もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話 作:ジョーカー:ゼノ
「あぁもう何だよ……」
だいたいあいつは何なんだ。何故助けようとしたのにあそこまで馬鹿にされなきゃいけないんだ。
「まぁいいじゃねぇかよ……気にすんなって。急ごうぜ。」
ヴィクトリーはいつの間にか沈黙魔法も解けてたみたいで、うなだれる僕をなだめてくれた。
「……あいつ、めちゃくちゃ強そうだったな……」
「……あぁ。」
今の僕達ではどう足掻いても傷一つつけられないだろう。というよりあの妖魔と僕達の強さの関係はヴィクトリーが言った通り、挑めば一瞬で消し炭にされてしまうだろう。
ちょっと怖かったから逃げながら罵声を浴びせたぐらいだ。
「……まさか噂に名高い四天王とかじゃないだろうね……」
「……」
四天王……あぁ、そういやイリアスも……そんな事言ってたような言ってなかったような……ま、いっか。
ヴィクトリーはその事は声に出さず、胸の中に押し込んだ。イリアスの事に関してめちゃくちゃ厳しいルカの前で、その名を呼び捨てにするとどやされそうだし、何か面倒な事になりそうなので、敢えて黙ったのであった。
「いや、忘れよう。」
あんな妖魔の事なんか忘れて、今はイリアス様の事だけを考えよう。そうだ、今日はとっても素晴らしい日なんだ。ずっと憧れてきた勇者に、とうとうなれるのだから……
「あぁ……イリアス様……!僕は、ルカはきっと魔王を倒してみせます……!」
そんなルカに、ヴィクトリーは冷たい視線を送る。
「う、うざっ……」
一転して足取りも軽やかになり、村に戻った。
「ぁぁ……ぉぅ……ぅぁ……」
「だ、大丈夫か……?」
時刻は正午過ぎ、ルカは呻きながら、ヴィクトリーはそんな彼をなだめながら、イリアス神殿を出る。
ルカの顔面は蒼白で、ゾンビ状態と疑われる程だろう。今日は一生に一度、洗礼を受けられる日。それなのに二人は洗礼を受けられなかったのだ。決して遅刻した訳じゃない。ちゃんと正午前にはイリアス神殿に出向いたのだ。にも関わらず、何故かイリアス様は降臨されなかったのだ。
ヴィクトリーが、神官様に聞いた。
「なぁ、何で降臨しねぇんだ?今日のハズなんだけど……おっかしいな〜……」
「わ、分からん……こんな事はイリアス様が勇者に洗礼をするようになってから前代未聞も事態だ……きっとイリアス様は君達を見捨てたのであろう……」
神官様の正直な言葉に、ルカの顔色が白を通り越して青くなる。
「ぉぉぅ……ぁぅ……ぅぁ……」
「だ、大丈夫かルカ……」
神官様の言葉がグサグサと僕の胸に突き刺さった。ヴィクトリーは彼の背中を撫で、必死に慰めてる。こうして僕達は洗礼を受ける事が出来なかった。
「まぁいっか!」
ヴィクトリーはケロッとそんな事を言う。神官様も僕もずっこけそうになる……が僕の方はずっこける気にもならない。彼は僕が洗礼を受けるから、ノリで自分も受けようという気分だったのだろうが、僕にとっては一生に一度しかない勇者になるチャンスを逃してしまったのだ。
もはや僕に勇者になれるチャンスは無いのだ……
「ぁぅぅ……ぉぁ……ぅぅ……」
「た、大変だ!毒に冒されているのですか!?この毒消し草をお使い下さい!」
遂に、通りすがりの冒険者にすら心配されてしまう始末だ。
「あ、いや……必要……ねぇと思う……多分……毒じゃねぇから……多分。」
ヴィクトリーが、対応してくれた。とりあえず立ち直れたら、お礼を言っておこう……
「ほら、大丈夫か?」
「ぁぅ……ぉぉぅ……」
ふらつくルカを支えながら何とか家にたどり着いた。
「……ふむ、遅かったな。」
「ふんぎゃあああああ!!?」
「な、何なんだ……!」
家に着くなり妖魔が出迎えた。ヴィクトリーは絶叫して跳び退き、僕は力なく彼女を見る。
さて、いったい何から突っ込むべきか。
「何故僕の家が分かったんだ……?」
とりあえず、質問してみる。
「匂いだ。貴様らの初々しい匂いを辿れば分かる。」
犬かこいつは。二人は揃ってそう言おうとしたが、下手な事を言うと殺されそうなのでやめておく。
「だいたい、何で村に入ってこれたんだ?スライム一匹で大騒ぎするこの村に、おめぇなんか入ってきたらそれこそこの村がパニック状態だぜ。」
ヴィクトリーはそんな事を質問する。それに対し、彼女はドヤ顔を決めて見せた。
「人目を盗むことなど簡単。余を誰だと思っている…?」
「知らねぇから聞いてんだろ……」
とりあえずこの妖魔は鼻が効くという事が分かった……あと礼儀知らずという事も。
「続けて俺から質問だ……おめぇ一体何者だ。」
質問を連投する。
「ふむ……旅の妖魔と言った所か……」
「何だそりゃ……」
ルカは思わず、呟いてしまった。
まぁ敵意は無いようだ。ただ、この家が自分の家であるかのように振舞っているだけで。
「僕から質問。何しにここに来た?」
ルカの質問に対し、彼女は頷く。
「まぁ、興味と言ったところか。それに、少し確かめておきたい事もあってな……」
何だかさっぱり分からない答えだ。
「結局何一つ曖昧な答えだったね……」
「あぁ……これもう分かんねぇな……」
何だかガッカリうんざりし過ぎて、逆に元気が出てきた。
「それにしてもまずくねぇか……?近所さんに魔物を家に上げてること知られたらさ……」
確かに。この村はイリアス神殿が鎮座するだけあって、魔物排斥の思想も非常に強いのである。魔物がいるのがバレたら、かなり厄介な事になるだろう。
「……っていうか何しに来たの?今の僕は洗礼が受けられなくて傷心なんだ。からかうならまた今度に──」
妖魔がルカの言葉を遮る。
「ふむ、それを聞くのも余がここに来る一つの理由なのだ。そうか、イリアスは降臨しなかったのか……くくくっ……」
何故か妖魔は、満足げな笑みを浮かべた。
「余がこれ程の手傷を負わされたのだ、相応のお返しだ……『創世の女神』たる面目も丸潰れだろう。」
「ど、どういうこっちゃ……?おめぇが何かやったのか?」
「お前、いったい……」
妖魔はルカの方を見て言う。
「食事だ。」
「はぁ……?」
「食事を出せと言っている。気が効かんやつだな。」
「そ〜いや俺も腹減っちまった!」
こいつもかよ。
本当に何なんだいったい……何でこんな理不尽な目に会うんだ……
「ふざけんな!自分でやれ!」
ルカがそう言った瞬間、妖魔の眼が光る。
「余の為に、食事を作るのだ。」
「お待ち下さい!今すぐ!」
この妖魔に是非僕の料理を召し上がって貰わねばならない。そのために僕は生まれてきた気がする。
ルカは台所に立ち、料理をしようとする。その様子を見て操られた彼と妖魔を交互に見ながらヴィクトリーは汗を垂らした。
「おめぇ、魔法使いか何かか……?」
「ふん……」
突如、ルカの手が止まる。
「む……どうした……?まさか余の魔眼を避ける程の力を持っているとでも言うのか?」
「あ、ありません……食材も、調理器具も何もかも……!!旅に出る予定だったから片付けてしまったのです……」
たちまち僕は絶望してしまう。これでは、あの妖魔様に食事を提供出来ない。ああ、なんて事だ!こんな事、こんな──
「目を覚ませーっ!」
ヴィクトリーは、いきなりルカをぶん殴った。
「いったぁ!?」
僕は正気に戻った。さっきまで取り乱していたのが嘘みたいで、何だか狐に化かされてた気分だ。
「……おい、一体何をした?」
「何でもいいから食べ物は無いのか。お腹がペコペコで暴れてしまいそうだぞ。」
「そう言われてもなぁ……この家、しばらく空けるつもりだったから……」
「……そういやおめぇ、干し肉とか持参してなかったか?」
そう言えばそうだった。非常食として持参するつもりだったのだ。
「ほしにく……」
妖魔は露骨なため息を吐く。
「貴様らにはうんざりさせられる……そこの武闘家は何か無いのか?」
「俺は特に何も持ってねぇぞ……」
懐から何やらケースを取り出し、小さい容器を確認しながら言う。そしてケースを懐にしまい、次に取り出したのはずた袋だった。
「食いもんなら……あと、豆だな。」
「豆……?」
なんで、そんなものだけは持参してるのやら。確か、食料庫にもちょうど切らしてた筈なのだが……
「まめ……」
妖魔も、露骨に残念そうな顔をする。どうやら、要らないようだ。
「……」
「……」
「……」
何だこの空気は……しばらく沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは妖魔だった。
「まぁいい、まずは前菜から……」
そう言うと、ルカの手からほしにくをひったくり、不満そうな顔で噛み始めた。しかしその顔から、不満が消えていく。
「ん……うまいではないか……絶妙なスパイスと味付けが肉の香ばしさを引き立てている。」
「そうだろう?未来の勇者として、料理の腕も磨いてきたんだから。旅に出る以上、野営もしなければいけないからね。」
「ま、勇者にはなれなかったけどさ。」
ヴィクトリーに痛いところを突かれ、肩を落とす。剣の修行も、料理の修行も、あの凄まじい実戦訓練も全部ムダだったってことか……?
「ふむ、まぁいい。このほしにくは前菜のつもりだったが、これで満足だ。喜べ、メインディッシュは必要無い。」
「えっ、メインディッシュ……?」
「干し肉の他に食えるモンなんかあったか……?」
まじまじと僕達を見る妖魔。その視線に僕は総毛立ってしまう。
「ほしにくの次は血肉って事か……?」
「多分ね……」
改めて、震えてしまった。
「……結局の所何しに来たんだ?勇者になれなかった僕達を笑いに来たのか?」
「ふ……先程は少しばかり言い過ぎたと思ってな……未熟がゆえの幼稚な使命感と言ったが、それは未熟ゆえに仕方がない。だからこそ見識を広めるのは重要なのだ。世界というものを旅し、様々なものを見、己の幼稚さを恥じる……それで良いのだ。」
「……」
「何だ貴様ら……慰めているのに、その辛気臭い顔は。」
「慰めてるつもりだったんか……」
妖魔は少し黙り、ふんっと息を吐いてまた口を開く。
「それで、貴様らはこれよりどうする?まさか旅立ちを諦めたとは言うまいな?」
「予定通り魔王退治の旅に出るよ……勇者じゃなくたって旅はできるからね。」
「魔王を倒すんは勇者じゃなくてもできんだ。俺も同行させてもらうぜ!」
確かに魔王を倒すだけならただの旅人にもできる……はず。そうじゃないと僕が悲しい。
イリアス様のご加護がない身では少しばかり不安だけど……こうなれば仕方がない。
「くくっ……それでいい……実は、余は少しばかり貴様らに興味が湧いたのだ。」
「興味……?」
「俺達にか……?」
「その通り、貴様らは興味深い。人と魔物との共存などという世迷いごとを胸を張って口にし、それを肯定する仲間もいるのだから。」
ヴィクトリーが先に口を開く。
「世迷いごとなんかじゃねぇさ。俺達はそんな日が来ることを信じてる。そんでもって必ずこいつがそんな世の中にしてくれる……ってさ。」
こいつ人の台詞を……
「くっくく……いつまでそんな世迷いごとを言っていられるか見物だな……」
「な、何を〜!」
「まぁまぁ……」
昂るヴィクトリーを、今度は僕がなだめる。
「貴様らの旅についていき、化けの皮が剥がれる所を見てやろう……」
「えっ、僕達の旅に……?」
何とこの妖魔は僕達の旅に同行するというのだ。
「はははっ!面白そうじゃねぇか!」
「ど、どういうつもりなんだ……?」
「余はこの世界を見て回るつもりでいたのだ。どうせなら貴様らと世界の両方を見て回ろうと思ってな……理に適っているだろう?」
「勝手にしてくれよ。どうせ僕が嫌がっても無駄なんだろう?」
「あぁ、無駄だな。どうせ余を追い払う実力など無いだろう。」
「俺は賛成だぞ!同行者は多いに越した事はねぇかんな!」
ヴィクトリーがそう言うと、ルカも頷いた。
「……そういう事だ。好きなだけつきまとうといいさ……僕の信念が本物だって証明してみせるから……えっと、名前は?」
「アリスフィーズ・フェイタルベルン……特別にアリスと呼ぶ事を許そう。」
「アリス?似合わないなぁ……」
アリスなんて呼び方は可愛すぎて全くイメージに合わないではないか。もっとおどろおどろしい呼び名が……
「絞め殺されたいのか?貴様は……」
「ひっ……すみません……」
しゅるしゅるととぐろを巻く尻尾を見て、僕は素直に謝った。
「俺はヴィクトリー。宜しくな、アリス。」
ヴィクトリーは握手を求めたが、アリスは無視する。彼は少しムッとした表情になってから、腕を組んで頬を膨らませた……
アリスとの会話や、さっきのスライムとの戦闘で消耗していたのもあって少し家で休んでいた。そしてルカが頃合いを見て立ち上がる。
「じゃあそろそろ行くか……!」
「待ってましたぁ!」
ヴィクトリーは、腕立て伏せをしていた。そしてルカの言葉を聞いた瞬間、飛び上がった。
旅の準備は既に終わっている。イリアス神殿から帰ってきてその足で旅に出るつもりだったのだ。洗礼こそ受けられなかったが、旅に出るという選択肢に変わりはない。
僕達にあるのは、魔王を倒すか途中で朽ち果てるかのどちらか。それ以外に道は無いのだ。
「アリスは裏口から出てくれないか?他の村人に姿を見られると色々と面倒だからね。」
「村を出たトコで合流する事になんのか。」
「分かった、余も無駄な騒ぎは好まん。村の外で待っているぞ。」
そう言い残し、お騒がせ妖魔は裏口から出ていった。
「さて……」
いよいよ旅立ちの時だ。今は亡き母さんと過ごしたこの家にも、しばらくは帰ることはできない。
「行ってくるよ!母さん!」
亡き母にそう語りかけ、僕は住み慣れた家を後にし、ヴィクトリーも続く。
「さぁて、俺はとことん止まらないからな!!」
こうして僕達は、冒険の第一歩を踏み出したのであった。
流血表現
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もっとする
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このままでいい
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しなくていい