一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みを救うために

俺───ディアスは勇者ソラを祝うためのパーティー会場にいた。

え?誰かわからない?

鍛冶屋のオッサン。アレだよ、アレ。

勇者ソラの剣を鍛えた者として、俺にもパーティーの招待状が来たんだが……あの坊主……セン、とか言ったか。 

あいつが見当たらねえ。

ソラに聴けば、パーティー最終日にオレンズ王子と決闘をするらしい。

ったく、あのバカ小僧。

オレンズ王子は、パーティー会場のド真ん中ででんと構えている。手に二振りの木刀───片方はレイピア、もう片方はサーベルを持って。

時計の鐘が鳴る。もうすぐ18時、パーティーをお開きにする時間だ。

鐘が鳴り終える前にセンが来なければ、不戦勝で王子の勝利。

 

「仙くん……」

「心配しなさんな。あの坊主なら来るだろ」

「そうじゃ!ソラは待ってるだけでよい!あいつは少し行動が勝手じゃからの、たまにはお灸を据える必要があるじゃろて」

「精霊さんよ、そいつぁどっちに言ってんだい?」

「どっちもじゃ!」

 

同じく招待された水の精霊ノンピュール。

ちっこいのに、内包している魔力の量が常人のソレとは桁違いだ。さすがは精霊か。

と、そんなことを考えていると───────

 

コツ、コツ

 

「!!」

「来やがったか」

「ダンジョンでくたばらなかったのか。そこは褒めるべきかのう」

 

扉の向こうから、靴を擦る音がした。

 

コツ、コツ

 

歩みのテンポは遅い。

 

コツ、コツ。ギィィイイイイ

 

扉が開いた。扉の向こうから出てきたのは…

 

「仙くっ………!?」

「アイツ!!今の今までダンジョンに潜ってやがったか!」

「なんという……!」

 

ぱーかーと呼ばれる異世界の衣服はボロボロに擦りきれ、蒼白な顔をし、千鳥足と言ってもいい歩き方をするセンだった。

センは左手に持った袋……あれは【収納バッグ】か?をソラに投げ、「食べ物を少し貰った」とだけ言うと、幽鬼とも変わらぬ顔で王子をにらむ。

 

「お、お主!レベル、あやつのレベルを!」

「お、おう!わかってら、【サーチ】」

 

そうして俺の視界に映ったのは……

 

「なっ………!?」

 

 

『オレンズ:LV87』『セン:LV17』

 

 

絶望的なレベル差。ピッタリ70もの差がある。

どうすんだよ、おい…!!!

 

 

 

 

あれから、モンスターの不意討ちを狙う感じでレベルをあげていった。

いくつレベルをあげたっけか。

数えていない。

 

「来たか、セン。調べた結果、お前はサーベルが得意そうじゃないか。くれてやる」

 

王子が投げて来たのは木刀。

形状と重さ、セリフからしてサーベルか。ぼんやりしててよく見えないけど。

サーベルを握り、先程まで使ってきた、独自の『型』をとる。

ダンジョン生活で培った、人の不意を突く構え。

王子も、手に持った…レイピア、細剣を構えた。

合図なんて物はない。

周りにはたくさんの人がいる。みんなこちらに注目しているようだ。

メイドのミスだろうか、シルバー(食器)を落とす音が、カランと硬質的な音が聴こえた。

同時に走り出す。

自然体から、一撃必殺の刺突攻撃。

まずはこれで牽制を────

 

「ぬるい」

「がっ──あ゙ッ!?」

 

刺突のために伸ばされた腕を掴まれ、後ろに放られる。

それだけではなく、バランスを崩した俺の背中にレイピアの斬撃が喰らわされた。

自らの勢いと王子の攻撃が合わさり、俺は派手によろめく。

まだだ。まだ終わっていない。

ゆらりと体を前に傾ける。

反射で右足が前に出た瞬間に足に力を込め、急接近。

サーベルを王子の頭に───

 

「そんなものか?」

「ぐっ……あ゙はっ!!」

 

鈍い音が響く。

サーベルをレイピアで受け止めた王子は空いた左手で俺の腹に強烈なパンチを喰らわせる。

内臓が形を変える気持ちの悪い感覚が俺の思考を一瞬止めた。

バックステップで距離をとるものの、王子は瞬時に近づいてはっけいを飛ばしてきた。

 

「うあがっ!!」

「僕を…バカにするなッ!!!」

 

利き手ではない左手でこの威力。

俺は腹を押さえながら方膝をついてしまう。

と、俺の眼前にレイピアの切っ先が向けられた。

 

「僕だってこの国の王子だ!そう簡単に遅れは取らない!」

「………………」

「センッ!!君に何ができる!?何ができるんだ!」

 

怒りすら帯びた王子の声。

何ができるって……そりゃあ、理不尽な奴から空良を救うくらいは。

 

オレンズが重く踏み込む。

全身の筋肉を緩め、至近距離から今できる最速の突きを放つ。

オレンズは踏み込んだ足でターンを決めると、勢いを殺さずに突き出したサーベルを叩き落とした。

 

「戦闘の素人……ダンジョンでレベルを上げたは良いものの、対人戦を行なってこなかった。違うか、セン」

「……違わねえけど」

 

ゴブリンだって人形だ。

……言い訳だってわかってる、ゴブリンはオレンズのように早くない。

 

「センスはある。だが、僕から花嫁を奪うには技術が足りなさすぎた」

 

なんだ、人の話を聞かないだけで、いいやつじゃないか。

……いや、致命的な欠陥だな。

王子はレイピアを振り上げ、俺の頭を強打する。痛みで膝が落ちる。

強く地面におとされた俺の体は、もう動こうとしない。

まるで、アイツとはもう戦いたくないと言うように。

 

「セン……ありがとう、いい勝負だった。さあ、ソラ。僕と婚約を───」

 

顔だけ動かして王子を見る。

だんだんと空良に近づいている。

……ああ、いやだなぁ。こんなんに、空良を取られるなんて。

景色がゆっくりに見えた。今までの空良の顔が脳裏に浮かぶ。

走馬灯だろうか。はにかんだ顔、泣き顔、怒った顔、悔しそうな顔────

 

 

『ねーせんくん!わたしね、おっきくなったらせんくんとけっこんしてあげてもいいよ!』

『いいの!?』

『うん!あ、でも、せんくんがわたしよりもつよくなったらね!』

『つよく?どーして?』

『わたしの夢!いつか、せかいじゅーのみんなを笑顔にするの!だから、悪いやつらをやっつける、そんなひとにせんくんがなれたら、けっこんしてあげる!』

 

 

気がつけば、俺は立っていた。

産まれたばかりの小鹿のように震える足を使って。

鉄の棒が仕込まれたように動こうとしない手でサーベルを握って。

地面を、強く蹴って。

両手を、振りかざして。

オレンズに向かって、強く、強く!!

 

「いいかげん、しつこいッ!!」

「ぐっ!!!」

 

王子は、オレンズは振り向き様にレイピアを構えて俺の剣を受け止めた。

左手が反撃の構え。

させるわけがない!

サーベルを引き戻して右斜め下から上に向かって剣を振るう。

 

「なっ!?」

「であっ!!そりゃあっ!!」

 

オレンズは出した左手でサーベルを押し、軌道をずらしてサーベルを避ける。

今がチャンス。息を止めてオレンズに肉薄する。

上から、下から、変則的な動き。……単にがむしゃらに動いてるだけか。

 

「俺がっ!やるっ!はずのっ!ことをっ!」

「くっ、どこにそんな力が……」

「アイツはっ!一人で!やったんだぞ!!!」

 

ハンマーを振るうように、乱暴に剣を扱う。

ムチを使うみたいにしならせた腕が悲鳴をあげた。

 

胸の奥にぽっかりと穴が空いたようだった。

先程から体中が熱い、

けど、こんな痛み、なんてことはない。

ずっと、一人で頑張ってきた空良に申し訳がたたないから。

予測しろ、予測して弱点を突け。

 

「あいつは、たしかに勇者かもしれないけど……」

 

それ以前に、一人の女の子で、俺の幼馴染なんだ。

 

オレンズは上段から迫る剣を避けようと半歩後ろに引く。

だが、お前のクセはもう覚えた。

お前のクセは……

 

「避けるとき、必ず右に動くッ!!」

「なっ……!?」

 

ガードのために水平に出されたレイピアに、渾身の力をこめてサーベルを叩きつける。

バキィ、と耳障りな音を立ててレイピアは砕け散った。

細かった剣身にダメージが蓄積されていたようだ。

ただ、レイピアと接触したことによりサーベルの勢いが逃がされてしまった。

手に持ったサーベルを放す。

押されて尻餅をついたオレンズの頭に手を伸ばし、一歩、力強く踏んでオレンズの後頭部を地面に押し付けた。

 

「がっ……はっ……!!」

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

 

オレンズの、否、場のみんなの顔が驚愕に染まっていた。

独り、オレンズにアイアンクローもどきを喰らわせたままの体勢の俺の意識は、体の疲労が侵食するように黒く染まっていった。


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