一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みとダンジョン

「しっかし、どうしてこんなに剣が下手くそなんだか。そんなんじゃ、そこらのゴブリンにも負けるぞ」

「まっさかぁ!そんなことはないと……思……うよ…… ?」

 

やっぱり、日本出身の俺じゃ剣が振れないのは当たり前か。

そう思ってサーベルを壁に立て掛けると、鍛冶屋のおっさんはアゴヒゲをさすりながら言った。

 

「ふぅむ……サーベルがダメなら他の武器もダメだろうな……」

「いや……うん……その……」

「弁護はしないでいい、空良。その反応が一番傷つくから」

「だ、ダンジョン!ダンジョンにいけばほら、火事場の馬鹿力って言うし!」

「ダンジョン?」

 

やはり、異世界の醍醐味(だいごみ)と言えるダンジョン、この世界にもあるのか。

魔法の名前といい、ダンジョンといい、なんとも典型的な異世界だ。

 

「あのウデじゃ……いや、やってみんとわからんか。【初心者のダンジョン】でいいだろ」

「【初心者のダンジョン】?」

「新米の冒険者が装備を集めたり戦闘訓練をする場所だ。レベルも上がるしな」

 

レベルもあるんだなあ、この世界。

 

「ちなみに、空良のレベルは……?」

「え?あ、【魔王城】辺りから確認してなかった」

「あいよ、【サーチ】……。125だな」

「おぉ!いつのまにかそこまで行ってたんだねぇ」

 

レベルの上限は99じゃないらしい。追いつけるのか心配になって来た。

とはいえ、ダンジョンには俺も興味があるし、行ってみたいな。

 

「なあ、そのダンジョン、行ってみてもいいか?」

「もっちろん!案内するよ、仙くん!ねえ、サーベルってレンタルしてもいい?」

「んー……まあ、いいだろ。それ、もってけ」

 

おっさんが顎で指したのは先程壁にかけたものよりも質素な感じのサーベル。

ガード……っていったか、柄の部分の手を守る曲線が無い。

それでもTHE・サーベルって感じで、俺はワクワクしたが。

 

「じゃあ仙くん、ちょっとこっちによって?【転移結晶】使うから」

「んな高価なモン下級ダンジョンに使うなよ……」

 

隣に寄ると、空良は何やら紫のクリスタルを取りだし、それを砕いた。

きっと魔法かなにかだろう。腕力だとは思いたくない。

ノンピュールに転移させてもらった時のように視界がぐにゃりと歪み、そして瞬きをしたその一瞬、目を開くと目の前に大きく、重厚感を与えさせる洞窟があった。

 

「さっ、いこっ!仙くん」

「いやー、うん。異世界だなぁ」

 

サーベルを引きずり洞窟を進む。

洞窟だから暗いのかとも思ったが、壁のところどころにある緑色の石が淡い光を放ち、ちゃんと先まで見通せるようになっていた。

眩しくはない。むしろ幻想的で綺麗だ。

と、先を歩く空良がなにかに気づいたように首を傾ける。

 

「出た、仙くん。スライムだよ」

「お、これまたスライム然としたスライムだな」

 

ぷるぷるしていて、半透明な青色。

惜しむらくは、目や口がないところか。

 

「ぷるぷるしてるー」

「こいつを倒すのか?よし、それなら……」

 

じりじりと近づき、サーベルで斬る。

あれっ、思ったよりも斬れない。ゼリーみたいな感触だけど、気分的にはこんにゃく切ってる気分だ。

スライムはサーベルをめりこませたまま、俺に体当たりをしてくる。

 

「うおっ、なかなかな衝撃を……」

 

子供の全力タックルと同じくらいなんじゃないだろうか。

反撃とばかりになんどもサーベルで叩く。

すると何かの拍子にスライムは黒い霧となり、霧散していった。

 

「……うん。勝てた。勝てたけどなんだろう、俺めっちゃ弱いってことがわかってショック」

「ま、まあまあ、私も最初はそんな感じだったから……ね?」

 

抜き身のサーベルをだらりと下げ、死んだ目をしている俺に、空良は優しく声をかけてくれる。

はあ、なんでこうも空良に助けられているんだろうか。

 

「いや、男は度胸!空良、もう少し進んでいいか?」

「もちろん!どこにでもついていくよ?」

 

それからしばらくスライムを倒していた。

わかったことは、倒したときに出てきた黒い霧。

あの霧、モンスターを生成する素材でもあるらしい。

歩いていると、目の前で黒い霧が集まり、スライムが生まれたのだ。

そしてもう一つ。

何匹目か、スライムをサーベルで串刺しにしたときのことだった。

黄、赤、青…いろいろな光の塊のようなものが俺の周りを飛び、そして弾けた。

 

「やったね、仙くん、レベルアップだよ!」

「これが……レベルアップ」

 

ぎゅっと手を握ってみる。

特に感じることはなにもないが、それでもどこか、体の奥がじんとして、何かが湧き出るような感覚があった。

強くなった。些細な差だが、俺はそう確信した。

 

「んー、そろそろ夕方……レベルも上がったし、帰ろっか?」

「ん、ああ。わかった、じゃあそうする」

 

帰り道、空良が指先で触れただけでスライムを弾き飛ばしているのを見て、俺の心は粉々に砕けた。

なんだよ、体に触れた瞬間『ジュッ』って。指先で触れただけで消すてなんだよ。


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