一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「さ、て、と。これで材料は揃えられたかな」
現在。
私、心山 空良は祈里さん宅のキッチンにいる。
理由はもちろん、バレンタインだから。
バレンタインのルーツが何かは詳しく知らない。
けど、去年は仙くんにチョコレートをあげられなかったから、今年こそは仙くんにとびきりのチョコを上げようと思っている。
材料は祈里家にあった砂糖類、それプラス異世界の食材。
やっぱり、【収納バッグ】は便利だなあ。
なんでも入っちゃうし、容量の限界が無いんだもん。
よし、作りましょうか!
「【ファイア】」
まずは異世界の食材、カカオの代わりの【ココアカオ】を熱する。
そうしたら実の下に穴を開ける。
すると、中から黄土色の液体が出てきて、これをさらに熱して……………
◇
空良がキッチンで見たことのない果実を粉砕していた。
あれはなんなのだろう。
とても楽しそうだったが、邪魔しない方がいいのは確かだ。
時折、魔法を使う声が聞こえるのも気になる。
とにかく、ここはバレないように外に出よう。
誘われた遊びは断ってしまったが、あいつの家に行こう。
◇
「仙くん、遅いなあ」
今日は友達と遊ぶのだろうか。
チョコレート作りは最後まで秘密にしていたいから、助かるには助かるのだが。
ちなみに私は、作り終えたチョコレートを氷魔法の【アイス】で冷やしている。
魔法で冷やすことによって、冷蔵庫のような中途半端な固まり方にならないからだ。
仙くん、喜んでくれるといいな。
◇
「はいはーい…おわ、仙、今日これたの?」
「うん。予定が消えてさ」
「おーおー、良かったねそりゃ。よし、ゲームやろうぜ!」
「先輩、どーしたんですか…あ、仙先輩。ちゃっす」
蓮の家にやって来たら、なにやらボウルを抱えた後輩までいた。
当たり前のようにエプロンしている。
「ふっふっふ…気づいたか親友よ。今日が、なんの日か知っているか!!」
「……?」
「そう!今まで俺たちには無縁だったからな、忘れているのも頷ける…今日は
「あー…そっか、今日が」
「ああそうだ。この日、学校に行くとイケメンの下駄箱に溢れるほどのチョコレートがぶちこまれている憎きバレンタインデー…。しかし、今年は違う!」
「私が!!いるのです!!先輩に、とびきりのチョコレートを上げるために!!」
変なポーズをとる二人。
あー、うん。付き合っていたのは今年からだったか。
恋人なのは恋人なのだが、いつのまにか付き合っていた印象が強かったからな。
「さてと。仙、玄関じゃなんだから上がれ上がれ」
「今更だな」
「よいではないか、よいではないか」
「お前はお前だ。チョコレート作るならはよ作ってこい」
そういえば、去年は空良が居なかったせいで毎年貰っていたチョコレートを貰っていなかったが、今年は貰えるのだろうか。
…いや、空良のことだから異世界のことで頭がいっぱいでバレンタインデーなんぞ忘れているのかもしれない。
期待はしないほうがいいだろう。
◇
「お?ソラ、なにを作っておるのかえ?」
「バレンタインデーのチョコレート!」
「バレンタイン…西洋の文化の一つじゃったか?今は好きな人にチョコレートをあげるとかなんとか」
「そう。仙くんには去年あげられなかったから、今年こそはあげようかと思って」
「そーかそーか、それは良かっ…ん?ソラ、今なんと…」
首を傾げるノンちゃんを不思議に思いながらも、私は冷やしきったチョコレートを眺める。
よし、頑張って魔力を通したかいがあった。
角、1つないハート型。
滑らかな曲線。ぱーふぇくと。
「さてと、あとはこれを箱に包んでラッピングして…えへへ」
「なあソラ、出来がいいのは認めるがこれは…」
「これを、こっちに結んで…よし、完成!」
出来た。
赤と黒のストライプの箱に、金の縁取りをした赤いリボン。
箱までハート型。魔力繊維を編んで作ったからチョコレートの形にピッタリフィット。
ふふふ…あとは仙くんが来るのを待つだけ。
遅いなあ、仙くん。
◇
「はい、先輩、ハッピーバレンタイン!」
「ありがとう、さな」
「「ふへへへへへへへ」」
「…なんで俺はこんな茶番を見せられているんだろう」
「仙先輩は彼女いないですもんねー」
「いないもんなー」
「「ふへへへへへへへ」」
……ハァ。もう帰ろう。
時刻はもうすぐ7時…7時!?
「やっべ、帰る!早急に帰る!」
「おう。きぃつけてなー」
「なー!」
蓮の家から勢いよく飛び出し、自宅へ向かう。
クソ、人生ゲームが響いた!
走れ、走れ!急がないと晩飯が…!
自宅の玄関の鍵をあけ、転がり込む。
「悪い空良!晩飯作るの忘れて…え?」
「あ、仙くん!晩ご飯、作っておいたよ?」
「あー、そうか、助かった。……ホッとしたァ」
「それとね、仙くん」
こちらに対面になるように立つ空良。
両手を後ろに隠して…なにか持っているのか?
「ハッピー、バレンタインデー……!!!これ、受け取ってください!」
差し出されたのは小さな箱。
赤と黒のストライプ、おしゃれな金の縁取りをした赤いリボンで飾り付けされている。
もしかして…いや、もしかしなくてもこれ、チョコレートか?
バレンタインデーって言ってたし。
「………ありがとう、空良。大切に、頂くよ」
「─────────っ!!」
ホワイトデー、かなりなお返しをしないとな。