一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みと聖なる獣

 

「身代わり石の効果はあと2日あるのじゃろう?他はどうするのじゃ?」

 

現在、城下町の大通り。

賑やかで楽しそうな雰囲気のこの場所で、俺たちは三人で歩いていた。

 

「あの石の効果が切れる一日前には帰るとして…今日はどうするか、空良?」

「うーん、見せたい場所は回ったし…精霊殿とか?ノンちゃんの実家」

「んなっ!?や、やめんか、わらわの家など面白味もないぞ!」

「……魔王城?」

「それこそダメじゃろ」

 

何もやることのない休日とは思いの外暇なもので、急に仕事が休みになったサラリーマン達の心情がわかった気がする。

……異世界だし、どこに何があるか知らないからなぁ。

 

「お?ではアレはどうじゃ、聖獣の住みかは」

「せいじゅう?」

「ああ!そんなのもあった!」

「聖なる獣……その姿は代ごとに変わるのじゃ。虎から鳥が生まれたりもする」

「へぇ……」

「さらに、捨てられた獣の卵や幼体を引き取るその優しい性格も聖獣と呼ばれる由縁じゃ」

 

なるほど……見てみたいな。

 

「それって、見に行くことはできるのか?」

「基本見に行けるぞ。大きな山の上だから、ちと厳しい道のりじゃが」

「私、行ったことあるから【転移結晶】使えるよ」

「……その問題は今、解決したようじゃ」

 

空良はやはり懐から紫色のクリスタルを取りだし、砕く。

と同時にぐにゃりと視界が歪み────

 

 

 

 

毎度思うが、どういう原理なのだろう。

 

「こひゅー、こひゅー」

「む。なんじゃ、歩いてもないのに酸欠か」

「んなこと、言ったって、酸素、薄いし」

 

そう。酸素薄い場所に一瞬で来てしまったのだから。

見下ろすと、やはりそうか、雲の上。

うわぁ~☆空が青~い☆

……雲が無いんだから当たり前だろ。

 

「はい仙くん、収納バッグ」

 

差し出されたのは、見慣れた茶色の袋。

意味がわからず首を傾げていると、空良は袋の口を開けた。

 

「この中に地上の酸素が入ってるから、これで空気が吸えるでしょ?」

「……なるほど。ありがたいけど、空良は良いのか?」

「伊達に勇者やってないよ、海の中でも二時間は呼吸しないでいける」

「……………………そうか」

 

収納バッグを口に近づけると、なるほど、確かに新鮮な酸素が漏れ出てくる。

……というか結構な勢いで酸素が吸い寄せられているのだが、中の物はどうして出ないのだろう。

勇者にしても、魔法にしても、未だに謎が多いままである。

 

「さあ、行くぞ。こっからじゃと、少し歩くだけで巣に行けそうじゃ」

 

ノンピュールの案内で聖獣の巣まで足を運ぶ。

景観としてはあれだ、テレビでよく見る富士山の山頂ルート。

雪が積もってるとかはない。かといって、木が生えているわけでもない。

普通に岩肌が露出している。

 

「そろそろか?……あ、ここか。ついたぞ」

 

しばらく歩いた先に、整備された開けた場所があった。

不思議と酸素に満ちている。収納バッグは要らなさそうだ。

小鳥やらライオンやらたくさんの獣がじゃれあっている。

なんか、癒されるな……。

と、中央になにやら大きな枯れ草の塊を発見。

形状はありがちな鳥の巣。

ただし、バカでかい。

眺めていると中から女の子の声がした。

 

「あれ?あれれ?本当にどこにもいない……?ち、ちょっと!そこに誰かいるんですよね!?入ってきてもらっていいですか!?」

 

ガサガサという音と共にかけられた声。

三人で顔を見合わせ、中に入ることにする。

空良は跳躍、ノンピュールは召喚したリヴァイアサンに乗って浮遊、俺はクライミング……情けねえ!

 

「あっあっ、勇者さんと精霊さんでしたか」

 

巣の中で俺が見たのは、目を見張るものだった。

肩口まで伸ばした茶色の髪に、くりくりとした白い瞳。

極めつけは尾てい骨辺りから生えているふさふさの尻尾と、頭辺りにぴょこんと飛び出た可愛らしい獣耳。

 

「獣人……だと。ライトノベルの中だけかと思っていた」

「わあ可愛い!あれ?でもなんでこんなところに女の子がいるの?」

「おおかた、獣の(たぐい)として聖獣のやつが引き取ったんじゃろ」

 

目の前の女の子は頬を膨らませて抗議の意を示す。

可愛い。

 

「違いますよ、精霊ノンピュール!私が、私こそが聖獣です!」

「ええ!?私と会ったときは大きなドラゴンだったよね!?」

「つい先日代替わりの時期が来まして。ちょちょいと体が変質しました」

「へぇ~!可愛い、可愛い!撫でていい?」

 

空良に俊敏な動きで抱き止められ頭をこしこしされている聖獣(?)はしかし、ハッとしたように目を見開く。

 

「って、違いますよ!そうじゃないです!」

「そうじゃ……ない?」

「じつは、幼い獣がここから誘拐されてしまったようで…!」

「ええ!?」

「なんと……」

 

おっと、超展開。

でもそうだよな。ライオンとか、俺たちを見ても襲わないところを見ると『ヒトになついているライオン』として高く売れそうだもんな。

まあ、そんなことをする以前にここまで高い山に来るのか疑問だけれど。

 

「私がご飯を取りに行っている間に誰かに連れ去られたのではないかと!私はもう、心配で心配で……!」

 

涙目になってわたわたする聖獣。

 

「あの、お願いです。少しの間でいいので、一緒に探してはもらえませんか?」

「あー……ええと、仙くん?」

 

空良は少し悩むと、俺の顔を覗き込んでくる。

 

「俺は構わないぞ。けど、今日には元の世界に帰るから、そこから先はサポートできない」

「………!ありがと、仙くん。じゃあその依頼、この私、勇者ソラが引き受けましょう!」

「もちろんわらわもやるぞ。リヴァイアサンを寄越してくれたのはお主じゃしの」

「わあぁ…!ありがとうございます、ありがとうございます!」

「あー、なんじゃ、セン。こんなことがあったからわらわたちは今から……」

「わかってる。お前たちが忙しくなるから、俺は今から元の世界に帰らなきゃいけないってことだろ?大丈夫だ、飛ばしてくれ」

 

きっちり夜に帰るとか言ってると空良たちに迷惑をかけそうだからな。

俺は一足先に帰った方がいいだろう。

 

「すまんの、セン。じゃあ飛ばすぞ?」

「早めに帰るからねー、仙くん!」

「センくん?もしかしてあの方はソラさんのフィアンセ?」

「なっ、ちょっ、待っ…まだそんなんじゃないよ!」

 

そんな会話を聴きながら────

 

 

───俺の視界は、ぐにゃりと歪んだ。

 

 

 

 

そして現在。俺の現在地は学校の裏山。

よく授業のスケッチや虫の観察などに使われる場所だ。

そんなところに、なぜ俺がいるのかというと───

 

 

「くるるるるららら」

「……居たわ、誘拐された獣……」

 

 

───なぜか異世界で誘拐されたはずの獣が、俺を警戒心むき出しで睨んでいるからだ。

助けて、勇者さま。

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