一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと水族館

時が経ち。

あれから一週間、俺たちは水族館の前に来ていた。

 

◆◇◆

 

「どうじゃソラ!」

「甘いよノンちゃん!カウンター!」

「なんじゃとおおおおおっ!?」

 

俺の膝上の空良と、俺の隣のノンピュールは、人気ゲームである【大混戦ぶっとばし兄弟】をしている。

いろんなゲーム会社のキャラクターが一つのゲームに集まり、殴りあうゲームだ。

 

「ふう……さて、キリもついた事じゃし、わらわはそろそろ成果を持ち帰って……」

「あぁ、待ってくれ」

 

立ち上がったノンピュールを止める。

俺に呼び止められたノンピュールは振り向き、不思議そうな顔をした。

 

「ん?なんじゃ?」

「ノンピュールの仕事って、魔力が人に影響を及ぼさないか調べるんだよな?」

「ふむ、その通りじゃが…なにかの?」

「人が多い方がいいんだろ?」

「ん?まぁ、多い方が良いな」

「実は今日、水族館にみんなで行こうと思ってな」

「水族館っ!?」

 

空良が水族館というワードに反応し、俺に顔を向ける。

ちょっ、近っ……。

 

「すいぞくかん、じゃと?」

「ああ。ちょうど三連休が回ってきたんだ。どうだ?」

「すいぞくかんとはなんじゃ?」

「そこからか……」

「マーマンの見世物小屋」

「なるほどのう!」

 

それで通じるのか、ノンピュール。

 

「しかし、なぜ急に?」

「水の精霊だし、パっと思いついたんだ」

「あぁ〜……。いめーじ、とかいうやつかの」

 

ノンピュールはしばらく考え込んだあと、同意の意を示した。

幸いというかなんというか、バイトはするけど趣味がないからお金には困っていない。

それプラス毎月口座から移される小遣いのお金はほとんど使っておらず、生活費は小遣いとは別に落とされるので空良たちをしばらくは楽しませる事ができるだろう。

それに、ノンピュールの場合は子供料金……いえ、なんでもございません。

 

◆◇◆

 

「うわあ……ここ、水族館になったんだねぇ。工事現場しか見てなかったから、びっくりしてるよ」

「中から大量の水の気配がするの。維持が大変そうじゃ」

 

入り口を前に、各々の感想を述べる異世界組。

ちなみにリヴァイアサンはストラップに化け、ノンピュールのスカートに付いたベルトにぶら下がっている。

 

「ほら、入るぞ。つっかえるからつっかえるから」

 

二人の背中を押し、受付を通る。

ノンピュールを子供料金にしておくのを忘れない。

 

「うわぁ……!」

「まさか、こんな場所があったとは……」

 

特殊な構造になっていて、海と同化したこの水族館は入り口から地下に潜る。

沖へ進んでいく感じだ。

海底トンネルの外にはサンゴが生息し、色とりどりの魚が優雅に泳いでいる。

海底トンネルの外側にもう一枚ガラスを貼り、その中の空間に魚を放っているのだろう。

あっという間に海底トンネルを抜け、エントランス…とでも言うのだろうか、大きなホールまで出る。

中心に大きなガラスの柱があり、その中にも魚がいた。

 

「ねえねえ仙くん、階段があるよ?」

「地上に繋がってるんじゃないのか?イルカショーもやってるらしいし」

「イルカショー!?」

 

目を輝かせる空良に内心喜ぶ。

ポケットに入れたチケットは三枚。きっちり用意してあるからだ。

 

「見たいか?」

「うん!あ、でも、チケットがないと見れないんじゃ……?」

「ほらこれ」

 

照れ臭くてぶっきらぼうな態度をとってしまったが、しっかりチケットを空良の眼前に出す。

 

「え…?」

「実は前々から用意してあったりして」

「え……!!え、いいの?」

「ダメならなんで3枚も買ったんだか」

 

 

「仙くんっ、ありがと!」

 

 

 

 

イルカショーの観客席、その最前列。

そこで、俺は赤面していた。

まさか抱きついてくるとはおもわなんだ…。

 

「楽しみだね、仙くんっ!」

「ソウデスネ……」

「わらわを蚊帳(かや)の外にしておいて、何をしておる」

 

俺、空良、ノンピュールの順にならんでいるのだが、周りから俺への視線がすごい……。

人がたくさんいるところで空良に抱きつかれたものだから恋人、ノンピュールを連れているので下手したら子持ちの夫婦と思われたかもしれん。

自惚れとは言わない。その証拠に後ろのオッサンがめっちゃ舌打ちしていらっしゃる。

「性の喜びを知りやがって」とかほざいてらっしゃる。

 

『はーいみなさん、こーんにーちわーっ!!』

「始まったよ、仙くん?」

「おっ!?あ、おう……」

 

イルカショーのお姉さんが出てきて、ついにショーが始まった。

ガコン、と水槽の扉が開き、二匹のイルカが泳いでやってくる。

 

『今回の主役!センとソラでぇーすっ!!』

「ぶっ!?」

「えっ!?」

『なんとなんとこの二人、夫婦のイルカなんです!!』

「ごはぁっ!?」

「嘘ぉっ!?」

 

自惚れだという言葉は甘んじて受け入れよう。

が、これくらいは言わせてくれ。

ちょっと想像しちゃったじゃねぇかよぉぉおおお!!

 

『まずは簡単に二人のコンビネーションを見せましょう!セン、ソラ、お願いっ!』

「「きゅーっ!!」」

 

イルカ二匹(センとソラ)がなにか芸をする度に意識させられ、俺はもはやイルカショーどころではなかった、とだけ言っておこう。

そのままイルカショーは続き、やがて最後の芸となった。

 

『まことに残念ながら、お時間がやってきてしまいました!』

「「きゅー…」」

『ですので最後に!二人のとっておきの芸をしたいと思います!さぁ二人とも、やっちゃって!』

 

お姉さんの掛け声と共に、センとソラが動き出す。

センがいきおいをつけ、大きく跳躍。

センはくるりと空中で一回転して観客をわかせたあと───

 

ボチャーンと落ちて、観客席に水をお見舞いした。

 

「おあっ!?」

「させるか、【水流結界(すいりゅうけっかい)】!」

 

俺たちに水が跳ねる直前にノンピュールが前に出て、右手をつきだす。

すると水は俺たちの前でなにかに防がれたようにするすると落っこちた。

 

「はっはっは!どうじゃ、水の精霊をナメるでないわ!」

 

俺たちの前で胸をはり、褒めて褒めて!と言った雰囲気を出すノンピュール。

この時俺は気づいていなかった。

センが跳んだのに、もう片方(ソラ)が跳ばないわけがないことを。

太陽の後光を浴びながら水面に着水したソラは────

 

 

案の定、大量の水をお見舞いしてきた。

 

 

イルカの方を見ていなかったノンピュールに出来ることなどなにもなく、俺はただただ水を見つめることしかあばばばばばばばばばっ!!

 

『はぁーいみなさん、ありがとうございました!イルカショーはこれにて終了、またあいましょーうっ!!』

「「きゅっきゅーッ!!!」」

 

胸をはった体勢のまま前髪から水滴を落とすノンピュール。

 

「「………………………」」

 

びょしょぬれで沈黙する俺たち。

しばしの間、時が止まり。

 

「こんぬぉイルカ風情(ふぜい)めやりおったな!でてこい、でてこぉーい!」

 

ノンピュールが水槽を叩きながら激昂し始めた。

周りの人は子供がイルカに会いたがっていると思っているのか、暖かな視線をノンピュールに注いでいる。

 

「ははは…最後の最後でこれかぁ」

「………………」

「空良?」

 

すわっ、心臓が止まったか、水が冷たかったかと肩を揺らしていると空良はゆっくりと振り向き。

 

 

「えへへ、濡れちゃったね、仙くん」

 

 

そう言って微笑んだ。

 

「おっ、おう!?そうだな……」

 

バッと顔をそらす。

あれはいけない。

あの笑顔は直視できぬ。

そして直視できぬ理由がもうひとつ。

 

「?どしたの、仙くん?」

「いや、濡れてるから服が……」

「!?」

 

もう一度言おう、直視できぬ。

しばらくの間、幼女が喚き、男女がびしょ濡れで顔を背けあっているという混沌(カオス)な空間が出来上がった。

 

 

「まったく、何をしておるのじゃ!」

「わ、わるい」

「ごめんなさい……」

 

ノンピュールが頬を膨らませながら先導するなか、移動の際にも俺たちは怒られていた。

 

「二人して顔を赤くし?顔を背けあって?わらわが声をかけても気づかず?ノロケかお主らッ!!!」

 

ちなみに服は乾いている。

さすがは水の精霊と言ったところか、水の乾燥を早めてあっという間に服を乾かしてしまった。

 

「あれからもチラチラチラチラと意識しあいおって!」

「いや、ホント、すまん」

「ごめんね、ノンちゃん……」

「ふん?わかれば良いのじゃ」

 

正直、なんで怒られてるんだろうと思ってる。

 

「だが一つ覚えておけ。わらわは水の精霊であるが、どうじに(ちぎ)りの精霊でもある。それはもう、幾人もの恋人をみてきたくらいじゃ」

 

ほえ?なにを言ってるんだろう、この人は。

首を傾げているとノンピュールは俺に顔を近づけ、耳元でこうささやいた。

 

「そのわらわがなぜこうも怒るのか、考えておくのじゃぞ?今回は許すが。むしろもっとやれと言いたいが!……ん?ソラ、あの丸っこいのはなんじゃ!?」

「あれはクラゲ……あ、待ってよーう!」

 

その後水族館を周り、家に帰ってもその言葉の意味はわからなかった。


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