一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「ハイ、というわけで帰ってきたワケですが」
「うんうん!」
「空良の希望ということで」
「はいはい!」
「一年ぶりに、空良に料理をしてもらいます!」
「おーっ!」
辺りはすっかり暗くなり、リビングで俺たちは騒いだ。
空良が料理をしたいと言うので、食材も買ってきてカレーを作ってもらうことにした。
「仙くん、カレー好きだもんね!」
「……うっせ。子供っぽいとか言うなよ」
「よぉし、腕によりをかけて作るよ!」
と、意気揚々とキッチンに向かう空良。だが…
「ねぇ仙くん、薪ってどこ?」
「ウチはガスでやっております」
「…………あっ」
一年間も異世界常識に浸された空良の脳は、驚くほどに退化していた。
その証拠に、さっきからガスのコックを捻ろうとしている空良。
捻ること自体は別に良いのだが。
「……捻る向き逆っスよ」
「ああーッ!?」
「おばあちゃんか!」
機械に慣れてなかったんだな。
一年くらいで感覚を忘れるはずがないのだが、きっと忘れてしまうくらいハードな一年だったのだろう。
「ほら、ちゃんと火をつけれたよ!仙くん、甘く見ないでよね」
「さっき【ファイア】とか叫んでた気がs」
「うわああーッ!?」
だってほら、火を魔法で点けて満足してるんだもん。
驚くほどに異世界脳。
「と、とにかく火はつけれたわけだし!水だね、【ウォーター】」
「水も魔法でやるんスね」
「あ……」
どうやって軌道修正しよう、この幼馴染。
「気を取り直して、野菜を切ります!」
「これくらいは普通にできるよな……」
「ハッ!!」
「ちょっ!?」
野菜を放り投げて自らもジャンプして空中で一回転、着地する頃には野菜どもが一閃されてごとごとと鍋に入っていった。
常識……常識壊れるぅ……。
「頼むから普通に料理してくれないかな……」
「~♪」
「ああほら聞いてねぇもん、当分は戻らねぇわ、これ」
意気揚々とルーを取り出そうとする空良……ん? 今日、ルー買い忘れた?
いやいや……カレー作ろうとしてルー忘れるとか……失態だ。
これはどうするべきか……え、何してんの?
どこからともなく取り出したそれは野菜ですか?
切って? 叩いて? 混ぜる。
辺りに漂う香ばしくピリリとした香り。
……あぁ、なるほど。大体察しはついた。
でも一応聴いておこう。
「……何してんの?」
「スパイスの調合!」
なんで平然とスパイスの調合してんだよ!
「そろそろ煮えたかな。それじゃぁスパイスを入れてぇ」
「スパイス入れるの?ルーじゃないの?」
「ルーにはもう加工してあるよ?」
「ワーカミワザー」
いつの間に……いや、もはやなにも言うまいて。
余談だが、出来たカレーはたいそううまかった。
「……空良、もしかして料理のウデ上がった?」
「そお?ふふふ、ありがと!」