もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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ヤマタイ村

「ここが、ヤマタイ村……」

 独特の農村風景は、他では見られない。見た限りでは非常にのどかで、トラブルの匂いもしない。

「ふむ、何から食べるかな……」

 魔物の姿のままのアリスが、そう呟く……

「って、おい!なんで、人間の姿に化けないんだよ!」

 グランドノアのように、ここも人間と魔物が共存しているとは限らない。まずは人間に化け、様子を見るべきなのだが……

「大丈夫だ、アレを見てみろ。」

 アリスが示した先には……見覚えのある猫の魔物が、当たり前のように道を歩いていたのだ。間違いない、ヴィクトリーと鮭を貪った、あのねこまただ。

「おぉ!猫神さまじゃ!」

 村の老人はねこまたに近づき、ぱんぱんと手を合わせる。

「猫神さまじゃあ!これはありがたい、かつおぶしじゃあ!」

「にゃあ……!」

 老婆が差し出したかつおぶしに、彼女は飛びつくのだった。

「……」

 変な村だな……

 さっきから静かにしているヴィクトリーを見てみる……

「……」

 すぅ〜っと息を吸い、深呼吸していた。

「……どうしたんだ?」

「……いや、妙に落ち着くなって思って……」

 やはり、この村はヴィクトリーがもともと居たところと似ているのだろう……

「……って、おい!アリス!」

 目を離したスキに、アリスの周りにも村人達が集まってきた。まずい、大混乱になってしまうか……!?

「おぉ、蛇神さまじゃ!」

 爺さんはアリスに近付き、ぱんぱんと手を合わせて拝んでいた。

「蛇神さまじゃあ!これはありがたい……蛇神さまって、何を食べるのかのう?」

 アリスは、老婆の方を向く。

「……まずは『おそば』だ。」

「おお、おそばじゃ!待ってろ、蛇神様!」

「まずは、って言ってたのう!まだまだ食べる気じゃぞ!」

「がめつい神様じゃが、とりあえず拝んでおけ!」

 村人達はざわざわと集まり、アリスを囲んで拝み倒している。

「……」

「……」

「ははは……」

 ……本当に、変な村だな。

「蛇神様!おそばじゃ!」

「ふむ、ありがたく頂くぞ。」

 アリスは側の石に腰を下ろし、ずるずるとおそばを啜り始める。

 僕達は、どうすればいいのやら……そう思ってた時だった。

「おぉ、狐神様じゃ!」

「これはありがたい……待ってろ、あぶらあげを持ってくるからのう。」

「ん……?」

「狐神様……?」

 二人が目にした魔物は、なんと……

「……およよ?お主達は……」

「お、お前は……!!」

「たまもっ!!」

 魔王軍四天王の一人、たまも……そんな奴が、いったいどうしてこんな辺境の村に……?

「何をしに来た?」

「悪い事をする気なら、僕達が相手になるぞ!」

「むむっ……何だか分からんが、売られた喧嘩は買うのじゃ!」

 僕は、たまもを前にして剣を抜こうとした……が、ヴィクトリーが僕の頭を殴った。

「ふぎゃっ!?」

「馬鹿、敵意はねぇよ。」

 ヴィクトリーは、たまもの前に進み出る。彼女は、村人からもらったあぶらあげをくわえながら彼を見た。

「……たまも、おめぇほどの奴がここに何しに来たんだ?里帰り?」

「その通りじゃ。この村はウチの故郷なのじゃぞ。」

「はぇ〜……」

 ……とりあえず、今のたまもに暴れる気は無いらしい。とりあえず僕は敵意を納めた。

「……」

 アリスは僕達の方を伺いながらも、静かにそばを啜っている。

 そんな微妙な雰囲気の場に、一人の老人が進み出てきた。

「おぉ、旅の勇者様!それに蛇神様、狐神様!ようこそヤマタイ村にいらっしゃいました!」

「あなたは……?」

「わしは、このヤマタイ村の村長です。」

 村長は咳をついてから、僕達を見直す。

「既にお聞き及びかもしれませんが、この村には厄介な問題が持ち上がっておりまして……」

「厄介な問題……?」

 ヴィクトリーは、首を傾げる。

 あ、そう言えば彼はグランドノアではコロシアムの情報しか集めてなかったっけ。

「……グランドノアの城下町の住人が言ってたんだ。ヤマタイ村には問題が発生してるから、村長が腕の立つ冒険者を探しているって……」

 ルカは、首を傾げたままのヴィクトリーに耳打ちをした。

「へぇ……」

 それじゃあ、この老人が腕の立つ冒険者を探しているという村長か。

「ふむ、話を聞こうか……」

 ずずず……とおそばを汁まで飲んでから、アリスは腰を上げた。珍しく頼み事に乗り気のようだが……さては、食べ物をたかる気だな。

「ここではなんですから、どうぞこちらに……」

 村長に導かれ、僕達は村通りを進む。その後ろに続く僕とヴィクトリーとアリス……そして、たまも。

「ん?なんでおめぇまで来るんだ?」

「年長者に向かって、おめぇとは何じゃ。」

 たまもは、ヴィクトリーの肩に乗っかった。

「何で乗るんだよ……」

「年長者を馬鹿にした罪じゃ。きびきび歩けい。」

 彼女はそう言い、びしびし頭を叩きながら、歩くことを催促してくる。彼は不本意ながらも、歩いた。

「不心得者が、この村で悪さをしているという噂を聞いてのう。放っておくわけにもいかんのじゃ。」

「不心得者……?」

 ルカとヴィクトリーの呟きが、重なる。

「その話ですが……ヤマタイ村は今、とある妖魔のせいで困り果てているのです。」

 のどかな村通りを行きながら、村長は物憂げに口にする。

「その噂は聞きましたが……いったい、どういう魔物なんです?」

 ルカは、村長に訪ねて見る。

「その名はヤマタノオロチ。近くの洞穴に住んでいる、八つ首の妖魔です。」

「ヤマタノオロチか……確かに、人間ではどうしょうもない相手だな。」

 アリスの口調からして、ヤマタノオロチとやらはかなり手強い魔物のようだ。

「ヤマタノオロチは村に生贄を要求してきたのです……一年に一度、若い男を差し出せと……」

「若い男……?若い娘じゃねぇんか?」

「いえ、若い男なのです。」

「へんなの……」

 ヴィクトリーがそう呟き、村長は話を続ける。

「そして、もし生贄を出さなかったら村を滅ぼしてしまうと……そう言ってきたのは、五年前のことです。」

「五年前……」

「もう、五人やられちまってんじゃねぇか……!」

「……我々はか弱い。あのような妖魔に対し、戦う力などありません……」

 村長は、しょぼんと目線を下げた。

「武道家様の言う通り、これまで五名の若者を、生贄としてヤマタノオロチに差し出しました。」

「な、なんて事を……!」

「ただ、誤解しないで下され。ヤマタノオロチは、生贄を殺さないとも言ったのです。それを証明するように、新たな生贄を出せば、前年の生贄は戻ってきました。」

「なに……!?」

「生きて帰ってきたんですか?」

「えぇ……衰弱し果てた姿ではありますが。」

 そのまましばらく歩いていた……

「さぁ、こちらにどうぞ。」

 村長は立派な建物の前で立ち止まり、そこの戸を開けた。

「ここは、村の若衆のための集会所ですが……こちらへおいでください。」

 村長は、僕達を室内へと導き入れる。

「ご覧下さい。この者は、去年帰ってきた生贄です。」

「これは……」

 床に敷いた布団には、やつれた青年が寝かされていた。

「あぅぅ……ヤマタノオロチさま……ヤマタノオロチさまは……?」

「もうヤマタノオロチはいないわ。あなたは助かったのよ。」

 村の看板娘が、その青年を看護している。

「そんな、いやだ……ヤマタノオロチさまぁ……もっともっと吸ってください……もう、死んでもいいですからぁ……」

「じゃあ死ね!」

 看板娘は、青年の腹に肘打ちを叩き込んだ。

「ぎょはうあーっ!?」

「……見ての通り、すっかり廃人と成り果てております。」

「その廃人、腹に肘打ち叩き込まれてっぞ。」

 僕達は、頭を抱える。

「一年もすれば回復するのですが、貴重な村の働き手がこの有様では……」

「……まぁ、農作業が主流のここじゃあ流通が滞るだろうな。」

「そして、問題はそれだけでは無いのです……」

「なに……?」

 村長は、ふすまの向こうを見やった。なにやらそちらからは、青年達が言い争う声が聞こえてくる。

「間もなく、新たな生贄を差し出す時期。若衆の会議で、その年の生贄が選ばれるのですが……会議は紛叫し、若衆の間でも険悪な空気が広がっているのです。」

「それは、そうでしょうね……」

「命はとらねぇとは言え、化け物の生贄にされんだろ?俺だったらごめんだぜ。」

 僕はヴィクトリーにうんうん、と頷く。

「それでは、こちらへどうぞ。」

 村長はふすまを開け放ち、僕達を会議の間に導いた。そこでは、複数の青年達が顔を揃えて論議している。

「みんな、安心してくれ。俺が生贄になる!」

「お前だけ格好つけるなよ!生贄になるのはこの俺だ!」

「いやいや……ここは俺に任せて、お前達は村のために尽くしてくれ!」

「いや、ここは俺が……!村一番の怠け者の俺なら、いなくなっても迷惑は掛からん!」

 ルカとヴィクトリーの二人は、飛び交う言葉の内容にぽかーんとしていた。

 どういう事だこりゃ……

「ふざけるな!今年の生贄はおれのはずだろ!?」

「お前は働き者だろうが、五助!おふくろを泣かすな、俺が代わりに生贄になるから!」

「お前一人だけ、イイ思い……じゃなかった、辛い思いなんてさせないぜ!」

「俺が生贄になるから、お前達は村を守るんだ!」

 四人は、う〜んと頭を抱える。

「ご覧の通り……情けないことに、誰もが生贄になりたがっているのです。」

「……ドアホ共め。いっそこの連中、全員まとめて生贄に出したらどうだ?」

「俺も思った。」

 アリスとヴィクトリーの言葉に、村長は首を横に振った。

「村の貴重な働き手を、そんなにたくさん失うわけにはいきません……」

 そう言って、深々とため息を吐いた。

「わしも、あと六十年若ければ……」

「えっと、村長?」

「いやいや……あと六十年若ければ、わしがヤマタノオロチを退治したという事ですよ。はははは……」

 村長は乾いた声で笑い、そして再び沈んだ表情を見せた。

「若衆の仲には亀裂が入り、誰も彼もが畑仕事に力を入れぬ有様。最初の生贄を、村一番の怠け者にしたのが失敗でした。怠けていれば生贄に出してもらえると思ったのか、誰も彼もが怠け始めるわ……この村は、非常に深刻な状態なのです。」

「……」

 ……深刻、なのか?

「では、こちらへ……」

 村長は僕達を、建物の隅までこそこそと導いた。

「そこでお願いです……どうか、ヤマタノオロチを倒して頂けないでしょうか。」

 周囲の様子を伺いながら声を潜め、村長は囁くように告げる。

「あの……何で、そんなコソコソ話すんですか?」

「ほら……若衆に聞かれると、袋叩きにされそうだから……」

「あぁ、なるほど……」

 ……何だか、ろくでもない話だな。

「分かりました、退治しましょう!」

「どのみち、生贄出さなきゃこの村は滅ぼされんだろ?だったら、やるしかねぇ。」

「ふむ、報酬のご馳走は弾んでくれるのだろうな?」

 アリスはというと、早速たかる気だ。

「かのような不心得者、放ってはおけんのう。よし、ウチも一肌脱ぐのじゃ!」

「たまも……!」

「おめぇも協力してくれんのか!?」

 たまもは頷き、手をぽんと叩く。

「ふむ、一つ策を考えたぞ。今年の生贄と称して、ルカとヴィクトリーをヤマタノオロチの元に送るのじゃ。そうして、二人に退治させるもよし。もし負けてしまったら、二人を本当に生贄にしてしまうもよし。」

「おいおい……なんなんだ、その作戦……」

「要するに、負けなきゃいいんだよ。」

 ヴィクトリーの言う通り、勝てば問題ないのだ。これは、意外といい作戦かもしれない。

 正直、アリスやたまもが戦えば手っ取り早い気もするが……いやいや、ここは勇者の僕達がやるべきなのだ!

「それでは、お任せしてよろしいですかな?決行するならば、今晩早速という事になりますが。」

「えぇ、作戦に異論はありません。ヤマタノオロチは、僕達が退治してみせますよ!」

「俺もオーケーだ、問題ねぇ。ヤマタノオロチなんて、俺達がぶっ飛ばしてやる!」

「おぉ、なにとぞよろしくお願い致します。ただし……若衆には、くれぐれもご内密に。ヤマタノオロチを退治することが知られれば、彼らがどのような暴挙に及ぶか分かりませんので。」

「は、はい……」

「今年の生贄はあなた達になった、という事で若衆を説得しましょう。では、わしはこれで……」

 そう言い残して、村長は会議の間へと去っていく。僕達は、夜まで待つことになったのだった……

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