一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
「……っと、よう」
「くる?」
次の日の放課後、俺はまた山に来ていた。
今度はお手伝いじゃない。
「お前、右足ケガしてるんだろ。これ、消毒液と包帯とか、もろもろ」
そう。治療のために、俺の意思で来たのだ。
洞窟の奥から顔をのぞかせた獣はやがてのっそりと出てきて、俺の前に右の前足を差し出した。利口で良い子だ。
「よし、今治すからじっとしてろよ……。ん、これは刺し傷か?」
その傷はなにか刃物で切られたように横に一直線に伸びており、傷口の周りがじくじくと膿んでいる。
あまり直視できないグロさだが、直視しないと手元が狂う。
応急措置の方法に従って膿を除き、消毒をし、包帯を巻いた。
後は、俺の趣味的なもので他の足首にも包帯を巻いておいた。
「よし、これでどうだ?」
治療を終え、様子を尋ねると自信に満ちた鼻息が帰ってくる。
どうやら調子は良くなったみたいだ。
「とりあえずは……お前、こことは違う世界の動物ってことでいいんだよな?」
「ぐる」
返って来たのは肯定の意。
「じゃ、お前、ぬいぐるみみたいに体を縮めることできるるか?」
「ぐる?」
「んー……これこれ」
返ってきた疑問の意に、スマホで検索した写真を適当に見せる。
期待しているのはノンピュールのリヴァイアサンのような感じ。あれくらいのサイズならバッグに入るだろうし、目立たない。
「ぐる」
肯定。
「おっけー。後は……俺に、お前を攻撃する考えがないことはわかってるよな?」
「ぐる」
「俺は、お前を元いた場所に戻そうと思ってる。だから、ぬいぐるみサイズになってしばらく俺と過ごす事は可能?」
「ぐる」
全部肯定の意───ヨッシャア。
空良が戻ってきたら速やかに提出することにしよう。
「それじゃ、不安だろうけど悪いようにはしないから、この中にぬいぐるみになって入ってくれ」
薬箱を入れてきたバッグの口を開くと、ぽんと軽快な音と共に獣の体が白煙に包まれ、やがてそれが晴れた頃には獣のいた位置にデフォルメされたぬいぐるみがあった。
丁寧にそれをカバンにしまい、家へ向かう。
通学路を歩きながら、俺は考えていた。
獣を保護したのは良いが、獣がなぜこっちの世界に来たのかはまだ謎のままだ。
別世界に物質を届けるなんて、この前の招待状でもあるまいし、そう簡単に届けられるものなのだろうか。
……そう言えば転移の方法なんていくらでもあったな、お手軽なのとか経費が高くつくものとか。
しかし、そういう転移系は行き先の情報を良く知っていないと転移できないのが
つまりは、異世界人である勇者ソラ以外にもこっちの世界を知っている人がいる……とか?
まだ憶測でしかないし、果たして転移が本当に場所を知らないと使えないのかもわからないが、警戒はしておいた方がいいだろう。
「おーい?おい、仙?おいってば?」
「っだあ!?な、なんだ、蓮か」
「さっきから話しかけてただろ」
「仙先輩、こんちゃーっす」
考え事に没頭して気づかなかった。
というより、なんの用だろう。
「なんか用があったのか?」
「ん?いや、特に用はないけど」
「ないのか」
「むしろ予定が無いから、仙先輩を誘いに来たんですよね」
また遊びの類いか。
結構な数を断ってしまっていると思うのだが、気に止めず何回も誘ってくれている。
……たまには遊んでもばちは当たらない……はず。
「……ん。何をして遊ぶ予定なんだ?」
「おおっ、珍しくやる気じゃん!よっしゃ!」
「じゃあ『ぐらぐらタワーバランス』。あれやりましょう!」
「じゃあ、久しぶりにウチに来い。親の趣味か、そういうのたくさん置いてあるんだ」
「仙の親に感謝」
どこか懐かしいやりとりをおかしく思いながら、俺たちは通学路を歩く。
昔も、こんなことがあった。
空良がいないこと以外は、全部一緒のやりとり。
そろそろ、潮時かもしれないな───
俺の思考はそっちに持ってかれていた。
◇
「よし、とりあえずはここでのんびりしててくれ。ぬいぐるみになるのは苦ではないんだろ?」
カバンひとつを埋めてしまうサイズのぬいぐるみは自室のベッドに鎮座していて、ボタンのような瞳は肯定の意を俺に送ってきた。
ひとりでに動きだし、ベッドの上をうろついている。
「仙せんぱーい!まだですかー!」
「わ
獣に手を振り、タワーバランスゲーム、他テーブルゲームを担いで部屋を出る。
リビングの扉を開けて、タワーバランスゲームを設置したところで───
───部屋の中央に、光の柱が射した。
「ぶっ、ぶああああ!目がああああ!」
「さな、後ろに!」
「二人とも早く退け!」
蓮が妙に堂に入った動きで早奈を庇いう中、光の柱はその輝きを徐々に落としていく。
そして、その光の柱から……
「ただいまー、仙くん……あれ?」
「最ッ悪のタイミング!」
リビングに