一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと招待状

 

……何かがのしかかっている。

重くはないものの、妙な圧迫感がある。

深いまどろみの中、俺はそんな奇妙な現象の中で、

 

「起きてっ、仙くん!」

 

幼馴染みに叩き起こされた。

鉄のように重たいまぶたを開くと、布団の上から俺にまたがる空良の姿が。

なにやら急かしているようだが、俺に起きる気は無い。

季節は冬。布団の中が一番の極楽である。

それに俺、朝弱いんだよなぁ…。

 

「起きてよぉ。起きないと落書きしちゃうぞー?」

 

うむ、空良らしい。

小学校で居眠りしてしまったときもこんなこと言われた気がする…ってハッ!?

 

「しまった!!」

「おはよっ、仙くん」

「ああうん、おはよ」

 

サッと起きて支度をする。

ああ、しまった。今日は日直じゃないか。

 

「ごめん、パンだけ食べてく!」

「はーい。行ってらっしゃい、仙くん」

 

空良に見送られ、俺は早々に駆け出した────。

 

 

 

 

駆けていく彼の後ろ姿を見送る。

さてと。私は私でやれることをしないと。仙くんに愛想尽かされたら嫌だからね。

玄関の落ち葉がすごいなぁ。風も強かったから砂も散らばってる。

ホウキを持ってこよう……の前に、ポストを開けて。

新聞と、今月の電気代もろもろと……あれ?手紙だ。

 

「私宛?……うそ」

 

私は失踪したことになってるし、そもそも私が仙くんの家に泊まってることなんて誰も知らないはず。

それに……魔力の匂い。魔法陣かな。

 

【コール】の魔法は魔力を転移させる魔法。

だから、意思を伝えるという目的であれば大体の物はどこにだって遅れる仕組み。

手紙という形であれば、召喚の魔法陣を付属してもなんら問題はない……。

だからこそ、【コール】は干渉して無効化しやすいようになっているにだけれど。

 

「もしかして、お礼参り?となると、魔王軍の人たちとか?」

 

警戒しながら手紙の封筒を裏返す。

差出人は─────

 

 

 

 

「よし定時!俺、帰る!」

「お、悠時が帰るなら俺も帰ろうかな」

「仙さんや。今日遊びません?」

「帰ってからじゃないとわからんな」

 

勢いよく飛び出していったクラスメイトの後を追うように俺も家に帰る。

家に着いて、玄関を開けて、そしたら空良が────

 

「ねえねえ仙くん異世界行かない?」

「えぇ急に……?」

 

異世界って、そんな簡単に行けるもんなのか。

俺達の世界では空想上のものでしかない異世界だが、当の本人たちは何も思わないらしい。

 

「異世界って、それまたなんで?」

「招待状が届いたの」

「異世界から?」

「異世界から」

 

ううん、玄関先でこんな話をするのに慣れてしまっている自分がいる。

本来ありえないお話なんだけどなぁ…。

 

「内容は?」

「読み上げるね。『勇者ソラ殿。貴殿は魔王討伐という偉業を成し遂げた。そこで、貴殿を表彰する式典を開く。次の月までにこちらの世界へきてほしい。王都ロイフォード王18代目ライムが息子、19代目オレンズ』って」

「うわぁ…」

 

さすがは勇者、王子様と繋がりを持ってらっしゃる。

しかし、パーティーに主役がいないのはさすがにマズいだろう。

 

「よし空良、行けるんなら行ってやれ。パーティーに主役がいないのはダメだろ」

「うーん……仙くんと一緒に行きたいなって」

「え?いやいやいやダメだろ、俺は勇者でもない部外者だし」

「えー……行けないの……?」

 

しょんぼりする空良。

平民が行っていいもんなのかと考えながら、俺はチラリとカレンダーを見る。

来月まであと一週間。近すぎる。

学校は……一日なら休めるけども。

 

「異世界行くのってどれくらいの期間だろうな?一日なら大丈夫なんだが」

「むむむ……一週間くらい?」

「ダメじゃねえか」

「ど、どうにか…あっ」

 

何か閃いたような顔つきをして、この世界に帰ってきたときの服…体にぴちっと張り付く勇者の服をあさりだした。

やがて取り出したるは綺麗な水晶。

 

「これね、【鏡水晶】って鉱石で、別名は【身代わり石】って言うんだけど、一週間くらい、水晶に映った人や物の代わりになれるすごいものなんだよ!性格、記憶はもちろん、癖や話し方までコピーしちゃう優れもの!」

「へぇ……便利なものもあるもんだな」

「万が一拉致とかされたとき、コピーを残して逃げるための鉱石で、貴族なら一人一つは持ってるんだっ」

 

で、空良は勇者だから、貴族と同等、もしくはそれ以上の価値ありと見なされ、その石を持たされた、と。

 

「もしかして、俺のコピーをつくって学校に行かせようって?いいのか、そんなもの使って」

「うんっ!だって私、あと五個くらい持ってるし」

 

貴族以上の待遇だった。

 

「ハイ仙くん、使ってみて!」

「覗き込めばいいのか?」

「うん!」

 

鏡水晶を覗き込む。

俺の顔が水晶内で反射して、やがて鏡水晶が砕け散った。

 

「あっぶな!」

「あぁ、たしかに破片は危ないかも」

「先に言ってくれよ!」

 

散った破片は再度集まり、やがて人の形を生成した。

 

「おぉ!俺そっくり!」

「……現状が理解できないんだけど。だれか説明求む」

 

そこも俺に似てんのな……。

説明すると、コピーの俺は顎に手を当てて考え込む。

俺の癖、考えるときに顎に手を当てるって言われてはいたけど……こんなんなのか。

 

「つまり、俺はお前のコピーで、お前の代わりに学校にいく、と?」

「ああ、そうだ。記憶は共有されるらしいからお前がパーティーに行っても構わない。けど、俺の代わりにはなってくれ。どうだ?」

 

俺の目の前には、俺そっくりのコピー、つまり俺がいる。

多分、どちらがパーティーに行っても問題はないだろう。

コピーの俺……長いからコピーと呼ぼう。

コピーは肩をすくめると、苦笑して言った。

 

「いや、いいよ。コピーはコピー、俺は俺だ。コピーである俺はコピーの仕事をまっとうするだけ。本体のお前は楽しんでこいよ」

「いいのか?」

「いいんだよ。どうせ一週間だろ?そしたら俺は消えるんだから」

「お、おう…。すまん」

「なにを謝ってるんだか」

 

コピーは制服に袖を通し、さっさと学校に行ってしまった。

なんというか、やっぱり俺に似てる。

コピーだから当たり前なんだけど、きっと俺だってコピーとして呼ばれたら学校に向かう方を選ぶ。

その辺もコピーしてんのか。高性能だなぁ。

 

「で、どうやって異世界まで行くんだ?」

「ノンちゃんの魔法陣を使うよ」

「ノンピュールがいないけど」

「そこでこちら」

 

空良が何かを取り出した。

デフォルメされたリヴァイアサンのキーホルダー……。

 

「リヴァイアサンとノンちゃんは繋がっててね。リヴァイアサンを呼び出して、そのリヴァイアサンにノンちゃんを呼んでもらうことができるんだ」

 

空良がキーホルダーを宙に投げると、ぽふんという気の抜けた音と白煙とともに、リヴァイアサンが出てきた。

……もちろんぬいぐるみフォームで。

 

「きゅ」

「ノンちゃんを呼んでくれるかな」

「きゅ!」

 

リヴァイアサンが渦巻く。

巻きつくようなリヴァイアサンの内側からまばゆい光が発せられ、ノンピュールが顕現した。

なるほど、地底海のときもそうやって出てきたのか。

 

「ん?ああ、もう行けるのか」

「うん!鏡水晶使ったからね!」

「考えたのう。……ほれ、なにをぼうっとしておる。行くぞ」

「仙くん、早く早くっ」

「ああ、すまん」

 

自然災害に見舞われたときとかのために、常の外に出る支度は済ませてある。

バッグを肩にかけ、庭にノンピュールが描いた魔法陣の上に乗って。

 

「よし、乗ったな。では、転移するぞ」

 

ノンピュールが何やら祝詞のようなものを唱えると、足元の魔法陣が輝きだし────……………

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