一年前に失踪した幼馴染が異世界から帰ってきた件。 作:翠晶 秋
場が凍りつく。
「せ、仙先輩……これは……?」
「お、おい。どういうこった、これは」
俺は無言で立ち上がり、空良の耳元に口を近づける。
「お前なんでこのタイミングで来んの!?まだ二日しか経ってないよね!?」
「えっ!?あ、ご、ごめん、仙くん?」
焦りに焦る俺を見て、蓮が冷静に対処する。
「仙。お前、その人と面識があるのか?」
「ま、まあ……」
「誰だ?んで、どっから出てきた?」
「それは……その……」
言い淀む俺を見て、今度は空良が口を開いた。
「
「「………………」」
口を大きく開け、目も見開く二人。
やがて。
「「ええええええええええ!?」」
そらそうなるわな。
「えっ、ちょっ、そ、そら?そらってあの空良?」
「久しぶり、早奈ちゃん」
「ぶ、ぶ、無事だったのか!?一年どこに行ってたんだ!?」
「……異世界」
「「ええええええええええ!?」」
早口に捲し立て、驚き、俺に説明を求める二人。
空良から聴いた話をなるべく理解しやすく噛み砕いて説明すると、二人は口を金魚のようにぱくぱくさせた。
「え、じゃあホントに……そんなことが……」
「にわかには……信じられんけど……」
「二人とも、黙っててごめん。けど、警察や空良の親御さんには話さないで欲しい。空良がそうしたいって」
頭を下げる俺。
二人は立ち上がると、口を開いた。
「別に大丈夫ですよ」
「まあ……うん、大丈夫。飲み込めた」
「え?良いのか?え、なんで?」
あっさり受け入れた二人に驚く俺を見て、二人は顔を見合わせ、同時に言った。
「「そんなことがあっても、おかしくないでしょ?」」
「…………?」
「ど、どういうこと?早奈ちゃん、蓮くん」
「んー……。この世界に私たちがいるのなら、他に知的生命体がいる世界があってもおかしくないじゃないですか。あ、いや、オカルトーな話じゃないですよ!?」
「まあ、そんな考えを、最近持つようになったんだよ。空良が行ったっていうその異世界も、人間みたいな知的生命体がいたんだろ?」
やけに説得力のある話を披露する二人。
騒がれなかった安堵を感じつつも、疑問を覚えた。
二人は、そこまで異世界だとかを信用していなかったはずだ。
「なあ、何かあったのか?」
「……いえ別に何もナイデスヨ」
「ただ単に、その話の方が説得力あるなって感じただけだよ。そうだろ?『異世界なんてあるはずがない』なんて不安定な情報よりも、ここ、地球に知的生命体の実例があるって話の方が、まだ信じやすい」
やけに早口だが、まあ、この二人なら簡単に考えが変わってもおかしくない気がする。
「それで、空良さ……空良先輩は異世界で何をしてたんですか?」
「先輩……?あ、うん。異世界ではね、勇者をやってたんだ」
「勇者?」
「そう。それで、魔王を倒したから帰って来たの!」
一拍。会話に空白が生まれる。
「な、なあ空良。お前、一年間しか異世界行ってないよな?」
「え?うん」
「一年?一年で魔王を倒したんですか?」
「そうだよ?」
「「………………」」
呆然とした顔で空良を見つめる二人。
やがて……
「すまん仙、こればかりは俺たちの脳の要領を越えた」
「えっ、私、えっ、一年……え……」
「さな、さな。行くぞ、さな」
「俺たちもう帰るわ。すまん」
「えっ、あっ、うん。え?あ、じゃあまた明日」
真顔でぶつぶつと呟く二人は、足を引きずりながら家を出ていった。
本当に、なんだったんだ……。