一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

14 / 75
幼馴染みとでぇと

一番変わったところから案内しようということになったので、バスで駅までやって来た。

何か変わったところはないかと辺りをキョロキョロ見渡す空良に、俺は話しかける。

 

「さて、とりあえず駅に来たワケだが」

「駅自体は変わってないね。ショッピングモールの中身が変わったの?」

「あぁ。二階のパン屋が無くなって服屋になった」

「ええっ!! あそこのクッキー好きだったのに……」

 

駄弁りながら、駅付属のショッピングモールに入ると、いの一番に空良が駆け出した。

 

「ちょっ、どこいくんだよ!」

「服! 最新のファッション!!」

 

早々に服屋に立ち入り、空良の服選びを手伝う。

結果、大きめのビッグニットにカーゴスカート、上着として俺のパーカーを袖に手を通さず羽織った空良が生まれた。ちなみにパジャマや下着類も買った───さすがに金を渡して選ばせたが。

謎の力で羽織ったパーカーがずれない空良はずっと上機嫌で、スキップなんかしてらっしゃる。

ため息をつく俺と対照的だ。

 

「まさか服がここまで高いものだとは思わなかった…」

 

いつも安心安全のユニシロで服を買っている俺にとって、ブランドとして名がつくような店はまさに魔王の居城。いや別にユニシロが悪いってわけじゃないけど。

ブランドものも買えなくもないしお金にも問題はないのだが……まぁ、表情には出さなかったものの、それなりのダメージは負った。

…でもまぁ。

 

「ありがとっ、(せん)くんっ」

 

こうして笑う空良の顔は、買った服以上の価値がある。

行方不明になった幼馴染が、五体満足で帰ってきて屈託のない笑顔を見せているのだ。これ以上に価値のある物はあるか?

 

「似合ってるよ」

「えっへへ〜。懐かしいなぁ仙くんの声〜!」

 

そこから先は、空良がきゅうりの浅漬けの次に好きな『もげるチーズ』の新しい味を買ったり、駅周辺でやっているパントマイムを見たり。

暇がなくて駅周辺に来ることはあまり無かったので、どれも新鮮だった。

あぁでも、これは一番記憶に残っている。

 

 

服を買って、次は三階───ゲームセンターを見て回ろうと思ったその時。

 

「……?あれ、先輩?」

「どした、さな?」

「あれ、(せん)先輩に似てません?」

 

聞き覚えのある声に、俺は声の主をさりげなく見る。

すると、そこにいたのは知り合いの早奈(さな)───と、その彼氏、親友にして悪友の蓮徒(れんと)がいるではないか!?

彼らは空良とも仲が良く、一年経った今でも空良の顔を覚えているだろう。

今は俺が重なって空良の姿は見えないだろうが、それも時間の問題。

 

「……ってかアレ、仙先輩ですよね。本人ですよね」

「……そうだな。あいつ、空良がいなくなって傷心してたけど、立ち直ったのか?……っと、後ろにだれかいるな」

「うまく重なってて見えませんねー」

 

空良が帰ってきたことを打ち明けるか?

いや、お祭り好きな二人のこと。『帰ってきたんですね!お帰りなさい!』って言って空良の家に走る様子が眼に浮かぶ。

空良がここにいることがバレたらまずい……。

そう思った俺は、クレーンゲームに悪戦苦闘していた空良の手をとり、曲がり角を曲がった。

 

「ちょ、仙くん!?どしたの急にわぷっ!?」

 

空良の口をふさぎ、耳をすます。

 

「あっ、行っちゃいましたよ、先輩!」

「追いかけるぞ!あいつ、黒髪の美女連れてやがる!」

「どこで捕まえたか聞きますよ、心配かけさせやがってです!」

 

俺らを捜索する気だ、あいつら!?

空良の耳元でそっと口を開く。

 

「少し場所を移動するぞ」

「う、うん……?ってか、あの声って蓮徒く……」

「早く」

「あっ、ちょっと」

 

なんとか人気のないところまで移動する。

ゲームセンターの端まで来てしまい、ここで追い詰められたらもう何も出来ない。

 

「せ、仙くん」

「今あいつらに見つかったらマズイだろ。お前の立場的に」

「あ……うん」

「しばらく逃げるぞ。あいつらとのご対面はお預けだ」

 

しばらく隅で小さくなっていた時。

案の定、彼らはやってきた。

 

「はぁ……はぁ……!あいつ、どこに行きやがった…!(大声)」

「なにがなんでも捕まえますよぉ……!(大声)」

「なんなんだよアイツらの謎の執念!(小声)」

「ど、どうしよう……?(小声)」

 

あいつらの足音が近くなる。

俺はどこか入り込めるところはないか探して…!

 

「あそこだ!」

 

ゲームセンターの店員がアクシデントに対応するときに寄るカウンターにすべりこんだ!

 

「どこにいるのかなぁ~」

「先輩がこっちに気付いてることは知ってんすよぉ~」

 

カウンターごしにいやらしく響く二人の声。

ひとまず安心して下を向くと……

 

「せ、仙くん……」

「────っ!!」

 

目の前に、空良の顔があった。

すべりこむ時に押し倒す形になってしまったらしく、カウンターの高さも低いため、顔が触れるか触れないかの距離だ。

 

「っかしいなぁ。ここら辺に逃げ込んだと思ったんだけど」

「もしかしたらもうゲーセンの外に行っちゃったのかも知れないですねぇ…」

 

だんだん遠ざかっていく二人の声。

未だうるさい鼓動。

 

「諦めた……かなぁ……?」

「そうっぽい……な……」

 

足音がしなくなったのを見計らって、カウンターから這い出る。

辺りを見回すも、二人の姿は見当たらない。

 

「撒いた、な」

「そうみたいだね……」

「あのぉお客様……?そちら店員カウンターとなっておりますが…」

「「すみませんでしたッ!!」」

 

 

……思い出すとすごい恥ずかしい。

となりの空良だって、駅のゲームセンターの辺りをちらりとみては、顔を赤くしている。

 

「……帰ろうか」

「……うん。ありがと、仙くん」

 

既に日が傾いており、(そら)空良(そら)と同様に赤く染まっている。

周りを見渡せば、互いに別れを惜しむカップルがわんさかいる。

微妙に意識されるムード。

……まあ、俺たちは帰る家が一緒なんだけどね。




駅のイメージは静岡県の浜松駅です。
あそこ、賑やかで好き。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。