もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話 作:ジョーカー:ゼノ
そう言えばずっと気になっていた事を質問してみる。
「ヴィクトリー、その派手な道着は?」
オレンジ色の道着、青いアンダーシャツ、そして特徴的な靴……少し派手すぎる格好が気になってて、仕方なかった。
「あぁ、これか……これからまた大きな旅に出るから、せめて憧れの人と同じ格好で行きたいって思って自分で作ったんだ。」
ヴィクトリーは自分の道着をポンと叩き、笑顔を浮かべる。
「君にも憧れがあるんだね……」
「未熟者だからな。へへへっ……」
夕暮れの道を歩きながら、ヴィクトリーもずっと気になっていた事を口にする。
「でもな〜んで俺達洗礼を受けられなかったのかんな……わざわざ別の世界飛んでルカと年齢も誕生日も一緒な俺を呼んできたのに……」
もしかしたら、本当にイリアス様から見離されたのか。今朝の夢はただの夢だったのか。
「ま、いっか。悩んでいても仕方ねぇからな。今は目の前の事に集中しようぜ。」
「あぁ……うん……」
そうは言っても不安すぎる。何より、スタートでいきなりこの妖魔を抱えてしまったから……
二人は、アリスの方に視線を向ける。
「ん?何だ?」
「いや……」
そもそもこいつは何なのだろうか。世界を見て回るだの僕達に興味があるだの……まるで意図が掴めない。それでもヴィクトリーの言う通り人数が多いことに越した事は無い。三人揃えば文殊の知恵とも言うしね。それでも不安は消えなかった。
「あぁ、イリアス様……僕を見捨てられたのですか……?ずっとこの日を待っていたのに洗礼を授けて下さらないなんて……」
「好都合ではないか、洗礼なんぞ受けなくて。人間というのは何故好んでイリアスの奴隷になりたがるのか分からん。」
「俺も知らねぇよ……俺は、ノリで受けようとしてたし……」
ルカは、ため息を吐いた。
「そうは言ってもだね……洗礼を受けた勇者っていうのは色々とお得なんだよ。宿屋も格安の勇者料金で泊まれるし、一般民家をガサ入れする権利も与えられるし……」
「勇者っちゅうのは神様公認のドロボーなんか?」
「こやつ、余の台詞を……」
確かにヴィクトリーの言う通り、この権利を悪用し、盗賊同然の振る舞いをしている勇者もいると聞く。僕から見ればそんな奴は勇者の風上にも置けないが。
「それに、洗礼を受ければ女神イリアス様のご加護が得られるんだよ。悪いモンスターからこの身を守ってくれるんだ。」
「げげっ……じゃあ俺受けなくて正解だったかも……自分の身は自分で守りてぇんだ。」
「ふむ……イリアスの洗礼を受けた者の精は極めて不味くなるのだ。だからモンスターが寄り付かなくなるのだろうな。」
「へぇ……」
「そうなの……?」
ヴィクトリーは勿論、ルカも初耳だった。
「知らなかったのか?天使の肝臓みたいな味がしてとても食えたものでは無くなるのだ。」
「天使の肝臓なんか食ったことねぇよ……鳥の肝臓ならたまに食ってるけど……」
色々と突っ込みどころがある。天使の肝臓というのは不味いのか。そしてアリスはそんなものを食べたことがあるのか。何にしろ聞かない方が良さそうだ。愉快な答えが返ってくるとは思えない。
「そういう訳で、洗礼を受けてない貴様らはとても美味そうだ……」
じゅるり、と舌なめずりをするアリス。
「ひぇっ……」
僕は、全身が総毛立つような悪寒に晒された。
「俺は筋肉が殆どだから柔っかい肉は……」
「そういう意味では無いわドアホめ。」
……この旅が終わるまで僕達は無事でいられるのだろうか。
「ところで、目的地はどこだ?さっそく魔王城を目指すのか?」
「いきなりは行かねぇよ……」
「まぁ、最終的には魔王城に行くわけなんだけど……」
ここから魔王城までは相当に距離がある以上、辿りつくだけでかなりの旅路になる。まぁ、それはある意味好都合。今の僕達の実力では魔王に太刀打ちできはしないのだから。魔王城に至るまでの旅路で、存分に実力を上げたい所だ。
「えっと、ここがイリアスヴィルの少し北だから……」
ルカは地図を広げ、ヴィクトリーがそれを覗き込む。
「この世界には世界には三つ大陸がある。まずは南東のイリアス大陸。」
「俺達が今いる場所だな。」
「その通り。そう広くは無いけど、僕の故郷のイリアスヴィルにはイリアス神殿がある。信仰心に厚い冒険者は……」
「ルカ、俺は残り二つの大陸が気になってんだけど……」
「あ、あぁ……うん……えっと、中央はセントラ大陸。この世界の四分の三以上を占める非常に広大な大陸だ。大きな城が四つも存在し、それ以外にも町や村も多い。」
「じゃあ、それだけこの大陸に留まるって訳か……つえぇ奴もたっくさんいるんだろうな……」
「そういう事になるね……そして最後、ヘルゴンド大陸。ここに魔王城がある。寒暖の差が激しく、人が住むのには適さない不毛の地だよ。」
「最終的にはここに来るって訳か……そして極限環境ときた……ここのモンスターも相当に強いんだろうな……ちょっとドキドキしてきたぜ……」
「この大陸の人間の居住地は『レミナの虐殺』の舞台にもなったレミナだけだよ。」
「でも廃墟になってんだろ?」
「その通り、つまりはこの大陸に人間は……」
「ゼロって事か……」
「こんな風に大陸が三つあるんだよ。」
ルカの説明を聞いたヴィクトリーは、すぐさま頭の中で必要そうな情報、必要無さそうな情報を整理した。
「……まずはこのイリアス大陸を出ねぇとな。どうすんだ?」
ここから北に少し行くとイリアス大陸最大の町イリアスベルク、更に北に行くとこの大陸唯一の港町イリアスポートである。そこからセントラ大陸への船が出ているのだ。つまり、まずイリアスベルクに向かい、そこで一休み。装備品や道着、食料などを買い足さないといけない。そして、イリアスポートで船に乗り、セントラ大陸に到着という旅路だ。
「最初の目的地はイリアスベルクだね。この調子で歩けば明日の今頃には着くよ。」
アリスが目を瞑り、息を吐く。
「やれやれ……町も大陸の名前もイリアスイリアス……うんざりだぞ……」
「ちょっとそれ俺も思ってた……」
「お前ら……なんて畏れ多い事を……」
「「お前」と呼ぶなドアホが……所で、そろそろ腹が減ったな。」
「おめぇ、さっき干し肉食ったばっかだろ……」
「日が落ちたら野営するから、それまで我慢してくれよ。」
「……ふむ、努力してみよう。貴様の料理の腕は、それなりの様だからな……」
やれやれ、どうやらとんでもない厄介者を抱えてしまったようだ……そう思った時だった。
向こうの方からゆっくりと、貴婦人風の綺麗な女性が歩いてきた。何かを感じ取ったのかヴィクトリーは左足を下げ、目を鋭くして女性を見た。理由はすぐに分かった。下半身をよく見るとナメクジのような軟体だったのだ。おそらくはナメクジの魔物であるとうかがえる。
「……旅人ね……しかもまだ洗礼を受けていない美味しそうな少年……」
人生二度目の魔物との遭遇。慣れなきゃいけないことだが、どうしても緊張してしまう。
「どうしようアリス……あれっ?」
後ろを見るとアリスの姿は忽然と消え失せていた。
「あいつなら既にどっか行ったぞ。理由は知らねぇけんど、あれ程の上位の魔物が人間の味方してる所を別の魔物に見られたらマズイだろ。」
「えぇ……」
ナメクジ娘はゆっくりとこちらに近寄り、スカート部分をたくし上げる。そこにはピンク色のネバネバとした軟体がうごめいていた。
「あなた達はこの私の餌食になるの……ナメクジのニュルニュル、ネバネバを味わいながらたっぷりと射精してしまいなさい……」
「かぁっ……」
「ぐっ……」
正直な所、戦いたくはない。モンスターと言えども傷つけたくは無いのだ。でもやるしかない!そう思っていたらヴィクトリーが突然口を開いた。
「ところでよ……ず〜っと気になっていたんだけどおめぇの後ろにあるモンはなんだ?」
「後ろ……?」
ナメクジ娘は背後を振り返り、僕もナメクジ娘の後ろを見る。ナメクジ娘の後ろになんか何もないではないか。そう思った時だった。
「だりゃああああ!!!」
ヴィクトリーはいきなりナメクジ娘に突進し、油断しているナメクジ娘の頬をぶん殴った……が、ぬるんっという感触と共に拳が滑り、彼は地面に転げ落ちてしまった。
「うわっ!?」
「不意打ちとは卑怯な事するわね……悪い子にはお仕置きよ……」
ナメクジ娘の下半身がヴィクトリーを取り込もうとした。
「卑怯で結構……不意打ちは結構好きなアビリティなんだ!」
意味不明な事を呟き、すぐさま下半身をかわし、距離をとった。後転し、腕の力で跳んでから、着地する。
「あら……流石武闘家さん……」
「やあぁっ!」
ルカはナメクジ娘の背中に切りかかる……がナメクジ娘の軟体質な身体とニュルニュルの粘液によって刃が滑ってしまった。
「そんな……僕の攻撃が……」
「そんな弱い攻撃では私は斬れないわ……」
全身がこうだと剣での攻撃が効かないじゃないか……
「また殴っても切っても効かねぇ敵か……」
ヴィクトリーが僕の横につき、構える。スライム娘に続いて序盤から厄介な敵ばっかり。イリアス様、これは僕達に対する試練なのですか……?
「ネバネバ……気持ちいいわよ……」
ナメクジ娘が、糸引く粘液を僕達の股間に浴びせてくる。それに直撃してしまった僕達の股間が、ネバネバにされてしまった。
「うわっ……」
「ず、ズボンと擦れる……」
ナメクジ娘は自分の優位を確信し、ニタニタ笑っている。そんな彼女の前で、二人は顔を合わせた。
「拳はダメみてぇだ……普通の斬撃も効かない……突きならどうだ!?」
「おうっ!」
僕は剣を寝かせ、ナメクジ娘の胸に突き刺そうとした。
「無駄よ……」
ぐにゅりと身体がへこみ、弾力をもって弾き返されるだけだった。しかも粘液で刃が滑って全くダメージを与えられない。
「アキャオッ!!」
ヴィクトリーが僕に続き、ナメクジ娘の脳天に踵落としを決める。
「……あら……隙まみれよ……」
だが踵落としは弾力に受け止められ、ズボン越しにネバネバの粘液を纏った手で股間を擦られる。
「っ……!」
片足で跳び、後方に身を逸らしてバク転して距離をとる。
「拳はだめ、剣もだめ、突きもだめ、足も効果なし……だ。どうする?」
「うぐっ……僕にもっと腕力があれば……」
「そうか、少なくとも今の俺より強い腕力が必要だな……!」
ナメクジ娘は笑い、また粘液を僕達に飛ばしてきた。ヴィクトリーは蹴り弾き、ルカも剣で受け止めた。
だがその一瞬の隙を突き、ナメクジ娘はルカに急接近し、体を押し倒し、その身体にのしかかってきた。
「うわぁ……っ!」
「ふふふっ……ぬるぬる地獄に招待してあげるわ……」
「ちぃっ!」
ヴィクトリーはすぐさま走り跳び、ナメクジ娘の顔面に両足蹴りを食らわせた。その隙にルカももがき、脱出したようだ。
「大丈夫かっ!?」
「うん……何とか……!」
ナメクジ娘はムッとした表情でヴィクトリーを見た。
「まず君から屈服させないとダメかしら……?」
「……やれるもんならやってみろよ。」
挑発的な態度でナメクジ娘を煽り、ナメクジ娘の所に走る。
「だっ!せいっ!やぁっ!とりゃっ!おらおらおらっ!」
打拳、足刀、足払い、手刀、連続パンチと攻撃を放つが全て粘液と軟体により滑り、ダメージには繋がらない。
ナメクジ娘は無駄な健闘をする彼の足元に粘液を放ち、転ばせた。
「うわぁっ!?」
「おしまいよ……」
ヴィクトリーを下半身に取り込もうとした時だった。突如ナメクジ娘の背中に焼け付くような感覚が襲ってきた。
「きゃっ!?」
「!?」
ヴィクトリーは驚きながらもその好きを見て、二回ぐらい後転し、手を地面につけて腕力で身体に浮かせ、立ち上がる。
「サンキュー、ルカ!……おめぇ何持ってんだ?」
見ると何やらルカは白い粉の入ったビンを持っていた。
「塩だよ!ナメクジは塩に弱いんだ!」
「塩……そ、そうかその手があったか!」
斬撃も打撃も効かなかったけどどうやら塩なら効果があるらしい。ヴィクトリーはルカの隣につき、構える。
「や、やってくれたわね……」
ナメクジ娘は、二人を睨む。まだやる気のようだ。
「そ、そうだ!ヴィクトリー!手を!」
「な、何だ?」
ルカの言う通り手を出す。そして彼は、ヴィクトリーの手に塩をふりかけた。
「……そういう事か!へへへっ!」
「えっ……なっ、何……!?」
戸惑うナメクジ娘に走り寄り、塩を纏った拳をナメクジ娘の頬に飛ばす。その拳は、頬を打ち抜いた。
「ぶっ!?」
彼女の身体がよろめき、倒れる。
「おっしゃあーっ!!」
すぐさま距離をとり、ルカより少し後ろにつく。
「くっ……!!」
ナメクジ娘は頬を撫でながらすぐ立ち上がり、ルカ達に突進した。
「このぉっ!このぉっ!」
ルカは慌てて塩をナメクジ娘にぶつけた。
「や、やめて……!」
効果は絶大でナメクジ娘は怯んでいる。そして……
「お、覚えておきなさい!」
捨てゼリフを残してそのままずりずりと逃走してしまった。こうして二人は、ナメクジ娘の撃退に成功したのであった。
「あ、あの時のやけくそ攻撃の時より見苦しい戦いだったんじゃねぇの……?」
「た、多分……だけど勝利には変わりないよ……」
「なんと低レベルな戦いなのだ……」
不意に、背後からアリスの声がする。
「アリス……今まで何処行ってたんだ?まさか、あのナメクジ娘に恐れをなして逃げたのか?」
「何故余が逃げなければならん!……ヴィクトリーの言う通り、立場上あまり他の魔物とは顔を合わせたくないだけだ。」
ヴィクトリーは、やっぱりなという顔で僕の顔を見た。
「……それより貴様ら、さっきの戦いで大きなミスを犯したぞ……」
「ミス……?」
ヴィクトリーが首を傾げる。見苦しい戦いだった事以外は大きな失敗はない筈……
「調味料の塩を全部まいてしまって、どうする気だ!今晩の料理は塩抜きか!」
「そ、そこかよ……」
彼は、そう言いながら首をがくんと落とす。その横で、ルカが必死に弁明していた。
「し、仕方ないだろ……!?さっきはあんな必死だったんだし……」
「あんなモンスター相手に、塩を全部まいてしまうとは……つくづく情けない勇者だな……おっと、勇者ですらないニセ勇者だったか。」
「ううう……」
「ぐぬぬ……」
返す言葉が無い。流石にちょっと、あの戦いはみっともない。それに、洗礼を受けていないのに勇者を気取っている身。ニセ勇者扱いでも文句は言えないのだ……
「見てたなら助けてくれればよかったのに……」
「ばか、助けて貰ったら俺達の為になんねぇだろうが。」
「その通りだ。それに、余は決して貴様らの敵でも味方でもない。単に貴様らの観察をしているに過ぎない。故に助ける義理も無いし、もしも貴様らがモンスターの餌食になったなら……その時は容赦なく見捨てるぞ。」
アリスは腕を組み、無慈悲にそう言い放つ。
「……わかったよ。僕だって、お前なんかの助けは借りないからな!」
「負けなきゃいいハナシだろ……簡単だ!」
二人は、服の汚れを払いながら立ち上がった。
「分かれば良い、せいぜい頑張るがいい……さて、もうすぐ夜だ。野営の準備もせねばならんな。」
「そうか、ナメクジとの戦闘で時間食っちまったのか……」
辺りは薄暗くなり、日が落ちている。
「……ところで夕食は何なのだ?」
……敵でも味方でもないと断言した割にはしっかりとメシは食べるつもりでいるらしい。
つくづくロクでもないものが同行したものだ……
流血表現
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もっとする
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このままでいい
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しなくていい