もんむす・くえすと!の世界に降り立った1人のヒーローアバターの話   作:ジョーカー:ゼノ

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イリアスベルクにて

 村人に話を聞き、サザーランドの場所を教えてもらった一行。西通りに大きく佇む老舗の宿の前で立ち止まった。

「ここかぁ〜……でっけぇな〜……」

「そ、そうだね……」

「あまあまだんご……」

 サザーランドは予想以上に豪華な宿だった。

「こ、こういう宿ってやたら高いんじゃねぇのかな……」

 ヴィクトリーにそう言われ、宿泊代を見てみる。

「えっと……お一人様240万ゴールドぉ!?」

「うぇっ!?何じゃそりゃあ!?ドラゴンボールヒーローズ二万四千回分じゃねぇか!!UR何枚手に入ると思ってんだこんちくしょう!!」

 ヴィクトリーはこの世界と自分の世界の通貨、ゴールドと円は同定義として扱い、計算した。こういう時だけ計算が早いやつだが、二人にはあまり意味は通じなかった。

「……ルカ、手持ちはいくらだ?」

「……500ゴールド……」

 24時間で240万ゴールドと換算すると……この手持ちでは十八秒しか滞在できない計算になる。

 もし、僕達が洗礼を受けていたら勇者料金はタダ同然だと言うのに……

「は、はは……アリス、あまあまだんごは諦めるしか無さそうだぜ……」

「うん……流石にこれは住む世界が違い過ぎるよ……三人だと六秒しかいられない計算になるし……」

「なんと……こんな事ならグランベリアに制圧させた方がマシ……」

「おめぇ何のために俺達が命張ったか分かってんのかコノヤロー……」

「貴様らこそ余がいなければ今頃どうなっていたか分かっているのか……?」

 キレ気味にヴィクトリーがアリスの言葉を殺す。そしてアリスもすかさず反論する。

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」

 二人がにらみ合ってる時だった。

「すまない、ちょっと通してくれないか……いてて……」

 一人の戦士が僕達を押し退け、サザーランドのフロントに入る。

「……あいつ……グランに叩きのめされてた奴の一人かな……」

「多分……」

 僕達は、こっそり様子を見てみる事にした。

「おい、おかみ、俺は勇者だ。勇者料金で一泊……」

「馬鹿をお言い!揃いも揃って魔物にやられてた無能の癖に何が勇者だい!!」

 威勢の良いおかみの啖呵が外の通りにも響く。

「し、しかし、俺は洗礼を受けて……」

「あんたみたいなヘボ勇者が勇者と名乗っちゃ本物の勇者が迷惑だよ!出ておいき!」

「ひ、ひいぃ〜!」

 戦士は一目散にサザーランドのフロントから飛び出して、そのままどこかに逃げていった。

「ひ、ひえぇ〜……おっそろしいな〜……」

「……ん、あんたらは……」

「あっ……お、おっす……」

 ヴィクトリーの声でこっちを向き、おかみさんは僕達に目をつけた。そして僕達を見るなりその不機嫌な表情がだんだんと和らいでいった。

「あら、あんたら、この町の恩人じゃないか。せっかくだからウチに泊まっていきなよ。」

「い、いやぁ……その……」

 ヴィクトリーはルカをチラッと見る。

「お、お金が……」

 二人は半笑いでおかみさんの方に向いた。

「そんなの勇者料金でいいよ。三人様で、六ゴールドね。残り719万9994ゴールドはイリアス様につけとくよ。」

「ど、どうも……でも、僕達は洗礼を受けた身では無いんですけど……」

「洗礼なんて関係ないよ。勇者の資格は洗礼のあるなしじゃない。その振る舞いさ。」

「お、おかみさん……!」

 僕は、頭に衝撃をうけたような感覚がした。

 その通り、洗礼を受けなくても、その振る舞いが勇者なら、僕達は立派な勇者なのだ!

「グランベリアを追い払ったのは余だがな。」

「俺達は一方的にやられてただけだ。」

「ぐふっ……!」

 まさに頭を殴られたかのような一撃。この二人、かなりできる。続いてヴィクトリーが挙手して口を開く。

「そもそも俺は勇者ですらねぇんだけど……」

「関係ないってば。この町のために一生懸命戦ってくれたんだろ?それだったらあんたみたいな喧嘩小僧でも立派な勇者だよ。」

 そう言えばそうだった。あの時ヴィクトリーは武道家としての誇りを投げ捨ててまでグランベリアに対抗しようとした。ある意味、一番戦っていたのかもしれない。

「サンキュー!おかみさん!あんたいい人だ!」

「よし!元気が良くてよろしい!そこの二人も入って入って!」

「ふむ、貴様は見所のある人間だな……ほらルカ、いつまでのけぞっている。」

 だから、何でお前ら初対面の人にこんな馴れ馴れしいんだ。

 そう思い、ため息をつく。

「はいはい……分かったよ……ちょっ……引っ張るな……!」

 こうして僕達はおかみの好意により、サザーランドに一泊する事になった……

 

「ぜ、全然落ち着かない……」

 豪華すぎる部屋に座る田舎者の僕。二馬鹿はどうしているかというと皿に盛られたあまあまだんごをぱくぱく食べている。

「あーっ!おめぇそれは俺のだんごだーっ!」

「えぇい!うるさいっ!このあまあまだんごはもともとは余の為に作られたものだ!」

「おめぇの為だけに作ったとはおかみさんは言ってねーえ!」

「子供かお前らは!!」

 この二人は相変わらず仲がいいのか悪いのか分からない。でも殴る蹴るという喧嘩には発展しないからまだマシな方なのだろう。

「……二人とも、おいしい?」

「あまい……」

「あぁ!うめぇぞ!おめぇも食えばいいのに!」

 二人とも非常に満足な様子。アリスは尻尾をぴこぴこと振りながら、ヴィクトリーはハムスターのように頬を膨らませてご満悦のようだ。

「……どーでもいいけんどおめぇ変身解いたまんまで大丈夫か?」

「確かに不安かも……」

 宿の人、来ないだろうなぁ……

「ふぅ、余は満足したぞ。貴様はどうだ?」

「俺も満足だ。くったくったー!」

 アリスは人の姿に戻ると、ベルをりんりんと鳴らす。すると、おかみが自ら食器を下げに来てくれた。

「……ルカ、俺達すげぇ優遇されてねぇか……?」

「あのおかみはこの町の顔役の一人……あのまんまここが占領されたら一番困る人だからね……」

「そういう事か……ははは……」

 相当感謝されてる事を納得し、おかみの方を見る。

「当店自慢のあまあまだんご、満足してくれたかい?」

「あぁ、うまかったぜ!」

 ヴィクトリーが腹をぽんぽんと叩きながらアリスが続く。

「甘さが際立ちながら、だんごの風味を殺してはいない……まさにあっぱれな味だ。貴様が魔族ならば、公爵位を与えても良いほどだぞ。」

 アリスの冗句にヴィクトリーの目が鋭くなった。そしてそのまま黙り込んでしまう。僕以外の二人はそれに気付いていないようだ。

「あはは……面白い事を言うね、お嬢ちゃん……!あははははは……!」

 何だか知らないがおかみにはウケたようだ。

「でも……最近は、ハピネス蜜が不足しててねぇ……このおだんごも、前ほど作れなくなったんだよ……ハピネス村もあんな事になっていて……男手が少ないから……まぁ仕方ないんだけどねぇ……」

 ハピネス村……このイリアスベルクの近くの村。養蜂が盛んで、世界中にハピネス村で作ったハピネス蜜を輸出している。

「ハピネス村で問題か……」

 いつの間にか目元が緩くなったヴィクトリーが言う。

「ルカ、面白そうだから行ってみようぜ。」

「えぇ……」

「そうだよ、あんたらも行って、何とかしてやりなよ。あんな強そうな魔物を撃退したぐらいだから、楽勝だよ。」

「は、はぁ……」

 僕達が退治したわけじゃないから何か収まりが悪い。これ以上、この話を引っ張れなくなってしまった。

「じゃあ、おやすみ。ゆっくり休むんだよ。」

「はい、ありがとうございます!」

「サンキューな!おかみさん!」

 ふぅ、と僕達は一息つく。

「……ゆっくり休めと言われて、休めねぇのがサイヤ人だ。」

 ヴィクトリーが唐突に言葉を放った。

「えっ?」

「ルカ……俺、急ぎの用事が出来ちまった。ちょっと抜けるぞ。」

 そう言い、ヴィクトリーは部屋から出てしまった。

「あっ……あいつ……用事なんかあったか……?」

「……ルカ、余は腹が減ったのだが……」

「えっ……」

 

 イリアスベルクを少し出て魔物も出ないような森にやってきたヴィクトリー。どうやらここで修行するつもりらしい。

「……はぁっ!!」

 パワーを開放する。爆発のような気の嵐は起きないが、少し草木が揺らめいた。

「……なるほど……傷ついてから復活して更に強くなってんのか……」

 手をグーパー開き、握り拳を固める。

「はあぁっ!!」

 そして、全力でその辺の木をぶん殴った。

 木は揺らぎ、幹は抉れた。前より凄まじい力がこの身に宿っている。

 にひひと笑い、いつもの筋肉トレーニングを手短に終わらせる。まだ息は切れるが、昨日ほどではない。

「……よし、今日はかめはめ波に挑戦してみるか!」

 かめはめ波。それはドラゴンボールヒーローズをやっている人なら知らない技では無いはず。無印時代の古参ならばヒーローアバターに初めて覚えさせるような技である。

 その全身にエネルギーを込め、手から打ち出すという、元は武天老師の技だ。この世界にも似たような事をするやつはいるはず……そして何より自分にとって未知の世界。このような技は先に覚えておいて損は無いのだ。

「か……め……は……め……波ぁああああ!!!」

 ヴィクトリーが全身に気合いを込め、両手を前に突き出す。だが、何も出なかった。

「あ、あれ……?もういっちょ……!!」

 もう一度、かめはめ波を放とうとする。だが、何も出ない。風に煽られ、葉が飛ぶだけだった。

「っかしいな〜……か……め……は……め……波ぁああーっ!!!」

 だが、何も出ない。声量を大きくしただけではダメだった。普通の人間がかめはめ波を会得するには五十年も修行する必要がある。だが、そんなに待ってはいられなかった。

「か……!!め……!!は……!!め……!!波あああああぁーーーッッッ!!!!」

 ヴィクトリーの修行は今日も長く続いた……

 修行の途中、サザーランドから「あひぃ」と響いてきたが、あれは何だったのだろう……

 

 ねぼけ顔に朝日が差す。いつの間にか眠っていたようだ。そして下半身にぬめぬめの感触が迫ってきてるのを感じた。

「……ふふふ……」

「……はっ!」

 ばっと体を起こす。こないだの頬を腫らしたナメクジ娘が自分の股間に手を伸ばしていたのだ。

「大人しくしていなさい……塩も無く、私に通用する攻撃も持たない君が私に……」

「やめろぉーっ!!!」

「きゃっ!?」

 ヴィクトリーは、すかさず気合砲でナメクジ娘をぶっ飛ばし、木に叩きつけた。そしてナメクジ娘はそのまんま昏倒してしまった。

「あ、あっぶねぇ……魔物が立ち寄らねぇ所を選んだつもりだったのに……」

 この世界の魔物は「こういう奴」だという事を改めて実感した。

 先ほどのナメクジ娘の強襲で目が覚め、意識がクリアになった。そして、昨日の出来事を思い出す。結局かめはめ波は撃てなかった。まず最初に思い出したことがそれで、ずーんとする。

 確か……ここに来て……その前は……

「はっ!!や、やべぇっ!!」

 早くサザーランドに戻らないと置いていかれてしまう。時間はまだ早朝。二人とも寝ている筈。彼は急いでイリアスベルクに走り、サザーランドに向かった。

 

 サザーランドに着き、フロントに体を乗り出す。

「おかみさんっ!あいつらはっ!?」

「えぇっ!?あ、あんたいつの間にここから出たの!?い、以外と朝早いんだね〜……」

 話が噛み合わない。

「あ、朝の早い遅いはいいからさ!あいつらまだ寝てるよな!?」

「今起きた所だぞ。」

 横からアリスの声がした。振り向くと、やけにつやつやしているアリス……と何だかげっそりしているルカがいた。

「る、ルカ?おめぇ、大丈夫か?」

 心配になって声をかける。

「……大丈夫じゃないよ……」

「ゆうべはお楽しみだったんだよ……」

「うがはぁ!!」

「る、ルカ!?」

 ルカは、朝から会心の一撃をくらった。

「あんた、同じ部屋にいなかったのかい?」

「い、いやぁ〜……それは……へっへへへ……」

 ヴィクトリーは頭をかきながら笑ってごまかす。

「じゃあ、また来なよ。あんた達ならいつでも大歓迎だからね。」

「はいっ!ありがとうございました!」

「世話になった!ありがとう!」

 ルカ達はおかみにお礼を言い、サザーランドを後にした……

 

「ルカ、結局おめぇ何してたんだ?」

「い、いやぁ……」

 買い物をしながら、何だか気分が優れないルカを心配し、再び声をかける。

 だが、ルカは言葉を濁すのみだった。これ以上の詮索は野暮だと感じ、ヴィクトリーもこれ以上は聞かなかった。

「そう言えばヴィクトリーこそ、用事って何だったの?」

「あっ……へっへへへ……」

 ヴィクトリーはまた笑いながら誤魔化そうとした。だが、アリスが容赦なく言い放つ。

「おそらく、ルカを出し抜く為に一人で修行していたのだろう。その様子では、余り成果を得られなかったようだがな。」

「うぐっ……」

 どうやら図星のようだ。アリスはまだまだ容赦なく追い打ちをかけ、畳み掛ける。

「レベルが低い癖に大技を習得しようとするからだ。ドアホめ。おおかた馬鹿でかい声でなんとかビームだの何とか砲だのやっていたのだろうな。」

「ぐ、ぐぐぅ……!!」

 完全にその通りらしい。ヴィクトリーは肩を落とし、がっくりとして、ため息をつく。

「……もう塩も食料も買い込んだんじゃねぇの?」

「ん、そうだね……じゃあ後は装備か……」

「装備かぁ……俺には必要ねぇかもな……」

 実は彼はもう既に装備をしているのだ。この山吹色の一式、界王様から直々に作り方を教えてもらったのだ。特殊な作りをしていて、少しの衝撃ならば跳ね返し、乾燥も早く、汚れにくい。しかも傷つくと服そのものが自己修復するという素材で出来ている。

 ちなみにこれと同じのが後四着、色は同じだが、作りがこれまた特殊なのが三着ある。だから装備には困っていないのだ。

 そんなこんな考えていたらいつの間にか武器屋についていた。

「この鎧、かっこいいなぁ……真の勇者はこんな鎧着ているんだろうなぁ……」

 重圧で頑丈そうな鎧を眺め、僕はため息を吐く。残念ながら、今の所持金では手が出せない。

「ばか、おめぇが着たら重くてマトモに動けなくなっちまうよ。」

「そうだぞドアホめ。」

 ヴィクトリーが言い切り、アリスも便乗する。そして、アリスの方が何の変哲もないシャツのようなものに目をつけた。

「これはいい品だな。これにしておけ。今の資金でも買えるだろう?」

 ヴィクトリーもそれを見て、頷く。

「……あぁ。確かにそうみてぇだ。これが一番いいや。」

「これがぁ……?」

 見たところ、もっさりとした普通のシャツ。多少は丈夫そうだが……

「多分そのシャツは特殊な製法や素材で出来てる……っぽい。何か知らねぇけどそんな感じがする。」

「お目が高いねぇ。兄ちゃん姉ちゃん。」

 突然店主が割って入る。

「確かに武道家の兄ちゃんの言う通り結構な品なんだが、見た目が地味すぎるのがな……ほら、そこらの勇者って見た目ばかり気にするだろう?そういう見る目のない連中にはこの服の良さが分からないのさ。あんたたちは、そこらの自称勇者とはひと味違うみたいだねぇ……」

「ふふふ……まぁな。」

「そ、そうなんだ……じゃあ、貰おうかな。」

「まいどありぃ!」

 何だかうまいこと店主に乗せられた気がするが……この二人が勧めてくれたのだから粗悪品を掴まされたということは無いはず。

「エンリカの装備は性能はいいんだが見た目が地味でねぇ……ほら、そこの武道家の兄ちゃんみたいな色の服だったらちょっとは売れるんだろうけど……」

「や、やめてくれよ……」

「エンリカ……?その人が作ったんですか?」

「いいや、村の名前だよ。隠れ里エンリカ……ここから南西にある小さな村さ。」

「へぇ〜……ルカ、知ってるか?」

 ヴィクトリーが質問する。

「いや……」

 そう遠くないイリアスヴィルの僕でさえ初めて知った村である。隠れ里エンリカ……覚えておいた方がいいのかもしれない。

「ヴィクトリー、その道着も似たような服なのだろう?」

 突如アリスがヴィクトリーに言う。彼はその問いに笑いながら答えた。

「あっ……へへへ、バレた?」

「バレたも何も、今の貴様程度があのグランベリアの気合砲をまともにくらったらとっくにあの世行きだっただろう。生きてるところを疑問に思い、このシャツを見て今はっきり納得した。」

「へぇ〜……」

 なんとヴィクトリーもこの手の服を着ているらしい。確かに武道家や、僕のように素早さを軸にして戦うのなら鎧より性能重視の動きやすい服の方がいい。僕はこのシャツを着て、武器屋を出た。

「これでイリアスベルクにいる必要も無くなったんじゃねぇか?」

「そうだね……」

 全ての用事を済ませ、イリアスベルクを去ろうとした時だった。

「ふふふ……見つけたわ……私だけの勇者様……!」

 不意に聞こえた謎の声。二人は構え、臨戦態勢をとり、振り返った。

「ちっ……!」

「だ、誰だっ!?」

 そこに居たのは……ヘビの上半身と、人間の女性の下半身をしたラミア(?)がいた。これでは誰も得をしない。残念なラミアといった所だ。

「うわぁ……」

「かぁっ……気持ち悪ぃ……やだおめぇっ……」

「私はアミラ……あなた達に心奪われた、恋する乙女……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 その場にいる僕、ヴィクトリー、アリス、アミラの四人全員が黙ってしまった。

 そもそも何でこんな町中にモンスターがいるのか。しかも通行人誰も気にしてないし。しかし、これは許せない。もう我慢の限界だ。

 僕が切っていいかを問おうとするより先にヴィクトリーが動いた。

「かぶりもんか何かか?」

 彼はアミラの足を踏み、頭を引っ張り、無理矢理下半身と上半身を分けようとした。

「いだだだだだだだだ!!ちょっ、ギブギブギブギブギブ!!」

 アミラの体はメキメキと音を立てて、その口からは泡が吹き出している。

「び、ヴィクトリー、やめてあげなよ……」

「あぁ、どうやら作りもんではねぇようだ。」

 ヴィクトリーはアミラが作り物では無いことを確認してから、ぱっとアミラを解放した。

「あぁ勇者様……こんな私にも慈悲をくれるとは……だけど武道家様の天然なSっ気もたまらない……」

「いいから早く要件を言えやこのやろー。」

 ヴィクトリーはイライラ気味に言い放った。

「原作のあの一連のくだりを無視して一気に盗賊団の事をしゃべらせるつもりね……」

「うっせぇ!原作とか言うな!とっとと要件言え!」

「ま、まぁまぁ……」

 怒るヴィクトリーをなだめる。こいつが怒ると何をしでかすか分からん。もしかしたら金髪になってスーパー何とか人とかにもなりかねない。

「で、でもヴィクトリー……こんな奴の要件なんか聞くのか……?」

「おめぇの魔物と人の共存の理念に従うと、これが正義なんだよ……」

「その通り。貴様がそれを唱えるとなるとこんな奴とも共存しなければならんのだぞ。」

「うむむぅ……」

 まだまだ、人と魔物の共存の道は遠そうだ。

「そんな事どうでもいいからさ、要件言ってくれよ。」

 ヴィクトリーが改めてアミラの方を向く。もう嫌悪感を抱かずに冷静になっていた。案外こいつは人と魔物との共存にすぐに慣れそう……だと思う。

 アミラもシリアスな顔つきになる。

「最近、この辺で魔物の盗賊団が暴れているのよ。町のみんなも迷惑してるし、同じ魔物がやっているだけに心が痛むの。」

「盗賊団だって?」

「それは見過ごせねぇな……おめぇは戦えねぇのか?」

「いいえ……私はインパクトはあるけどか弱い残念なラミア……そこで……」

「俺達を頼ったって訳だな。ルカ、そっちも面白そうだ。行ってみねぇか?」

 ヴィクトリーがにひひと笑いながら僕を見る。

「盗賊団……魔物がねぇ……」

 魔物が徒党を組んで盗賊団をやっているなんて初耳だ。

 それでも見過ごす訳にはいかないのだが。

「ふん……魔物が人間の真似事か……なんと志の低い……」

 アミラの顔が更に険しくなる。

「でも決して馬鹿にできないわ……その盗賊団にはヴァンパイアやドラゴンなんかもいるのだから……」

 ヴィクトリーが眉をピクッとさせる。

「聞いたかルカ……」

「ヴァンパイア……それにドラゴンだって……?」

 どちらも、今の僕達では傷一つつけられそうにないモンスターである。

「……妙だな。こんな片田舎にそんな連中がいることなど初耳だ。」

 確かにそこまで強力なモンスターがこんな辺境大陸でウロウロしているなんて聞いたことがない。

「どうか勇者一行様、その盗賊団を打ち倒してくれないかしら?」

「……あぁ、わかった。何とかするよ。」

 今の僕達がそんな強豪モンスターと戦えば間違いなく命は無いだろう。

「……何だと?貴様、本気か?おい、貴様もなぜ反対せんのだ。」

「本気に決まってるだろ?」

「いきなりそんなやつと戦えるんだ……俺、わくわくしてきたぜ……」

「そうじゃなくても魔物が人間に迷惑をかけているんだ。見過ごせる訳がないよ。」

 僕の理想は人と魔物との共存。そんな悪行をする魔物を放置したら人と魔物との溝は深まるばかりだ。

「流石私の見込んだ勇者一行様……私の心、ハートスギュン。」

「ハートと心って一緒じゃね?」

「とにかく、その盗賊団のアジトは何処にあるんだ?」

 ヴィクトリーの突っ込みもそこそこに、ルカはアミラに聞く。

「詳しい位置は分からないけど……この町の西にあるイリナ山地が拠点みたいね。」

「分かった。任せてくれ。」

「流石ダーリン!そこにシビれる憧れるゥーっ!!……じゃあ、朗報を待っているわ。」

 そのままアミラは地面をずりずり這って去っていった。

「……嵐のように現れて嵐のように去ったな。」

「……本気で行く気か?ドラゴンもヴァンパイアも今の貴様らではどうにもならんぞ。貴様ら、そんなに英雄になりたいのか?」

 アリスが僕達を見て言う。

「……僕は英雄になりたい訳じゃないよ。」

「俺もだ。」

「本来の目的、魔王討伐とは関係ないだろう。そもそも、貴様らが行かねばならぬ理由も無いはずだ。」

「理由はあるよ。なぜなら僕は勇者だからだ!」

「俺は強いやつと戦いてぇだけだ!」

「……ニセ勇者と素人武道家の癖に。」

「うぐっ……」

「ぐぅっ……」

 痛いところを突かれたが、それでも僕の信念は揺るがなかった。

「全く……自分に関わりのない事など放っておけば良いものを……」

「回り道だって時にはするさ。」

「うん。こうやって経験を重ね、レベルを上げながら魔王城へ向かうのさ。」

「今の貴様らがドラゴンに立ち向かったらレベルがどうこう以前に消し炭になるがな。」

「うっせぇ!」

 何とでも言うがいいさ。人と魔物とのいがみ合いを放置するぐらいだったら消し炭になった方がマシだ。

 こうして僕達はこの町から出た。

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