一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと異世界の住人

 

「仙くん、おかえりぃーっ!!」

「おぅふ!?」

 

玄関開けたら、空良によるタックル。

勇者の力は伊達じゃなく、玄関にしりもちをついてしまった。

 

「どしたどした、空良」

「仙くんが帰り遅いから」

「悪い。変な部活の勧誘されちゃって」

 

万術(まんじゅつ)部』だったか。

金髪ツインテールの後輩らしき人ががビラ配りしてたが、明らかにヤバイ内容だったのでやめておいた。

俺は基本部活には入らないし、それに、入ったとしても空良がいるから面倒を見なくちゃいけない。

ずっと部活をサボっているだろう。

 

「むう……まあ良いや。ぶっとばし兄弟やろーよぉ」

「お?少しは強くなったか?俺のコマンドテクでぶっとばしてやるよ」

「今度こそ、負けぬっ」

 

 

 

 

「あい、俺の勝ち」

「うみゃあああああ!」

 

帰ってから20分、ゲーム続ければ隣にはつっぷした空良の姿。

ははは、勇者とやらも大したことねぇなァ!!

 

「今日の料理当番も空良だな」

「みぃぃいい…料理はちっとも嫌じゃないけど仙くんの料理が食べたい……」

「そんなこと言っても勝ちはゆずらん」

「ねだろうとしてないしぃっ。欲しいのは仙くんの料理だしぃっ」

 

ゲームの電源を落としにかかっていると、空良はキッチンでエプロンをつけながら口を開く。

いつもの会話のように、なんでもないように。

 

「あ、仙くん仙くん」

「ん?」

「明日、異世界からノンちゃん来るって」

 

そう、言ってのけた。

 

「……え?異世界?」

「そうそう!私が送られた世界!仲良くなったんだ~」

「え、なに?異世界来るってそんな親戚来るノリでできるの?」

「巻物があればここに来れるし?」

「そう言えばそうだったよ……!」

 

魔王討伐してそのままで来たんだった……!

……ん、待てよ。なんで来れる事を知ってるんだ?

 

「なあ空良。連絡手段とかあったのか?」

「んー?魔法にそういうのがあるの。【コール】って言うんだけど」

「連絡手段あるのかよ……。それで?どこに来るんだ?」

「穂織の山に地底海があるでしょ?そこにリヴァイアサンに乗ってくるんだって」

「へーそっかリヴァイアサンで……リヴァイアサン?」

 

あの悪魔の?

あの映画にもなった?

あのレヴィアタンから構想されたと言われる?

 

「リヴァイアサンだよっ?」

「ごめん付いていけない」

「え、ええ…?ごめんね、仙くん」

 

謝るのはいいけど、一回卵とくのやめてもらっていいですかね?

緊張感がなさすぎてまずはお兄さんと話し合う必要があると思うの。

危険なものに近づいたらいけません。

 

「仙くん、明日休みでしょ?だったら一緒にいこ?」

「……とんでもない危険な香りがするけど行く。なにしでかすかわからないから」

 

結局俺は、リヴァイアサンを従えるノンちゃんとやらと会わなきゃいけないようだった。

 

 

 

 

翌日。

穂織近くの山の中、地底海。

聞き流したけどこんなとこあるの知らなかったんだけど。

 

「あ、仙くん、お魚がいるよ?」

「まあ、地底海だからな」

 

俺達はノンちゃんとやらに会いに来たのだが。

 

「あ、仙くん、海鳥がいるよ?」

「まあ、地底海だからな」

 

空良は先ほどから俺の袖を引っ張って目につくものすべてを俺に伝えてくる。

 

「あ、仙くん、リヴァイアサンがいるよ?」

「まあ、地底か…えぇ!?」

 

空良の指差す先に、赤と青の鱗をもった大きな蛇が……そう蛇が……。

 

「仙くん仙くん、ドラゴンだよすごくない?」

「ですよね、蛇なんかじゃないよな、そんな気はしてた」

 

ただの現実逃避じゃ異世界には勝てなかったか……。

と、頭を悩ませていると、地底海の中、否、リヴァイアサンから声が響いた。

 

「そやつがソラの幼馴染みとやらかえ?」

「……は?」

「わらわの名はノンピュール。偉大なる水の精霊じゃ。この美貌、この輝き、覚えておくのじゃぞっ?」

 

……今、起こったことをありのままに話そう。

リヴァイアサンが天に昇るように体で螺旋を描いたと思ったら、その中から蒼い髪を垂らした幼女が微笑みかけてきた。

……うん、意味がわからない。

 

「久しぶりじゃのう、ソラよ!しばらく離れていた間にまた胸が大きくなったんじゃないのかえ?」

「うらやましい?」

「たっ、たわけっ!羨ましくなど、決して羨ましくなど!」

 

空良は旧友との再開を喜び、ノンピュールとやらは偉そうに無い胸を張っている。

幼女だからね、仕方ない仕方ない。

 

「おい貴様。今、わらわを胸が無いとか思ったじゃろ」

 

なぜバレた……!?

 

「ふん、まあ良いわ。ソラ、改めて久方ぶりじゃの。会えて嬉しいぞ」

「久し振り、ノンちゃんっ」

「ああ。息災のようでなによりじゃ」

 

空良はくるっとターンする。

ノンピュールはリヴァイアサンを近くに、ドヤ顔で喋り始めた。

 

「水の精霊ノンピュール。精霊種の一人で、水を司る。勇者ソラには何度か世話になったし、世話もした仲じゃ。よろしく頼む」

「あ、はい……」

 

なんだろうこの、既視感というかなんというか。

形容できないオーラは。

 

「……して、何用で?」

「おおそうじゃ!やらねばならぬことがあったんじゃった」

「やらねばならぬこと?」

「そうじゃ。ソラが帰ってこちらの世界に影響がないか調べるのじゃ。魔力や、風水や……。そのためには雨風凌ぐ家が必要になるのじゃが……」

「ノンちゃん、おうちあるの?」

「もちろん無いぞ。と、言うわけで……」

 

あ、嫌な予感。

 

「ソラから話は聞いておろう?しばらくの間、家に住まわせてはくれんかの?」

「そんな話された覚えないんですが?」

「…………あっ」

「言ってなかったのかえソラ……?」

「ごめぇん!」

 

つまりはあれか。デジャヴってやつか。

 

「……はぁ。ではこの場で頼み込むとしよう。しばらくの間、わらわをそなたの家に住まわせてくれ」

 

どうやらまた、住人が増えるようです。


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