よく分からない。

「……あの方と死に別れてから、妾はずっと後悔してきたと言ったな。しかし今、悠久の孤独も無駄ではなかったと考えている。あの方の目に燃えていた炎を、千年を超えてなお、汝の目に見ることができたのだからな……サラよ。」

「えっ……私……!?」

 サバサ王家の祖が英雄サバサとスフィンクスであるという事は、サラは子孫にあたるはず。千年の時を生きた妖魔にとって、サラには色々と感慨があるのだろう。

「ではさらばだ、人の子達よ。いつの時も、あの人のように気高くあれ。」

 そう言って、スフィンクスは消えてしまった。

「……千年経ってもベタ惚れじゃない。そんなに凄かったのかぁ、おじい様のおじい様の何代も前のおじい様って。」

「あぁ、そうだったみたいだね。」

 色々と、考えさせられる話だった。そして、一応サバサの姫様も無事だったのだ。

「……結局、無駄足だったんだな。そもそも姫様、さらわれた訳じゃなかったなんて……」

「いやぁ、多分そんな事ねぇと思うぞ。」

「悔しいけど、あんた達がいなかったらここまで来られなかったわ。だから、ありがとね。二人とも。」

「……これで良かったのかもね……」

 サラは眼を細め、手の甲の刻印を眺めた。それはすっかり薄くなっているが、確かにそこに刻まれているのだ。

「待っててね、グランべリア様……すぐに会いに行くんだから……」

「魔王城に行くんか?」

「流石に魔の大陸には行けないから、お出かけされている時を狙うわ。少し前に、イリアスベルクにいらっしゃったそうだから……また、どこかの町にお顔を見せるかも。あぁ、サバサ城にいらっしゃらないかしら……」

「……」

「……」

 あいつが来たら、たちまち陥落させられるぞ。

「……ともかく、ここを出よう。もうピラミッドに用は無いしね。」

「そうね……エスコートはよろしくね、勇者一行くん。」

 ……そういえば、サラはお姫様だったか。勇者一行が、お姫様を助け出したっていうシチュエーションなんだよな……何だか想像と違う、違いすぎる……

「エスコートする間でもねぇよ。ほら、二人とも俺につかまれ。」

 ヴィクトリーは額に指を置いて待機していた。

「?」

「あぁ、そうか……」

 二人は、ヴィクトリーの肩に手を置いた。

「アリスは……これか。」

「きゃ!?」

 三人はその場からシュインッと消え、ピラミッドを後にしたのだった……

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