一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。   作:翠晶 秋

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幼馴染みとバレンタイン

 

「さ、て、と。これで材料は揃えられたかな」

 

現在。

私、心山 空良は祈里さん宅のキッチンにいる。

理由はもちろん、バレンタインだから。

バレンタインのルーツが何かは詳しく知らない。

けど、去年は仙くんにチョコレートをあげられなかったから、今年こそは仙くんにとびきりのチョコを上げようと思っている。

材料は祈里家にあった砂糖類、それプラス異世界の食材。

やっぱり、【収納バッグ】は便利だなあ。

なんでも入っちゃうし、容量の限界が無いんだもん。

よし、作りましょうか!

 

「【ファイア】」

 

まずは異世界の食材、カカオの代わりの【ココアカオ】を熱する。

そうしたら実の下に穴を開ける。

すると、中から黄土色の液体が出てきて、これをさらに熱して……………

 

 

 

 

空良がキッチンで見たことのない果実を粉砕していた。

あれはなんなのだろう。

とても楽しそうだったが、邪魔しない方がいいのは確かだ。

時折、魔法を使う声が聞こえるのも気になる。

とにかく、ここはバレないように外に出よう。

誘われた遊びは断ってしまったが、あいつの家に行こう。

 

 

 

 

「仙くん、遅いなあ」

 

今日は友達と遊ぶのだろうか。

チョコレート作りは最後まで秘密にしていたいから、助かるには助かるのだが。

ちなみに私は、作り終えたチョコレートを氷魔法の【アイス】で冷やしている。

魔法で冷やすことによって、冷蔵庫のような中途半端な固まり方にならないからだ。

仙くん、喜んでくれるといいな。

 

 

 

 

「はいはーい…おわ、仙、今日これたの?」

「うん。予定が消えてさ」

「おーおー、良かったねそりゃ。よし、ゲームやろうぜ!」

「先輩、どーしたんですか…あ、仙先輩。ちゃっす」

 

蓮の家にやって来たら、なにやらボウルを抱えた後輩までいた。

当たり前のようにエプロンしている。

 

「ふっふっふ…気づいたか親友よ。今日が、なんの日か知っているか!!」

「……?」

「そう!今まで俺たちには無縁だったからな、忘れているのも頷ける…今日は(セント)ヴァレンタインだぁ!」

「あー…そっか、今日が」

「ああそうだ。この日、学校に行くとイケメンの下駄箱に溢れるほどのチョコレートがぶちこまれている憎きバレンタインデー…。しかし、今年は違う!」

「私が!!いるのです!!先輩に、とびきりのチョコレートを上げるために!!」

 

変なポーズをとる二人。

あー、うん。付き合っていたのは今年からだったか。

恋人なのは恋人なのだが、いつのまにか付き合っていた印象が強かったからな。

 

「さてと。仙、玄関じゃなんだから上がれ上がれ」

「今更だな」

「よいではないか、よいではないか」

「お前はお前だ。チョコレート作るならはよ作ってこい」

 

そういえば、去年は空良が居なかったせいで毎年貰っていたチョコレートを貰っていなかったが、今年は貰えるのだろうか。

…いや、空良のことだから異世界のことで頭がいっぱいでバレンタインデーなんぞ忘れているのかもしれない。

期待はしないほうがいいだろう。

 

 

 

 

「お?ソラ、なにを作っておるのかえ?」

「バレンタインデーのチョコレート!」

「バレンタイン…西洋の文化の一つじゃったか?今は好きな人にチョコレートをあげるとかなんとか」

「そう。仙くんには去年あげられなかったから、今年こそはあげようかと思って」

「そーかそーか、それは良かっ…ん?ソラ、今なんと…」

 

首を傾げるノンちゃんを不思議に思いながらも、私は冷やしきったチョコレートを眺める。

よし、頑張って魔力を通したかいがあった。

角、1つないハート型。

滑らかな曲線。ぱーふぇくと。

 

「さてと、あとはこれを箱に包んでラッピングして…えへへ」

「なあソラ、出来がいいのは認めるがこれは…」

「これを、こっちに結んで…よし、完成!」

 

出来た。

赤と黒のストライプの箱に、金の縁取りをした赤いリボン。

箱までハート型。魔力繊維を編んで作ったからチョコレートの形にピッタリフィット。

ふふふ…あとは仙くんが来るのを待つだけ。

遅いなあ、仙くん。

 

 

 

 

「はい、先輩、ハッピーバレンタイン!」

「ありがとう、さな」

「「ふへへへへへへへ」」

「…なんで俺はこんな茶番を見せられているんだろう」

「仙先輩は彼女いないですもんねー」

「いないもんなー」

「「ふへへへへへへへ」」

 

……ハァ。もう帰ろう。

時刻はもうすぐ7時…7時!?

 

「やっべ、帰る!早急に帰る!」

「おう。きぃつけてなー」

「なー!」

 

蓮の家から勢いよく飛び出し、自宅へ向かう。

クソ、人生ゲームが響いた!

走れ、走れ!急がないと晩飯が…!

自宅の玄関の鍵をあけ、転がり込む。

 

「悪い空良!晩飯作るの忘れて…え?」

「あ、仙くん!晩ご飯、作っておいたよ?」

「あー、そうか、助かった。……ホッとしたァ」

「それとね、仙くん」

 

こちらに対面になるように立つ空良。

両手を後ろに隠して…なにか持っているのか?

 

「ハッピー、バレンタインデー……!!!これ、受け取ってください!」

 

差し出されたのは小さな箱。

赤と黒のストライプ、おしゃれな金の縁取りをした赤いリボンで飾り付けされている。

もしかして…いや、もしかしなくてもこれ、チョコレートか?

バレンタインデーって言ってたし。

 

「………ありがとう、空良。大切に、頂くよ」

「─────────っ!!」

 

ホワイトデー、かなりなお返しをしないとな。


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