一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと城下町

 

城下町。

文字通り、城の周りの町だ。

集落や村よりも人の出入りが激しく、税の関係から城の周りは栄えてる、とは学校でならったが……

 

「はい仙くん、あーん!」

 

なんで俺は、空良に串焼きを差し出されているんだ……?

素直に食べれば、ぎゅむっとした歯応えと共に口のなかで肉の旨味が弾ける。

いや、それはいいんだけども。

はたからみたら俺、ヒモじゃね……?

既に空良が勇者であることはみんな知っているのか、道行くおばさんが「あらこんにちは、勇者さま」と声をかけてきたり、駆ける子供が「俺、おっきくなったら勇者になるからね!」などと追い抜いてきたりもした。

それだけならいいんだけども。

 

「ところで勇者さん、そっちの坊っちゃんはボーイフレンドかい?」

「え、えへへ……。ボーイフレンドじゃ、ないんだけどね……えへへ……」

 

恋人か、婚約者か。

これを聴かれるの、十回から数えていない。

まあ、今のは空良が悪いかな。

串焼きを買ったそばから俺に差し出してくるんだもん。

 

「仙くん仙くん、次はあそこいこ?」

「はいはい、仰せのままに」

 

俺の手を引いて楽しそうに駆ける空良。

もう片方の手には、たこ焼きのようなもの、わたあめのようなもの…異世界特有の見た目をしたゲテモノグルメ……。

出店で値段を出されてから空良がシュバッと払ってしまい、ここまで荷物がたまっているのだ。

 

「なあ…そこまでぽんぽん払わなくていいんだぞ?」

「え?」

「なんか俺、空良にくっついてるヒモみたいで格好がつかないだろ?」

 

元狩人の人が経営している射的屋の出店でボウガンを構えながら、俺は言った。

空良はひとつ景品を撃ち落として聞いてきた。

 

「そうかな……私は別にいいよ?頼ってくれても」

「しかしだなぁ。このままだと、俺がクズになっちゃいそうなんだよ。幼馴染みにたかるヒモとか、なんかなあって」

「んー……私はむしろ、頼って欲しいなあ」

「え?」

「ほら、あっちの世界だと私、仙くんに対してなんの役にも立ってないから。この世界でなら、私にもやれることがあるし」

 

まったく…この幼馴染みは変わらないな。

俺はボウガンから手を離し、空良の頭を撫でる。

昔っから空良の頭を撫でていたが、久しぶりだな。

 

「そんな無理しなくていいんだぞ」

「ふぇ……?」

「空良をあっちの世界で住まわせてるのは俺が勝手にやってることだし、なにより空良はこれまででも充分役に立ってるよ」

「そっか…………よかった」

 

空良は安心したように俺に笑顔を見せた。

ほんとに、この幼馴染みは変わらない。

 

「それはそうとして……ちょっと行きたい場所があるんだが、少しいいか?」

「なあに?どこでも大丈夫だよ?」

 

出店から離れ、向かうのは古めかしい作りの店。

看板には二振りの剣が交差したマークが描かれている。

そう、ファンタジーゲームの定番、鍛冶屋さんだ。

 

「おお……」

「ここの品揃えは良いよ。私の剣もここの人に鍛えてもらったんだ」

 

サーベルや槍が壁に立て掛けられ、鎧なんかも鎮座していた。

やっぱロマンだよね、こういうの。

(なた)や斧のような、大きな物もあって…まさにファンタジーだ。

 

「いらっしゃい……ん、ソラか」

「おー、おじさん!毎度どーもねー」

「あんな剣を打たせてもらったんだ。毎度はこっちのセリフだぞ。……そっちの坊主は?」

 

奥から出てきたのは、ガタイの良いおっさん。

さばさばとした銀髪、そしてダンディかつプリティーなお髭。

一見、脳筋に見えるがその目には確かな知性の輝きがあった。

 

「私の支えの人だよ!」

「ほう……お前さんが例の」

 

どんだけ言いふらしてんすか空良さん。

 

「剣に興味があるのか?なんなら、振ってみても構わねえぞ」

「……良いんですか?品物でしょう?」

「構わねぇ。ソラのゴユウジンと来ちゃ、こっちも雑に扱うわけに行かねえからな」

 

とりあえず、近くに立て掛けてあったサーベルを手に取る。

ずっしりとした鉄の重み、それなのにどこか安心感のある重量だ。

俺の顔が刃に反射する。

疑ってはなかったけど、やっぱり本物の刃物だ。

 

慎重に、学校の剣道の授業で習った型をとる。

そして上から、振り下ろす!

 

「……ちっ。なんだよ、剣はシロウトか」

「いやまあ、ね?仙くんだって剣なんか振ったことないんだし、まだ、ね?」

 

反応からして、どうやら俺の型は見るに耐えないものらしい。

チクショウ。


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