一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
ダンジョンから帰ってきたその夜。
あてがわれた部屋で緊張しながらくつろぐという荒業をやっていた俺に、空良が部屋を訪ねてきた。
夜道を散歩しよう、ということらしい。
しんと静まった城下町を空良と二人、歩く。
街灯───あれも魔法の代物らしい───がぼんやりと夜道を照らし、コツコツと俺たちが歩く音だけが響く。
出店すら1つも出ていない。
国王が、夜中の仕事は禁止しているらしい。
ただし、バーとかの夜からが本番なお店は特別に大丈夫らしいが。
「ねえ、仙くん」
「ん?」
「仙くんはさ。私が
「あ?うん。幼馴染みが急にいなくなったら、そりゃ捜すだろ」
「そっか。ありがと…。私、なんていうか、胸の奥がもやもやするんだよね」
「もやもや?」
空良はそこで止まって息を継ぎ、再び歩きだした。
その顔は、とても寂しげで、少しでも触れれば壊れてしまいそうだった。
「こっちの世界の人は、私を歓迎してくれたし、感謝もしてくれた。けど、仙くんや、お父さんお母さん、他にも蓮くんや早奈ちゃんにも、迷惑をかけちゃった」
「………」
空良のご両親、それに蓮や早奈も、警察の注意を無視して血眼になって空良を捜索していた。
今でこそご両親も『空良が帰ってくるまで死なないこと』と目標を立てて落ち着き、蓮と早奈もなんとか落ち着きを取り戻した。
3人とも、まだ空良を探しているだろう。だが……まだ話すわけにはいかない。高校生の浅知恵ではあるが、時間を置いてちょっとずつ分らせて行こうと思ってる。地道に、地道に。
で?迷惑をかけた?迷惑と言えば迷惑だったけど……
「勇者のくせにバカなのか?」
「ふぇっ?あ、痛っ!」
俺は空良の後頭部にチョップをかました。
「迷惑とか考えるな。空良が消えたことは確かに心配した。けど、俺たちは迷惑だなんて思っちゃいない。当たり前だからな。要するに…空良は、かけがえのない存在で、それを捜すことは迷惑でもなんでもないって事だ」
「……それは……仙くんにとって、も?」
「ん?」
「い、いやっ!!なんでもないよ」
「…気になるけど、まあいいか」
隣を歩く空良の顔色が、幾分か良くなった気がした。
「そろそろ、帰るか?」
「……うん。そだね」
そこで俺たちは
……言葉にすると俺たちが金持ちみたいだな、これ。
◇
「昨日の夜、どこに行っていたのだ?」
はい。翌日、王子様ことオレンズさんに捕まりました。
「出歩くのは自由であるが、夜中に外に出るのは感心しないぞ!不埒な輩に出会ったらどうするのだ!?」
「大丈夫だよ、仙くんも一緒に来てくれたから!」
「仙くん、だと…?こいつ、レベルが2なのだろう?そんなやつに、ソラを守れるのか?」
守れません。
多分ゴブリンが群れで来たらすぐ死にますね、これ。
悔しさと苛立ちから拳を握りしめていると、王子様は聞き捨てならないことを言った。
「……ま、よい。さて、ソラよ。挙式はいつ挙げる?魔王討伐の褒美に僕の妃になる約束だったな」
「えぇ……?」
「ん?ちょっ、おい待て!」
「なんだ?」
「そ、空良!それ本当なのか!?魔王討伐の報酬がそんなモンなのか!?褒美どころか拷問じゃないか!?」
「ごうもっ……。!?」
「いや、私はお断りしたんだけどね…なにせ、お話聴いてくれないから」
マジか、こんなのが王様になったらこの国3日で滅びるぞ。
それのお妃様って…空良の心労が絶えなさそうだ。
「知らないのか、セン。嫌いは好きの裏返し。僕はソラの心中をしっかりわかっているぞ……」
「やかましいわ!空良が大丈夫でも俺は許さないからな!」
「はっ?レベルが2のセンになにができる?僕たちの挙式の友人代表か?」
「その自己中心的な性格を直すことだろうよ!」
「ほう?そこまで大口叩けるとは。いいだろう、僕と勝負をしないか?パーティーが終わるその時、最後の興として決闘しよう」
「受けてやる。負けたらどうする?」
「絶対服従。これが一番分かりやすい」
トントン拍子で決闘の予定が進む。
それでいい。これからずっとレベルを上げなければいけないのだから、少しでも時間が欲しい。
普段の俺なら、きっともっと平和的に話を進めるだろう。
だが、これだけは許せない。
話を聴かずにいい気になるなど、許せない!
「せ、仙くん。やめた方が……」
「言うな、空良。これは意地だ。男の意地だよ」
「そんな…………」
空良が認めたなら、俺は手出しも口出しもしなかった。
けど空良は、断ったんだってな。
話を聴かずに調子にのって、既に勝った気でいる。
それがどれだけ重い罪か、教えてやるんだ。
……字面だけみると俺のほうがダメ人間っぽいが?
「ほら、地図だ。ダンジョンの場所が書いてあるだろう?そこでせいぜいレベルを上げるとよい」
「なめやがって。まあ使うけど」
時刻はまだ夜。
1日半あって、どれだけいけるだろうか。
スライムなら俺でも倒せるから、ある程度はそこでレベルを上げよう。
門を通ろうとすると、空良が走ってくる音が聞こえた。
「仙くん!」
「来るなよ?さっきも言ったけど、意地なんだから」
「そ、そんな……じゃ、じゃあこれを!」
空良が投げて来たのは茶色い皮の袋。
しぼんでいるし、中になにかが入っているわけでもなさそうだが…?
「それ、【収納バッグ】!いろいろ、入ってるから!」
「し、【収納バッグ】?」
「くっ……ソラ、なんでそっちの味方に……」
口を開けるとパンやら宝石やらが詰め込まれているのが見えた。
どうなってるんだこの中の空間。ドラ○もんかよ。
とにかく、これはありがたく使わせてもらおう。
空良を置いて城を飛び出し、俺はダンジョンへ向かっていった────────