一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「おおっ、勇者ソラ様!」
「ご無沙汰しております!」
眩んだ目を開けると、まさに兵士!といった風貌の成人男性二人が駆け寄ってきた。
俺達の姿を見て目を丸くして…。
「なんと、精霊ノンピュールも。ソラ様がいきなりいなくなってから水の精霊殿を熊のようにうろうろとしていたとは聞きましたが、まさか異世界までおもむくとは」
「そうなの?」
「ち、ちがわい!お主も余計な事を言うなっ!」
「して…後ろの男性は?」
片方の兵士の言葉により、もう片方の兵士の視線が俺に向く。
そしてキッとするどい目付きになり…あ、危険な香り。
「貴様…どこの暗殺者だ?勇者様の背後で何を…」
「おいハルス!あ、ちょっ、すみません、コイツなんか変な間違いを…」
ああうん、片方の兵士はちゃんと客人だと思ってくれたみたい。
んで、ハルスと呼ばれたもう片方はハルバードをこちらに…危なっ!超危なっ!!
のけぞった勢いで尻餅をついてしまった。
あ、動けない。俺の体は恐怖に正直であった。
「ちょっと、ハルスさん、この人は私の友達!幼馴染み!一回深呼吸しよ?」
「ぐえっ」
「お主…ハルバードくらいで腰を抜かすとは、情けないぞ?」
空良は腰の剣を使ってハルバードを中腹から両断、柄でヘルムをカコォン!と殴って…怖い、怖いよ幼馴染み。
台詞と行動が合ってないよ。
「……え?幼馴染み?」
「おーけー?深呼吸、できた?」
「は、はい……し、失礼しましたぁ!」
「あー、その、なんだ。俺も悪かった」
「いえいえそんな!」
土下座して謝る兵士ハルス。
リヴァイアサンに肩(?)を貸してもらってなんとか立っている俺。
カオスな景色が設立された中、もう片方の兵士は苦笑いを浮かべている。
「ええと……その、相方がすみませんでした。ソラ様。招待状はお持ちですか?」
「うん!はいこれ!」
「ルールなので確認させていただきます。……はい、大丈夫ですね。パーティーまではまだ日があるので、少し観光などすると良いでしょう。……と、その前に、勇者の帰還を王子に報告せねばなりません。どうかこちらへ」
好印象な兵士に連れてこられたのは大きなホール。
空良は慣れているのか学校を歩くような態度だが、広すぎるだろ、ここ。
「おお!勇者ソラ!」
ふいに、弾んだ少年の声。
そちらへ目をやれば、頭にちょこんと王冠をのせた王子っ!!な人が駆けてきていた。
「帰ったのだな!」
広いホールを駆け、その目には空良しか入っていない。
バッと段差を飛び降り…
「へぶっ」
着地に失敗して転んだ。
なにこの王子様、バカそう。
空良は転がった王冠を手に取ると、王子様の頭にそっと乗せて微笑んだ。
「勇者
「………………」
ぽ~と顔を赤くする王子様。
ああこれ、落ちてらっしゃる。
◇
「ごっほん。勇者ソラよ。魔王討伐の長旅、ご苦労であった。精霊ノンピュールも、勇者への助力を感謝する」
ホールの中、空良とノンピュールが前に出て、赤いマントの恰幅の良い王様に表彰されている。
王子様は王様の横でチラチラと空良を見ていて…。
俺?全力で気配を消して面倒事を避けてますけどなにか?
「貴殿らの功績は、永く伝えられよう…して、その男は誰だ?」
あー、やっぱり異世界の人間に敵うはずがなかったんですわ。
しっかり目で捉えられましたわ。
「なっ!?貴様、いつからそこに!?」
訂正。
「はいはい!王様!この人が、仙くんだよ!」
「おお、貴殿が……」
王様、しっかりとした足取りで接近中。
逃げようにも、周りは兵士ばっかり。
ああ、これは詰みましたわ。
王様に接近されてろくな事が起こるはずないのは、漫画や小説でお馴染みだ。
「勇者ソラから話は聞かされているよ。君が、勇者ソラが心の支えと言った、仙という人物だね?」
「ええはい、確かに僕は仙ですけど……」
しかし、予想とはまるで違かった。
王様は大きな手で握手を求めてきた。
つーか手をとってきた。
あ、ヤバイ。兵士が武器を構えた。ここの兵士頭硬すぎんだろ。
「元の世界に君がいるから、頑張れた。勇者ソラは報告の度にそう言っていてな。よほど大切な人なのだろう?」
「えぇ……いや、はい」
空良さーん!?ちょっと助けて、不意打ちを警戒してか、めっちゃ視線が刺さってる!
胃が痛い…あ、目、反らさないで!なに顔赤くしてんだよ!今はお前が必要なんだよ!
キリキリと悲鳴を上げる胃を俺が応援する中、王様はやっと離れてくれた。胃よ、よく頑張った。
「話がそれたし表彰式の日程も巻いたが、2日後にパーティーを開く。それまで待っているといい。これにて、表彰式を終了する!」
周りが一斉に礼をしたの慌てて俺も礼をする。
そうか……。空良、こんな状況に慣れているってことは結構な場数を踏んできたんだな。
そりゃもちろん、勇者なんて崇められて然るべき存在だし。
メンタル面も強くなった。
元の世界でゾンビハザードが起きても平気で生き抜きそう。主人公枠だ。
「仙くん、王都を案内するよ!行こっ!」
「では、わらわは精霊殿に一度帰る。別行動じゃな」
空良は俺の腕を引き、ホールの壁に一直線に駆ける。
もちろんだがドアは無い。なにするつもり………
「せええええい!」
ええええ壁ぶちやぶったああああ!
一蹴りで壊れんのか脆いな城壁!大丈夫かそれで!
城から文字通り飛び出した俺たちは重力にしたがって落ちていく。
あー、ホールって二階だったのね。
半ば悟りを開いた俺を抱きしめ、空良は地面と接触するインパクトの瞬間に完璧なタイミングで膝を曲げ、衝撃を完全に逃がした。
ははっ……勇者ってスゲー。
再び空良に手を引かれ、俺は城下町へ消えた。