一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
しばしの沈黙。
「……なぜだか理由をお聞きしても?」
「それはもちろん、帰還を親に知られたくないから!」
はぁ、と俺はため息をつく。
小さい頃は、よく泊まったりしたものだが……今回は多分、一日限りではない。
いや、別に俺は構わないのだ。
幼馴染とはいえ、美少女が同じ屋根の下にいて嬉しくない訳がない。
しかし、戸籍や名前をどうするかが気になって仕方がない。
「名前とかはどうするよ?一年じゃさすがに忘れてない人もいるだろ」
「それは……まぁ、なんとかごまかす!」
「適当だな!はぁ……まぁ、良いよ。居候っことにしよう。幸いと言って良いのかわからんけど、ウチは海外主張カップルだからな。元々使ってない部屋もあったから、そこを空良の部屋にすればいい」
「やたっ!ありがとう、家主様っ!」
「誰が家主様だ……」
なんだかんだで、俺は空良には甘いんだな。
そう実感していると、空良はルンルンしながら俺の顔を覗き込んで来た。
「ね、今日なにする?」
「俺は特に予定は無いかな。帰ったらゲームとかする予定だったし。勧められたゲーム、まだレベル上げてなかったんだよなぁ」
「じゃあさじゃあさ、この世界を案内してよ!一年経って、変わってるところもあるでしょ?」
「あるにはあるな。じゃあ、そうするか。俺は着替えてくるけど……」
そう言って俺は空良の服装を見る。
白と紺を基調に作られたピチッとした服は、空良のボディラインをこれでもかと強調している。
それで上からマントを羽織っているものだから、変な背徳感が…いやいや、何を考えている、俺。
「えーと、これじゃ……ダメかな?」
「十中八九、変人かコスプレイヤーとして見られるな」
「あわっ、どうしよう……」
変なところで抜けている空良が、手をわたわたさせて慌てる。
俺は少し考えると、こんな提案をした。
「俺の服はどうだ?」
「え?」
「ほら、ジャケットやパーカーなら不自然じゃないだろ?ズボンはそのままでも問題は無いし」
ズボンはズボンでタイツみたいなので色々と危ないのだが、腰にマントを巻けばファッションにも見えなくはないだろう。女子のファッションには疎いが、まぁなんとかなると信じたい。
「あ、じゃあそれする!」
「今日の内容に空良の服の買い物が追加…ってか、こっちをメインにしないとな…」
空良はこっちの世界のお金を持っていないだろうから、しばらくは俺持ちか。
途中でコンビニ寄ってお金降ろさないと。
「じゃあパーカー持ってくるから、そこで待ってろ。あ、マントは短く折り畳んで腰に巻いとけ」
「わかった!」
俺はそう言ってリビングから出て、階段を登った。
……考えてみれば、俺のじゃなくても服なら母さんのがあるじゃないか。問題はサイズだが。
ドアノブを捻り、殆ど出入りしていない空き部屋に入る。
戸棚の上に、俺と空良が笑顔でピースしている写真立てがあった。
「……まったく、どこに行ってたのかと思えば、異世界とは」
そりゃ、どこを探してもいないはずだよ。
お目当てのパーカーを取り出し、独りごちる。
しょうがない。
しばらくの間、面倒見てやりますか!
◇
数分後。
「じゃっじゃーん!どお?似合ってる?」
「おっ、おう。中々似合ってるぞ」
長い髪をポニーテールに結い、少し大きめのパーカーを着て萌え袖になった天使が爆誕した。
おまけ
すかい「すはぁ。フードから仙くんの匂ひがする」
1000「嗅ぐな嗅ぐな恥ずかしい」