一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

29 / 75
幼馴染みが不在

 

転送されたその日、俺はコピーと入れ替わった。

コピーは家事をすることになり、俺は学校へ行くことに。

幸いコピーの記憶は鮮明で、授業の内容に遅れることはなかった。

そして、放課後。

家に空良は不在なので珍しく暇となったため、先生方から手伝いという名の雑用を押し付けられていた。

評価点くれるって言ったし、録音レコーダーで言質はとったから手伝いも無駄ではないのだが。

その中の一つ、『裏山で万術部(まんじゅつぶ)が作った魔方陣を見つけてくる』という物。

万術部ってなんだと思ったが、この前勧誘されたことを思い出した。

開けた場所で作られたらしいので、その場所まで山を登っていたのだが。

 

「くるるるるららら」

「…………ん、あ、え?」

「ぐる?」

「……え?」

 

はい。その途中に、大きな体躯の獣とはちあいました。

獅子のように大きく、足からは大きな爪が見えた。

そして異様に長い尻尾。蛇一匹はありそうな。

……ハイ、どーみてもこっちの世界の動物じゃないね、ありがとうございました。

 

「くるる」

「おっけー、俺に攻撃の意思はない」

 

両手を上げて降参のポーズ。

睨まれてはいるものの、敵視はされていない雰囲気。

見たことが無いものを注意している感じだ。

獣は両手を上げている俺の周りをくるくると回ると、唐突に俺に背を向けた。

長い尻尾をゆらゆらと揺らしている。

『ついてこい』って言ってるのか…?

のっそりと歩きだした獣の後を、転ばないようについていく。

やがて見えたのは小さな洞穴(ほらあな)……ここに住んでいるのか。

さすがに踏み込む勇気はないので穴の前で待っていると、奥からぴいぴいとさえずりが聴こえる。

獣は小鳥をくわえて(捕食するのではないかとハラハラした)、洞穴から出てきた。

視線は木の上と俺を交互に行き交っている。

木の上を見ると、こぢんまりとした鳥の巣から、親鳥と思われる鳥が首を出している。

 

「そいつを、あそこに戻せと?」

 

肯定を表すように喉を鳴らす。

 

「お前はできないのか?」

 

無言で前足を差し出された。

よく見れば右足が赤く染まっている。

怪我をしているから難しい、と。

 

「わかった、やってみる」

 

受け取った小鳥を制服のポケットに、結構な大樹をよじ登る。

木が何年も生きてきたお陰で枝のなりそこない(足場)がそこそこあり、登るのは苦では無かった。

震える小鳥を親鳥の待つ巣へ返す。

あとは降りるだけ────ズルッ

 

「ッだあ!?」

 

ッつ、落ちる!

地面は柔土だから死にはしないだろうが、これは骨折か───。

きゅっと目をつむる。

1秒、2秒………痛みがこない。

恐る恐る目を開くと、俺が獣の背中に乗っていることがわかった。

空中で。

獣は坂道を滑るように着地し、衝撃を後ろに受け流す。

 

「すまん。乗っちまった」

 

慌てて降りると獣はその場に座り込んだ。

右足を隠して。

あー……もしかして、俺を助けるために足を痛めたか。

 

「ありがとうな」

「くる」

「あ、そうだ、この辺に魔方陣……なんかでっかい模様なかったか?俺、それを探してるんだけど」

 

俺の問いに、獣はあるところを視線で指した。

獣の視線を追えば、そこに開けた場所と、中心にぶっ刺さる魔方陣の書かれた尖った岩。

 

「お、あれか。センキュ」

「くる」

 

獣に別れを告げ、岩に近付く。

……あの動物、今は敵対していないみたいだが、山から降りてきたら困るな。

勇者である空良がいないこの状況、俺ができるのは時間稼ぎか。

一先(ひとま)ず、今日のところは帰ろう。

なにかできることがあるかもしれない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。