一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

1 / 75
番外編 幼馴染みとクリスマス

 

俺達は穂織の駅まで来ていた。

その理由は。

 

「クリスマスですよ仙くん」

「クリスマスですね空良さん」

 

空良の提案で、クリスマスツリーを見に行こう、ということになったのだ。

 

「カップルがいますね仙くん」

「カップルですね空良さん」

「手とか繋いじゃってますよ、仙くん」

「手とか繋いじゃってますね、空良さん」

 

クリスマスということで、今日は異様に(カップル)が多い。

あちこちで幸せオーラを振り撒き、各々の世界を築いている。

 

「私たちもやります?仙くん」

「やりますか?空良さん」

「やりましょうか」

 

隣に並ぶ空良が手を握ってくる。

冷たいその手を強引にポケットに突っ込むと、空良は「えへへ」と声をあげた。 

我慢がしきれなくなった俺は、駅中心のクリスマスツリーを見上げる。

ライトアップされたそれは、とても華やかなのだが…

 

「曇ってるね、仙くん」

「よくあるよな、こんな日に限って曇りとか雨とか」

「…なんか腹がたつ。アレ、やっちゃっていいですか?」

「…アレが何かは知らんけど、どうぞ?」

 

アレとやらの使用許可をだすと、やや早口めに空良は魔法を唱える。

やっぱり少し照れ臭かったんだな。

 

「【クリーン】」

 

空良が上を見上げてそう呟くと、夜空に差す雲がサアッと消えた。

周りからは「急に雲が消えたぞ!」とか、「星が綺麗」とか聞こえる。

と、上を見上げていた空良が、突然話しかけてきた。

 

「仙くん仙くん」

「なんです?」

「ロマンチック過ぎてヤバイです」

「やっちまいましたね」

 

一日だけの聖夜を楽しむため、家にもパーティーの用意がしてある。

プレゼント(空良が欲しがっていたネックレス)も、秘密裏に購入、ラッピングしてあり、帰ってからもクリスマスが楽しみである。

ふいに、きゅっと右手が握られる。

さっきから心臓がドクドクと激しく脈打っている。

 

「胸がきゅんきゅんしてるよ」

「俺はドキドキしてる」

「私だってドキドキしてる」

「俺の方がドキドキしてる」

「私の方が」

「俺の方が」

「私」

「俺」

「「………………………」」

 

長い沈黙。

先に口を開いたのは空良だった。

 

「仙くん、アレ見て?」

「ん?アレ?」

 

空良が指差したのは、雲が消えたことにより姿を現した月。

 

「月が、綺麗ですね」

「…………そう、だな」

 

きっと、そこに込められた意味などないだろう。

空良は、まず習っていないはずなのだから。

でも、もしも。

もしも、それに深い意味があるのだとしたら────

 

 

 

 

「ねぇねぇ仙くん」

「うん?」

「来年もまた、来れるかな?」

「─────っ」

 

その微笑みが、儚く見えたから。

その目に宿る輝きが、このクリスマスツリーよりも、夜空の星よりも美しく見えたから。

また来たいなって、思ったんだろう。

 

 

 

 

 

「どうだろうな?お前が異世界に飛ばされない限りは、来れるんじゃないか?」

「あーっ!またそういうイジワル言うーっ!」

 

 

 

 

 

 




◆SS~幼馴染みと聖なる夜~◆


ネックレスを渡された空良さんは嬉し泣きし、仙くんに悪質タックr…抱きつきました。
ネックレスを首につけた空良さんはなにやらクリスマスツリーの辺りをごそごそしています。
実は空良さんも仙くんに内緒でクリスマスプレゼントを用意していて、再度抱きつきながら空良さんは仙くんにプレゼントを渡しました。
それは、赤と緑のクリスマスカラーのマフラー。
空良さんは「買ったもの」と言い張りますが、仙くんは騙されません。
その目の輝きから自作の物であることがわかります。
仙くんは空良さんを抱きかえし、首にそのマフラーを巻きました。
が、すこし丈が余っています。
空良さんは残ったマフラーを自分の首に巻き、超至近距離で「えへへ」と笑いました。
仙くんは赤面しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。