もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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サバサにて……

 しばらく旅路を進んだが、この砂漠は広すぎる。それに伴い、準備のためいったんサバサ城に戻ることにした。

「無計画過ぎたな……水が足りねぇ……」

「うん……」

 三本の水筒にジャバジャバと水をくみ、僕とヴィクトリーとアリスの三人に分配する。

「食料も買わねぇと。あそこの店で乾燥サソリとか売ってたぞ。」

「それは嫌だぁあああああ!!」

 ヴィクトリーは、ルカのトラウマをえぐった。

 

 暇なので教会に立ち寄ってみた。そこには、何人かばかり集まっていた。祈りの時間……って訳でも無さそうだ。

「神父さん、何だこいつら?」

「えぇ……これは、『魔女狩りの村』から逃れてきた人間達です。」

「魔女狩りの村……?」

 名前からして、いけ好かない感じがする。

「ここから南に、『魔女狩りの村』と呼ばれる旧弊的な村村があります。そこでは、女領主が住民や旅人を捕らえて拷問、処刑を繰り返してるのです。」

「なに……!?」

「魔女とは、女だけを指しません。老若男女を問わず、疑われた者は容赦なく連行されるのだとか……」

「なんなんだそれ……!?」

 神父は息を吐き、視線を上にやる。

「私は、イリアス様に仕える身。魔物や魔術を肯定してはならない身の上ですが……それでも、その女領主の行為は行き過ぎです。罪無き者も、魔女として裁かれているという話なのです。」

 イリアスクロイツと関係があるのか、それとも全く別物か……魔物排斥思想に凝り固まった連中の行き着く先であることは間違いない。

「そんなの、絶対に許せない……!」

「ルカ、落ち着け。」

「ノームの事などほったらかして、その村に乗り込みそうな顔だぞ。」

 ルカは、二人を見る。

「……いけないのか?」

「……本気か?」

 アリスは、ぴくりと眉を吊り上げた。

「人間と魔物の関係を悪化させるような愚行は、絶対に許せないんだ。それが人間であろうが、魔物であろうが。」

「……」

 ヴィクトリーは、二人の肩をポンと叩く。

「面白そうじゃねぇか。殴り込んでその女領主をぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「……あぁ!」

「やれやれ……」

 

 教会から出た後は自由行動にした。

 アリスは一人でうろつき、ヴィクトリーは何故か僕についてきた。

「おいルカ、喉乾いたからここに寄っていいか?」

 ヴィクトリーが指したのは、マーメイドパブだった。

「こ、こんな所にマーメイドパブなんてあるのか……」

 そういえば、ナタリアポートにもこんなのあったっけ……とりあえず面白そうなので、入ってみることにした。

「いらっしゃいませ!マーメイドパブ二号店にようこそ!」

 まだ明るい時刻だからか、客の入りはそう多くない。そんな中、僕達はある男の姿を見かけてしまった。

「おい、ルカ……あいつ……」

「……!!」

 ラザロ……ルカの死んだ父親の親友で、魔物排斥組織イリアスクロイツの団長。頻繁する反魔物テロの黒幕であり、魔物撲滅を唱える狂信者……それが、いったいどういうことだろう。事もあろうに人魚パブで、大人しくスコッチを飲んでいるのだ。

「ん……どうした、小僧ども?何か俺に用か?」

 ラザロは、立ち尽くす僕達に視線を向ける。複雑な感情が、一瞬だけルカの心に渦巻いたが……

「……」

 ヴィクトリーが、ルカの肩をぽんと叩いた。そのおかげで心が静まっていった。

「いや、別に……」

 心を落ち着かせ、そう答える。するとラザロは、意外な言葉を僕達に、投げかけてきた。

「丁度いい……小僧ども、ここに座れよ。一人で飲む酒ぁ、不味いもんだ。」

「え……?」

 この手の男は、僕達のような若輩者を酒場で見かけたら嘲笑する……そんなありきたりな反応を、僕は予想していたのだ。

「……」

「ど、どうも……」

 僕はなるべく平生を装いラザロの前に、ヴィクトリーはその僕の隣に座った。ここで大人の態度を崩せば、なぜだかこいつに負けたことになると思えたのだ。

「ねぇちゃん、オレンジジュースを二つ追加だ。」

「はーい!」

「ふざけるな、僕は子供じゃ……」

「お、落ち着けっての……!」

 ヴィクトリーが僕を押さえ、静止する。

「こんな時間から酒を飲んでるようじゃ、ろくな大人にならんぜ。」

「……」

 僕達は押し黙り、運ばれてきたジュースに口をつけた。しばらくの間、沈黙が支配する。

 ラザロの飲んでいる酒は、スコッチ……確か、親父の好きだった酒だ。沈黙を破ったのは、ヴィクトリーだった。

「なんでおめぇがここに居るんだ?今度はここを吹っ飛ばすつもりか……?」

 ラザロは、意外そうな顔をした。

「ほう……お前さん、俺を知ってたのか。表の世界にゃ、そんなに顔を売っちゃいないと思ったがな……」

 そして、酒混じりの大きなため息を吐く。

「……ともかく、ここじゃ仕事をやるつもりはねぇよ。砂漠ルートでゴルドポートの本部に戻る、その羽休めさ。」

「……」

 イリアスクロイツ本部は、セントラ大陸北部の港町ゴルドポートにある。ナタリアポートからのルートだと、このサバサで砂漠を越えるか、もしくはノア地方を通るかの二通り。砂漠ルートは過酷だが、あまり人目にはつかない。それゆえに、ラザロはこちらのルートを選んだのだろう。

「……何で、僕達を同じテーブルに座らせた?いったい、何を企んでいるんだ……?」

「……お前さん、何か企まれる程の重要人物なのかい?カネや権力の匂いなんざ、全くしないがなぁ……?」

「じゃあ、何でだ?」

 ラザロを目を閉じてから、またゆっくりと目を開けてルカを見た。

「お前さんの目が、そっくりだったんだよ。俺のダチにな……」

「……ッ!」

「おいっ……!」

 思わず、僕はジュースをこぼしそうになる。ヴィクトリーがそれを支えてくれたおかげでこぼさずに済んだ。

「……おいおい、どうしたぁ?お前さん、オレンジジュースでも酔っちまうのか?」

「……いや……なんでも、ない。それで、その友人は……?」

「……だいぶ前にくたばっちまったよ。あいつらしくねぇ、くだらねぇ死に方をしたもんさ。」

「……悔しいけど、それは同感だ。」

「……」

 ヴィクトリーはジュースを飲みながら、二人の会話を横目に見ていた。

「……?なんだか知らんが、面白いヤツだな。まぁ、呑めよ。これも何かの縁だ。」

 ……縁なんかあると思いたくない。こいつにだけは。

「……所で、お前さん達も冒険者だろ?見たところ、相当の腕のようだな。」

「腕には自信あるぜ。」

「……誰にでもそう言って、組織に勧誘していくんだろ?」

 ラザロは、笑いながら答える。

「俺もかつては、それなりに慣らした戦士だぜ。相手の力量ぐらい、正確に分かるさ。」

 ラザロはまず、ルカの全身を見た。

「お前さんの剣技は、おそらく突き技が主体だな。靴の磨り減り方から見て、踏み込みを多用してきただろう。」

 次に、ヴィクトリーの方を見る。

「お前さんは……ほほう、人間の武闘家とは珍しいな……それも、相当に磨かれている……靴の磨り減り方からして、踏み込んで敵の懐につき、ラッシュで攻めるタイプか。」

 ラザロは一通り見た後、息を吐く。

「視線の置き方、足運び……剣士の方は、どれも一流だ。それに反して、筋力や体のバネはまだまだ未発達。戦闘経験自体は短いが、かなり濃密……って所か。だが、少ない筋力の使い方を心得てる。おおかた、師匠に恵まれたって所か……?」

「……」

「武闘家の方は……筋力も体のバネも発達している。だが、頭で考えて動くのは苦手そうだ。よほど極まった時にしかそういう事は意識しないだろうな。戦闘に関しては、何か色々と取り入れてアレンジしているようだ……それも独学で……戦いの才能はお前さんの方が上らしいな。」

「ど、どうも……」

 ラザロはふぅっと息を吐き、二人を見た。

「冒険者としてそこまで鍛えたの目的はなんなんだ?金か?名誉か?それとも、復讐か……?」

「どれも違う!僕達は弱い者のために戦っているんだ!」

 ルカがそう言い、ラザロはそれを聞いてニヤッと笑った。

「……そりゃ奇遇だな、俺も弱い者のために戦ってんだ。」

「違う!僕は、人間と魔物の共存のために戦ってるんだ!お前なんかと一緒にするな!」

「おいっ!」

 ルカが机をバンと叩き、ラザロに食いつくが、ヴィクトリーはそれを制止した。

「共存か……無理なんだよ、そりゃ……」

 ラザロからの答えは……意外なものだった。もっと、激烈な反応が返ってくると思っていた。自分の信念を否定された怒り、憤慨……しかし、そういった激しい感情は一切感じられない。それが、余計に僕の心をざわめかせてしまう。

「そうかなぁ……分かんねぇ〜ぞ〜?」

 ルカを制止してるヴィクトリーが、ラザロの方を向く。しかし彼はため息を吐きながら答えた。

「分かるんだよ……俺はな……きっと、いつかはお前さん達にも分かるさ。」

「僕達は、お前なんかとは違う!」

「……同じだよ、お前さん達も。人間と魔物の共存のため、剣を振るうんだろ?それはつまり、自分と意見の異なる者を、力でねじ伏せるって事さ。俺のやってる事と、いったい何が違うんだ?」

「違うんだ!僕達は理想のために戦っているんだ!」

「その理想は、お前さん達の理想だ。間違えるんじゃねぇ、他の人間達の理想とイコールじゃねぇよ。そこを履き違えると、ただの独善になっちまうぜ。独善の成れの果てがどうなっちまうか、俺を見ていて分からねぇのか?」

「……おめぇも、自覚してんのか?自分のやってる事が、独善ってコト……」

「いくら独善だろうが、俺にとっちゃ立派な善だ。お前さん達だって、そうなんだろ?人間と魔物の共存とやら……いかにそれを望まない者がいても、それを押し付けるのが正義なんだろ?」

 ラザロは、そう言いながら腰を上げた。いつの間にか、そのグラスは空になっている。

「正義に一番必要なのは、説得力なのさ……それを忘れちゃ、どんな善も独善と変わらねぇ。」

「そこまで分かってるなら、何でお前は……!」

 ラザロは目を瞑って三秒程黙った後、口を開いた。

「……今更生き方を変えられねぇのさ。魔物に殺された仲間や、ダチのためにもな……」

 ラザロは席を立ち、カウンターに金を置いた。

「ねぇちゃん、勘定置くぜ。俺のスコッチと、あの小僧達の分だ。」

「お前なんかの施しは受けない……!」

 ヴィクトリーは、ルカの肩をつかんだ。

「そ、そんなかてぇ事言うなって……せっかくおごってもらえんだから……」

「はっはっは……ダチに似た目をした目のお前さんに、俺からのおごりという訳さ……」

 そう言いながら、ラザロは酒場から出ていこうとして……そして、ふと僕の方に視線をやった。

「……そのジュース、飲み終えたらとっとと店を出るんだな。お前達のような小僧が、いつまでもこんな所にいるんじゃねぇ。」

「ふざけるな、何を今更……!!」

 ルカの声を背中で受けながら、ラザロは店を後にする。

「くそっ……!」

「あっ、おい!ルカっ!」

 僕は嫌な気分を味わいながらオレンジジュースを飲み干し……そして一人で酒場を出てしまった。そして店外には丁度アリスがいた。オレンジジュースを飲みながら。

「……む、貴様も飲むか、オレンジジュース。サバサ特産のオレンジを使っているだけあり、濃厚な味わいだぞ。」

「……悪いけど、遠慮しておくよ。今日から、オレンジジュースは嫌いな飲み物になっちゃったから。」

「……?」

 ルカは周りを見ながらぶつぶつと呟く。

「それにしても、あいつ……いったい、何のつもりで人魚パブに……」

 次の瞬間、ラザロが言い残した言葉が脳をよぎった。

『……そのジュース、飲み終えたらとっとと店を出るんだな。お前達のような小僧が、いつまでもこんな所にいるんじゃねぇ。』……

「ま、まさか……!」

 まずい、あの中にはまだヴィクトリーが……!!

 

 店内……

「あいつ、しょうがねぇなぁ……」

 ヴィクトリーは氷をガリガリ齧りながら喉を潤していた。子供のように足を振りながら休憩してるのだ。すると、足に何か当たった。

「……ん?何だこりゃ?」

 手に取ったのはラザロが置き忘れたカバン。

「……あいつ……忘れ物してるぞ……」

 そのカバンを持ち上げ、目の前に上げた瞬間、それが何なのかすぐに理解した。

「おらぁあああっ!!」

 ヴィクトリーは、カバンをぶん投げた。それは店の扉を突き破り、外に吹っ飛んだ。

「あっ!!」

「む……?」

 ルカとアリス、その他通行人が、そのカバンに目をつけた。そしてヴィクトリーはそのカバンの吹っ飛んだ先に高速移動して……

「だりゃあああああっ!!」

 なんと、カバンを空高く蹴り上げた。

「ふせろみんなーっ!!!」

「っ!」

「……」

 そのカバンは上空で大爆発し、衝撃が地上をわずかに揺るがした。

「ち、ちっきしょ〜……!あのウソつきめ……!ここでは仕事はしねぇって言ってただろうが……!」

「……くっ!!」

 ヴィクトリーが居なかったら、人魚パブは吹っ飛んでいただろう。問題は、なぜ僕がこの凶行を阻止できなかったかだ。あれを一番に阻止するべきは、この僕だった筈なのに……!

「くそっ……!!ラザロォオオオッ!!!」

「落ち着け、ヴィクトリーが何とかしてくれた。」

 たちまち周囲から、野次馬が集まった。

「あ〜!もう平気だ!爆発物は俺が見事処理に成功した!え、えーっと……人魚のお姉さん、店内に怪しいモンはねぇか確認してくれ!」

 ヴィクトリーが野次馬に対応しながら、マーメイドパブの方にも指示を出す。こいつのおかげで、最悪の事態は免れたのだ。

「と、特に不審なものは無いです!」

「そうか、扉ぶち破っちまってすまねぇな……俺が直すぜ。」

 ヴィクトリーはどこから持ってきたのか、トンカチと釘と木材を用意して、扉の修理にかかった。

 そんなヴィクトリーを横目に、ルカはアリスに話しかけた。

「……なぁ、アリス……僕のやってる事は、独善なのかな……?」

「……さぁな。善も悪も、相対的なものだ。何をどう言おうが、結局は言葉遊びにしかならん。」

「でも……相手が魔物だっていうだけで、あんな事をするなんて……僕は、そんなの見過ごせないよ。」

「あぁ、そうだな……」

 魔物を攻撃し、蛮行を働く一部の人間。意図はどうあれ、人間の町を襲撃して破壊する四天王。たとえ偽善だろうが、独善だろうが、僕は断じて我慢出来ない。そうした連中が、無軌道な暴力や迫害を振りまくことを……

「じゃあ、魔女狩りの村にも行くか。」

 扉の修理を終えたヴィクトリーが僕達に話しかけてきた。

「女領主が人間を暴虐しているあの村……だよね?」

「あぁ、俺達の手でその女領主って奴をぶっ飛ばしてるんだ!ノームはその次でいいだろ!」

「……あぁ、そうだな……魔女狩りの村へ行こう。そんな愚行、なんとしてもやめさせなきゃ……」

「やれやれ、面倒な事に首を突っ込むのが好きな奴らだ。勇者の務めは、魔物と戦う事ではなかったのか?人間同士のいざこざなど、貴様らには無関係だろうに。」

「許せないんだよ……どんな理由があっても、人間が同じ人間を迫害するなんてのは……」

 ルカの目には静かな怒りが燃えていた。

「……あぁ、俺もそう思う。」

 ヴィクトリーもそれに、こくんと頷いた。

「……やれやれ……」

 アリスはため息を吐き、心底呆れた表情を浮かべる。しかし、どう言われようと決断を変える気はなかった。

 次の目的地は、魔女狩りの村。旅路が定まった所で、僕達はサバサを後にした……

流血表現

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